何万種類とある眼鏡のフレーム。
試して試して。あ、これだ! としっくりくる商品が見つかる。
それは、仕事も同じかもしれません。
眼鏡も、仕事も。きっと出会っていないだけで、自分にフィットするものはどこかにあるはず。大好きなものや長年の趣味が、自分に合う仕事を探すひとつの手掛かりになると思います。
今回は、ものづくりで栄えてきた福井県鯖江市(「鯖」は正しくは「魚」偏に「靑」)に、眼鏡が好きすぎて移住してきた人に話を聞きました。
向かったのは、鯖江市の東に位置する河和田(かわだ)地区にある谷口眼鏡(がんきょう)。
創業67年になる谷口眼鏡は、眼鏡フレームの企画製造をおこなっている会社。日本人の顔に合わせたアジアンフィット設計のフレームが特徴で、一つひとつ職人の手で丁寧につくられている。
最近は移住して働く若い世代も多いのだとか。
ここで地元の兵庫から移住して、谷口眼鏡で営業を担当しているのが永山さん。
「僕が鯖江に移住したのは、簡単に言っちゃえば眼鏡が好きだからです」
そう笑顔で話す永山さん。移住する前までは、神戸の広告代理店で営業を担当。転職を考え始めたのは、20代が終わる節目のタイミング。
「仕事はそれなりに楽しかったし、辞めたいとは思ってなかったんです。ただ当時、20代最後の年で、ベタですけど一度立ち止まりたかった。次にチャレンジするなら何かなって考えて、思い浮かんだのが、眼鏡に関わる仕事をやってみたいということでした」
日本製のフレームは、約95%が鯖江でつくられている。また世界的にみても鯖江の眼鏡は品質が高く、世界中で愛用する人が多い。
それは部品の取り付けから研磨まで、一つひとつ手作業で行う工程が多く、仮にフレームの一部が傷ついたり曲がったりしても手直しが効くから。
機械で出せない味わいもクオリティもある、鯖江の眼鏡。
ファッションアイテムとして毎日掛け替えるほど眼鏡好きだった永山さん。その気持ちが挑戦の力になっていく。
「眼鏡の産地といえば鯖江、という認識はしていました。ただ、当時の鯖江は今よりもものづくりのまちだと全国的に浸透していなくて。自分の営業のスキルを活かして広げることができるかもしれないと思って仕事を探し始めました」
週末に鯖江へ通ったり、気になる会社に電話して話を聞いたりしながら2ヶ月ほど経ったころ、「めがねフェス」というイベントに参加。
その際に関西から移住していた方と知り合った。鯖江で起業していて、人脈も広く相談相手となってくれたそう。
ほどなくして、現在働いている谷口眼鏡を紹介してもらうことに。求めている人材と自分がやりたい仕事内容が一致し、入社が決まった。
「職人さんがつくったものを伝える仕事をしたいって、鯖江に来るたびにバンバン言っていました」
「そうしたら、『あの人会いに行ったら?』とか『あそこ行ったらいいよ』って紹介してもらえて。面と向かって挨拶して、話して。移住前でも面識がありSNSでつながった人が100人ぐらいいましたね(笑)」
地元にいたときよりも、友だちや知り合いが増えたこともあり、精神的にも落ち着いて移住できたという。
「インターネット上で見ていた情報と、人から直接聞いた話とでは、後者のほうが情報の質が圧倒的に良かったです。あとは、口に出すことも大切だったなと思います」
「当時、僕みたいに直接会社に電話してアポイントを取っていた人ってあまりいなかったみたいなんですけど(笑)。好きなことをやれるんだったら、電話したらいいし、会いに行ってもいい。やったもん勝ちだと思いますよ」
鯖江のまちで働く人たちは、鯖江だから実現できることを求めて移住して来た人も多い。
「一緒に働いているのは、もともとパン屋さんとか、アパレルショップの店長とかバラバラ。移住してきた人も多いので、会社の受け入れ体制も整っています。年々移住者が増えているので、まち全体で受け入れのハードルは下がっているんじゃないかな」
移住者のなかには、漠然とものづくりに興味があったけれど、鯖江に足を運ぶうちに自分に合う会社が見つかり、就職する人もいるのだとか。
「ものづくりといっても鯖江は、眼鏡、和紙、刃物とかたくさんあって、いい意味でミニマムに集約されている。興味がある人にとっては情報を集めやすい土地なのかなと思います」
「あとは、眼鏡づくりでさえ、パーツをつくる職人さんもいれば、僕みたいに職人さんの技術や商品を伝えるサポート的な仕事もある。いろんな形で働くことができますよ」
好きなことを仕事にすると、きらいになってしまうこともある。
そう言われることもあるけれど、眼鏡に携わる仕事をしていても、眼鏡が好きな気持ちは変わらない。
「眼鏡って、人に与える印象を一瞬で変えられるすごいアイテムだと思っていて」と、永山さん。
「着ている服は一緒でも、丸かったり細めだったりフレームが違うだけで、印象が変わるんです。そのうえ、顔の形、目の奥行き、鼻の高さとか個人で違う。肌に直接触れるものなので、やっぱり自分でたしかめながら、見つけていくほうがしっくりきやすいんです」
「眼鏡が似合わない人って、実はいないんですよね」
眼鏡と同じで、仕事だって。フィットしない仕事ってないのかもしれない。
ものづくりが好き。手仕事が好き。鯖江が好き。
好きな気持ちが一番の原動力になってくれるはず。
鯖江でならやりたいことが実現できるかもしれない。そう感じたら、まずは話をしに行ってみてください。
(2024/07/24 取材 大津恵理子 荻谷有花)
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9月12日(木)には、鯖江市役所 葛野さん、株式会社乾レンズ 諸井さんをゲストにリトルトーキョーでしごとバーを開催します。鯖江の話、ものづくりの話、メガネ特にレンズの話など、てんこ盛りの予感。
実際に会って、話ができる機会です。ぜひメガネをかけてお越しください。
鯖江の地域やものづくりに触れられるイベントを開催します。まずは訪ねてみてください。
◎めがねフェス ( 24.9.21-22) ※外部サイトに移動します
◎RENEW ( 24.11.1-3) ※外部サイトに移動します