コラム

移り住む人たち
– 伊那編 – 第4回
「そのまちの人」になるヒント

都市から地方へ、地方から地方へ。移り住んだ人たちは何を思ったのだろう?

移住者たちの足跡をたどりながら、まちのことや暮らしのこと、あれこれと考えるコラム「移り住む人たち」。今回は、ふたつのアルプスに挟まれた長野県伊那市を紹介しています。

ここで紹介するのは、2月23日(日)に東京新宿で開催される移住就職・転職セミナー「いいシゴトーク」に参加する企業の人たち。伊那市での仕事や暮らしのことを気軽に話せるイベントです。

まずは、記事を読んで気になったら会いに行ってみてください。

最後に紹介するのは、このまちに移住して不動産の仕事をはじめた鈴木さん。ここで暮らしはじめて20年、今ではすっかり伊那の人です。



取材の最後に訪ねたのは、伊那バスターミナルからほど近くにある中央不動産。明るい表情で迎えてくれたのは、代表の鈴木さん。

愛知県出身の鈴木さんが伊那に移住したきっかけは、結婚だった。奥さんの実家の家業だった不動産の仕事を手伝うために、このまちにやってきた。

「このまちは山に挟まれているでしょう。高台から見渡すと、営業エリアが一望できるんです。かといって圧迫感は感じません。都会に行くと、自分に関係ない広告とかがたくさん押し寄せてきて疲れるんですが、こっちはそれがなくて。すごくいいなと思います」

それは同時に、自分の暮らしと仕事で関わる範囲が重なるということでもある。

信頼を欠くような仕事をしていれば、生活にも影響が出る。だからこそ、自ずと人と誠実に関わるようになると鈴木さんは言う。

中央不動産の仕事の多くは物件の売買仲介。最近はバブル期に建てられた別荘の案件が多いのだそう。

「お客さまとして接するのはリタイア後に移住された方が多いですね。若い移住者の方は、賃貸物件とか市の移住者向け物件に入る人が多いのかな。いろんなグループとかイベントに顔を出しているうちに、知り合いになる移住者は多いですね」

そういえば市長の白鳥さんも「市が合併したことで高遠地区のイベントとかも入ってきて、祭りの頻度が3倍くらいに増えたね」と話していた。

城下町ならではのお祭りや、森のなかで楽しむアウトドアイベント「森JOY」。

伊那って、誰でも参加できるイベントが多いんでしょうか。

「そうですね、最近はより増えています。10月、11月とかは大変ですよ。休日の朝、フェイスブックを開くと、今日はこれとこれと…どういう順番で行きゃいいのって(笑)」

「この前も、知り合いのお店を覗いたら、消しゴムハンコのワークショップに誘われて、やってみたんですよ。その様子が後日地方紙に掲載されたんだけど、『年の瀬に消しゴムハンコを楽しむ、女子たち』っていう見出しで僕の写真が載っちゃって…!(笑)」

フットワーク軽く、まちのイベントを楽しんでいる様子の鈴木さん。

イベントの内容にかかわらず、人と何かをすることを純粋に楽しめる方なんだろうな。

新しくまちに入ってくる人も、それくらい積極的だと人とのつながりを見つけていきやすいかもしれないですね。

「私は本当に、好奇心旺盛でぐいぐい入っちゃうほうなので、あんまり参考にならないところもあるんですけど(笑)。伊那はそんなに、移住者と地元の人を分けるレイヤーみたいなものがないから、いいところだと思いますね」

「それから、意外と盲点なんだけど、移住してきたら地方紙を読むといいですよ。田舎の情報は地方紙とかフリーペーパーが最強です。小さなニュースでも取材に来てくれて。知り合いがいっぱい載っているし、『見たよ、載ってたね』っていう話もよくあるんです」

お客さんとして参加するだけでなく、移住してきた人が中心になってイベントをつくっていくこともある。

鈴木さんもドラッカーの読書会など、イベントの運営に度々携わっている。

一回きりではなく、継続的に関われるグループをつくっていくことが大事なのだとか。

「なにかスキルを持っていて小商いとかをする人が増えたら、もっとまちがおもしろくなるんじゃないかと思うんです。それこそ、編集者さんとかいいと思いますよ。どうですか、週2〜3日は取材に出かけて、普段はここに仕事場を持つっていうのは」

私ですか…!(笑)

でも、たしかにいいかもしれない。ちょっとものづくりをする趣味もあるので、アトリエ兼仕事場みたいに使える場所があったら最高ですね。

「そういえば、近々クリエイターの方が集まって何かはじめるみたいですよ。駒ヶ根のほうにすごくセンスのいい靴屋さんがあるんですけどね…」

私の思いつき発言にも、積極的にアイデアを出してくれる鈴木さん。

本当に顔が広いというか、人がお好きなんですね。

「だから、僕にとって不動産仲介は天職だと思います。もともと人を紹介したり、もめごとの仲裁をしたり、友だちを紹介して結婚したり、つないだりするのが好きだったから。仕事でも、お客さんの人生の話とかを聞くのが好きなんですよ」

「この仕事をしてると、やっぱり人の縁ってあるなと思うんです。地元を離れて、まさかこっちで会うとは思わなかったような人とつながって、みたいなこともよくあります」

まちと人と、コミュニティ。

それぞれの人が心地いい距離感をチューニングしながら、付き合い方を探っていけるといいですね。

「食やその土地ならではの文化に、最初はギャップを感じることもあるかもしれないけど、僕はやっぱり、積極的に関わったほうが楽しめると思います」

「地元の人と新しく来た人。その辺をつないでいくのも僕の役割なのかなって勝手に思っているので、そういう橋渡し的なことができる不動産屋でありたいですね」

同じコミュニティを共有する人たちとの関わりは、そのまちでの暮らしの価値そのものでもある。

情報だけで迷っているなら、まずはまちの人に会いに行ってみたらどうだろう。

楽しい時間を共有できれば、思いのほか、あっさりと一歩踏み出す心が決まるかもしれません。

(2019/12/24 取材 高橋佑香子)

▲イベント「いいな伊那 いいシゴトーク」
中央不動産をはじめ、伊那市には、さまざまな職種で採用を考えている企業があります。メディアや食品、ITなど、10社の経営者と「いい仕事」について本音で話し合えるイベントが開かれます。
日時:2月23日(日)13:00〜17:00
場所:TKP新宿カンファレンスセンター(新宿区西新宿1-14-11 Daiwa西新宿ビル)

※参加には申し込みが必要です。詳細は以下のサイトでご確認ください。(外部サイトへ移動します)


▲株式会社中央不動産Webサイト
http://www.c-fudousan.com/

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