福島県・会津美里町。
福島県西部に位置するこのまちは、2005年に旧会津高田町、会津本郷町、新鶴(にいつる)村が合併して誕生しました。
今回は、会津本郷地域を拠点に、町全体の観光振興に取り組む地域おこし協力隊を募集します。
まずは、地域に住む人たちとの関係性づくりから。暮らしに慣れてくれば、SNSで情報を発信したり、イベントを開いたり。未開拓の地域資源を活かして、まち歩きを楽しめるコンテンツをプロデュースしていきます。
週4日の勤務なので、残りの3日は自由。地域の人と交流するもよし、まちのイベントスペースを利用して、自分でお店を出してみるのもよし。
経験は問いません。今年の4月から、埼玉から移住した先輩協力隊もいます。まちの暮らしを楽しみながら、のびのびと働きたい人に似合う仕事だと思います。
東京から新幹線に乗り1時間ほど。郡山で電車に乗り継いで、さらに1時間半ほどで会津高田駅に着く。
はじめに向かったのは、会津美里町役場。
役場本庁舎は、地域おこし協力隊の主な勤務地でもある。令和元年に完成したそうで、公民館や図書館、ホールなどがあり、複合文化施設として機能している。
あいさつをしてくれたのは、今回の協力隊の担当でもある町役場の黒須さん。
東北弁なのか、穏やかななまり。事前の打ち合わせでも、丁寧に話を進めてくれたのが印象的な方。
2000年以上の歴史がある伊佐須美(いさすみ)神社や、東北最古の焼きものと知られる会津本郷焼。新鶴と呼ばれる地域にはワイナリーがあって、広大なぶどう畑も隣接している。
「観光地としてのポテンシャルは高く、町を訪れる観光客もいる。けれど、来るだけで終わってしまう課題があって」
「宿泊して、長く楽しめる。そんな滞在型の観光を推進しようという名目で、『まちやど』というコンセプトでプロジェクトがはじまりました」
モデルとしたのは、山梨県小菅村にある「NIPPONIA 小菅 源流の村」。
たとえば、古民家はホテルの客室、道の駅の物産館はホテルのショップ、温泉施設はホテルのスパというように。村内のさまざまな施設をひとつの大きなホテルに見立てた、地域分散型ホテルだ。
ホテルのキャストは、村の人たち。まちぐるみで宿泊客をもてなすことで地域価値を向上させる、ひとつの例となっている。
「会津美里町でもそんな形をつくっていきたいんです」
協力隊は、まずはまちを歩いて地域の人にあいさつしたり、イベントに参加するところから。暮らしのなかで、まちのおもしろさを発掘していくような働き方になっていく。
暮らしに慣れてくれば、役場で運営している移住や暮らしの情報をまとめたサイトの整備をしつつ、SNSでの広報や、イベント企画を担うことになる。
「たとえば、お昼に会津本郷焼の窯元で陶芸体験をしたあと、近くのレストランで食事をして、そのまま宿泊。翌日は、お米づくりや果樹栽培をする農家さん、日本酒の蔵元を訪ねる、とか。3年間で、そんな観光の仕組みづくりをしていただくのがゴールかな、と思っています」
地域の魅力を引き出したコンテンツをつくることは、人の流れを生み出すだけでなく、地域の人の意識が変わるきっかけになるかもしれない、と黒須さん。
「会津美里町は、もともと3つの地域が合併した歴史がある。それぞれの地域が、分かれているような空気が残っていて。同じまちなのに、となりの地域の人となじむことができないことが正直あるんです」
「地域を横断するような観光ができたり、県外からの観光客が増えたり。人の流れが生まれることで、地域ごとの境界が自然と馴染んでいって、会津美里町の団結が深まっていくと思うんです」
今回募集する地域おこし協力隊の拠点となるのが、会津本郷地域。
「去年の4月にCOBACO(コバコ)という、まちやどプロジェクトの拠点をつくったんです。レンタルスペース、シェアキッチンの機能がある複合施設で、協力隊の方にはCOBACOをぜひ活用していただきたい」
「どんな活用方法があるのか。さっそく、COBACOを運営している方に話を聞きにいきましょう」
車で向かったのは、会津本郷陶磁器会館。
館内には、窯元ごとにたくさんの器やコップが並べられている。
ここで迎えてくれたのは、松田さん。
ふだんは、会津本郷焼の振興事業に取り組んでいる方。昨年から、COBACOを活用した地域コミュニティ創出もはじめている。
「会津美里町に訪れる人や地元の人。さまざまな人が行き交うような、賑わいのある場所にしていくための拠点として、COBACOを立ち上げました」
最近は、カフェやアクセサリーショップなど、地域の人が日替わりでチャレンジショップを出店している。出店者のつながりで、「自分のお店を出す前に、試しに出店してみたい」と、遠方からCOBACOを利用する人も増えてきているのだそう。
「まちやどというコンセプトのなかで、COBACOを使ってどんなことをしていくのか、まだ決まっていないことが多いので。一緒に意見を出し合って、見つけていきたいですね」
「協力隊の方も、自分が主体となって、好きなことや得意なことを活かしたイベントをCOBACOで開きたい!という意欲があれば、大歓迎ですよ」
松田さんがいま考えているのは、会津本郷焼の弟子入り体験。
「年に数回、2泊3日など短期間の滞在中に窯元で焼き物づくりを体験して、焼いたうつわでCOBACOで食事をする、みたいな。1ヶ月など長期で宿泊をして一気につくりあげる、みたいなプランがあれば、インバウンドの方も喜んでいただけるかもしれない」
会津本郷地域にある宿泊施設は今のところ2つ。いずれは、COBACOをリニューアルして宿泊機能も持たせたいと考えている。
「COBACOのように、人の流れを生み出したり、旅の出発点として、水先案内人のような役割を担ったり。そんな場所が増えていけばいいなと思っていて」
「たとえば、任期中に空き家を改修してゲストハウスを運営したり、観光施設に転用していく、とかしていただくのもいいんじゃないかな。協力隊を卒業したあとの働き方も自由につくっていってほしいです」
役場に戻って、最後に話を聞いたのが、菅原さん。
仕事百貨の記事を読んで、今年の4月に地域おこし協力隊に着任した方。
新鶴地域を拠点に地域活性化業務を担当している。新しく加わる人とは、拠点とする地域は異なるけれど、仕事内容も近く、一番身近な先輩になる。
宮城県出身の菅原さん。大学は東京へと進学して、雑誌編集とウェブデザインの勉強をしていた。
「就活は、デザイン会社を目指していたんですけど、思うようにいかなくて。一旦すっぱりと辞めて、卒業制作に集中することにしたんです」
卒業制作では、地元地域の魅力を発掘するウェブサイトを制作。宮城に戻って、写真を撮ったり取材をしたり、記事をつくってアップするという作業を繰り返していた。
「そのうち、地域の魅力を発信する仕事がしたいと思うようになって。ゼミの先生から仕事百貨を紹介してもらいました。求人でちょうど目に入ったのが、会津美里町の地域おこし協力隊の募集で」
「会津に馴染みはなかったですが、自分のやりたいことと仕事内容がマッチして。ウェブサイトやデザインとか、これまで勉強してきたことを使ってまちの魅力を発信できる!これがわたしのやりたかったことだったんだ!って思って。勢いで、応募しました(笑)」
移住へのハードルはなかったですか?
「若いこともあるかもしれませんが、なんとかなるかって思ったんです。地元が宮城で隣の県ということもあって、暮らしのイメージもつきやすかったのはありますね」
「3ヶ月、あっという間に過ぎました!」と振り返りながら、仕事を管理しているというノートには、毎日変わっていく業務が付箋に書かれている。
「ちょうど先週末、『あやめ祭り』という会津美里町のお祭りが伊佐須美神社で開かれて。新鶴にあるワイナリーとブース出展をして、グラスワインや、スパークリングのぶどうジュースを出しました。観光客の方にも喜んでいただけて、楽しかったですね」
直近では、新鶴ワイナリーで開かれるマルシェイベントの準備も進めているそう。担当したというチラシのデザインを見せてくれた。
「今年中には、自分で企画したイベントができたらいいなと思っておりまして。今考えてるのは、アートフェスです」
「新鶴ワイナリーの近くのぶどう畑で、写生大会を実施して、作品を展示しようと思っていて。会津本郷焼や、ほかの地域の特産品も、大きなアートというくくりで、展示や販売ができればいいなと考えています」
現在、会津美里町の地域おこし協力隊は10人。菅原さんと同時期に着任した人はほかに3人いて、ひとりは農業を、もうふたりは会津本郷焼の後継者として窯元で技術の習得に励んでいる。
協力隊同士で集まる場も定期的に用意されている。菅原さん含め、ほかの協力隊との話の中で、企画を考えつくこともあると思う。
「休みの日は、役場の方に町のおすすめのお店を教えてもらって、協力隊の同期を誘って買い物に行ったり、イベントに行ったり。とても、楽しいですよ」
3年の任期が終わったあとは、どうしていきたいですか?
「これまでウェブデザインといっても、見せ方の部分しか学んでいなくて。プログラミングなど、サイトをつくるための勉強をしたいと思っています」
「地域で事業をしている方とお話ししていると、ウェブサイトのデザインをリニューアルしたいというご相談をいただくことがあって。自分でもアドバイスできればいいのかなって」
ほかにも、「ほのぼの旅する会津美里」というウェブサイトを運営したり、協力隊として個人でInstagram を開設して暮らしについて発信したり。
自分の好きなことや得意なことが活動に結びついている。
「本当に人と関わる機会が多いんです。これからも、人との出会いやご縁を大切にしていけば、自ずと3年後の道が見えてくるのかなって思っています」
隣で聞いていた黒須さんが続ける。
「役場としては定住してほしいとか、会津美里町のために、とか。役職上言うべきことはあります。ただ、担当としての思いはシンプルで。ただ、楽しんでほしいんです」
「菅原さんみたいに、縁もゆかりもないのに会津美里町を選んでくださった、それだけで本当に感謝すべきことで。わたしだけでなく、役場の職員も、仕事だけでなく暮らしも充実した任期を過ごしてほしい。そのためのサポートは、全力でしたいと思っています」
歴史や自然、人々の暮らしや生き方・働き方など。いろんなことを知れば知るほどに、できることの幅も広がっていくはず。
自分で決められるぶん責任もあるけれど、やりがいも大きい仕事です。
まちも役場も協力隊も。数歩先に、まちをおもしろくしようとしている心強い人たちがいます。仲間に加わるような感覚で、飛び込んでみてほしいです。
(2024/06/26 取材、2024/11/12更新 田辺宏太)