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早くよりも、みんなで遠くへ
人を育むワッフル屋さん

甘くて、香ばしいバターの香り。

ショーケースには、こんがりと焼き上がったワッフルが並んでいる。

今回取材に向かったのは、首都圏の駅ナカやターミナル駅を中心に、現在16店舗を展開している「MR.waffle(ミスターワッフル)」。

種類も豊富で、値段もお手ごろ。

ワッフル好きな方が、のんびりとマイペースに働いているのかなと想像していたのですが、それも合っているものの、また印象が違いました。

高い品質を保つためにどうすべきか、お客さまに喜んでもらうためにどんな接客がいいかな。一人ひとりが目標を持って、自主性を大切に働いている。

これだけ多くの店舗を展開しながら、スタッフが会社と同じ方向を向いて働きつづけられるのは、なんだか珍しい気がします。

一体どんな会社なのか、お話を聞いてきました。

 

向かったのは、東京・代官山。

大きな窓から自然光差し込むオフィスで迎えてくれたのが、代表の平井さん。

日に焼けた肌に、スポーティな服装。とてもエネルギッシュな印象を受ける。

「実は一昨日、100m走で12秒前半の自己ベストが出たんですよ。練習をつづけたら、11秒台もあるかもしれない(笑)」

55歳ながら、このタイム。ここ1年間で、必要な筋力をつけるための基礎トレーニングを積んだという。

「いきなり走り方のスキルやテクニックを追い求めると、小手先になっちゃう。まずはインナーマッスルのような、走るための土台を鍛えないと。仕事も、全く同じなんですよね」

そう笑う平井さん。これまでの30年近い歩みは、目に見えない土台をじっくりと積み上げていく連続だった。

すべての原点は、20代のころ。単身でベルギーへ渡り、本場のワッフルに出合ったこと。

街角で、焼きたてのワッフルを美味しそうに頬張る少年。その姿をうれしそうに見つめ、ワッフルを分けてもらうおばあちゃん。二人のあいだにこぼれる笑顔に、心を奪われた。

「たったひとつのワッフルで、こんなにも人を幸せにできるんだ」

情熱を胸に帰国し、26歳だった1997年、渋谷駅に1号店をオープンする。お店を開けると、瞬く間に大行列ができた。世間は空前のワッフルブームに。

「初年度から売上は億を超えて、2年で8店舗を出しました。若かったこともあって『商売ってこんなに簡単なのか』と勘違いしてしまったんです」

けれど、ブームは長くは続かない。波が引くようにお客さまは減り、売上は急降下。

生き残るためにカフェや鍋屋、寿司屋など、さまざまな飲食事業に手を広げるものの、踏ん張りが利かずに失敗に終わり、深刻な経営危機に直面。

追い打ちをかけるように、自身も病気で入院し、手術を余儀なくされる。前年に結婚したばかり。ただ下を向くしかない日々だった。

暗闇のなか、平井さんはこれまでの歩みを必死に見つめ直した。

「それまでは、売上を拡大して『よし、ついてこい』と、会社を大きく見せることばかり考えていました。でも、そうじゃない。自分がやっているのは、 “人財育成業”なんだと、そのときふと気づいたんです」

「一人ひとりのスタッフを大切に想い、その人が一歩ずつ成長していく。結果として、器である会社が大きくなっていく。それが本質なんだと、ようやくわかりました」

それから、全社員と毎月面談を重ねるようになった。

「手帳に『聞いて聞いて聞いて聞いて聞いて話す』とメモして、とにかく相手の話を聞くことに徹しました。面談を重ねるうち、一人ひとりの個性や価値観が少しずつ見えてきたんです」

並行して、心理学やマネジメントを熱心に勉強。売上が落ちて苦しい時期でも、数字だけで評価することはなかった。

「売上が下がっている時間は、お店にゆとりがあるということ。その時間を使って、お客さまに一言をプラスしてお声がけする。見える場所をピカピカに磨く。そうした目に見えづらくても、目の前の人を笑顔にするためのプロセスを徹底的に評価するようにしたんです」

効率を度外視し、一人ひとりのプロセスを評価するようになると、お店は劇的に変わっていった。お客さまから感謝のハガキがたくさん届くようになり、リピーターも増えていく。そんなサイクルが回りつづけ、経営は回復。

いまでは店舗数は16店舗へと拡大し、売り上げも上がっている。さらに、「働きがい認定企業」に9年連続で選出。

かつては平井さんが一人で抱えていた面談や教育も、今ではマネジャー陣にバトンが渡され、組織が自走し始めている。

 

本部のマネジャーとして会社を支えているのが、入社13年目の八木さん。

静岡で生まれ育ち、CGを学ぶために上京。作品づくりの合間に、ミスターワッフルの池袋店でアルバイトを始めた。

「初めて焼きたてを食べたときに、本当に美味しいって感動して。代表の平井がよくお店に顔を出しては、お客さまから届いたアンケートハガキを読ませてくれたんです。感謝の言葉や家族のエピソードが長文で書かれていて、こんなに多くのファンがいるんだとうれしくなりました」

アルバイトを始めて1年ほど経ったころ、正社員雇用の声かけを受ける。当時は過酷なCG業界への就職を前に、心が揺れていた。

「代表が有言実行で出店を重ねている姿も見ていましたし、これだけファンがいる会社ならきっと大きくなる。そう確信して、入社を決めました」

池袋や新宿、大宮のお店で、店長を経験。入社当時はまだ、今のように会社としてのルールや理念は明文化されていなかった。

「ミスターワッフルらしさってなんだろう」

そう考えた社員たちがみんなで集まり、それぞれの想いを付箋に書き出し、カテゴリー分けをしながら、手探りで言語化していった。それが、今もお店で大切にされている「絶対品質」や「思いやる接客」といった行動指針のベースになっていった。

現場で泥臭く経験を積んだ八木さんは、3年前に本部へ異動する。

いまは給与計算などのバックオフィス業務を担当していて、接客などを指導するリーダー層などのマネジメントも任されている。

本部に移ってからも、働く環境をよりよくしていくことは変わらない。

たとえば、勤続5年ごとにまとまった休みと旅行券が贈られるリフレッシュ制度や、家族へ感謝を伝えるための手当。さらには子ども手当の支給や、産休・育休からの復帰を当たり前に受け入れる体制など。

みんながうれしいと思うことを、自分たちの声をもとに増やしてきた。

「どんなときも、自分たちで言葉にして、会社をつくり上げている手触りがあるんですよね」

最近でも、本社で働くアルバイトスタッフを育成し、属人的になりがちな本部業務の仕組み化にも取り組んでいるところ。

「キャンパスカンパニーは、まだまだ完成された組織ではないと思っています。階段を一段ずつのぼるように良くなって、それがみんなに還元されていく。その軌跡を一緒にたどっていくことが面白くて、こうやって長く続けてこられたんだと思います」

 

現場のスタッフはどのようにお客さまと向き合っているのだろう。

サブマネジャーの江田さんは、武蔵小杉店で店長をしつつ、複数店舗のスタッフの育成やマネジメントを担当している。

もともと実家の家業を手伝ったあと、第二新卒で就職活動をしていた江田さん。ミスターワッフルのファンだった妹のためにワッフルを買いに行ったのが、お店との出合いだった。

「店頭の手書きのポップや、スタッフのあたたかい接客にすごく惹かれて。ここでなら楽しく働けそうだと感じて、求人に応募したんです」

入社後は、店舗で接客やワッフルを焼く業務からスタート。今回の募集でも、まずは店舗スタッフから経験を積んでいくことになる。

「現場の業務はスピードも求められますし、ワッフルを焼く技術は感覚的な部分もあるので最初は苦労するかもしれません。でも、立ち止まって相談できる環境があるので安心してください」

加えて、毎月マネジメント講座なども開かれている。講師は20年近く会社に伴走し、社員旅行にも参加するほど親交の深い方。自分を見つめ直しながら対人スキルを学んでいく機会も充実しているという。

「心理学を用いた性格判断で、私は、『お母さんタイプ』の要素が強いとわかって。スタッフに思い入れが強くて、優しく寄り添いすぎてしまう。でも、それが行き過ぎると、かえって相手の成長を妨げてしまうことに気づかされました」

「他人のせいにせず、『じゃあ自分の伝え方をどう変えようか』と、自分自身を見つめ直して現場でのアプローチを変えていく。自分の内面と真摯に向き合う機会がたくさん用意されています」

武蔵小杉店の店長でもある江田さん。街に根付くお店ならではの、忘れられない出来事がある。

「ある日、事前の予約なしで『ワッフルを80個ほしい』という男性のお客さまがいらっしゃったんです。駅ナカの目まぐるしい店舗で、すばやく80個を仕込んで焼き上げるのは、文字通り時間との戦いでした」

それでも「焼き立てをベストな状態で届けたい」と、スタッフみんなで必死に手を動かし、なんとか10分ほどでお渡しを完了させた。

「お待たせしてしまったので内心ハラハラしていたんですが、お客さまはワッフルを受け取ったあと、目の前のスーパーに走って行かれたんです」

「何だろうと思っていたら、私たちスタッフ全員分のスポーツドリンクを買ってきてくださって。『これ、みんなで飲んで。大変な対応をさせてしまってごめんね、ありがとう』と、差し出してくださいました」

その男性は、実は近くで会社を経営されている社長さんだった。スタッフの姿を見て、心を動かされたのだという。

「それ以来、お昼休憩のたびにお店に買いに来てくださるようになって、今ではすっかり大ファンになってくださいました。お会いするたびに何気ないお喋りをする関係です。あのとき、目の前のお客さまに一生懸命向き合ったからこそ生まれた、大切な出会いですね」

これから新しく入る人は、どんな人が向いているだろう。

「まずは、人が好きな人に仲間になってもらいたいです。自分のことだけでなく、誰かの成長を素直に喜べたり、気にかけたり、相談に乗れたり。もちろん人と人なのでぶつかることもありますが、周りには同じ環境で働く仲間がたくさんいます。だから、心配せずにいっぱい失敗してもらいたいですね」

 

帰り際、平井社長が見せてくれたのは「スタイルブック」と呼ばれる社内向けの本。

10年前から毎年つくられているこの本には、会社のミッションの背景や中長期の計画のほかに、全店舗のスタッフから寄せられたお客さまとのあたたかいエピソードがぎっしりと詰まっている。

最初のページを開くと、こんな言葉が記されている。

“早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け”

「僕らはみんなで、遠くへ行くと決めています。進むスピードはゆっくりかもしれない。けれど、絶対に沈没しないこの船に、一緒に乗ってくれる仲間を待っています」

ひとつのワッフルで、笑顔をつくりだす。その想いを分かち合い、ともに進んでいく仲間を探しています。

(2026/08/03 取材 田辺宏太)

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