コラム

しごとをつくる合宿
– 北茨城編 –
前編 「海を活かす」

 
ある場所で生活することを考えたとき、「そこに仕事があるか否か」は大事なポイントです。

仕事がなければお金を稼げず、お金がなければ何も買えない。必要なものがないならDIYという考え方もあるし、お金に頼らないコミュニティをつくる取り組みもあるけれど、生活様式や価値観をガラッと変えることは難しい。

でも、そもそも仕事は、もとからそこに“ある”のではないと思います。環境や人に応えながら“つくる”もの。あるいは、誰から求められることもなく続けていたことが、ある時機に必要とされて“生まれる”もの。

それに最近では、二地域居住やworkとvacationを組み合わせたワーケーションという考え方も現れてきています。

もしも自分で「しごとをつくる」ことができたら、暮らしの選択肢はグッと広がるのかもしれません。

「しごとをつくる合宿」は、地域や企業の課題を見つけたり、資源を活かしたりして、自分の仕事をつくる3日間のワークショップ。

今回は−北茨城編−と題し、11/9〜11、11/23〜25の2回に渡って開催します。

2泊3日の行程では、2つのグループに分かれて活動。地域や企業の課題をインタビューしたり、フィールドワークを通じて活用できそうな資源を見出したり。現地で得た情報をもとに、自分たちならどんな仕事をつくるか、当事者の視点に立って考えをまとめていきます。

最終日には、地域の事業者さんや行政の方々に向けた発表の機会もあります。面白い提案ができれば、まさにその場で仕事が生まれるかもしれません。

合宿の内容は両日程とも同じですので、どちらか予定の合うほうへどうぞ。もちろん、両方に参加していただくことも可能です。

 
舞台となるのは、茨城県北茨城市。

福島県との県境に位置する、人口およそ4万3千人のまちです。

沿岸部には2つの漁港があり、底引き網漁で獲れるアンコウが有名。海から山までの距離が近く、山菜や米など山の幸も豊富です。

明治時代の思想家である岡倉天心が移り住み、日本の伝統美術の価値を発信し続けた土地でもあります。

そんな歴史もあり、市では芸術を通じたまちづくりに注力。地域おこし協力隊主催の桃源郷芸術祭や、廃校となった小学校を改装したものづくり拠点「期待場」の運営、さらには地元の粘土を使った天心焼の普及にも取り組んでいます。

今回、ワークショップに先立って現地の視察に行ってきました。

北茨城市はいったいどんな場所で、どのような人たちが待っているのか。

まずはこの記事を通じて知ってもらえたらと思います。

東京から北茨城市へ向かうには、特急のひたち号に乗るのが一番早い。乗り継ぎのない時間帯なら、2時間弱で市内の磯原駅に到着する。

現地での移動はレンタカーを利用。最寄りの営業所は、お隣の高萩市にある。

磯原駅前から南北に延びる国道6号線を北上していくと、左手の高台に工業団地、右手には太平洋が広がる。

内陸は次第に山や田んぼの風景に変わっていく一方で、海岸線はしばらく平坦な状態が続く。海が一望できて気持ちいい。

そのまま15分ほど車を走らせると、2つある漁港のうちのひとつ、大津港が見えてきた。

このあたりでは5年に一度、「御船祭」というお祭りが開かれる。10トンの船を300人ほどの曳き手で引っ張り、まちなかを1200mほど疾走。期間中は観光客だけでなく、転勤などで遠くにいる地元の人たちも帰ってきて、ものすごい盛り上がりを見せるそう。次回開催は来年のゴールデンウィーク。これも「しごとをつくる」ひとつのきっかけになるかもしれない。

そんなことを考えながら、さらに北上。もう片方の漁港、平潟港からほど近い「まるみつ旅館」に到着した。

ここで話を聞いたのが、3代目の武士(たけし)能久さん。

「うちはこのあたりで魚の卸からはじまって。7、8月は底引き網漁船が出ないので、あんこうが獲れない。夏場の収入減の対策として、宿泊業をスタートしたんです」

海水浴客や学生の合宿需要に応える民宿としてはじまった、まるみつ旅館。

やがて1990年前後の鍋ブームに乗り、あんこう鍋が有名に。2011年の震災以降は海水浴客が減ってしまったこともあって、あんこう料理を目玉にした“あんこうの宿”として経営してきた。

「夜中に漁船が出て、お昼前には港で競りがはじまります。東京の築地で競りにかかるのは翌朝なので、半日以上早く手に入る」

「揚がったばかりのあんこうを自分の目で見ているからこそ、生の刺身でもお出しできるんです」

とはいえ、禁漁期間の7、8月に集客が難しい状況は変わらない。

そこで2015年からは、宿の目の前に「あんこう研究所」を設立。伝統的なあんこうの食べ方や吊るし切りと呼ばれる捌き方を伝え残しつつ、あんこうバーガーやあん肝ラーメンなど、新しいあんこうの食べ方を発信するための拠点としている。

また、昨年京都で開かれた鍋−1グランプリでは、1200食のあんこう鍋が完売、グランプリを獲得した。

テレビやメディアの取材依頼があれば、積極的にその魅力を発信しているという。

「今はとらふぐの養殖もしていて。『東のあんこう西のふぐ』と言われるような東西の名物ですから、たとえばふぐの白子とあん肝を組み合わせて豪華な料理ができないかな、と考えています」

宿の近くにある養殖場を訪ねると、2つの大きな水槽の中で、たくさんのふぐが泳いでいる。

ちょうど餌やりの時間。武士さんが水槽に向かって餌を撒いた途端に、水面から激しい水しぶきが飛んできた。

今は宿のスタッフが兼任でここの管理もしている。

「1日4回餌をやったり、濾過槽を掃除したり。肉体的な負担はあまりないので、たとえば働ける時間の限られた女性の方でもできる作業だと思います」

「もしかしたら、これが持続可能な漁業のひとつのあり方にならないかな、とも考えていて。これからふぐ以外の魚種を増やしていくことも検討しているので、そういったことを一緒に考えて進めてくれる方がいたらうれしいですね」

第一次産業の担い手不足や天然の漁獲減は、全国各地さまざまな地域で進行している課題のひとつだと思う。そんな課題解決のモデルケースとして、武士さんとともにこの取り組みを打ち出していくこともできるかもしれない。

ほかにも、使われなくなった体育館を改装した「てんごころ」というお菓子処を経営したり、「天心焼研究会」を立ち上げて陶芸の普及に携わったり。とにかく、いろんなアイデアを形にしている武士さん。

なぜそこまでして、新しい取り組みを打ち出し続けるのでしょうか。

「ここで育ってきたので、やっぱり地元に根付いたものを大切にしたいんです」

「地元のお母さんたちのレシピとか、漁師料理とか、年配の方から引き継がれずに消えていくのがいやで。だから今度は、そういうレシピを引っ張り上げて総菜屋をやろうか、とかね。全部、根っこはそういう発想です」

今回のしごとをつくる合宿では、2日目にまるみつ旅館に宿泊予定。

あんこう鍋をいただきつつ、いろんなお話をして、夜はあんこうを使ったコラーゲン風呂へ。三輪自動車“DEAI”に乗って、小道を抜け、近くの浜まで行ってもいい。

ふとした瞬間に「しごと」のアイデアは生まれるのかもしれない。

 
まるみつ旅館をあとにし、「食彩 太信」へ。

この食事処を切り盛りしているのが、代表の前田賢一さん。

「まるみつさんの社長は同級生で。自分で考えてどんどん実行していくから、すげえなと思って見てます。そういう仲間がもっと集まればいいなって」

そんな前田さんも、アイデアを形にしている人。

たとえば、あんこうとカツ丼を組み合わせたあんこ〜る丼という商品。

以前、市役所の食堂の運営を太信で任されていたことがきっかけで、市長直々に新商品開発を依頼され、考案したものだそう。

自家製の甘辛つゆで煮込んだあんこうの上に、卵黄を乗せていただく。

これがB級グルメとして、市内で少しずつ浸透しはじめている。

また、あんこうやたこを冷凍して薄くスライスし、真空フライ製法でチップにした商品も開発。今は試験用の機械を使っているため、より大型のものを導入し、本格的に製造していく予定だそう。

「東京からこっちに帰ってきたんです。東京での生活は大変でしたけど、刺激もあって楽しかった」

「でもいざ帰ってきて、2クラスあった小学校のクラスが1つになり、隣町の小中学校は合併。小学生と中学生の子どもがいるので、やっぱり思うところはあります」

幸い、このまちには祭りや行事がある。普段は離れたところにいても、御船祭のときには同級生で準備の段階から集まったり、近い年代の人たちを40人集めて盆踊り保存会を立ち上げたり。

地域をつなぐ祭りや行事を、前田さんはもっと面白くしたいと考えている。

「芸術家さんとコラボしたら面白いんじゃないか、と思っていて。たとえば、御船祭の参加者は同級生とか会社のくくりごとに『会』を組織して、会ごとにダボシャツを自分たちでデザインするんです。そこに入ってきてもらうとか」

「あとは、震災で空き地になってしまった沿岸部に作品を置いてみたり、商店街の閉まったシャッターに絵を描いたり。あれがあります、これがありますという大きなスポットじゃなく、いろんなものが点在していて、歩いていて楽しいまちにできたらなと思って」

前田さん自身、観光で来たお客さんや知り合いから「北茨城で見るところある?」と聞かれたときに、岡倉天心ゆかりの六角堂や美術館などのスポットしか紹介できなかったことがあったそう。

たしかにそれはひとつの特色だけれど、もっといろんな楽しみ方を提案したいし、まだまだ紹介しきれていないよさがここにはある。

「港で魚がピチピチ跳ねてるところとか、買い付けの威勢のいい声とか。知ってほしい風景はいっぱいあるんです。とはいえ、ただホームページをつくってもなかなか広がらないから。SNSとか、あらゆるメディアを使って発信できるインフルエンサーのような人がいてくれたらいいな」

海と山の距離が近く、多様な景観が折り重なる北茨城。「なんでもあるから、際立ってこれ!というものがない」という声も聞いた。

仕事をつくるには、ないものを補うという考えと、あるものに光を当てる、という考えの両方がある。北茨城の場合、後者の可能性がいろんなところに転がっているような気もする。

後編では、もう少し山側のほうにも足をのばしてみます。

(2018/7/26,27 取材 中川晃輔)

 
開催日
第1回:11/9(金)~11/11(日)
第2回:11/23(金)~11/25(日)
※どちらもツアー内容は同じです。お好きな日にちを選んでご参加ください。もちろん、両日程参加いただくことも可能です。
※12〜1月に、東京で報告会を兼ねたしごとバーの開催も予定しています。

目的地
茨城県北茨城市

申込〆切
2018/9/30(日)

参加費
無料
現地までの交通費、宿泊費は各自ご予約・ご精算となります。

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