コラム

来ても来なくてもいい
でも来たら楽しいまちに
移住してみたひと

心機一転したいとき、何かにチャレンジしてみたいとき。

新たな一歩を踏み出すとき。そこに、誰かの背中が見えると安心する。

あの人もこの人も、面白く働き、生きている。そんな人が住むまちだったら、自分でもできそうな気がする。

福井県鯖江市(「鯖」は正しくは「魚」偏に「靑」)には、そんな余白があるように感じます。

今回は、東京から軽やかに移住してみた人に話を聞きました。

 

向かったのは福井県・鯖江市にある河和田(かわだ)地区。鯖江のなかでも漆器の工房が並ぶエリアだ。

「地域の特産品って、どんな背景でつくられたのか、実は知られていないことも多いと思うんです。そんなとき、移住者だから当たり前にあるものにも興味を持つし、外からの目線で伝えられることもたくさんあって」

「それってとても力のあることだと思っていて。その一助に私もなってみたかったんです」

そう話すのは、1年半前に東京から鯖江に移住してきた平田さん。河和田コミュニティセンターで話を聞く。

現在は、「一般社団法人SOE」という「産業観光を通じて、持続可能な産地をつくる」をコンセプトにしたまちづくり法人に勤務。RENEWというイベントの事務局長を担当している。

RENEWは、越前漆器・越前和紙・越前打刃物・越前箪笥・越前焼・眼鏡・繊維の7産地の工房、企業を一斉開放するオープンファクトリーイベント。一般の人が見学やワークショップを体験できる。

普段立ち入れない工房での体験を通じて、つくり手の想いや背景を知り、商品を購入できることが魅力。

大学でインテリアや空間のデザインを学んだことをきっかけに、ものづくりやまちづくりに興味を持った平田さん。大学院で地域創生を学んでいたころ、RENEWを知り鯖江を訪れていた。

平田さんが訪れたのは2023年。越前和紙の工房見学に行ったそう。

「1歩工房に入ったときの匂いとか、音とか、雰囲気が自分の知らない世界に入ったようで、なんか尊い感じがしたんです」

「あ、これだって」

地域で生まれる産品を地域で伝えていく。やりたことがまさにそこにあった。

「鯖江の人は、『ようこそ、ものづくりのまちへ』って自信を持って言ってくれるんです。それも素敵だと思いました」

大学院を卒業後、すぐに就職せず、自分に合う土地と仕事がある場所を探そうと考えていた平田さん。はじめに移住先として思いついたのが鯖江だった。

観光としてではなく、移住先としてあらためて訪れた鯖江ではこう感じたという。

「移住者に対して、過度な期待をしてくれないんです。『来ても来なくてもどっちでもいいけど、来たら楽しいよ』みたいな。移住者をフラットに受け入れてくれる土壌があると感じました」

「地域によっては、『こんなところによく来たね』って、おもてなしをしてくれる場所もある。気持ちとしてはもちろんうれしいことだけど、私には逆に窮屈なように感じて。おもてなしは、ある意味、ずっとよそ者というか、距離があるようで。それに比べたら、鯖江は軽やかなまちだなって」

軽やかさを生み出しているのが、まちなかに点在するシェアハウスの存在。

市営のものもあれば、鯖江に移住してきた人が、誰かの人生の余白になるような場所として開設したシェアハウスも。河和田エリアだけでも6棟ある。

長期休暇を使って、シェアハウスに滞在する人もいるそう。定住にならずとも、鯖江とのゆるやかな関係が生まれている。

平田さんも移住後シェアハウスに住み、今も住んでいるひとり。先に福井に引っ越していた友人が紹介してくれた。

「シェアハウスの住民でなくとも、遊びに来た友人が、以前マグロの解体イベントを企画していたこともありました(笑)。ほかにも、朝にラジオ体操しよう会とかイベントのようでイベントでないような出来事も多いです」

「とりあえず来て、手ぶらで泊まれたり、生活できたりする場所がある。そんな余白やゆるさが、鯖江独特の雰囲気をつくっているんじゃないかなと思います」

シェアハウスは短期滞在も可能。ほかにもRENEWのようなイベントなどまちとの関わりしろはさまざま。移住してからも休日の選択肢として、いろんな催しに参加するのが日常になっている。

「東京に住んでいたころより、週末の予定が埋まるようになりました。シェアハウスでの小さなイベントもあるし、となりまちの池田町とかのお祭りもある。土日の選択肢は大体3つくらいいつもありますね。選択肢が少ないから、逆に選びやすい。なので予定がパンパンになるんです」

「今度、地域の夏祭りのカラオケ大会に出ますよ(笑)。地元の人たちも移住者だからって変に気を遣わず、ちょうどいい距離感でいてくれるような気がします」

移住して1年半。鯖江でやりたいことも出てきたところ。

「どこのシェアハウスにもどんどん人が集まってきちゃって、すぐに埋まってしまうんです。また足りなくなってきたので、私も管理人になる予定です」

「同じくらいの年齢層の人が、シェアハウスの運営やイベントをやっていて。ものづくりをするわけではないけど、気軽にクリエイティブなことをしている姿を見ると、自分もできるかもって思えるんです」

誰もがつくり続けるまちだから、のびのびと自由に過ごせる。そんな懐の深さが鯖江にはあるんだと思う。

「もっと多様な人が来るまちになったらいいなと思います。たとえば、ものづくり職人としてコツコツと仕事をしてみたいとか、飲食とか宿がやりたいとか。シェアハウスに住むのがあまり好きではない人でも、やりたいことが決まってなくても、受け入れてくれるまちだと思います」

 

来ても来なくてもいい。でも来たら楽しいまちは、誰もがつくり続けるまち。

数ヶ月後、数年後。今よりもっと多様な人が増えて、いろんな生き方働き方が生まれている。そんな気がします。

まずは、訪れて鯖江の空気を肌で感じてみてください。

(2024/07/24 取材 大津恵理子 荻谷有花)


鯖江に移り住む人たちに話を聞いたコラムを掲載しています。

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RENEW ( 24.11.1-3) ※外部サイトに移動します