コラム

はたらくをどう選ぶ?
企業文化という選択肢(後編)

6月14日〜16日の3日間、東京・品川の「THE CAMPUS」で開かれる「はたらく」について考えるイベントLifestance EXPO 2024

イベント参加企業の「Öffen」、「中川政七商店」、「VALUE BOOKS」の3社の方々に集まっていただき、それぞれの企業文化について語っていただく座談会企画の後編です。(前編はこちら) 

後編では、社長との関係性や、コミュニケーションツールの使い方などについてお話を聞きました。

対談の様子はYouTubeでも配信しています。コラムには書ききれなかったエピソードなどもあるのでよろしければご覧ください。

聞き手は、日本仕事百貨の高井です。

 

3.どんな社長とはたらく?

インタビューも後半になり、だんだんみなさんの表情も柔らかくなってきた。

次は、社長との関係性についてお話を聞く。

――オフィスに社長室はありますか?

VALUE BOOKS・林さん
ないですね。社長は、倉庫にある事務所的なところか、現場にいるかのどっちか。一緒に力仕事もやったりもしています。社長だからって威張ったりするタイプとは真逆な感じで。

――力仕事まで! すごいですね。傍から見たら誰が社長かわかんないかも。

VALUE BOOKS・林さん
わからないと思います。汗だくになってTシャツ姿で一緒に本が入った段ボール下ろしたりもするので。頼りになりますよ。

中川政七商店・安田さん
うちも社長室はないです。私は部署的にも社長と近いので、斜め向かいの席にいます。区切られていないので、とても身近で話しかけやすい雰囲気ですね。

――気をつかうことはないんですか?

中川政七商店・安田さん
話しかけにくさはまったくなくて。社長もバスに乗って出勤しているんですけど、たまにバス停で会うと、ちょっと相談事を話したりとか、その日のミーティングで煮詰まらなかったことを話したりとか。

印象的だったのがこの間、『取材で「自分を動物に例えるとなんですか」っていう質問をもらったんだけどなんだと思う?』って聞かれて。ゾウって答えたら、後日インタビュー記事に「社員からはゾウに似てるって言われました」って書いてあって。「あ! あのときの!」って思いましたね。

――2社とも社長との壁がないというか、距離感が近いんですね。Öffenさんはどうですか?

Öffen・赤羽さん
Öffenでも社長室はないですね。関係性でいうと、社長は社員からいじられてて、本人もそれを楽しんでくれてます(笑)。

――いじられてる?

Öffen・赤羽さん社内のグループラインで社長が冗談を言ったら、社員がふざけたスタンプを返したりとか。あとは、うちの社長は焼き鳥が好きで「東京の焼き鳥は大きくて関西のは小さい」みたいな焼き鳥談義をするので、それを社員たちがいじってます。

一方で、社長の包容力とか、取引先に見せる姿勢とかはすごく誠実で尊敬しています。

 ――社長との距離の近さというか、フラットな関係性ってどこから来てるんでしょう。

Öffen・赤羽さん
笑いに貪欲なんだと思います。飲み会とか、ラインのやりとりとかもちょっとスタンプで笑わせたいなみたいな気持ちが見え隠れしてるというか。社長も含めて、全員がちょっと面白いことを探してる(笑)

――話を聞いていて、みなさん無理がないというか、楽しく過ごしている印象です。

Öffen・赤羽さん
働き方として、みんながそれぞれ自立していて。まったく束縛されていないというか、トップダウンじゃない。言われたことをやる感じでもないので、上司が怖いみたいな感覚は全然ないんだと思います。

中川政七商店・安田さん
私たちも「役職は役割」っていう文化が徹底されているのを感じていて。「上長だから上だとか偉いとかではない」っていう発言が、ことあるごとに役職者から出るんです。

――役職者からそういう発言が出るのはすごいですね。フラットな関係の組織での働きやすさはどうですか?

 中川政七商店・安田さん
働きやすいと思います。でも、具体的な指示に対して動くわけではないので、「自分たちは何のために今この仕事をしているのか」ということを、それぞれが考えて動こうとする意識が強いと思います。

 

4.どんなコミュニケーションツールを使ってはたらく?

社内のコミュニケーションはどんなふうに行われているんだろう。コミュニケーションツールについても話を聞いてみる。

中川政七商店・安田さん
うちは、Googleチャットを使っています。オフラインよりもオンラインの方が多い気がします。会話がないっていうよりは、「今やってる作業を邪魔したら申し訳ないな」っていう気持ちがあるので。すぐに対応しないといけないものでなければ、チャットで連絡することが多いかもしれないですね。

――チャットでは、スタンプを使ったりもするんですか?

中川政七商店・安田さん
使います! それこそ、社内限定でオリジナルのスタンプをつくったり。中川政七商店のロゴが鹿なので、鹿がいろんな表情をしているスタンプがあります。

Öffen・赤羽さんかわいい! 自社のキャラクターがいるのっていいですね。Öffenでもつくりたいな。

VALUE BOOKS・林さん
オリジナルスタンプ、いいですね。うちも帰ったらつくろうかな(笑)。VALUE BOOKSはSlackを使ってます。でも、僕らはオンラインで話すのがあんまり得意じゃなくて。文字だとキツく見えちゃうと思ったら、直接話に行っちゃう。オフラインのほうが自分たちらしいのかなって思います。

――Öffenは拠点が神戸と東京で分かれているので、基本はオンラインになるんでしょうか?

Öffen・赤羽さんそうですね。驚かれるかもしれないですが、うちは、個人LINEでのやりとりか、電話です。
私も前職ではいろんなツールを使って効率化するのが当然だと思ってたんですけど、Öffenに入って、いろんなグループラインが煩雑に存在していて。最初は驚いたし、すこしめんどくさかった。

でも馴染んでくると、「こういう話をするためにこのグループがあるんだ」とか分かってくる。あとは、グループじゃなくて個人のラインでやりとりすることも多くて。そのコミュニケーションのおかげで、私は頭がクリアになったんです。

――頭がクリアに?

Öffen・赤羽さん
常にマルチタスクをこなしていたのが、シングルタスクになったというか。個人同士でのやりとりが増えたことで、目の前のことに集中できて頭がスッキリしたなと思います。

それはやっぱりプロデューサーの日坂が大切にしている「1歩ずつ」ってところにつながっているのかなって。急いで会社を大きくしたくない、けど、働いてる人たちの待遇を良くしたいっていう、一見矛盾してるように聞こえるんですけど、多方面に誠実でいる価値観があって。

――素敵な考え方ですね。

Öffen・赤羽さん
そもそも、代表とプロデューサーのツートップがめちゃくちゃアナログなんです。プロデューサーから電話が来たと思ったら「羽ちゃーん。ZOOM入られへんねん」って相談されたりとか(笑)。慣れてくると心地よく感じるので、何がいいとか悪いってことはないんだろうなって。アナログであることが悪いってわけじゃないんだと思って。

売り上げの報告とかも、手書きで紙に書いてくるんですよ! でも、自分の手でできる範囲のことをみんな着実にしていて。結構やりやすく、心地よく感じてしまっています。

 

5.どんなふうに商品と向き合ってはたらく?

工芸品、靴、古本。今回参加していただいた3社はいずれも形あるモノを商品として扱う仕事。それぞれ、どんな姿勢で商品と向き合っているんだろう。

 ――中川政七商店さんでは、商品を「この子、あの子」って呼んでいるんですよね。

中川政七商店・安田さん
そうですね。たとえば、自分が担当になった子を、「この子は困ったな」とか、「この子は大丈夫そう」とか。それぞれの部署によって商品との関わり方が違っても、うちの会社から、うちのブランドとして出ていくものに対してみんな愛着がある。だから自然とそういう呼び方になるんだと思います。

Öffen・赤羽さん
安田さんのお話を聞いて、私たちも自分たちの商品を「この子」って呼んでるって気づきました(笑)。「この子まだいっぱい在庫あんねん」みたいなことは自然に話しているかもしれないです。

VALUE BOOKS・林さん
僕たちの商品は、自分たちでつくっているものではないから、「この子」と呼んではいないですね。

中川政七商店・安田さん
わたし、バリューブックスさんがすごく好きで。プライベートでも本を買わせていただいたりするんですけど、めちゃくちゃ愛情を込めた扱い方をするなって思っていて。本の包み方からも本への想いが伝わってきます。

VALUE BOOKS・林さん 
本当ですか、それはすごくうれしいです。内部にいると作業に追われてしまうこともあるから。

――VALUE BOOKSさんには、日々すごい量の古本が届くんですよね。

VALUE BOOKS・林さん
1日あたり、だいたい1000箱、4万冊ぐらいですかね。それくらいの本が倉庫に届きます。

 Öffen・赤羽さん
すごい! それは子ってよばなくて大丈夫だと思います(笑)。でも、二次流通を事業としていること自体が本への愛情な気がします。業界愛というか。

 ――VALUE BOOKSさんでは、買い取れなかった本を活用した「本だったノート」をつくったり、名刺に活用したりしていますよね。

VALUE BOOKS・林さん
なるべく本として循環できたらいいのですが、うちに届く本の半分くらいは買い取れずに古紙回収にまわってしまう。なのでそれらを自分達の手で”本だった”再生紙にして、本だったノートとか、名刺につなげられたらなと思ってます。

Öffen・赤羽さん
うちでも、たまにB品みたいなものが出ちゃうんです。アパレル業界だと、綺麗なものが買えて当たり前だけど、「本当にその小さなロゴのズレが許せないですか?」って。そういう商品も捨てずに、堂々と販売していくことで、潮流が変わったらいいなと思っています。

 

おわりに.企業文化を語る先に 

1時間半にわたった今回の座談会。あらためて、はたらく上で企業文化を知ること、言語化することの意味について聞いてみました。
 
中川政七商店・安田さん

会社のなかにいると自分たちの企業文化について気付けない部分も多い。今日の座談会を通じてなんとなく言葉にしていくことで、中川政七商店ってこういう会社なのかも、っていうかたちが見えてきました。

企業文化って、自分の発する言葉とか、人との接し方にもつながっていると思うんです。だから、その会社の企業文化が自分に合っているのかを考えることって、難しいけどすごく重要なんだろうなって思いました。

VALUE BOOKS・林さん

他社さんの話を聞くことがほとんどなかったので、おもしろかったです。採用を担当するなかで、企業文化っていう側面はあんまり考えていなかった。でも、こういうワークショップとかに出て、あらためてすごく重要だなって思って。

社内でもそういう話をする機会が増えたので、自分たちの企業文化ってなんだろうねっていうことを考えていくのが大事なんだなと感じました。

Öffen・赤羽さん

みなさんの話を聞いていたら「かわいい!」って思うことがすごく多くて。それって転職先を探している人にとっては、魅力に感じる部分なのかもなと。企業文化について採用の場面で話すことはなかなかないし、自分たちはアピールポイントって思っていない部分も、もしかしたら魅力なのかもしれないですね。

あと、働いている会社の企業文化によって、自分のなかの価値観が変わったり、影響を受けたりすることがすごくあるんだろうなって思って。自分が転職したときは、条件をよく知りたいっていう気持ちが強かったんです。けど、そうじゃなくて、そこで働いている人がどんな人たちかを知ることが大切だと思いました。まだまだ企業文化について知れる機会が少ないので、企業文化を伝えることが採用のスタンダードになればいいですよね。

――ありがとうございます。Lifestance EXPO 2024では、いろんな会社のリアルな企業文化が知れるパネル展示もあります。参加企業のみなさんからも、イベントの見どころを教えてください

Öffen・赤羽さん
Öffenは、イベントでシューズの販売をします。あと、わたしともう一人、代官山店のマネージャーが茶話会に参加する予定です。茶話会は実際働いている人たちと、その企業に興味をもってくださった参加者さんがお茶とお菓子を囲んでざっくばらんにお話しする場所で。そこでは、今話したような企業文化とか、関心があれば採用についても聞いてもらえたらなと思っています。

みなさんに会えるのをすごく楽しみにしています!

VALUE BOOKS・林さん
バリューブックスでは「本だったノート」に続いて最近一般販売された「漫画だったノート」、「雑誌だったノート」3部作を販売する予定です。販売ブースにスタッフが立って、買取できない古本が古紙になってしまう背景や、本が循環することについて話せたらいいなと思っています。

中川政七商店・安田さん
中川政七商店では、定番品を中心にご案内します。あと、私も茶話会に参加させていただきます! 茶話会には別の社員も来るので、違う視点からも中川政七商店についてのお話しができると思いますし、販売ブースにも社員が立っているので、お買い物しながらでも、企業文化にふれられるんじゃないかな。ぜひご来場いただけたらうれしいです。

 

ライフスタンスエキスポでは、座談会に参加してくださった3社のほかにも、THEやUka、銀座木村屋総本店などさまざまな企業の企業文化を知ることができる「カルチャーパネル」の展示を見ることができます。

ほかにも、社員とお茶やお菓子を囲んで語らえる「茶話会」や、各社の想いの詰まった商品の販売、特別ゲストによるトークショーなど。

「はたらく」を多角的に考えられるイベントになっています。いろんな生き方、働き方を伝えている日本仕事百貨も協賛企業として出展予定。

入場料500円で誰でも参加可能です。興味のある方はこちらからお申し込みください。お待ちしております。

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