「洋服を畳んで、色ごとにグラデーションになるように並べて。ああ綺麗な色だなって、クローゼットを眺める時間が好きです。日々の癒しです」
本当に好きな服は、着ているときだけじゃなく、洗濯したり、手入れしたりする時間も楽しい。
糸からこだわった上質な素材の心地よい服なら、なおさらだ。

今回紹介するのは、山梨の豊かな自然からインスピレーションを受けて服づくりに向き合うevam eva。上質なリネンやカシミアなど素材を活かしたデザインに定評があるブランドです。
母体になっているのは1945年から続くニットメーカーで、企画から生産、販売まで、ひとつの会社でおこなっています。
今回は、お店で働くスタッフを募集します。
全国に18軒ある店舗では、年齢や職歴も幅広いスタッフが働いています。未経験から始めた人もたくさんいます。
日本仕事百貨では、これまで約10年にわたってその仕事を紹介してきました。取材で出会うスタッフの方たちは、人やものに対して丁寧な姿勢が一貫していて、所作が素敵だなあといつも思います。
ライフスタイルの哲学に裏付けされたブランドなので、衣服だけでなく、食・住に通じる学びも多い。空間の整え方や自然との付き合い方など、自分自身の生活が変わるきっかけになるかもしれません。
訪ねたのは、表参道ヒルズの地下2階にあるお店。春から夏にかけての洋服が並んでいる。

ワンピース、シャツ、透かし編みのプルオーバー。どれも独特のニュアンスを持ったカラーで、鮮やかではないけれど、色の個性がちゃんとある。
空や山など、自然の表情をヒントにデザインされているという背景を聞くと、たしかにそんな感じがする。
「お客さまからも、『色が素敵ね』と言っていただくことが多いです。お洋服のテイストや、全体の雰囲気は長年変わらないという安心感もありつつ、シーズンごとにちょっとずつ新しい色味が加わっていて。微妙な色の違いを見つける楽しさがあります」
そう話してくれたのは、副店長の薩川(さつかわ)さん。挨拶のとき、とても深々とお辞儀する姿が印象的だった。

薩川さんがevam evaと出会ったのは、高校生のとき。お母さんと一緒にお店を訪れたのがきっかけだった。
服はもちろん、手入れの行き届いた空間や、植物を取り入れたしつらえ、接客の仕方など、お店の世界観に心動かされたという。
「こんな素敵なところがあるんだ…!という感じで。一方で、当時は『自分が着るにはまだ早い』という気後れもありました。実際にevam evaの服を着るようになったのは、お店で働きはじめてからです」

学校を卒業してからしばらくは、DTPオペレーターとして働いていた薩川さん。
転職を考えたとき、自分が本当に好きなものは何か問い直し、心に浮かんだのがevam evaだった。
アパレルも接客も、未経験からのスタート。都内の店舗、山梨の本店を経て、この表参道店で働くようになったのは今年に入ってから。海外のお客さんに接することも多い。
言葉ですべてを説明するのが難しいときは、まず、手にとって素材のよさを実感してもらう。

実際に身につけてみると、服のシルエットの印象も変わるので、「試着してみませんか」と促すことでコミュニケーションが広がることもある。
「この仕事をはじめるまで、私は接客が苦手だと思い込んでいました。でも、いろんな店舗やポップアップイベントを経験するたびに、伝え方の引き出しが増えるので、次のお客さまに出会うのが楽しみになって。まだまだ成長できると感じていることに、自分でもびっくりしています」
「最初のころは、たくさん服を売って、多くの人にブランドを知ってもらいたいという気負いがありました。もちろんそれも大事なのですが、山梨に行って“尚子さん”や先輩とお話するうちに、evam evaの仕事は服を売るだけじゃなくて、生活全般を考えることなんだと思うようになりました」
尚子さんというのは、デザイナーの近藤尚子さんのこと。運営会社である近藤ニットは、もともと近藤さんにとっては家業だった。

近藤ニットは、山梨の自然豊かな地域にある。季節ごとに変わる空の色や生き物の気配が身近に感じられ、思わず深呼吸したくなるような場所。
本店では、洋服のショップだけでなく、生活工芸やアートピースを紹介するギャラリーとレストランもあり、心地よい暮らしのあり方を体現している。
以前、取材したとき、近藤さんは「心地いい服をつくることは、世界平和にもつながる」と話していた。
服には、着る人の気持ちや、行動を変える力がある。行動が変われば、生活が変わる。

一方、忙しく過ぎていく日々のなかでは、生活を楽しむ気持ちを忘れてしまうこともある。
そんなとき薩川さんは、過去に日本仕事百貨で紹介された自社の記事を読み返すのだという。
「先輩方のインタビューを読むと、気分が上がります。『ものを持つときは両手で』とか、『ドアを閉めるときは音を立てない』『自分のことも大切にする』とか、やっぱりいいなと共感する考えがたくさんあって」
「入社当初は、お店の掃除や什器の手入れなども、周りの先輩を見て動くことが多かったんですけど、最近は体が自然に動くというか。義務感からじゃなくて、息をするくらい普通に、気がついたら空間を整える癖がつきました」
ブランドの発足から25年。北海道から九州まで、さまざまな地域にある店舗の運営をバックオフィスから支えているのが、営業企画担当の青山さん。入社して18年になる。

「私が入ったころは、まだ都内近郊に3〜4店舗くらいしかなくて。会社の規模が大きくなるにつれて、仕事の進め方も変わってきましたね。一方で、ものづくりに対する尚子さんの考え方はまったくブレない。だからこそ、長く働き続けられたんだと思います」
「入社する前は、別のアパレルでパタンナーをしていました。当時は仕事柄、無意識のうちにトレンドに影響を受けたり、いろんなブランドのお洋服を組み合わせたりしていたんですけど、ここで働くようになってからはevam evaの洋服しか身に纏っていません」
これまでインタビューしたほかのスタッフの方たちからも、日常的に自社の服を愛用しているという声は多かった。着心地の良さはもちろん、evam evaの服で組み合わせるほうが、色や素材の魅力が引き立つのだという。

自分が本当に着たいと思える服だからこそ、実感のある言葉で魅力を伝えることができる。
青山さんが特に気に入っているものとして紹介してくれたのが、ウォーターリネンという生地でできたシリーズ。
「通常のリネンとは糸のつくり方が違っていて。糸を水にくぐらせることで、撚(よ)りをかける回数を増やせるので、滑らかになって、生地にしたときの強度も増します。アンティークリネンのような風合いで、長く着られるんですよ」
撚りを多くかけた糸というと、強撚糸のしゃりしゃりした手触りなのかと思いきや、全然違う。トロリという感じで、柔らかい。

ウォーターリネンは、糸を乾かす工程などに時間がかかるため、一度に大量生産するのは難しい。
今は、依頼先である滋賀県の工場の生産可能な量に合わせて、年間の計画を立てている。
日本の繊維製品はメイド・イン・ジャパンとして、海外からの評価も高い。一方、撚糸(ねんし)屋さんや、機(はた)屋さんなど、いわゆる「川上」の優れた技術を持った工場は、年々少なくなっている。
ニットメーカーからevam evaが生まれた背景にも、斜陽といわれた業界のあり方を考え直したいという気持ちがある。
質の高い服をつくり、届けることが、技術の価値を伝え、産業を守ることにもつながる。自分も、ものづくりの一端を担っているという実感が、やりがいのひとつだと青山さんはいう。

「とはいえ、お店でお伝えするときは、説明的になりすぎないよう気をつけています。まずは、お客さま自身が手で触れて『気持ちいいな』『着てみたいな』って感じていただけるように。そのうえで必要な言葉を添えていくというのが、スタッフの役割なのかなと思います」
店舗の運営に関して、基本的なマニュアルはあるものの、接客の仕方など細かいところは店舗ごとに工夫をしている。
「店舗は複数のスタッフで運営するので、いつ・どのお客さまが来てもいいように、お客さまを迎えるための情報共有をとても丁寧にしていると思います。チームで連携する意識は、これから入る人にも大切にしてほしいですね」

evam evaには、スタッフの研修制度もある。新人研修や、本社がある山梨での研修に加えて、今後は長期的なキャリア形成やステップアップのための新しい研修制度も整えているところ。
未経験からのスタートでも、本人の意欲によってはマネジメントの仕事に挑戦する人もいる。スキルやこれまでの経験より、ものへの愛着を持てる人のほうが活躍しやすいという。
「ブランドを続けていくためにも、スタッフが安心して働ける環境をつくりたくて。服も、仕事も、日々の生活のなかですごく大きなウェイトを占めるものだから、なるべく自然に、その人らしくいられるほうがいいと思うんです」
「もちろん、お店のなかでは仕事上の“役”を演じる場面はあるかもしれないけれど、スタッフ一人ひとりの良さが発揮されるほうが、服の心地よさも伝わると思います」
evam evaには、ブランドとしてひとつの大きな世界観がある。
一方で、それを語る言葉には、スタッフそれぞれの生活の実感が感じられる。冒頭で紹介した言葉は、表参道店の薩川さんのもので、「ペットのワンちゃんと遊ぶ時間くらい、癒されるんです」という補足があった。
ほかにも、離れて暮らす親御さんに服をプレゼントした思い出や、コーディネートの楽しみなど、「evam evaがある暮らし」については、これまで出会ったスタッフの方の数だけ違ったエピソードを聞かせてもらった。
営業企画の青山さんも、お子さんとの外遊びで「触れる景色や草花の彩りを観察していると、それが仕事で服の色を見る感覚にもリンクする」と話していた。

どんな時代でも変わらない価値を求めるブランドだからこそ、生活のなかで自然に生まれる気づきが、仕事に活かされていくのだと思いました。
(2026/5/20取材 高橋佑香子)


