コラム

高知の山でチャンスをミッケ!
【林業、どう楽しむ? 編】

沈下橋と呼ばれる、高知県によくみられる手すりのない橋。

そこからのぞく仁淀川は、エメラルド色の水面が揺れていて、しゃがんでみると、その透明度に魅入ってしまう。

この美しさから「仁淀ブルー」と名付けられました。

目線を上げると奥には青々と生い茂る山、裾野に根差した小さな集落。じりじりと肌を焼く日差し、カラッとした空気。

これぞ、日本の夏。

身近にこんな風景がある暮らしって、いいな。

自然の中で働きたい、漠然とそう思いつつも、自分にできるだろうかと一歩を踏み出せずにいる。

もし今の働き方にモヤモヤしているなら、選択肢のひとつとして高知の山をおすすめしたいです。

今回は、常識にとらわれず、自分なりの手応えを見つけて林業をなりわいにしている人たちを紹介します。

なり手が少ない「木を植える仕事」に自分の可能性を見出した人。

自分の努力がダイレクトに還元される自伐林業を生業にしている人。

手厚い研修制度を活用して未経験から林業を学びはじめた人。

共通するのは、林業の中に自分なりのチャンスを発見し、未経験から自分らしく仕事を切り開いていること。高知県には、そんなチャレンジャーを、学びから就業までを支える手厚いサポート体制も整っています。

まだ山で働くイメージができていなくても、林業について詳しく知らなくても、気軽に読んでもらえるとうれしいです。

【何からはじめる? 編】はこちらから

 

伐採だけじゃない林業の可能性

高知と愛媛の県境に位置し、四国カルストを擁する梼原(ゆすはら)町。

中心街でも標高が高いことから「雲の上の町」とも呼ばれていて、建築家の隈研吾が設計した「雲の上のホテル」でも知られている。

この町に2年前に誕生したのが、株式会社KIRecub(きりかぶ)。

事務所の真ん中に、大黒柱?天井まで伸びて、葉っぱが生い茂っている。

「僕たちは木を伐採する林業じゃなくて、育てる林業をしているんです」

そう話すのは、代表の下村さん。

KIRecubは、造林と育林をメインに苗木の生産や森林教育などを行っている。

「梼原町は両親の出身地で、幼いころから夏休みに遊びに来る場所でした。大人になっても、仕事で疲れたり心が凹んだりすると、当時住んでいた香川から2、3時間車を走らせて来ていて」

「自然のなかに身を置くと、心がスーッとリフレッシュされていく。いつか梼原で何かしたいなとぼんやり思っていました」

前職は医療機器の営業職。仕事自体は充実して楽しかったものの、その想いは燻っていたそう。

「ずっと迷っていて。仕事をやめるにしても、梼原で具体的に何をしたいか見つかってなかったんですよね」

大学時代にアンテナショップをつくった経験から、地域づくりにも関心があった下村さん。岡山の西粟倉村など各地の地域活動を訪ねていた社会人9年目、転機が訪れる。

「高知の仁淀川町で開催されていた林業体験ツアーに、休みの日に参加してみたんです」

「そこで、林業の担い手は減っている現状を知って。でも裏を返せばそれだけ仕事が残されているかもしれない。自然の中で過ごすことに幼いころから価値を感じていたので、テコ入れすれば地域を盛り上げる力になるかもと思ったんです」

同じタイミングで、梼原町が林業分野での地域活性をミッションとした地域おこし協力隊の募集していることを知る。これしかない、と覚悟を決めた。

一方で、我が子が生まれたばかりのタイミング。年収の良い今の仕事をやめて移住したいと打ち明けると、奥さんは猛反対。

「パワポでプレゼン資料をつくって『とりあえず協力隊の3年間だけ挑戦させてほしい』って。ありがたいことに前の職場も『戻ってくるのはウェルカム』と言ってくれていたことも後押ししてくれて、飛び込んだんです」

そうして始まった林業1年目。高知県には林業大学校があるため、任期中に資格取得や基礎技術の講座を受けることができ、学びながら実践できる。

「登山が趣味で体力には自信がありました。でも協力隊の研修で登る山は、傾斜45度や50度もあるそり立つ壁みたいな場所ばかり。70代の親方が平気で登っていく後を、チェーンソーを担いでついて行くだけで死にそうでした。あれは、つらかったですね」

山へ通ううちに体力が追いつき、気づけば山で過ごす時間がプライベートでも増えていく。

「林業って木を伐るイメージがありますよね。でも、木を植えて育てる造林や植林の分野もある。梼原では木を植える人が少ないことを知って」

「造林は伐採と違って大型重機を入れられるような広い道がない急斜面も多く、苗木の運搬から下草刈りまで、人力の泥臭い作業なんです。だから積極的に担い手が増えない」

でも、見方を変えれば、数千万円するような重機を買わなくてもスタートできる。新しく参入する人にとっては、新しいビジネスになるんじゃないか。

協力隊の1年目が終わるころ、ほかのメンバーにも声をかけ、造林・植林の任意団体を設立。

「でもそれだけやってもおもしろくないなって。雨や雪の日は山へ入れないこともあるので、『林業×教育、観光』とか、視野を広げたほうが楽しそうだと」

地域おこし協力隊という立場を活かし、夜の飲み場や出張先で想いを語るうちに、アパレル大手の青山商事とのインターンシップ事業など、新しい取り組みが増えていった。

下村さんたちが、新しく造林の会社をつくったことで、地元の森林組合にも新しい造林班ができ、町全体の雇用の枠も増えている。

「前職の医療機器は、どんなに良い機械を売っても10年や15年で新しいものに買い替えられていくんですよね。でも今の仕事では、自分が植えた1本の苗木が、50年、100年とずっと残り続けていく。死んだ後もやった仕事が生き続けるってうれしいんです」

 

林業は、わかりやすくて面白い仕事

佐川町には、自分の山を自ら手入れし、持続可能な森づくりを行う「自伐(じばつ)林業」に取り組む人たちがいる。

自伐林家として若手を育てながら現場を仕切っているのが、株式会社明神林業の片岡さん。この会社では、林業大学校のインターンシップを受け入れている。

「最近は、朝5時から大工仕事をして、9時からは奈良から来た林業会社の社長と打ち合わせ。で、今は頭の中で『よさこい祭り』の地方車(じかたしゃ)をどう完成させるか考えてる最中で(笑)」

もともとは工務店で棟梁(とうりょう)を務め、数十名の職人を束ねていた片岡さん。20年前の公共事業縮小などで厳しい経営判断を迫られることになる。

「正社員を一度解雇して日当8000円で雇い直すような状況になって。家族もおるしローンもある。とてもじゃないけど食べていけなくて」

「盆や正月に実家へ帰ると、定年後に山の手入れを始めた叔父さんが毎年大きなユンボやトラックを買っとったんです。そこで林業って、ちゃんとやれば儲かると思って。食べていくために、実家の山へ帰って木を伐り始めたのが最初です」

自分の山の木を自ら伐って生計を立てる「自伐」。最初は手探り状態だったものの、持ち前の勘と体力で徐々に軌道に乗せていった。

「1本伐ったら1,450円、100本伐ったら14万5,000円。毎日50本伐れば、毎日6万、7万円の売り上げになる。会社員時代はどれだけ努力しても評価されるかは会社次第やけど、林業は自分の努力が100%見返りとして返ってくる。こんなにわかりやすくて面白い仕事はないですよ」

自分の山で実績をつくった片岡さんは、周囲の手付かずになっていた近隣の山主さんの山も手入れし始める。

「自分の山の隣なら、重機の運搬費もかからない。補助金を活用して効率よく山を間伐すれば、山主さんに利益を全額還元できるようにもなる」

その後、全国から「自伐林業を学びたい」と若い弟子が集まるようになると、片岡さんはさらに経営の舵を切る。

「まだ腕の立たん若い子を育てるには給与が必要やし、安全に作業できる最新の機械も導入しないかん。だから山主さんにも正直に話して、還元率を調整させてもらった。『若い者を育てるためなら』とみんな理解してくれました」

「最新の機械を入れれば、未経験の若い子でも楽に、安全に仕事ができる。会社のお金の動きや通帳の残高は全部社員にオープンにして、余った利益は年末にボーナスで還元する。山主さん、若手、会社、みんなが成り立つ仕組みをつくることが経営なんです」

現在、明神林業には20〜30代を中心に、東京など全国から飛び込んできた若手たちが働いている。

「木を伐る技術や重機の乗り方は、5年もすればできるようになる。そんなものは林業の3割。残りの7割は考え方と経営力なんよ」

山での作業や会社の経営だけでなく、全国の大学やセミナーで講師を務め、夏になれば「よさこい祭り」の地方車づくりに寝る間を惜しんで没頭する。

「よさこいの車をつくるのにも何百万と費用がかかるし、講師で全国を回る時間があれば山で数百万稼げる。でも見返りなんて求めてないんよ」

「林業っていうのは決まりがない、すべてが未知数の世界。全部自分の経験と努力で道を切り開いていける。努力したぶんだけ、100%自分や周りに返ってくるロマンがありますよ」

 

異業種の視点で「木を植える仕事」に可能性を見出し、100年先に残る仕事を軽やかに組み立てる下村さん。

自分の山を手入れしながら経営力を磨き、地域や若い弟子たちへ巡らせていく片岡さん。

常識にとらわれず、自分の「やりたい」や「面白い」を軸にチャンスを見つけてきた二人の姿は、どこか自由で頼もしく感じます。

(2026/07/14,15 取材 大津恵理子)

 

10月30日(金)には、こうちフォレストスクールとしごとバーのコラボレーションイベントを開催します。取材した下村さん、塙さんがゲスト登壇。

片岡さんや高知県庁の森田さんなども来場予定です。直接会って話を聞いてみたい方は、ぜひご参加ください。

イベントページ・お申し込みはこちらから:「木を植えて、山を育てる 高知でミッケ! 自分らしい働き方」

そのほか、遠方で来られないなど現地に足を運べない方への相談窓口もあります。下記宛にお気軽にご相談ください。
高知県林業労働力確保支援センター(お問い合わせ):https://www.shien-center39.com/other_03.php