大海原を感じさせる朗らかな広がりと生命感のある香り、待ち遠しい春を予感させるほのぼのと暖かみのある香り。
目の前のお香に意識を集中させると、微細な変化や奥深さに気づけてうれしい。
室町時代に発祥し、茶道や華道と並び日本の三大芸道のひとつに数えられる「香道(こうどう)」。精神を集中させて香りの声に耳を傾けるように鑑賞することから、香道の世界では、香りを嗅ぐことを「聞く」と表現します。

東京・麻布十番に店を構える「麻布 香雅堂(こうがどう)」は、200年の歴史を持つ京都の老舗の暖簾分けとして1983年に創業しました。
香道の道具や最高峰の香木を取り扱う伝統的な一面を守りながらも、近年ではホテルやアパレル、美術館、飲食店など多方面とのコラボレーションを展開。新たな香りの可能性をひらき続けています。
今回募集するのは、OEM担当と、店舗運営・イベント企画を担うスタッフです。
経験は問いません。
目に見えない香りをじっくり聞くように、人の話に耳をすませる仕事です。
六本木ヒルズが徒歩圏内でありながら、江戸時代から続く商店街もある麻布十番。
新旧の文化が混じるまちの路地に、「麻布 香雅堂」を見つけた。

色とりどりの商品が並び、奥には香炉や貴重な香木などが丁寧に置かれている。
蝉が盛んに鳴き、夏の太陽で照らされると外とは違い、夕方のような落ち着いた空間。そして鼻を抜けるいい香り。
「あ、香りますか? 毎朝、開店前に焚いているんです。この空間で過ごしているともう慣れちゃって」
そう声をかけてくれたのは、代表の山田悠介さん。気品のなかに、親しみやすさを持ち合わせる方。

香雅堂は、京都の老舗香木店出身である悠介さんのお父さんがオープンしたお店。約10年前に、現副代表を務める妻の真理子さんとともに受け継いだ。
IT業界を経て家業に入った悠介さん。伝統的な香道や香木の文脈を大切に守りながらも、時代の変化に合わせて事業を整理・アップデートしてきた。
たとえば、根津美術館のミュージアムショップで販売するお香や、セレクトショップ・ブランドのARTS & SCIENCEのサシェなど、オリジナル商品を開発。インスタレーションの演出や、大学の研究室での実験に協力することも。さまざまな領域と交わりながら、香りの可能性も探っている。
伝統的な香木店でありながら、さまざまな形でビジネスやカルチャーとつながっているのが香雅堂の特徴。

「香りの本場である京都が伝統を守るメッカなら、東京に拠点を置く僕らは、守るべきところを守りつつ、外へひらいていきたい。その思いで香雅堂を続けてきて」
「いろんな文化とお香を掛け合わせて、これまで接点がなかった人へ届く機会をつくる『お香の交差点になる』。昨年ごろ、ようやく会社のアイデンティティが定まったんです」
さらに、悠介さんと真理子さんの経営層に加えて、日本仕事百貨経由で入社したメンバーを中心に、今は社内全体で7人。スタッフそれぞれの役割分担もできてきた。
「昨年が香雅堂2.0だとしたら、今はさらにバージョンアップして2.1になった」とも話す悠介さん。
今年は初めての試みとして、大きな展示会にも出展した。
「みんなで力を合わせれば越えられそうだと。実際に出展してすごくしっくりきたし、手応えがありましたよ」

展示会で出会った、薬膳茶専門店とはペアリングブースを香雅堂店内に設けたり、ギャラリー兼工芸品店やコンセプチュアルカフェなど、さまざまな業界からのOEM依頼も増加したり。これまでは依頼や来店ベースだった体制から、能動的にアプローチしていくフェーズに。
その流れに伴い、OEM事業と店舗運営の体制を強化することに。
「僕らは『オープン・フェア・スロー』のスタンスを大切にしていて。購入いただくお客さまには、使用する原料や割合は隠さず開示しますし、お香とはこうあるべきと押し付けることもしません」
「OEMとしてお香づくりのご依頼をくださるときは、天然素材以外は絶対ダメとか、合成香料が入っているなら受けないというような線引きもしない。お客さまのブランディングやつくりたいものに合致していれば、それが正解、という立場で伴走しています」

経験がある人でも、まずは基礎となるお店の仕事を大切にしてほしい。OEM担当も、入社して半年から1年ほどは、店舗業務を通して会社全体を広く知ることからスタートする。
「経験は問いません。少人数の組織だからこそ、1〜2ヶ月単位で業務の優先順位や役割が変化することもある。そのスピード感を前向きに受け止めてくれる方と一緒に働けたらうれしいです」
「新しく2人が入るとしたら、全体で3割以上もメンバーが増える。この規模の組織にとっては大きなこと。だからこそ、新しいメンバーを育てる期間にしつつ、今いるスタッフの業務が圧迫されないように調整し合いたい。チーム全員でヘルシーに成長していけるようにしたいと思っています」
今回特に募集したいのが、コラボレーション・OEM担当。これまで悠介さんと入社4年目のスタッフ・磯山さんの2人で担ってきた。
業務拡大に伴って新設されたお店の近くにある事務所で、磯山さんに話を聞く。

「この1年は会社にとっても私個人にとっても、変化の年でした。今は自分自身で決定できたり、任されたりする範囲も広がって、会社が成長していく季節を肌で感じています」
OEMの依頼は新規で月に1〜2件ほど。既存のクライアントからのリピート発注も定期的に入ってくる。
「新しく入る方には、隣で打ち合わせや業務を見てもらったり、リピート発注の対応や進行管理だったり。型がある程度できている業務から引き継いでいくので、安心して挑戦してみてほしいですね」
現在進んでいるのは、今年の展示会で出会ったとあるギャラリーとのOEMプロジェクト。
「お客さまは、すでに手づくりのお香を商品化されていたのですが、製造自体は知人の方が独学で試行錯誤してつくられたもので。『気に入っているこの香りを再現して量産したい』というご相談でした」
「そのときお持ちいただいたサンプルが密閉保存されておらず、揮発性の香りが飛んでしまっていたり、プロの調香師から見ると配合のバランスがいい意味で個性的かつ複雑だったんです」
既存の香りを再現するのは香雅堂にとって初めての取り組み。調香師と試行錯誤を重ねて再現サンプルを作成したものの、焚いて試してもらうと「どこか渋い印象になってしまう」と、求めるイメージとなかなか重ならなかった。

ヒアリングと検証を重ねて約半年、遂にたどり着く。
「お客さまは『お香っぽさが抑えられた香り』を求めていたことがわかったんです」
「一般的にお香と言えば、火をつけたときにしっかりとした香りが立ち上るものを想像しますが、手づくりのお香は煙や香りの成分が絶妙な塩梅で薄かったりするんですよね。焚いたときに仄かに香るくらいの新たなサンプルを作成し、無事にOKをいただいたけました」
「お香はこうあるべき」という固定観念を持たず、クライアントの想いやブランドイメージに寄り添う。
「前職のホテルでの接客とも似ているなと感じます。お客さまの立場に立って考え、『何かお困りごとはありませんか?』と、きめ細やかに伴走するスタイルですね」
「長く付き合いのあるクライアントさんとは信頼関係ができて、意思決定も早くなる。お互いの息があってスムーズに仕事が進んだときは、続けてきて良かったなと思います」
磯山さんのとなりでOEMや受発注の基礎を学びつつ、日常の大きなベースとなるのが店舗での接客・運営。
「入社したときは、お香に特別詳しいわけではなかったんです」
再びお店に戻り話を聞いたのは、昨年入社したばかりの加藤さん。

新卒でアパレルの販売を経験したのち、別の会社で提案営業として働いていた加藤さん。「納得して長く働ける職場を探したい」と考えていたとき、日本仕事百貨で香雅堂の求人を見つけた。
「伝統を守りながら新しいことに挑戦して、お香の可能性を外へ広くひらいていく姿勢や考え方に惹かれました」
「前職では、知識もないまま『現場に出て背中を見て覚える』というスタイルで。香雅堂では、お香の知識や歴史について時間をかけて丁寧にレクチャーしてもらえて、安心してスタートできました」
店舗の清掃や梱包の練習からはじまり、先輩について受発注の処理を教わりながら、ゆっくりと知識を深めていった。
「入社してすぐ、香道の組香の一つである『月見香(つきみこう)』を体験させてもらったんです。巡ってくるお香の組み合わせによって、待宵や十五夜など、月の状態を表す風雅な名前が当てはめられていて。普段の生活では触れないような、ゆったりと時間が流れる素敵な世界だなと感じました」

そんな加藤さんが好きな香りだと教えてくれたのが、月ごとに届くお香シリーズの6月の香り「時鳥(ほととぎす)」。
店頭で実際に焚きながら案内することもあるという。

「青々として奥深い山林を眺めているような静けさがあって、森林浴をしているような気持ちになれるんです。甘すぎない爽やかな香りで、夏に焚くのにもぴったりですよ」
たしかに、すっきりとした香り。加藤さんの説明も相まって、情景も思い浮かぶ。
「こうやって自分なりの言葉でお伝えして、お客さまと共感し合えたときはすごくうれしいですね」
もともとはOEM担当としての採用から、適性を見てOEM企画の入り口づくりとなる広報や店舗運営も担うようになった加藤さん。月をテーマにした蝋燭とのコラボアイテム企画もメインで携わった。
少人数の組織ゆえに役割が柔軟にシフトすることもあるものの、置いていかれるような不安はないという。
「『なぜそうするのか』を社長夫妻が都度説明してくれますし、わからないこともすぐに相談できます。社労士事務所さんともSlackで直接やり取りができるなど、制度面もすごくクリーンですね」
「1時間の休憩がしっかり取れたり、定時の18時にピタッと退勤できるように準備できるのも、なあなあになっていなくて正しいなと感じます」
香道が、微細な変化や奥深さを丁寧に感じとるように。
香雅堂のみなさんはOEMも接客も組織も、こうあるべきを取っ払いながら歩みを進めている。一つずつ向き合うことで、道はひらけていく。誠実にやわらかく働きたい人におすすめしたいです。
(2026/08/06 取材 大津恵理子)


