「アユの漁期が変わりました!!」
高知県の四万十川の中流付近で見つけた伝言板。

四万十川の全長は、196km。
川の流れに逆らって泳ぎ、縄張り争いをしながら力強く育つため、身がキュッと引き締まり、脂の乗りと旨味のバランスが抜群らしい。
塩焼きにして、ふわふわの身を食べたら、骨は素揚げでサクッと平らげる。

森が雨水をろ過し、栄養たっぷりの水を川へ流す。手入れされた山があるから、四万十川は透明で、エサになる苔とアユが育つ。
そう考えると林業は、私たちにとって身近な存在に感じる。
自然の中で働きたい、漠然とそう思いつつも、自分にできるだろうかと一歩を踏み出せずにいる。
もし今の働き方にモヤモヤしているなら、選択肢のひとつとして高知の山をおすすめしたいです。
今回は、常識にとらわれず、自分なりの手応えを見つけて林業をなりわいにしている人たちを紹介します。
なり手が少ない「木を植える仕事」に自分の可能性を見出した人。
自分の努力がダイレクトに還元される自伐林業を生業にしている人。
手厚い研修制度を活用して未経験から林業を学びはじめた人。
共通するのは、林業の中に自分なりのチャンスを発見し、未経験から自分らしく仕事を切り開いていること。高知県には、そんなチャレンジャーを、学びから就業までを支える手厚いサポート体制も整っています。
まだ山で働くイメージができていなくても、林業について詳しく知らなくても。気軽に読んでもらえるとうれしいです。


森があるだけ、アイデアが湧いてくる
四万十川の穏やかな流れを横目に、四万十町十和(とおわ)地区へ。のどかな山あいに佇む、とある古民家を訪ねた。
玄関先で迎えてくれたのは塙さん。左腕にほわほわの赤ちゃんがすっぽりおさまって気持ちよさそう。
「引っ越してきたばかりで。片付け途中ですが、どうぞどうぞ」

以前は、同じ十和地区の中間管理住宅に住んでいたそう。お子さんが増えたことで、広い家を探していたところ、ご近所の方に紹介してもらったのがこの古民家。
挨拶もそこそこに、中で話を聞くことに。
「いつかログハウスを自分で建てたいんですよね。薪ストーブのある暮らしも憧れがあるな」
北海道で生まれ育ち、小さなころからドラマ「北の国から」に出てくるような自然に囲まれた暮らしに憧れがあったという。
大学では土木科を専攻し、就職したのは東京の鉄橋をつくる会社。現場監督として働いて6年経ったころに結婚。子育ては自然のある場所で、という思いが強くなる。

「仕事も、五感で感じられるものがいいなと思って。一次産業で職を探し始めたんです」
そこで頼りにしたのが、東京・有楽町にある移住相談窓口の「ふるさと回帰支援センター」。奥さんの地元が愛媛ということもあり、四国の窓口に寄るついでに高知のブースも見てみることに。
「バイクツーリングが好きで、高知には何度か訪れたことがあったんです。日本でもワイルドなレベルが高い場所だなという印象でしたね(笑) 雪が降らないだけで、僕の地元・北海道の大自然にも匹敵する魅力があると感じていました」
ブースでは、「こうちフォレストスクール」という林業就業セミナーを紹介してもらった。
東京や大阪などの都市部やオンラインで開催されており、先輩移住者のリアルな体験談を聞くことができるというもの。
「以前、『里山資本主義』という本を読んだことがあって、林業がまちの営みの循環に関わっていて素敵だなと感じたことを思い出して。実際に林業をするとしたらどんなものなのか気になって参加しました」
そこで実際に移住して現場で働く人や、林業大学校の卒業生の話を聞いたという。
「まず林業大学校に行けば、1年間、高知に住みながら勉強もできて、技能講習も受けられて、インターンシップもある。給付金をもらいながら通える制度もあると知って、『こりゃいいぞ!』と決めました」
その後、2年間の準備期間を経て高知へ。林業大学校へ入校し在学中に12の資格を取得。
「在学中に4つの企業へインターンシップに行けました。一人の転職活動だと、社長と面接して終わりになりがちで、職場の雰囲気や現場のリアルな人間関係って見えにくいじゃないですか。実際に現場で先輩たちと一緒に働いて納得できたのはよかったですね」
どの事業者も魅力的で悩んだものの、最終的に決めたのは今住んでいる四万十町十和地区にある会社だった。
「木を伐って出すだけでなく、苗木を植えて育てる『造林』にも力を入れている会社だったんです。それに、現場で教えてくれた班長さんがとにかく魅力的で。木の知識はもちろん、山や自然のことを知り尽くしている。この人と一緒に働きたいなと思ったのが決め手でした」

5年働いて、現場を仕切る「班長にならないか」と誘ってもらう。
「でも、いつか独立したいという気持ちがあったんです。このまま働き続けるか迷いましたが、ちょうど40歳を過ぎたころ、いつかやるなら早いほうがいいと思って」
そうして昨年立ち上げたのが、「株式会社 げんき守森(もりもり)」。
「電話口で『はい、げんき守森のサトウです!』って言ったらおもしろいですよね(笑)。
前の会社から一文字もらって名付けました」
下村さんと同じく塙さんが選んだのも、木を植えて育てる「造林・育林」。
造林は担い手が少ないぶん未経験からでも挑戦しやすく、伐採されたあとの山に新しい木を育てるという、地域にとっても欠かせない役割を担っているため、応援してくれる人も多いという。
「一般的には、木を伐るほうが達成感があって楽しいと思うんです。でも、伐られた場所に新しい木を植えるって、すごく良いことをしている実感があるんです。何百本も苗を植えるのは苦しくて本当に大変ですけど、僕は植え付け作業が好きなんですよ」

「最初は下請けから始めて。梼原の下村さんの現場を手伝わせてもらったり、自分で営業して遠方の現場に行ったり。地道に実績をつくるところから始めています」
書類作成や事業計画書の書き方に迷うと、前の会社の社長のもとへ相談しに行くそう。
林業大学校に通った1年間や、そこで繋がった就職先。移住して3年ほどで、基礎知識や資格だけでなく、同業者や地域とのつながりもつくれた。
いつか自社で山を持てるようになったらやってみたい、とこう教えてくれる。
「会社のキャッチフレーズを考えていて、『山は宝、宝の山』だなと思ったんです。放置されている山を、本当の宝の山にできないかなって」
「例えば、山頂の近くに桜をハート型に植えておいて、上空や対岸から見える映えスポットをつくったり。趣味のオフロードバイクやマウンテンバイクが走れるように山を整備したり、放置された広葉樹で薪や炭をつくって売ったり。非効率で、意味があるかわからないような楽しいことを考えるのが楽しいんですよね」
チャンスを見つけるために、見つけてからも
知識も経験もない状態から一歩を踏み出す人たちを支えているのが、高知県の手厚いサポート体制。
林業大学校で、高知県庁・森づくり推進課の森田さんに話を聞く。

「いきなり『移住して木を伐りましょう』と言われても、怖くて飛び込めないですよね。だから、段階を踏んでグラデーションのように関わりを深めていける仕組みをつくっています」
ちょっと興味がある人にとって、気楽に参加できるのが「こうちフォレストスクール」。東京や大阪、オンラインで開催しているイベントで、現場で働く先輩たちのリアルな体験談を聞くことができる。
「参加される方は、10代から60代ぐらいと幅広く、最近は女性の参加者も増えています。『自然が好き』『高知に興味がある』『今の働き方を変えてみたい』という気軽な理由の方も多いですよ」
スクールで興味が湧いたら、次は1日のプチ仕事体験や、実際の山や暮らしの雰囲気をたしかめる体験ツアーへ。本格的に挑戦してみたいと思えば、高知県立林業大学校という道がある。
林業大学校は、林業の即戦力を育てる県の研修機関。林業現場で必要となる資格の取得や基本的な技術や知識を学ぶことができる。
研修中は、年間最大192.5万円の給付金制度もあり、安心して学べるうえ、林業会社へのインターンシップを年に複数回実施しているため、就職後のミスマッチが起きにくいのも特徴。

手厚いのは山に入るまでだけではない。就業者へのサポートは、現場に出てからも続いていく。
通常、林業に必要なチェーンソーや大型重機などの資格を個人や会社で取得しようとすると、数万~数十万円単位の費用がかかる。高知県では、県の研修施設で、これらの資格を自己負担ゼロで取得することができる。

行政側が制度を用意するだけでなく、受け入れる会社側にも、若い人や未経験者が働きやすい環境に整えてもらえるよう、一緒になって労働環境の改善に取り組んでもいる。
「まだ何も決まっていなくて構いません。『高知ってどんなところだろう?』という素朴な疑問からで大丈夫です。気軽にフォレストスクールや高知県林業労働力確保支援センター内の相談窓口に来てもらえたらと思います」
給付金や資格習得、現場を体感できる林業大学校の存在を知り移住を決意し、山を育てるやりがいと独自の事業機会を見出した塙さん。
「いきなり飛び込む不安」に寄り添い、段階的な体験から就業後の資格取得支援まで全方位で支える体制を構築。未経験者が安全に成長できる「高知ならではの道筋」を示してくれる高知県の制度。
「学んで試せる環境」と「挑戦者を孤独にさせない仕組み」が揃っているからこそ、全国から若手が集まっているんだと思います。
(2026/07/14,15 取材 大津恵理子)
10月30日(金)には、こうちフォレストスクールとしごとバーのコラボレーションイベントを開催します。取材した下村さん、塙さんがゲスト登壇。
片岡さんや高知県庁の森田さんなども来場予定です。直接会って話を聞いてみたい方は、ぜひご参加ください。
イベントページ・お申し込みはこちらから:「木を植えて、山を育てる 高知でミッケ! 自分らしい働き方」
そのほか、遠方で来られないなど現地に足を運べない方への相談窓口もあります。下記宛にお気軽にご相談ください。
高知県林業労働力確保支援センター(お問い合わせ):https://www.shien-center39.com/other_03.php