「仕事百貨で働きはじめた人は、その後どうしているんですか?」リトルトーキョーもはじまり、サイトを見る人から直接声を聞く機会が増えてきました。
仕事百貨では、仕事のよいところだけでなく、大変なところもありのままに伝えるように心がけています。
というのも、よい出会いを経て企業や地域と働く人が、ともに次の段階を進んでいける。そう思っているから。
今回は、コラム「その後、どうですか?」の第2回目です。
2回目は、株式会社スペースポートで働く関根茉帆さんです。
関根さんは群馬県高崎市生まれ。上京して大学でデザインを学び、ウェブ制作会社に就職。2012年からはスペースポートで働きはじめ、プロジェクトのディレクションを担当しています。
どのようにしてスペースポートと出会い、いまどんなことを考えているのか。
東京・渋谷にあるスペースポートの事務所で話を聞きました。
(聞き手:ナカムラケンタ)
2013年一番星ビレッジにて開催した「宙のがっこう」
―はじめに、スペースポートに出会うまでの話を聞かせてください。
もともと絵やイラストを描くことが好きなんです。将来はデザイン・芸術分野の仕事に就きたいと思って、大学では芸術理論を専攻しました。4年生の春には、デザインの技術をしっかり身につけようと思って、専門学校にも通いはじめて。
いざ就職活動をはじめたのが、タイミングとしては遅い4年生の秋。まわりの友達は内定をもらっていて、親にも心配されました。ただ制作の仕事をしたかったので、限られた募集の中でも面接に行って。運よく決まったのが、医療機関専門のウェブ制作会社でした。
デザイナー志望でしたけど人は足りていたので、ディレクターをやってみないかと声がかかって。
―そのときからディレクションを。
そうなんです。それまでPCに向かって作業することばかりでディレクションについては学んだことがなくて。何度も失敗しながら、スケジュール管理のやり方などを教わりました。
医療専門なのでお医者さんが相手で。専門用語がたくさんあるし、人の健康や命を扱うところなので、言葉にはいっそう気をつけなくちゃいけない。気を配りながらコミュニケーションすることを、そこで教えてもらった気がします。
―そこには、どのくらいいたんですか?
約2年間ですね。学ぶことの多い職場ではあったのですが、自分の働き方に疑問を持ちはじめるようになって。そのきっかけが2011年の東日本大震災なんです。
―金曜日の午後でしたね。すごく揺れて。
大変でしたよね。電車も止まって、物資不足も続いて。それでも数日後には、みんなが普通に出勤できるまでの日常に戻っていました。
いつもと同じ時間に、出社して仕事をして帰宅する。ニュースで流れる被災地の状況と目の前の現実とのギャップに、ものすごく違和感を感じて。
個人でもできることがあるだろうと、寄付を募集している団体を調べて、そこでスペースポートが運営するThink the Earthを知ったんです。
―最初はどんな印象でした?
いろいろ調べてみると、団体によって活動分野がさまざまなので、どこにお金を預ければいいのかわからなかったんです。そんな中、Think the Earthでは復興のフェーズとか被災地のニーズに応じて寄付先の団体を選定していて、その収支も全て公開している。安心できたんですね。
以前は、社会貢献は「難しそう」とか「中身が見えにくい」といったイメージを持っていました。でもThink the Earthのプロジェクトを見ると、全然そんなことを感じさせない新しさがあったんです。
それから気になりはじめて、セミナーやイベントに足を運ぶうちに、自分にできることがあればお手伝いしたいと思うようになって。そんなときに日本仕事百貨の記事に出会いました。
記事に書いてあることが、まさに「こういう仕事があったらいいのに」って、人に話していたことだったんですよ。
―どんなことを話していたんですか?
技術やデザインって、本来使われるべきところに使われていないものも多いように感じていたんです。面白いものやサービスが溢れているけど、もっと世の中に役立てるようなところに力をつかっていけたらいいのになって。そのなかで、環境に配慮したものや社会課題解決に取り組める企画を出したいなと思っていました。
スペースポートは書籍やウェブサイトなどいろんなコンテンツをつくっていて、どれも環境や社会といったテーマに結びつけた事業なんです。やりたいと思っていたことと合っていたんですね。
それと、ただ与えられることをやるのではなくて、自分たちでつくり出すこともしている、と記事で知って。こんな会社があったんだ!と衝撃を受けました。
―それで応募を。はじめての出社日はどうでした?
緊張で心臓がバクバクでした。しかも当日はみんな仕事で外に出ていて、誰にも顔合わせできないまま初日がスタートしました(笑)
―不安になりますね(笑)。
いまはアシスタントディレクターとして働かせてもらっています。はじめは、まず仕事のスタイルにビックリしたんですよ。
前の会社とは違って、社内にクリエイターが在籍していないんです。案件ごとに、お付き合いのあるデザイナーやプログラマーとチームをつくって仕事を進めていく。その形が新鮮だなって。
毎年開催しているアースデイパーティ。日頃お世話になっている企業やクリエイター、NPOの方々を招く。
―はじめは慣れなかったですか?
はじめは戸惑いこともありましたけど、いまはこのやり方がわたしに合っているなと思います。
自分たちで制作も全部できれば早いかもしれないけど、そうするとどうしてもデザインや表現できる内容に偏りができてしまうのかなと思っていて。そうせずに、クライアントの要望に合わせてアウトプットを変さえていく。そこにオリジナリティがあると思っています。
―会社の人たちはどうでしたか?
一人ひとりバックボーンが違うんです。人材派遣の会社にいた人もいれば、建築を勉強していた人もいる。
それぞれが別の視点を持っているので、同じテーマで話していても『そんな考えがあったのか』とか『それなら俺詳しいよ』って教えてもらったりして。そんな会話ができるのは面白いと思いました。
―ここでは自分の言葉で話して、ちゃんと理解もしてくれる。
根っこにあるものが一緒だからなんですかね。社会をよくしたいっていうことが共通の想いとしてある。
もちろんぶつかることもあるんですけど、議論を重ねるうちに全く想像できなかったようないいものができたりするんです。そこは少人数のチームならではのことなのかな。
アースデイ2014で開催したワークショップ
―大変なことはありますか?
うちは研修が一切なく、仕事を通して覚えていくスタイルなんですよ。上司にフォローしてもらいながらも、基本的には担当者ベースで仕事を進めています。
―わからなければ聞くしかない。
入社して間もないときに大きな案件を任されて。ウェブとは違うコンテンツだったのですが、前職のやり方を当てはめて失敗したこともあります。
社内の人間に1度確認すること、提案してみることが大事なんだなと気づきました。
イベント運営をお手伝いさせていただくこともあれば、アプリ開発の企画に携わることもあります。プロジェクトに関わるたびにはじめて学ぶことが多いので、いまでも変わらずに苦労していることでもあるし、やりがいを感じるところでもありますね。
―大変なこととやりがいって紙一重ですよね。いまはどんなディレクションをしているんですか?
「AQUA SOCIAL FES!!」という、トヨタマーケティングジャパンさんの“水”をテーマにした参加型の社会貢献プログラムに、2013年から関わらせていただいています。
この仕事では、東京・神奈川を流れる鶴見川流域と宮城・岩手を流れる北上川流域の企画全体に関わって、企業とNPOの橋渡し役としてコーディネーターを務めています。
―もう慣れました?
いまでも難しいなと感じますね。言葉ひとつとっても「事務的にならないように」とか「こんな言い方だったら私たちのいる意味がないでしょう」って教わりながらやっています。
―相手の目線で考える。頭でわかっていても、なかなかできないものですよね。
―これからはどうなっていくんでしょうね。
やりたいことがいくつかあります。ひとつは地元に恩返しをしたいな。
―恩返しを。高崎出身でしたよね。
そうです、18歳に上京しました。高崎の魅力やよさを意識することなく、むしろ東京の刺激的な環境に行きたいってずっと思っていて。
でも、仕事でたまに地方へ行ったりすると、いいなって。
―変わったんですね。
東京にいるときは、楽しいけどスルっと抜けていってしまう楽しさがあるというか。
海や山の自然、おいしい郷土料理、あたたかい人情。そんな、ほっとする安心感のあるものに触れるうちに、その地方にしかないものに関心を持つようになったんです。
そのうちに自分の生まれ故郷を好きになって、これまでより頻繁に帰省するようになりました。
けれども、そのたびに昔から通っていたお店がなくなったり、駅前の商店街がすこし寂しくなっていて。
自分になにかできることはないかなと。いまはここでの仕事があるので、東京にいながら自分の故郷や地方に還元できることをしていきたいなと考えています。
―いまの仕事を通して、いろんな目線をもって経験を積んで、できることがどんどん増えていくんでしょうね。
「東京を盛り上げよう」だけではなく「地方も頑張っていこう」。それで日本全体を元気にしていこうっていう動きがいいなと思っています。そんなことも含めて、地元への恩返しを考えています。
―ありがとうございました。またお話伺いたいです。
(2014/06/19)
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