コラム

組織が壊れて考えた

コラム「ちゃんと言葉にする」で働き方を紹介したa-works株式会社。代表の野山さんを迎えてしごとバーを開催しました。

 

2020年5月から、YouTubeでのオンライン配信を始めた日本仕事百貨のしごとバー。

人が集まるイベントが難しい今だからこそ、ゲスト一人ひとりと、対談形式でじっくり話を聞いています。

今回は、11月19日にa-works株式会社の野山大彰さんをゲストに迎えました。

野山さんといえば、コラム「ちゃんと言葉にする」で紹介した通り、“とにかく問う”社長さん。いつも「あなたは、どうありたい?」という質問を、一緒に働くスタッフに投げかけ続けています。

「みんなの人生にすげぇ意義を」という経営目的や、社員それぞれの価値観を尊重する文化はどのようにして生まれたのか。

きっかけは、自分がつくった組織が崩壊する体験をしたことでした。

しごとバーでは、a-worksとほぼ同時期に事業を立ち上げた、日本仕事百貨のナカムラケンタが、話を聞いていきます。

 

11月にしては、暖かいこの日、普段は大阪で仕事をしている野山さんが、清澄白河のリトルトーキョーを訪ねてくれました。

まずはお酒で一緒に乾杯するところから、しごとバーがはじまります。


ナカムラ:a-worksはインターネットの広告代理店ですよね。創業はいつでしたっけ?

野山:2008年10月1日です。

ナカムラ:え!日本仕事百貨も2008年からなんですよ。最初は個人事業だったのですが、2008年8月1日創業です。10月ってことは、ちょうどリーマンショックの半月後くらいですよね。

野山:そうですね。でも、僕はあんまり影響を受けていないです。当時は、いろんな知り合いの会社のWeb周りの仕事を請け負う形で、便利屋のような仕事をしていました。

ナカムラ:ご縁があった会社に対して、求められていることを形にしていたんですね。実際に売り上げはあったのですか?

野山:2009年くらいから、商品比較サイトをつくって、それで物が売れ始めて。試行錯誤しながら色々している内に通販企業さんと仕事をすることになって、どんどん成長していきました。

ナカムラ:流れに乗っていくなかで、成長していったんですね。今回の話の主題は「組織が壊れた」です。うまくいかないことはありましたか。

野山:1回目は2012年ですね。とにかく会社を大きくしたくて、大手通販サイトさんの案件を受けたんです。でも、通販の支援をやってきた経験がある者もいないので、僕らの実力には重すぎて。見よう見まねでなんとかこなしてたんですけど、このくらいから組織が壊れ始めました。みんなが楽しく生きるための会社だったはずなのに、タバコを吸いだす人がいたり、泣きながら仕事してる人がいたり…。

ナカムラ:大きくなりたい目標があるから、目の前のことにひたすらチャレンジする。その後は、どうやって持ち直したんですか?

野山:仕事を引きました。それで、そもそも何がしたかったのか考え直したんです。そのとき会社の理念やビジョンを初めてつくって、みんながまとまるようにはなりました。それからスマホを世間全体が持つ時代がきて、ものがよく売れ始めたんです。

ナカムラ:ネットショッピングを利用する人たちが増えて、忙しくなったわけですね。2012年と同じような状態に会社はならなかったんですか?

野山:そのときは、結果がすべてを癒してくれたので、会社の雰囲気は悪くなかったんです。ただ、売上拡大が目的になっていたので、だんだん利益が目標になって。じわじわと問題は起きてたんですけど、「まだ現場が育ってないだけで、自ずと良くなるだろう」とやり過ごしていたんです。

 

―2018年 ウェブ上の広告掲載のルール変更があり、a-worksもこれまでのビジネスモデルが機能しなくなった。

野山:2018年のルール変更のあと、2019年5月にもう1回ルール変更があって、それが致命傷でした。そこからは長く赤字が続いて、何とか数字をあげることに集中しました。そうすると、僕も社員に対する態度が厳しくなってしまったんですよね。あの頃いたメンバーはよく耐えたと思います。

ナカムラ:そこからは、どうしたんですか?

野山:僕と近い創業メンバーを集めて話し合いをしました。うちの理念に“すげえことをしよう”ってのがあるんです。でもその理念って、僕だけで完結してしまうものなんじゃないかって、社員が言ってくれて。そのとき初めて、一緒に働いてる人の言葉を聞いた気がするんですよ。

ナカムラ :初めて?

野山:そう。それで、何のためにa-worksがあって、どこを目指すのかって、一度立ち止まって考えたんです。それで出てきたのが “関わってくれる人の人生の意義を高める”。これだったんです。 

ナカムラ:その経営目的を決めてからはどうなっていったんですか。

野山:とにかく会社を立て直そうと社員みんなが協力してくれましたね。お互いに考えていることを共有して理解し合うことで、僕も精神を保つことができました。あとは、徹底した情報公開カンパニーを目指して、財務情報や経営方針、最近では人事評価も社員が見れるようにしました。

ナカムラ:中小企業で、財務の公開はあまりないですよね。僕も会社の決算とかをオープンにするって、必要だと思います。よく経営者が社員に“経営者たれ”っていうじゃないですか。でも、経営者と社員が同じ情報を持てないことが多くて、そこで経営者たれって言われても困るんですよね。

野山:そうですよね。それに、公開することでヤベェなってことを共有できるんですよ。人事評価も、どういう基準で給料が決まるのかを丁寧に公開しています。基準に関しても会話のなかでお互い合意してますね。 “あなたの役割はこれで、こういうアウトプットを期待しています。”って、直接伝えます。

ナカムラ:数値化が難しいものも、お互いの会話で合意する。試験でいうと、マーク式じゃなくて全部記述式の試験みたいな感じですね。

野山:そうです。原因があっての結果なので、結果だけで評価はしません。仕事の過程を知るためにも、社員には毎月ログをとってもらって、自己評価をつけてもらっています。

ナカムラ:会社の進む方向を明確にして、ちゃんとコミュニケーションをとってきた。今はよくなっている実感はありますか?

野山:ありますね。何よりも社員からの信頼度が上がりました。いろいろな会話ができるようになったんです。

ナカムラ :たとえば?

野山:今期のテーマは、“好きな働き方、生き方が描ける会社をつくろう”なんですが、何でこのテーマなのかを社員に丁寧に説明して、みんなから意見を聞くことで、目標に対して当事者意識が生まれたんです。

ナカムラ:たしかに、それって素晴らしいことだと思うんですけど、とはいえ、ちょっと疑問もあって。

今コロナ禍でリモートワークをうまく回していく会社が脚光を浴びていますけど、実際にいろんな中小企業の経営者に話を聞くと、あんなふうにスタッフに裁量を委ねていくのは難しいって言っている人は多いんですよ。

例えばGoogleとかは、よく先進事例として取り上げられますけど、それはそもそもGoogleのビジネスモデルも人材も圧倒的に優れているからじゃないかっていう仮説があって。そういう意味では、野山さんの会社も優秀な人が多い気がするんですが、例えばa-worksのやり方は、どんな会社でも再現できると思いますか。

野山:思わないです。ビジネスモデルも大事ですし、今一緒に働いているメンバーはコミュニケーションとセルフマネジメントの能力が高いんです。それはちゃんと採用のなかで見ていて。書類選考もかなり慎重にしているんですが、最終的には6回くらい面接をして決めます。

ナカムラ :6回!

野山:ミスマッチが絶対に嫌なんですよ。

ナカムラ:僕も、ミスマッチって本当によくないと思います。仕事はやめてまた探せばいいって言うけど、転職って大変じゃないですか。もちろん採用する側も辛いしお互いに不幸だから、相思相愛なのかって確かめないとですね。

野山:だから、食事をしてもらったり一緒に働いてみたり。それで最後に、僕が会社のなかの情報を全部説明して、どうですかっていう確認をしています。

ナカムラ:入ってからブレが少なそうですね。

野山:入社後も、半年に1回全員と1on1で話し合いをしています。そこでは目標や数字の話は禁止で、自分のライフスタイルや考え方の変化を聞きます。最近は、僕のことを聞いてくれる人が増えました。双方を知ることで、より信頼を持ってくれてる気もします。

ナカムラ:自己開示することで、こっちが知ることもあるし、知ってもらえることで安心したりもするんですね。

野山:今後はもっと、ありたい姿を叶えられる環境でいたいです。自分自身がどうありたいのかを仕事を通して気づいて、そこに向かって仕事を頑張る人が増えたらいいなと思います。

ナカムラ:100人いたら、それぞれの形がありますもんね。だからこそ全員のありたい姿を叶えることって難しいところもあると思うんです。もしもメンバーから、会社を辞めたいっていう相談を受けたらどうしますか。

野山:それも、全然あるもんだと思います。価値観が変わったんだなって。
僕としては、人を幸せにする気はなくて。つまり、僕が幸せにしたいって思うことは僕の幸せを押し付けていることだと思うんですよ。だから、自分自身で幸せを定義して欲しいって言ってます。自分で幸せを決めてプロセスも決めろと。それを尊重します。

ナカムラ:お互いが合う限りは、どうありたいかを叶えていきたい会社なんですね。

野山:そうですね。代弁してくださってありがとうございます。

ナカムラ:いえいえ。今日は色々聞かせていただいて、ありがとうございました。

 

 


終始、明るく話をしてくれた野山さんですが、実際にa-worksに起きた出来事は、想像以上に厳しいものであったと思います。

大きな壁とぶつかることで、何かを失うこともあれば、新しい出会いにつながることもある。

お金や大きな実績よりも、自分が大切にしたいものはなんだろう。野山さんの再出発は、そんな問いからはじまっていました。

(編集:中野頌子)

 

<二人の、トーク全編はYouTubeのアーカイブをご覧ください。>

 

 

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