コラム

豚汁に泣く

これはしごとゼミ「オンライン仕事百貨の編集ゼミ」に参加された、渡部美帆さんによる卒業制作コラムになります。

渡部さんがオンライン上でインタビューしたのは、同じく参加者の八名彩香さん。「好きな食べ物」というテーマで話してもらいました。

「わたし、豚汁が好きなんですよ。ちっちゃい頃から食べてた家の豚汁が大好きで」

具は、豚肉、大根、人参、椎茸、ごぼう、サツマイモ。

「あと、白ネギを大量に入れて。母曰く、ねぎが溶けるぐらいまで煮込むと、味が変わってくるらしく。それがみそって聞いてます」

大人になって、自分でもつくるようになったものの、やっぱりおふくろの味には敵わない。

「親がつくってくれる豚汁が一番。でもお店で食べた豚汁に泣いてしまったことがあって」

前の仕事を辞めるときに、ずっと一緒にチームを組んでいた先輩から連絡がきた。

「おいしいご飯に連れてってあげようって」

中目黒駅で待ち合わせして、雑居ビルが立ち並ぶ坂道を下る。

道沿いのビルに入ると、小さな飲食店が多く並んでいた。10軒ほど通りすぎ、奥まったお店に入る。

おいしい料理とお酒を楽しむ。会も終わりに近づいたころ、ふいに目の前に何かが置かれた。

「先輩が豚汁が好きな子だから豚汁を出してあげてほしいって、事前に言ってくれてたらしくって。メニューにないのに、シメに超絶美味しい豚汁が出てきて」

「あったかかったし、美味しかったし、先輩の気遣いに感動して。酔ったのもあって、めっちゃ号泣しながら、豚汁を飲みました」

具や味付けは、ほとんど覚えていない。でも、涙でかすんだその豚汁は光っているように見えた。

「おいしかったなー。わたし、豚汁を外で食べることがないですけど、あれはもう一回食べたいですね」

(聞き手・書き手:渡部美帆、話し手:八名彩香)

仕事百貨の編集ゼミは、伝えるよりも伝わることを大切にしながら文章を書いていくためのゼミです。オンラインで開催しているので、どこからでも受講することができます。

次回は「文章で生きるゼミ」として、年明けの1月からオンラインで開催します。申し込みは2021年12月20日(月)まで。興味のある方は、こちらから詳細をご覧ください。