コラム

森が家になるまで
-整える編-

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こんにちは。日本仕事百貨の並木仁美です。

森が家になるまでを追いかける旅。

山から切り出された木は、製材所で柱や板などの木材へと姿を変えます。

前回の「切り出す編」に続いて、今回は「整える編」です。

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東白川村役場から5分ほどのところにある宿、中野屋さんを出る。

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出がけに「今日はどちらにいかれるんです?」と何気なく聞かれたことがなんだか新鮮だった。

東京だと、同じマンションに住む人がどこにいくかなんてあまり気にしたこともなかったから。

「いってきます」「いってらっしゃい」と言葉を交わして、むかったのは役場から車で20分ほどのところにある株式会社山共(やまきょう)です。

広く、天井の高い工場(こうば)で木材が運ばれている。あれは柱として使われるのかな。

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奥のほうからは、ウィーンと何かの機械が動き続ける音も聞こえてくる。

左から山共代表の田口房国さんと、一緒に働く子安健夫さんが話を聞かせてくれました。

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まずは製材所ってどういうことをしているんだろう。実は今回の旅の中で、一番イメージが湧かなかったので、田口さんに聞いてみる。

「簡単にいうと、山で木を切った状態っていうのは、丸い状態。それを柱なり、板なり四角くするのが製材所の役割だね」

「丸太の皮を剥いて、四角く形を整えたら乾燥させて。そのまま使うものであれば、含水率などの品質を測定して、仕上げをして出荷する。でも乾燥すると、どうしても木によって寸法がバラバラになるんです。そういうときはまた調整して出荷します」

注文は工務店や木材卸の問屋さん、個人からも受けることがある。注文される形はそれぞれ違うし、木も1本1本特性が違う。そこを見極めながら、注文通りの木材にしていくのが製材所の役割だ。

子安さんは、ここでどんな仕事をしているんですか。

「自分は“台車”と言って、丸太を切る機械を動かしています。木を送材車に固定して、回転するノコギリに通して切っていくんです」

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朝は、7時半くらいから仕事がはじまって、17時には終わる。

「家は白川町なので、ここまでは車で30分かからないくらい。最近は社長がラジオ体操をはじめたんで、7時20分にはきて一緒にやって。そのあとミーティングをやって、1日の流れを確認する。あとは大体2時間に1回、20分くらいの休憩を挟みながら仕事をします」

集中力を切らすと危険な部分もあるから、無理はしない。休憩ではお茶やお菓子と一緒に他愛ない話をする。

「白川に住んでますけど、生まれは岐阜の六条です。ここに来るまではパチンコ店にいました。ここは昔から知り合いの子が働いてて、その紹介できました」

「働きはじめたばっかりのころ苦労したのは…数字かな。一寸三分とか、はじめはさっぱり」

一寸がだいたい3センチ。注文はセンチやミリの単位でくるけれど、工場でのやりとりは寸で言い合うことが多い。普段生活しているなかでは馴染みのない単位だから、換算するのが大変だった。

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「あと柱材とかは、表面に節がない綺麗な木がほしいんだけど、節があるやつが出ちゃったり。反対に節があるやつがほしいのに、いい木ばっかり出たり。タイミングが悪いときは、しゃあないですけどね」

「木は自然のものだから、わかんない部分もあって。完全に狙ったようにはいかないのが、難しいしおもしろいところでもある」

山共ではすべて自動で機械が製材していくようなラインではなく、職人は自分の頭で考えながら、一つひとつ切っていく。

「だから失敗したらダメだし、うまくいけばいいし。自分がやったことの結果がわかりやすい。それに自分が切った木が、どこかの家に使われたり、ずっと残ると思うとうれしいんです」

山共の木材は、一般住宅はもちろん、最近では東京南青山に建てられた建物や、東京大学の図書館の天井にも使われている。

常に自分が切った木がどういうふうに使われるのか見えるわけではないけれど、東白川村から人々の暮らしを支える木材が生まれていく。そこに関わるっておもしろそうだ。

「まずは、工場にある全部の機械を使えるようになることが目標です。樹皮を剥がすリングバーカーっていう機械も、いまウィーンって鳴ってる、表面を平滑に整えるモルダーっていう機械も、ほかにもいろいろある」

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「でもまだ人に教えられるほどじゃない。まずは自分が台車をみっちりできるようになろうと頑張ってます」

言葉は少ないけど、まっすぐに想いを伝えてくれる姿からは、この場所で生きていく覚悟みたいなものが感じられる。

隣で子安さんの話を聞いていた田口さんにも、話を聞いてみる。

田口さんは、一度は外の世界を知りたいと家を離れて東京の大学に入学。だけど東京での就職には目もくれず、地元に戻りお祖父さんの代から続くこの会社を引き継いだ。

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木材価格の下落もあって、落ち込んでいた地元の木材業を立て直すために木材の定価表をつくったり、24時間以内に無料で見積もりをしたり。他社がやっていないようなことから、いろいろと試してみた。

結果、山共は業界の中でも注目され、仕事も増え続けている。

「僕は、都会と田舎の両方を見たからこそ感じることがある。たとえば、田舎は仕事がないようなイメージがあるかもしれないけど、さっき子安くんが言ったみたいにいろいろあるんだよね。そりゃあ都会みたいに1000個の中から選べるかっていったらそうじゃないけど、選ぶ余地もある」

「実際に自分ができる仕事なんて2〜3個なのに、なんとなく選べる余地がたくさんあるほうが安心、人数がたくさんいるほうが安心っていう空気が都会ではあるような気がするよ」

たしかにそうかも。たくさん選べるほうが、何かあってもすぐ会社を変えることができる。

ただ、それは裏を返せば、自分の役割も代わりがきくということ。田舎では、会社も人も数が少ないから、一人ひとりが大切でかけがえのない存在だし、ご縁を大切にする。

「会社としても個人としても、自分の責任というか、よりしっかりしないといけなくなるような気が僕はする。田舎で暮らすには、ただお金を稼ぐだけじゃ生きていけないと思うから」

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「都会より田舎がいいとか、極端なことを言うつもりはないよ。でも、都会に住んでいてもお金を稼ぐことが不得意の人もいるはずで、田舎に生まれても都会の生き方が合っている人もいると思う。だから、もうちょっと自由に選択してもらえたらいいんじゃないかな」

工場から場所を移して、すぐ隣の事務所のなかも見せてもらうことに。

笑い声が聞こえるな、と思って中を覗くと小さな女の子がおもちゃを手にして楽しそうにしている。聞けば、事務員さんのお子さんなんだとか。会社、という雰囲気じゃなくてちょっとびっくりした。

「社員は20代から60代までいて、若い人が多い。工場で働いているのは10人くらいかな。この前は妹の子どもが来てたんだけど。入れ替わりでいつも誰かの子どもがいるね」

「お客さんから電話があったときに子どもが泣いてたりすると、連れてくるなよって話になると思うんだけど。うちはアリにしてる。いろんなことにがんじがらめになって、規制、規制って言わなくても、まぁいいんじゃないのって。そういうゆるさは持っていたいよね」

壁には、みんなで年始に書いた書き初めも貼ってある。ただ働く場所というよりは、暮らしともゆるやかにつながっていて、なんだか大きな家族みたいだ。

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「基本的には、この村の人はみんなあったかいと思うよ。口うるさいこと言ってくる人もいるけど、最終的には自分が失敗しても、そいつを排除しようとかはならなくて。頑張れよって言ってくれる。人間として扱ってもらっている気がする」

「その人が器用だとか、不器用だとか、そういうことは関係なくて。足手まといになるかもしれないけど、ここでずっとやりたいという人なら、いくらでも面倒みると思う。重要なのは自分の覚悟だと思うよ」

覚悟。それはきっと、都会だからとか田舎だからというのは関係ないと思う。場所じゃなくて、自分がどうしていくか。自分はそんなふうに働けているかなと考えると、なんだかぐさりと私にも刺さる。

でも、こんなふうに言ってくれる大人、働きはじめてからはあんまりいなかったな。なにより田口さん自身が、自分で仕事を切り開いていった人だから、すごく説得力がある。

「今はさ、ご縁でラジオ番組の仕事をいただいたりして。やろうと思えばなんでもできると思うんだよ。どんな仕事も一生懸命やっていれば、誰かがそれを見ていてくれて、こいつにこんなことやらせてみてぇなって、チャンスをくれると思うから」

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「ちょっと話が逸れちゃってごめんね」と、笑う田口さん。いえいえ、都会だからとか田舎だからって、勝手に線引きしていた自分に気づきました。

子安さんがここで自分ごととして覚悟を持って働く理由も、なんだかわかったような気がした。

「じゃあ、最後は製材に話を戻すよ(笑) 製材ってね、丸いものを四角くする仕事だって最初に言ったけど。丸いものっていうのは自然物のことで、四角いものっていうのは人工物のこと。つまり自然と人間の間を取り持つのが、製材の仕事」

「その方法は、まだまだ手付かずの部分がたくさんある。たとえば木のおもちゃを介して人と自然をつなげるとか、そういうこともいいなと思うよ。木は日本で唯一自給自足できる資源だし、いろんな可能性がある気がするんだよね」

仕事を知るだけでなく、働き方についても考えるきっかけになりました。

明日は、大工さんに会いに行きます。

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製材所での仕事に興味をお持ちの方は、お気軽に東白川村役場産業振興課までご連絡ください。メールでのお問い合わせはこちらから。
507sanshin@vill.higashishirakawa.gifu.jp

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