コラム

顔が見える仕事がしたい

しあわせな転職ってどんなものだろう?

答えは人それぞれで、きっと正解はありません。

コラム「しあわせな転職」では、日本仕事百貨の記事をきっかけに転職した人たちを紹介していきます。将来的には、コラムの一部をまとめた書籍も出版する予定です。 

どんな想いで仕事を選んだのか、その後どんなふうに働いて、生きているのか。それぞれの選択を知ることで、自分にとっての「しあわせな転職」を考えるきっかけになればうれしいです。

株式会社TOOLBOX 佐古加奈子さん

株式会社TOOLBOXは、洗面台やキッチン、フローリングや床材、ドアノブや照明まで。さまざまな建材や道具をオンラインストアやショールームで提案するほか、家づくりのヒントになるようなコンテンツもサイトで紹介しています。そんなTOOLBOXに2017年に入社したのが、佐古加奈子さんです。

小さいころから絵を描くのが好きで、大学は美大の油絵科に進みました。わたしの大学で油絵科にいる人って、卒業後は就職せずに、バイトをしながらアーティストを目指して活動する人がほとんどで。

ただ、わたしは進路を考えるようになったとき、自己表現はしたいけど、自分はその道を突き進めるのかなって。その気持ちに覚悟がつかなかったので、切り替えてまずはお金を稼ごうって思ったんです。

それでも絵の具には触れていたかったので、大学卒業後は特殊塗装の会社に入りました。テーマパークで木が朽ちていく様子を表現したり、鉄が錆びている様子を絵の具で表現したり。表現のための資料集めも、手を動かすのも好きだったんですけど、作業過程は誰にも見られることはなくて。だんだんと、誰のために働いているのか分からなくなっていきました。

これまでは絵の具を触る仕事ができればといいと思っていたけれど、自分のやったことが誰に届くのか、もう少し感じられる仕事がしたいなって。そんなふうに転職を考えていたとき、友達から日本仕事百貨を勧めてもらったんです。

「toolboxの商品がすごく好きなんですよ。好きなものに囲まれて仕事しているのが本当にうれしくて」

「ありすぎて迷うなぁ(笑)たとえばこれは、アメリカのコットン工場で使われていたファクトリーフローリングっていう床材で。意図的には表現できない傷とか、何の油だろうっていうのが染み込んでいたりして、大好きなんです」

『空間革命』より

スタッフの方が商品について楽しそうに話していて、気になってtoolboxのサイトを見てみました。そしたら、商品一つひとつのプロダクトストーリーが紹介されていて。こんなにも職人さんやつくり手さんの気持ちを伝えてくれる会社があるんだ!って驚いたし、わたしもここで働いてみたい!と思ったんです。

記事では、代表の荒川が「内装や空間に対する興味が、半端じゃない人に来てほしい。専門性が求められる仕事だから、ミーハーだと困るんです」みたいなことを話していて、わたしは大丈夫かな?って思いながら応募した思い出があります(笑)

入社したときは、今いる目白じゃなくて原宿のほうにオフィスがありました。オフィスのトイレに入ったとき、壁についていたトイレットペーパーホルダーがよくあるプラスチック製のものだったんです。

すごくもったいない!って思って。せっかく素敵なペーパーホルダーを取り扱ってるんだから、自分たちのオフィスでもそれをつけたらいいのになって。そこで、自分で取り替えることにしたんです。インパクトドリルを使ってビスで打てば変えられるでしょって感じで、交換しました。

そしたら数日後、ほかのスタッフの人に『ペーパホルダー変えたの、佐古ちゃん?下地ないところに取り付けてるから、ホルダーが取れかかってるよ』って言われて。

え、下地って何ですか?って、そこではじめて壁の構造を知りました(笑)。物を取り付けるときは下地がないといけないんだって。建築の知識はまったくないまま入社したので、最初は驚くことばかりでしたね。

今はショールームチームに所属していて、直接お客さんの案内をしつつ、週に一回、PRチームと一緒にインスタライブを企画したり、施工チームと一緒にリフォーム相談会の運営もしています。

お客さんからは商品の仕様以外のことも聞かれることがよくあって。たとえば、壁に木の板を貼りたいって相談をもらったとき、よくよく話を聞くとキッチンの壁に板を貼りたいって要望だったんです。

リビングや寝室なら問題ないけれど、火を使うキッチンの場合は慎重に素材を選ばないといけないので、商品の色味や大きさだけでなく、使う壁がどこなのかも確認する必要があって。施工方法や家づくりにまつわる幅広い知識が必要な仕事だなと思っています。

キッチンまわりは特に気をつけています。各商品の仕様に加えて、合わせる機器の対応範囲や設置方法も把握する必要があるので。

オーダーキッチン天板っていう、天板だけの商品があって。最近だと、サイズオーダーができる脚と組み合わせて、キッチンをつくりたいというご相談をいただきました。

もともとはグリル付きのコンロを組み込む予定だったんですね。いくつか事例を知っていたので、大丈夫だと思い込んで案内していたんですけど、後日お客さんから『入りませんでした・・・』って連絡が来て。

グリルを入れるためには、天板と脚を合わせた厚みが一定以上薄くないと入らないんです。そこまで知識が足りていなかったために気づくことができず、お客さんに案内してしまって。

そのお客さんとは、仲良くお話しさせてもらっていました。せっかく信頼して相談してもらったのに、入らないのはすごく悲しいじゃないですか。なので、新しく脚をつくり直して送って。

そしたら後日、『無事に入りました!これで理想のキッチンができあがります』って写真と一緒にメールをいただいたんです。

最初にぴったりの提案はできなかったけれど、それでも心を込めて対応すればお客さんに喜んでもらえる。お客さんから『できたよ!』と嬉しそうにご連絡いただいたときは、本当にあたたかい気持ちになりました。

ショールームに2回、3回と遊びに来てくれる方もいらっしゃいます。家づくりの最中ってとっても忙しいと思うし、いろんなショールームがあるなかで何度もtoolboxに来てくれるのは本当に嬉しいことです。だからこそ、何回来ても新しい発見があって、楽しいと思ってもらえるような場所にしようって強く思っています。

この会社に来て衝撃的なことがあって。「このあいだはありがとうございました」って、お菓子を渡してくれるお客さんがいるんです。しかも一人じゃないんですね。

それって、すごくないですか?言ってしまえば、商品についてただ説明をする・されるだけの関係から、私もお客さんの家づくりというプロジェクトに一緒に参加することができたんだなと実感するんです。

もちろんお菓子をいただくのが大事な訳じゃなくて、満足いく家づくりをシェアしに来てくれる、その関係性を大事にしたいなと。

そんなお客さんとの深い関係を築けるのも、toolboxの好きなところです。

2022年7月4日 東京・目白 toolboxショールームにて
聞き手 杉本丞

 


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