しあわせな転職ってどんなものだろう?
答えは人それぞれで、きっと正解はありません。
コラム「しあわせな転職」では、日本仕事百貨の記事をきっかけに転職した人たちを紹介していきます。将来的には、コラムの一部をまとめた書籍も出版する予定です。
どんな想いで仕事を選んだのか、その後どんなふうに働いて、生きているのか。それぞれの選択を知ることで、自分にとっての「しあわせな転職」を考えるきっかけになればうれしいです。
カタカナ 平岡智子さん
「日本のカッコイイを集めたお土産屋さん」をコンセプトに、日本全国から集めたこだわりの雑貨や洋服を扱っているカタカナ。自由が丘に根を張り、地域の人たちに愛されてきたお店です。つくり手さんのもとを訪れ、実際に話を聞き、お客さんにものづくりや商品の魅力を伝えていく。商品選びの要であるバイヤーとして、全国を飛びまわっているのが、2020年に入社した平岡さんです。
ずっとものをつくることが好きだったんです。幼稚園のころからミシンを踏んで、手芸や縫いものをしたり、高校時代はクラブ活動で洋服をつくったり。ものをつくる環境が好きで大学で建築をはじめたら、周囲にいるのはものづくりやプロダクト好きというよりは建築が好きな人ばかりだったんですね。
自分は合わないのかなと思いながらも、興味のある分野を調べていくと、住宅作家と呼ばれる方たちと出会いました。住宅にガラス作家さんの作品を取り入れたり、木工作家さんの器を飾ったり、作家さんとすごく密な建築家がいることを知って。いろんな作家さんのことを、のめり込んで調べていくようになりました。
自分がほしいものを見つけることが好きだったし、友だちに「この作家さん好きだと思うよ」って紹介することも、ずっと趣味でやっていました。
日本仕事百貨は大学生の就活のときに知って。最初の仕事から数えて、今で4社目なんですけど、そのうち3つは日本仕事百貨から応募しているんです。
新卒で入ったのは、中川政七商店という会社です。自分が一番好きな瞬間はなんだろうって考えたときに、知らなかったものを見つけて、ワクワクする瞬間がすごく好きだなって。買いものが異常に好きなので、その瞬間に関われる仕事がしたいと思いました。店舗の内装の会社も見たけどなんか違って、やっぱり紹介して伝える仕事がしたいなと、販売の仕事を選びました。
アルバイトから入って6年近く働きました。だんだんステップアップしていくと、お店に立つ時間が少なくなって、最終的には本社勤務になったんです。やりがいはあったけれど、お店でものを伝えたくてこの仕事を選んだのになって思いもあって。
ものづくりをしている人たちともっと関わりたいと思ったころに、ものづくりをしている方にフォーカスしたnice things.っていう雑誌の出版社の求人記事を見つけて。そこが運営する店舗やイベント運営の仕事に転職しました。
展示の準備をしたり、雑誌の企画で詩人の方の家に泊まりにいったり、つくり手さんと一緒に奈良を旅したり。ものづくりをしている人との距離がすごく近くて、すごく楽しかったんですよね。でも出版社って、やっぱり伝える仕事が中心なので。こうすればもっとお客さんにものを届けられるのになって葛藤することもありました。
そんななか、雑誌が休刊するかもしれないという話が出たので、そのタイミングで転職することにして。3つ目の会社は、オンラインストアの会社でした。ただ、オンラインの仕事をしたときに、わたしってお客さんと対面で話してものを提案したいんだって気づいて。そのころにコロナがやってきて、よりそれがむずかしくなって、仕事も在宅で外にも出ず、どんどん苦しくなっていきました。このままじゃやっていけないかもしれないって、転職したばかりなのにまた転職を考えてしまって。
そのとき、出版社時代に関わっていた漆器の木地師さんが、「すごく素敵なお店が求人募集していますよ」って、日本仕事百貨のカタカナの記事を紹介していたのを見ました。この方が紹介しているなら間違いないなって思って。実はカタカナのお店に行ったこともあったので、話を聞いてみたいという気持ちが強くなりましたね。
友だちにもそのことを話したら、その子も「すごく好きなお店なんだよね」って言うんです。自分の好きな人たちが好きだって言うお店なら間違いないと思って面接を受けたら、代表の河野さんとすごく価値観がフィットして。バイヤーの仕事もずっとやってみたい気持ちがあったので、挑戦することにしました。
入社して、2年が経ちました。バイヤーと言っても、お店のお客さんや空気感を知ったうえでものを探していくので、お店に立つ時間はすごく長いです。なんか、押し売りなんじゃないかと思っちゃうくらい、お客さんと話しちゃいますね。クラフトフェアだったり陶器市だったり、これまで趣味で見てきた場所に仕事で訪れることができるのは、本当に幸せしかないですよ。それをまた人に紹介できるのもうれしいですよね。
これまでいろんなお店で働いたんですけど、カタカナは圧倒的にお客さんとの距離が近いです。カタカナの記事を初めて読んだときも、本当にこんなお店あるの?って思ったんですよ。
「今日の取材はここにしましょう」と誘ってくれたのは、お店の隣にあるガレージ。
ちょうど春らしくなってきたし、天気もいい。
お茶をいただきながら話をしていると、通りすがりの常連さんが、「こんにちは。あら、お茶タイム?」と河野さんたちに声をかけていく。
実際に入社したら、本当にその通りのお店で衝撃でした。「こんなおいしいものあったけど置いてみない?」ってお客さんが声をかけてくれたり、ファンクラブをつくってくれたり。お友だちではないけれど、お客さんっていう一般的な言葉じゃ合わないような関係性で、カタカナをすごく好いてくれている。そのなかで働けていることは幸せだなあと思います。
この前までお店で「しらゆき展」というイベントをやっていて、丸山聡子さんっていうアクセサリー作家さんに出展していただきました。初めてその方の作品を見つけたとき、ある常連さんの顔が思い浮かんだんですよ。絶対好きだろうなと思って、いつかご紹介したいなあとずっと胸にしまっていました。
ついに今回の展示でご紹介できることになったら、告知用のDMを見たお客さまのほうから、「この作家さん誰?」って尋ねてくださったんです。「ちょうど紹介したいと思っていたんです!」って盛り上がって、展示初日にすごく吟味して買ってくださって。仕事冥利に尽きますよね。
いつか自分でお店をやってみたいっていう気持ちがずっとあって。1回1回の転職で、そのために必要なことや足りないことを教えてもらっている感覚です。自分の成長の過程にたまたま転職があって、力をつけるきっかけになっているんだなと思います。
いつか、自分のお店を持てたら、ものをお渡ししたその先まで関わってみたいです。お嫁に行った子たちをどう使ってもらうか、みたいな。あなたの住まいならこう飾るときれいですよとか、そこまで踏み込んだ提案をしてみたい。空間づくりっていう、原点の建築の分野に戻っていきそうなのが、なんだか不思議ですね。
2023年1月16日 東京・自由が丘 ギャラリー katakana shinにて
聞き手 増田早紀