※このイベントは終了いたしました。
「遠州(えんしゅう)」と聞いて、日本のどのエリアのことかピンと来ますか?
主に現在の静岡県西部を指す遠州は、古くから綿花の栽培で栄えてきた織物産地です。
洋服地や和装用布をはじめ、インテリア材、テープやシートベルトなどの産業資材まで。つくれないものはないと言われるほど、高い技術力で多様な布を生み出してきました。
浜松市が行う「遠州のトビラ」は、そんな遠州織物の産地を舞台にした、3泊4日のインターンシッププログラム。分業で培われた技と職人の情熱を体験し、未来を考えるきっかけとなる場です。

綿から糸をつくるところから、織り、染め、はたまたその間にある細かな工程の数々。遠州の繊維産業では、職人から職人へバトンを渡すように、ひとつの織物がつくられていきます。
分業制だからこそ、自身の得意分野や性格にマッチする会社とも出会いやすい。職人だけでなく営業や卸のような職種もあるので、ものづくりの仕事に興味があるなら、年齢や経歴に関わらずぜひチャレンジしてほしいです。
「遠州のトビラ」は今年で2回目。初開催だった昨年はどんな雰囲気だったんだろう?
運営を担う産地の若手グループentrance(エントランス)の代表、浜田さんに聞いてみる。

「昨年は10人ほどの枠に、50人以上の応募が集まってとても驚きました。それもあって今年は、枠も15人に広がりました」
「実際の参加者は20〜50代で、学生から主婦まで背景もさまざま。そのうち就職につながった方が2人います」
3泊4日の期間中、参加者は浜松駅付近を起点に、数人グループで毎日異なる現場へ向かう。バスや電車を使い自分の足で移動することで、地域の暮らしぶりも体験してもらう。
夕方まで現場で過ごし、初日の夜は参加者同士の交流会。3日目には繊維事業者のみなさんとの懇親会も予定されているので、産地で働く人たちのリアルな温度感を感じることもできる。
「実際に産地を体験できるのはもちろん、同期ができることがこのプログラムの良さだと思うんです」
「遠州は小さい事業者ばかりなので、入社した会社の中に同年代の人がいるとは限らない。別の会社でも、同じ産地に同期と思える仲間がいるのはきっと心強いし、今後も続いていくことでインターンの先輩後輩のつながりも生まれてくると思います」

浜田さん自身は、遠州織物に魅了され、13年前に東京から単身遠州にやってきた。
入社した織布会社や取引先など、周囲が年配の職人さんばかりという状況に直面し、若手同士がつながるための活動を開始。それがentranceの前身となっている。
産地全体でもっと若手を増やして、遠州織物を支える技術を継承していく。そのための取り組みのひとつが、「遠州のトビラ」だ。
「欲を言えばいつかは就職してほしいですけど、まず参加者には遠州産地の魅力を少しでも知ってほしい。実際に見て触って、技術はもちろん関わる人たちの人柄に惚れてくれたらいいなって」

「産地の仕事は多岐に渡るので、もともと興味のなかった分野でも、体験したら惹かれるかもしれない。自分は職人には向いていないと思う人には別の仕事もあります。まずは『好き』『おもしろそう』という気持ちを大切に、一つひとつの出会いを大事にしてほしいと思います」
「遠州のトビラ」を主催するのが、遠州産地振興協議会。
事務局である浜松市役所産業振興課の松島さんと三浦さんにも話を聞く。

お二人とも今日身につけているのは遠州織物。
パリッとして見えるけれど、アイロンはかける必要がなく、手入れが楽なのだそう。通気性がよく、暑い夏でも着心地がいいのだとか。
向かって左の白いシャツの方が松島さん。
「浜松市は、繊維、楽器、バイクなどの輸送機器の3つが主たる地場産業です。繊維産業は伝統的なもので需要もありますが、人手が足りず生産が追いつかないという課題を抱えている。市としても、マッチングのお手伝いができたらと考えています」
世界的に著名なメーカーが本社を構えるバイクや楽器と違って、繊維については地元の人でも詳しく知らないことのほうが多いという。
その理由のひとつは、地元で気軽に手に取れるものではなく、主に高級ブランドで採用されていること。
また、細かな分業制のため仕事内容が見えにくいこと。
たとえば糸が切れないように糊をつける「糊付け」、1本1本のたて糸を手作業で織機にセットする「経通し(へとおし)」など、実際にその様子を見ない限り、想像もできない仕事が産地には溢れている。
「大量生産のスタイルとはまったく真逆。それぞれのプロフェッショナルが情熱を注ぐことで、一枚の布が生まれているんです」

隣に座る三浦さんが続ける。
「ただ、一般の人に見える範囲が少ないぶん、興味を持ったとしても、どの事業者にどうアプローチしていいのかわからないと思います。そういう意味で、インターンでいろいろな事業者を訪問できる意味は大きいですね」
「まずは遠州でこういう織物をつくっていること、優れた技術があることを多くの人に知ってもらえたらと思います」
昨年の「遠州のトビラ」から、実際の就職につながったのは2名。
そのうちの1名が、浜松市内の古橋織布で職人として働く柄本さん。今年4月にUターンで就職し、半年が経つところ。

織物に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょう?
「中学生のとき、修学旅行先の京都で西陣織体験をしたのがきっかけでした。その後、浜松でも注染体験をしたりと、織物に触れる機会はあったんですが、産業として具体的に何をつくっているかはよく知りませんでした」
将来は織物づくりに関わりたいと、東京のテキスタイル専門学校へ進学。昨年、就職先を探すタイミングで、担任の先生から勧められたのが「遠州のトビラ」だった。
地元で就職すると決めていたんですか?
「当時は決めていなくて、まずいろんな地域を見たいと考えていました。長崎の産地にも行ってみて、すごく良かったんですが、『遠州もこれくらい盛り上げたい』という気持ちのほうが強くて、最終的に地元を選ぶことにしました」
インターンに参加したことで、遠州織物を自分ごととして考えるようになっていた柄本さん。
期間中、特に印象に残ったのが現場の機械だそう。
「どう動いて、どんなふうにものが出来上がるのか、すごく気になったというか。とくに『整経(せいけい)』という、大きなロールに糸を巻き取る工程の機械がおもしろかったですね」

織りに関わる仕事をしたいと、縁あって入社することになったのが、現在働く古橋織布。
ここでは昔ながらの「シャトル織機」でゆっくりと織られる、柔らかで高密度な生地を多くつくっている。
柄本さんの仕事は、通称「織子(おりこ)」。
途中で糸が切れて織機が止まることがないよう、工場内を見回りながら糸を補充したり、絡みなどの不具合を未然に防いだり、糸が切れてしまった場合は補正をしたり。
傷のない美しい生地を仕上げていくのに欠かせない役割だ。
大きな音で機械が動き続けるなか、工場内を無駄なく動き回る様子が印象的だった。

ここでの仕事はどうですか?
「楽しくて、やりがいがあります。専門学校で卓上の織り機の使い方は学んだけれど、機械を扱うのは初めて。覚えることが多すぎて頭がパンクしそうなときもありました。でも、最近はある程度わかってきて、自分なりに仕事を進められています」
「織りの作業全般が好きですね。織機って、織られたものが自分のほうに流れてくるじゃないですか。つくったものが目に見えるところに自分はすごく惹かれました。切れてしまった糸をつないでまた機械を動かすとき、仕事をやっている充実感がありますね」
今は一人前になるために一生懸命。でも産地の若手としての自覚を持って仕事をしている。
「正直まだ働いて半年で、『伝統を守っていく』という大きいものを背負いきる覚悟はなくて。でも、なるべく技術を途切れさせないようなお手伝いができたらと思っています」
今年の「遠州のトビラ」には、布を織る「機屋」や布を染める「染工場」、産地で商社のような役割を果たす「産元」など、多様な会社が受け入れ先として参加する予定。
そのうちのひとつ、浜名染色は織り上がった布の染めを担っている。
現場を案内してくれたのは、代表の尾上さん。

浜名染色は、柔らかな風合いに仕上げられる染めが特徴。
主に使うのは、ロールの回転により布を液に漬け込んでいく「ウインス染色機」と、そこに液の噴射機能が加わることで、よりムラなく仕上がる「液流染色機」の2種類。
熱をかけながら布を束の状態で染めていくので、厚みが出て柔らかい仕上がりに。
布は長いものだと200m。布の長さによって機械を使い分け、1から10まで職人の目で見ながら布を染め上げている。

昨年も参加者を受け入れたという浜名染色。どんな体験をしたんですか?
「午前中は、工場の機械や、うちで加工しているものを座学的に説明していきました。午後からは、実際に体験してもらおうと、Tシャツを手もみで染めてもらって。みんな喜んで持って帰ってくれましたね」
「参加者がものすごく熱心で驚きました。『いいものをつくっているんですね』とも言ってもらえて、業界の人間には当たり前のものが、外からだとそう見えるんだなって。改めて自信にもなりました」
「去年は暑い時期だったから大変だったと思う。今年は秋だから大丈夫かな」と笑う尾上さん。
リアルな職場環境に入り込むからこそ、普段の働き方や社内のコミュニケーションなどを垣間見ることもできる。
「僕らは日々、目の前の作業に一生懸命。染色には自信があっても、ほかの工程のことはわからない。インターンの期間中、同じ業界でも普段は交わらない人たちと話して、産地の縦の流れを確認できたのは、自分たちにとってもいい機会でした」

現場のにおいや空気感は、実際の環境に身を置くこからこそ見えるもの。一方的に説明を聞くだけではわからない、仕事の奥深さを感じられる機会になると思います。
遠州産地には、複数の工場を兼務して働く人や、副業で作家として活動している人、産休後も働く職人など。ひとつの仕事に邁進するだけではない、個性を活かした多様な関わり方も実現されています。
まずはフットワーク軽く、一歩踏み出してみてください。3泊4日は、小さなチャレンジにはきっとちょうどいいはずです。
(2024/09/08 取材 増田早紀、荻谷有花)
主催:遠州産地振興協議会
事務局:浜松市役所産業振興課
協力:株式会社HUIS、株式会社糸編、entrance
※イベントに関するご質問、お問合せはentranceにお願いします。
※このイベントは終了いたしました。

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