コラム

つくりたいなら
さばえに集え

作る、造る、創る。

同じものづくりでも、つくり方や考え方はそれぞれ。

今回、日本仕事百貨では、日本屈指のものづくりのまち、福井県鯖江市(「鯖」は正しくは「魚」偏に「靑」)を取材しました。

眼鏡、繊維、漆器など、隣接市町を含む半径10km圏内に7つの産業が密集する鯖江。

ここで、支え手として働いている行政のみなさん。縁もゆかりもないこの土地に、ポンっと軽やかにやってきた人たちに話を聞きました。

取材を通して感じたのは、ものづくりにかかわる人だけではなく、地元の人も移住してきた人も、各々が好きにつくって生きていること。

いろんな「つくる」で築かれているまち。働き方も生き方も、ここならオリジナルのスタイルをつくっていける。そんな予感がします。

まずは、鯖江とはどんなまちなのか、鯖江市役所へ話を聞きに行きました。

「つくる」という言葉にピンときた人は、ぜひ読んでほしいです。

 

東京から北陸新幹線で福井駅まで約3時間。金沢駅から福井駅までは日本海が見える。

駅からは車で北へ進み25分。だんだんと田園風景が広がって、ときおり眼鏡の看板と遭遇する。

向かったのは鯖江市役所。

鯖江市への移住・定住の推進やプロモーションを企画しているのが総合政策課。配属1年目の葛野さん(写真右)と5年目の太田さん(写真左)に話を聞く。

さっぱりとした笑顔が印象的なお二人。

葛野さん:
「鯖江は、眼鏡、漆器、繊維の三大地場産業を中心にしたものづくりのまち。鯖江市、越前市、越前町が一体となって、なかでも眼鏡にフォーカスしてまちづくりをおこなっています」

「眼鏡のシェアは、イタリア、中国と並び、世界3大産地のひとつ。鯖江の眼鏡は国内の国産メガネのシェア9割を占めていて、県内で6人に1人が眼鏡に関する仕事をしているんです」

鯖江といえば眼鏡。そのイメージも今では一般的に広まってきた。ただ、鯖江をつくり上げているのは、それだけではない。

太田さん:
「1995年に世界体操の競技選手権大会が鯖江で開催されたとき、地元住民を中心に3万人のボランティアが有志で関わったんです。市民たちが、まちも、仕事も、住む場所もつくろうって、どんどん自分たちで動く人が多い。そこが鯖江の魅力のひとつだと思っています」

「市民主役」のまちとして条例が制定されたり、「SDGsさばえ宣言」を出してモデル自治体として全国から選ばれたり。「河和田アートキャンプ」や「鯖江市役所JK課プロジェクト」など、学生が加わってまちづくりに取り組んでいる。

「鯖江市としていろんな施策をおこなってきたけれど、全部分散している状態でした。そのなかに共通していることがあるんじゃないか。それが、鯖江に暮らす人の根底にあるんじゃないかと考えて、鯖江でまちづくりをしている方々とブランディングチームを立ち上げたんです」

たとえば、眼鏡づくりをきっかけに、鯖江眼鏡のよさを伝えるイベントを開催。運営する人もいれば、興味を持った人が遠くから来てくれることで、まちは賑やかになる。

新たに来てくれた人も、関係人口となることで新たなことが、このまちで生まれていく。

もの、ひと、こと、まち、支え手。なんでもつくってきたことで、鯖江は築かれてきた。

そこで生まれた言葉が「つくる、さばえ」。

なんでもつくる、自分たちでつくる。そんな雰囲気がまちにはできつつある。

ただ、興味はあっても実際に移住するとなると、引越しや仕事探しなど、考えることや不安なこともたくさん出てくる。

鯖江市役所の職員は、つくる人たちを支える存在。移住するとどんなサポートがあるのだろうか。

葛野さん:
「大袈裟かもしれないけれど、鯖江市としても、そこで働く職員としても。ここまで全力で取り組んでいるのは、福井県内でもほかにないんじゃないかって感じるくらい。それほど気持ちも、支援も手厚いです」

移住に関する支援だけでも20以上の取り組みがある。

たとえば支援金として、東京圏からであれば、単身の場合は60万円。世帯で移住した場合、子ども一人につき100万円プラス移住支援金として100万円が支給される。

まずは鯖江を知るきっかけとして、「めがねフェス」や「SDGsフェス」、「さばえ門前まつり」、オープンファクトリーイベントの「RENEW」など、入り口もたくさんある。

イベントに参加する人の半数は、県外から来る人なんだそう。移住前に関われる機会も多く、つくり手や地元の人と直接話すことでつながりもできる。

太田さん:
「鯖江は人が人を呼ぶまちだと思っていて。結局、行政がこんな政策をしますと言って人が来る、というより、キーパーソンになる人たちが、外の人たちを呼んでくるみたいな。それが鯖江らしいのかなと思います」

「僕自身、まちづくりのプログラムに、いち市役所職員として関わりながら、気持ちとしてはチームの一員として携わっている感覚があって。最近は公務員の壁をとっぱらった気持ちでいるんです」

地元の女子高生や職人さん、鯖江に移住した人など。さまざまな人が「つくるマインド」を持っているから、自分にも何かつくれるかもしれないと、自然に外から人が集まってくる。

「たとえばウェブデザインが得意だから、職人さんのいい商品を外の人へ知ってもらえるように協力しようとか。自分のスキルと誰かのスキルを掛け合わせて新しいものが生れていく。そんな場所だと思います」

葛野さん:
「一生懸命に現場で動いているたちが、鯖江にはたくさんいて。サポートする我々も中途半端じゃだめだよなって感じるんです」

「ただ、熱い気持ちで意識高くきてねってわけでもなくて。まずは楽しく鯖江に関わってらえたらうれしいですね」

(2024/07/24 取材 大津恵理子 荻谷有花)


鯖江に移り住む人たちに話を聞いたコラムを掲載しています。

9月12日(木)には、鯖江市役所 葛野さん、株式会社乾レンズ 諸井さんをゲストにリトルトーキョーでしごとバーを開催します。鯖江の話、ものづくりの話、メガネ特にレンズの話など、てんこ盛りの予感。

実際に会って、話ができる機会です。ぜひメガネをかけてお越しください。

>>詳細はこちら


鯖江の地域やものづくりに触れられるイベントを開催します。まずは訪ねてみてください。

めがねフェス ( 24.9.21-22) ※外部サイトに移動します
RENEW ( 24.11.1-3) ※外部サイトに移動します