知らないまちの、名前のない風景に感動する。
旅先での何気ない人との交流が、いつまでも心に残っている。
日本には私たちの知らない魅力が、まだまだ眠っているように感じます。

福島県・会津美里町。
会津若松市の西。2005年に旧会津高田町、会津本郷町、新鶴(にいつる)村が合併して誕生したまちです。
「会津」発祥の歴史ある伊佐須美神社、東北最古の焼き物の産地、ワイナリーや温泉地など。
異なる3つの地域の特色を活かし、新たなまちづくりを進めていこうと、令和8年度に「にぎわい創造課」が創設されました。

その目玉としてはじまったのが、「にいつるこねくと つながる体験博覧会」。
収穫したぶどうでワインを醸造したり、会津味噌のつくり方を学んだり。新鶴エリアの食・農・手仕事にまつわる技術や文化に触れる体験型プログラムです。
今回募集するのは、企画運営を担う地域活性化コーディネーター。週4日勤務のため、残り3日は自分の活動に充てることもできます。
郡山駅から車で西に進むこと1時間半。会津美里の新鶴エリアに到着した。
会津地方のシンボルである磐梯山。麓には美しい田園風景が広がっている。こうした景色のなかを走る「JR只見(ただみ)線」は、世界で最もロマンチックな鉄道とも呼ばれているそう。

車で数分ほど走り、会津美里町役場へ。
ここで話を聞いたのが、にぎわい創造課の星さん。焼き物で有名な会津本郷の出身で、今回のプロジェクトをともに進めてくれる。

「新鶴エリアは、ぶどう畑や田園風景の広がる自然豊かな場所で。会津美里のなかでもたくさんの魅力が眠っている場所なんです」
オタネニンジンと呼ばれる高麗人参の栽培で栄えた新鶴。
現在は県内有数のワイン用ぶどう産地として知られており、高台にある温泉からは、ワイナリーやぶどう畑を一望することができる。
「ぶどうの直売所やオタネニンジンの温泉など。資源はあるのですが、まだまだPRはできていなくて。来訪者を増やしつつ、地域の魅力を再発見して、次世代につなげる仕組みが必要だったんです」
こうした背景から生まれたのが、「にいつるこねくと つながる体験博覧会」。
新鶴に住む人々が「案内人」となり、暮らしの知恵や活動を、誰もが楽しめるプログラムにして開催。
お寺での抹茶点て、ユーカリを使ったスワッグづくり、新鮮な野菜の詰め合わせ、温泉とサウナによるデトックス体験など。第1回となる今年は、全15のプログラムを予定している。

新しく入る人は、体験博覧会の企画運営を主に担うことになる。
着任1年目は、地域や人を知っていくことから。
ワイナリーや温泉に行ってみたり、地域のお祭りを手伝ったり。日々の暮らしのなかで、まちの魅力を発見していく。
また、国内の先進地を視察することもできる。昨年は、静岡で行われている「温故知新博覧会」に訪れたそう。
その後は、単発のプログラムを企画。数を少しずつ増やしていき、最終的にはそれらを束ねることで第2回目の体験博覧会を企画していく。
たとえば、会津名物の桜肉の焼き肉、オタネニンジンの温泉など、新鶴の食や歴史を辿るプログラムを企画したり、温泉と座禅を通じたリトリートプログラムを開発したり。
自由な発想で、新鶴の魅力をプログラム化していってほしい。
今年ははじめての開催ということもあり、準備はかなり大変だったそう。プログラムの案内人決めから、パンフレット作成、SNSでの広報、参加者の申し込み管理まで、すべて自分たち。今後の開催にあたっては、役割分担を見直して進めていくつもりだ。
「第1回は、10月から11月の2ヶ月開催します。次回は再来年の春ごろを想定していて、まずは地域の魅力を掘り起こしていってほしいです。明るく、人と話すことが好きな方はきっと楽しめると思いますよ」
続けて、体験博覧会を企画した菅原さんにも話を聞く。
宮城県出身で、東京の大学でデザインを学び、新卒で会津美里へやってきた。新しく入る人は、菅原さんの後任になる。

「卒業制作で地元の商店街を取材してウェブサイトをつくったことから、地域の魅力を伝える仕事がしたいと思うようになって。教授にすすめられた日本仕事百貨で、たまたま募集を見つけたんです。『これだ!』って直感で(笑)」
「ただの求人なら、目に留まっていなかったかもしれません。素敵なワイナリーや温泉があるけど、うまくPRできていない現状を知って、私もこのまちの力になりたいなって」
縁もゆかりもない会津美里で働きはじめた菅原さん。1年目は暮らしを楽しむことからだった。
「着任した4月は桜が満開で。会津美里には、名所でもないのに綺麗な場所がたくさんあるんです」
撮影した桜の写真を見せてくれる。どこを切り取っても満開の桜で、まちを歩くだけで気持ちよさそう。

「とある神社の桜がきれいで写真を撮っていたら、近くで農作業をしていたお母さんがいて」
「『ここは何て神社ですか』って思いきって声をかけたら、いろんな話を聞かせてくれたんです。ほかの方も『今度お茶飲みに来てね』って声をかけてくれて。じゃあ来週お茶しに行きますねって」
挨拶をしたり、立ち話をしたり。日々の暮らしのなかで、自然と顔と名前を覚えてもらっていった。

菅原さんのミッションは、新鶴地域を中心とした着地型ツーリズムの企画とブランディング、プロモーション。
少しずつできていった人とのつながり。そこで聞いた魅力的な話をどのように伝えていくか。
考えた末、菅原さんは得意なデザインと掛け合わせて、フリーペーパーを発刊することに。
「新鶴の地域内外をつなげられるようにという想いを込めて、『にいつるこねくと』という名前にしました」
見せてもらうと、ワインぶどうの誕生秘話や、新鶴の桐下駄が徳島県の阿波踊りで使用されている話など、観光するだけでは知ることができない、ここならではの話が詰まっている。

3ヶ月に1回のペースで発刊して、いまは7号目。
「企画書を見せたら『おもしろそうだからぜひやってみてほしい』と役場の方や地域のみなさんが言ってくれて。そうした言葉をもらえたから、ここまで続けてこれたと思います」
「今回の体験博覧会は、私が出会ってきた人たちが案内人を務めています。せっかくなので、新鶴地域にも行ってみましょうか」
役場を後にして、新鶴ワイナリーへ。醸造所の横にある畑で収穫作業を見せてもらう。
白ワインに使用されるシャルドネが、一つずつ丁寧に収穫されている。

夏の太陽を浴びて透き通ったみずみずしい果実。普段はなかなか立ち入ることのできないぶどう畑での収穫も、今回のプログラムで体験できる。
「2年目のころ、新鶴のぶどう畑で水彩画の写生会をして、その絵を新鶴温泉に展示するアートフェスを開催したんです。そうした活動も、今回の体験博覧会につながっていますね」
イベントも企画されたんですね。
「私の入りはデザインだったので、当初、イベントは別の方にお任せしてもいいかなと思っていました。でも、私の活動を応援してくださった方々がいて。何かお返しできないかなって」
「これまでの会津美里の協力隊は、図書館やワイナリーといった施設の立ち上げが多くて、3年で終わることが多かったんです。私も3年でおわりだと思っていたんですけど、ありがたいことに今後も続く仕組みにみなさんがしてくださって。すごくうれしかったですし、私もより良い形で次の方に引き継いでいけたらと思っています」
菅原さんが生み出した博覧会を、次回どのように組み立てていくか、もしくは新しいかたちに変えてみるのか。新しく来る人には考えていってほしい。
最後に訪れたのが、中田観音と呼ばれるお寺。
日本遺産に登録されている「会津三十三観音」のひとつで、木造の大きな屋根が特徴的。境内には風鈴の音色が響いている。

ここで話を聞いたのが、中田観音で働く鈴木さん。
今回の体験博覧会で案内人を務める一人でもある。明るい人柄で、場も和む。

「菅原さんを知ったきっかけは、隣のお店に置いてあったフリーペーパーでした。新鶴は観光地が少ないので、活動にも興味があったし、私も乗っかっちゃおうかなって」
今回の博覧会では、鈴木さんも案内人を務める。プログラムはお参りの作法について。
「神社は二礼二拍手一礼ですけど、お寺では合掌だけで良くて。混同されている方も多いんです。なぜ、そのような作法になっているのか。神道と仏教の違いも知ってもらえたらおもしろいかなって」
日本遺産に登録されており、観光客も訪れる「会津三十三観音」。けれど、無人のお堂も多く、御朱印を集めきるのはむずかしいそう。「訪ねた写真を見せたら、御朱印がもらえる仕組みをつくれないかな」、と鈴木さん。
会話のなかでぽろっと出た困りごとを拾い上げて形にする。それによって、新たなプロジェクトも生まれるかもしれない。
「もっと観光客の方が回遊できたらいいですよね。本郷の陶器市とかは有名ですけど、このまちを好きになって何度も足を運んでもらいたい。そういう意味では、菅原さんが企画してくれた体験は、そのきっかけの一つになると思います。開催が楽しみですね」

最後に、卒業後について菅原さんに聞いてみる。
「いまは体験博覧会で頭がいっぱいで、まだ何も決めていなくて。でも一つ言えるのは、協力隊の経験があったから、いまなら何にでもなれると思っています」
「このまちでいろんなチャレンジをさせてもらえて、可能性がすごく広がりました。それは次に来る人にも伝えたいですね」
取材後、おすすめしてもらった桜肉の焼き肉店に行くと、菅原さんがつくったフリーペーパーが。
声をかけると、「あの頑張ってる子だよね」とのこと。地域のみんなから好かれているんだな。
このまちの暮らしを楽しんで、地域のことを好きになる。この人のために、頑張りたいと思う。
その純粋な気持ちが、会津美里の魅力をつくっていくのだと思います。
(2026/09/16 取材 櫻井上総)