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9:17 始業
右も左もお香だらけ

お店の3歩手前まで来ると、懐かしい香りが漂ってくる。

ガラス扉を開けて中に入れば、壁一面にぎっしりと並ぶカラフルな箱の数々。

「香源(こうげん)」は、5,000〜6,000種類ものお香を取り扱う、日本最大のお香専門店。

老舗の問屋でありながら、直営店舗も愛知、東京、京都に展開しています。

お店に並ぶのは、日本全国の老舗メーカーの品から、希少な香木、アニメとコラボレーションした限定の香りも。さらには自らオリジナルの香りを調香し、お香づくりの講座まで自分たちの手で仕掛けています。

今回募集するのは、お香コンシェルジュ。店頭での販売を主に、イベントの企画運営など、幅広くお店づくりに関わっていきます。

右も左もお香に囲まれた世界で、自分だけのスキルが身につけられるかもしれません。

 

まずは本店がある名古屋へ。

名古屋駅から地下鉄東山線でひと駅。

本陣駅の4番出口を出て、7分ほどまっすぐ歩き、一つ角を曲がると住宅街にお店を見つけた。

商品がずらりと並ぶ1階。2階の広々としたスペースは、お香づくり講座などを開催している場所だという。

出迎えてくれたのは、代表の菊谷(きくや)さん。

じつは、お店に来る前から気になっていたことがある。営業時間が9時17分から18時17分までということ。

どうして17分なんでしょう?

「電車やバスの時刻表って、8時3分とか7時58分とか半端な数字でしょう。そのほうが記憶に残りやすいらしいんです」

「17って陰陽の数を足し引きして17になるとかいろいろ意味はあるんだけど。人前では僕の誕生日が10月7日だからと言っていますね(笑)」

おおらかでチャーミングな菊谷さん。話を聞き進めると、老舗のイメージが良い意味で裏切られていく。

香源は、1937年に菊谷さんのお祖父さんがお線香や香木、数珠を扱う問屋として創業したのがはじまり。

家業を受け継いだ菊谷さんは、1999年、まだインターネット通販が珍しかった時代に、先駆けてECサイトを開設。検索エンジンで「お香」と調べれば必ず香源の名が出るようになり、全国から問い合わせが相次いだ。

「お香のつくり方を載せていたら、『お香の話をしてくれないか』と頼まれるようになって。単発でお香教室を開いたりしていたんです。だんだん『実店舗はないの?』と聞かれることも多くなったのでお店をつくることにしました」

2016年に倉庫だった建物を改装し、ここ名古屋の本店を開業した。

そのほか東京・銀座、上野、そして昨年には京都と、次々に直営店をオープン。

香源の強みは、問屋であり、BtoCの店舗を併せ持つこと。

現在取り扱っているお香は、なんと5,000〜6,000種類もある。

「同じ種類のお香でも、各メーカーさんごとに香りの濃淡があって。どれを選べばいいかわからないというお客さんもいらっしゃいます。店舗では、お香をその場で焚き比べて選べるので、お好みのものをご購入いただけるんです」

「お客さんや取引先から『もうちょっと濃いものがほしい』と要望があれば、『じゃあつくろうか』って商品化することもあって。今、売上の32%ほどが自社のオリジナル商品なんです」

最近は、大河ドラマ「豊臣兄弟!」から豊臣秀吉や秀長、加藤清正、前田利家らをイメージした『記香録(きこうろく)』というお香を商品化。

そのほか、有名アーティストのコンサートグッズ、鉄道会社や人気アニメとのコラボレーション商品、企業からのOEM受注まで、相談が毎日届くのだとか。

「お香屋さんってシンプルで、原料の調達と配合の2つができれば誰でもできちゃうんですよね。調香は、僕だけじゃなくスタッフみんなできるようになっていて」

気さくに語る菊谷さんからは、スタッフと一緒にものづくりを楽しむ、和気あいあいとした雰囲気が伝わってくる。

「私が入社した当時は家族経営で、39歳までずっと僕が最年少でした。それで日曜日しか休みがなかったんですよね」

「実店舗ができたり、新しいスタッフが入ってきたりするなかで、このままの働き方は良くないなと思って環境を整えてきました。リフレッシュ休暇を取れるようにしたり。ゆくゆくは週休3日にしたいなと思っているんです」

今年は男性スタッフ2名が育児休暇を取得したんだそう。

問屋から歴史を紡ぎ、時代に合わせて柔軟にお店を変化させてきた。ここ数年は、学校での講師活動や講座用教材の制作にも携わったりと、「伝える」の幅を広げているところ。

今回募集する「お香コンシェルジュ」も、単にレジに立って販売するのではなく、香りの魅力を自分の言葉でお客さんに届けていってほしい。

「香りは目に見えないからこそ、どう言葉にして届けるかがスタッフの仕事だと思うんです。伝統をただ『残す』のではなく、自分たちの言葉で『広げていく』仕事。教えるというより、伝えていく仕事ですね」

「鼻が利く人だったらいいけれど、最初は利かなくても大丈夫。毎日香りに触れていれば鍛えられますよ」

 

台風が近づくこの日。外は雨が降っているけれど、来店するお客さんの姿もよく見られる。

「一周忌だからお線香を買いに来たの。たしかお花柄が入ったパッケージだったと思うんだけど… 」と話すお客さん。口調から、常連さんのよう。

「それでしたら、こちらのシリーズかもしれませんね。掛け紙はつけますか?」

そうスムーズに案内していたのは、入社2年目のスタッフの中村さん。

「本店は、地元の方が日常使いやギフト用に購入されて、県外の方へ贈られることも多いですね。一方で、名古屋はアニメの聖地も多いので『推し活の空き時間に来ました』という若いお客さんもいらっしゃいます」

「以前、お香づくりの講座に参加された方がすごくハマられて、月に1回通ってくださるようになって。お香そのものが好きな人、原材料から知りたい人、体験講座を楽しみたい人。いろんな楽しみ方を提供できるのが、香源の魅力だと思います」

予約制のお香講座は、曜日ごとにテーマを変えて開催している。

匂い袋やお線香づくりを体験してもらうなど、どんな企画にするかはスタッフみんなでアイデアを出し合って考える。たとえば最近は、『源氏物語』をモチーフに調合を考案し、歴史や背景を知る講座を開いたという。

「入社前は静かで厳格なお店をイメージしていたんですが、働いてみるとスタッフのみなさんがフレンドリーで。お香も伝統的な和風のものだけでなく、アニメコラボやアロマのような現代的な香りもあって、いい意味でギャップがありましたね」

新卒で販売員を2年、そのあと営業職を3年経験したのち、香源へ転職した中村さん。

「前職の販売も仕事自体は好きだったんですが、シフト制で勤務時間が不規則だったんですよね。香源は営業時間が決まっていて、残業もほぼない。自分の時間も大切にできるのが魅力的でした」

現在は店頭での接客だけでなく、商品の管理や発注、SNS発信まで幅広く担当している。

「前にいた販売店では、本社から送られてくる商品をただ売って目標を達成する、という毎日の繰り返しでした。でも香源では、接客はもちろんですが、自分たちでお客さまに届ける企画や仕掛けまで考えていける」

名鉄観光とコラボレーションした人気アニメのイベントなども手がけていて、キャラクターや作品の世界観をイメージしたオリジナルの香りを自社で調香することも。

年2回開催されるこの大規模イベントには、1日に1,000人以上ものファンが全国から本店に訪れるという。

平日の落ち着いた時間には、SNSの写真撮影や文章作成、LINE公式アカウントの改修など、次の仕掛けづくりに時間を使う。

こうした広報活動や店舗運営には、専門のコンサルタントが伴走している。プロから直接ノウハウを学べるため、未経験からも安心して学んでいける環境だと思う。

「商品もどんどん増えますし、陳列や企画も自分たちで変えていきます。だから『決まった作業だけをやっていたい』という人には合わないかもしれません。でも、新しい知識を楽しんで吸収できて、まずはやってみよう!と前向きに意見を出せる人なら、毎日がすごく面白い職場だと思います」

 

「社長との距離が近いんです。デザインの経験がちょっとあったので、改装のときには意見を取り入れてくれて。尊重してくれるのはありがたいです」

そう話すのは、入社3年目の齋藤さん。銀座・上野にある東京の2店舗で働いている。

東京ではたらく新しいスタッフは、銀座本店と上野店を行き来しながら働くことになる。今回は、歌舞伎座からもほど近い銀座本店で話を聞く。

「銀座本店はアジア系の海外の方が多くて、上野店はヨーロッパからのお客さまがよくいらっしゃいます。英語は堪能ではないですが、身振り手振りで伝えていますね。販売する商品は同じですが、客層に違いがあるので楽しいですよ」

大学で日本文化を学んだあと、保育士として働いていた齋藤さん。30歳を目前に控え、将来への迷いや焦りを感じていたという。

「自信をつけられるような、唯一無二のスキルを身につけたくて。デザインやWebの勉強をしたり、模索していた時期でした」

「そんなとき、採用サイトでパッと目に飛び込んできたのが香源で。お香の世界ってニッチで面白そう。人と差別化できるスキルが手に入るかもしれないと思って応募しました」

店頭に置かれているお香は、約300種類。最初はスタッフ同士で「香り当てクイズ」をしたり、お客さんと一緒に「試し焚き」をしながらメモを取り、地道に覚えていった。

「一番多いのは『リラックスできる香りがほしい』というご相談です。でも、何をもってリラックスと感じるかは人それぞれですよね。まずは、どんな香りが好きなのかをヒヤリングしていくんです」

「香道の世界では、香りを『甘い・辛い・酸っぱい・苦い・しおからい』といった味覚で表現する伝統的な考え方があります。それに加えて『森林の中にいるような香り』『石鹸に優しく包まれるような香り』と情景を言葉にすると、お客さまがイメージしやすくなるんです」

伝統的な教養とお客さんの感性を組み合わせながら、目に見えない香りを言葉にし、形にする。その積み重ねで知識も身についていく。

空き時間に新しい香りを試したり、イベントや講座を運営したりするなかで、よくできそうなところを考えて提案したり。

以前は自信がなかった、と話していた齋藤さんだけど、香源での仕事を通じて「ちょっと自信がつきました」と話す。

心にゆとりを持って働けること。考えたことを試せる環境であること。

“いろんな楽しみ方を提供できるのが、香源の魅力”と、中村さんは話していました。好奇心の数だけ広がるのが、お香の世界なんだと思います。

新しいことにも、楽しみながら挑戦したい人におすすめしたいです。

(2026/06/26,30 取材 大津恵理子)

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