コミュニティをつくるヒト2-3

みなさんは「シブヤ大学」をご存知でしょうか。表参道ヒルズに明治神宮にカフェにと、「シブヤ」の街をまるごとキャンパスに、毎月第3土曜日に授業を企画・運営する新しい学びの場です。その中で「しごと課」のリーダーを務め、授業コーディネーターとしても活躍されているのが、今回お話をうかがった堀田顕人さん。普段は渋谷区外苑前にオフィスを構えるWEB・映像の制作会社に勤務する会社員でもあります。
現在進行中の「リトルトーキョー」でも「シブヤ大学を参考にしている」というナカムラケンタとともに、五月晴れの昼下がり。キラキラと照らす陽射しに、緑がまぶしい代々木公園へと集まりました。

――ちなみに、本業ではどんな仕事をしているんですか?

堀田 会社としてはWEBとか映像・イベントの制作ですね。その中で僕はWEBをメインにディレクターやプロジェクトマネージャーとして働いています。

――本業で得る喜びとシブヤ大学で得る喜びは違ったりもしますか?

堀田 基本的に大きな違いはないんですけど。あえて言うとお客さんの反応がすぐわかるかどうかですかね。シブヤ大学は参加者が目の前にいるので反応がすぐわかっちゃうんですよね。それが最初は怖くて。WEBだと反応は間接的だったり、わからなかったりもするので。

ケンタ アクセス数とかはわかるけど、顔は見えないもんね。

堀田 そうそう。WEBをつくるときって、クライアントの反応はわかるけど、実際にそれを見る人の反応はよくわからない。本当に喜ばせたいのは、WEBを通じて届ける先の人だったりもするわけで。それがWEB制作を続けている中でのちょっとした悩みでもあって。

――なるほど。

堀田 それがシブ大だとリアルに参加者の反応がわかっちゃうわけですよ。授業を聞いてる人の顔がみんなこっち向いてるからね。もう怖い怖いと思って(笑)。

ケンタ みんな真剣に聞いてくれてるときも、授業やってる側としては、静かで反応がないと不安になるよね。

堀田 でも授業におけるメインは授業コーディネーターじゃなく、先生なんですけどね。だから先生と生徒の両方の顔が見えちゃうんですよね。(本業と比べて)どっちがいいではないですけどね。WEBは、比較的より多くの人に見てもらうことに価値があるメディアだと思うので。もちろん特定の100人に向けて、その人たちにみてもらえばOKというものもあるとは思うんですけど。

ケンタ そうだね。

堀田 でもシブ大で30人の顔が間近で見れると、ね。

――「うぉー」という感じがありますよね

ケンタ ザワザワしてて、「あれっ?!」みたいのもね。

――あはは(笑)。

堀田 いままでやってて心理的にヤバイっていう状況は何度もある(笑)。

ケンタ 一概には言えないけど、会社員って世の中がどんどんシステマチックになっていくと、役割が分担されて見えなくなる。そのことに悩んでいる人も多いなぁと感じていて。そういうときにシブヤ大学で授業をつくるとなると、全部ゼロから企画することもできるし、反応もずっと見ていられるし。そういう意味でも最初から最後までやって納得感がすごく出てきたんだろうね。

堀田 そうかもしれないね。

ケンタ そういうリアルな反応を見てると、場を俯瞰する力がついてくると思うんだよね。授業の空気を見て、場を調整するっていうのもそうだと思うけど、俯瞰する力ってどんな仕事にでも役立ってくると思っていて。仕事百貨での自分の仕事もそうで、仕事百貨の人間としてもモノを見てるし、取材先の働いている人たちの立場でも考えてみる。それから、応募してくる人たちはどういうことを考えてるのか。常にぐるぐる視点を入れ替えているんだよね。だからいろんな視点を持つきっかけにもなるんじゃないかなと思う。

堀田 なるほど。たしかにね。

ケンタ 「リトルトーキョー」もシブヤ大学をすごく参考にしてて。普段の仕事って、だいたい先に用意されてることが多いと思うんだけど、シブヤ大学やリトルトーキョーで、全部イチから自分でつくるってことをやると、発注する側の目線も見えたりさ、そういうのが活きていくんじゃないかなぁって、なんとなくだけど予感があって。

堀田 リトルトーキョーでは、普段自分のやってる仕事に近いものを、企画することもあるの?

ケンタ そうだね。たとえばバックオフィスで働いている人が、お客さんの顔を直接見てやりたいという希望は、シブ大でやってることとも近いだろうし。企画をやりたい人がいたら、ゼロから企画することもできる。基本、仕事っていうのは雇われる立場だと役割が求められるじゃん。その経験を自分でつくっていけるのは、すごく面白いかなと思う。僕はシブヤ大学に片足つっこんでるぐらいだけど、僕から見てても、シブヤ大学っていうコミュニティに入ったことで、人生が動いている人はけっこういるなと思っていて。

堀田 シブ大を続けられてる理由って、たぶん半分くらいは仕事の延長で、あとの半分くらいはなんでもやっていいよというか、仕事じゃいきなりはできないだろうなってことを試しながらやっているからだと思う。

ケンタ その「やってもいいよ感」っていうのはどういうことなの?

堀田 「好き勝手やっていいよ」っていう中でも、参加者の方にこれぐらいの満足度は届けたいという自分の想いがあるんですよね、ちょっとかっこよく言うと(笑)。その上で自分ができそうな企画はこのレベルかなっていうのもあって。さらにその中に、やってみたいけど仕事じゃなかなかできないことを、質が落ちない程度に少しずつ織り交ぜて試していくっていう。

ケンタ うんうん。そうね。シブヤ大学でもやりたいことを聞きつつ、客観性を求められることもあるもんね。だから自由にやっていいよ、何でもやっていいよっていうのではもちろんないよね。

堀田 だから仕事の遠い延長線上として、満足度を届けたいっていうのはもちろんあるけど、それとは別に自分の興味の範囲でやりたいものも少しずつ織り交ぜていく。そういうのは実際の仕事だとちょっと難しかったりもするので。

――先日あったリトルトーキョーの第1回市議会でも実際に仕事では実現しづらいことをやってみたいという意見が多かった印象です。

堀田 バランスだと思います。100%仕事から離れてるようなものだとクオリティ的にどうかなというのがあるし、あまりにも想いばかりが強すぎると、逆に届けられた相手としては重いみたいなのがあるかもしれない(笑)。だから仕事でやっていないとしても、それを自分以外の誰かに届けたいという部分はあった方がいいと思いますね。

――その部分が持てないんだったら趣味としてやったらいいということですよね。

堀田 そうそう。趣味は趣味でぜんぜんいいと思うけど、自分にはあんまり趣味がないし(笑)。だから、その行為を自分以外の誰かにも喜んでもらいたいかどうかって部分だと思うんですよね。

――自己満足+アルファを考えられるかどうかですね。

堀田 そうですね。何か面白い話を読みたい、聞きたいと思ったら、本を買って読むなり、映画館で映画を見たりすればいいと思うんですけど。でもこの面白いと思った物語をあなたにもほかの人にも知ってもらいたいと思ったときには、それはちょっと「仕事」に近くなるのかなぁって。

ケンタ 自分で完全にこれやりたいっていうのもゼロじゃないし、世の中にまったく存在しないニーズをあたかもこうあるべきだと提案するのともちょっと違うんだよね。シブヤ大学ってそういうスタンスかなと思う。

堀田 そうだね。こうあるべきだと届ける相手に対して無責任になっちゃうから。でも、「これ面白い!」というものでも、自分でやるにはちょっと無理っていうときもあるしね(笑)。

ケンタ 堀田くんがさっき授業に納得感が出てきたと言ってたのは、そういうバランスの取り方が巧みになってきたんじゃないかな。

堀田 あんまり褒められると恥ずかしいけど(笑)、ありがとうございます。

ケンタ 繰り返すとわかってくるんだよね。トライ&エラーじゃないけど。会社員だと、もしかするとトライ&エラーのスパンが長かったりすると思うんだよね。チャンスは1回しかやってこないとか、けっこうシビアな部分があると思うんだけど。

堀田 あと、すごく極端な話をすると、仕事って自分の想いを込めなくてもできちゃうというか。

ケンタ できちゃうよね。求められてるものを形にするっていうのも大切だしね。

堀田 そう。自分の想いを仮に無にしても、外から自分に求められるものに対する技量があってちゃんと応えられれば、ある意味それで仕事になっちゃう。でも、仕事に想いを込めることも意外とできるんじゃないかって気がしてくるんですよね。

ケンタ なるほどね。シブヤ大学で活動してると、だんだんそういうこともできるんじゃないかっていう「いい予感」がしてくる気がする。

堀田 もちろん、いままでの仕事で想いを込めてやってなかったわけじゃないんですけど(笑)。本業でも想いを込めるっていう部分を意識するようになった気はしますね。

――最後に、今後やってみたいことはありますか。

堀田 僕はシブヤ大学で、自分の好奇心みたいなものを実際の具体的な形にすることがうまくハマって実現できてきたけど、ほかの人も同じようにっていうのはそうそう簡単ではないんだなぁと実感しました。周りを見回すと、やりたそうにしている人がけっこういるんですよね。バリバリ忙しく働いてても、心の中には好奇心の種や熱みたいなものがあると思うんです。実感として、やっぱりやってる人がいちばん楽しいと思うんですよ。参加者という立場ももちろん楽しいとは思うんですけど。だから、意外とやればできるよっていうのを伝えて、自分以外の誰かが実現させる部分ができたらなと思います。

――コーディネーターのコーディネーターということですかね。

ケンタ せっかくいいものだから誰かにも共有したいっていう感覚だと思うんだよね。ほかのコーディネーターに手取り足取り教えるっていうよりは、「みんなももっとやってみたらいいじゃん!」っていう感覚だよね。

堀田 そうだね。自分がそういう場を左京さんやシブヤ大学に関わる人たちからもらえたから、その機会を自分が独占するんじゃなくて、自分以外の誰かにもうまくバトンをパスしていけたらいいなとは思いますね。その部分はまだ模索中です。

――ぜひリトルトーキョーもそういう場のひとつになっていくといいなと思います。今日はありがとうございました!