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こんにちは。日本仕事百貨の並木仁美です。
一緒に食卓を囲みながら、働く人や暮らし、生き方など、とりまくことをぐるりと話す「ぐるりの食卓」。
島根編もいよいよ最終回です。
石見銀山の地に根を張り、全国に向けて暮らしを発信し続ける群言堂さんを訪ねます。
群言堂の会長である大吉さんの家を訪れると、中から「お手伝いしてくれるひとー」という声が聞こえてきた。
すると松場家の孫たちがキッチンに集合。群言堂の食卓の準備は、わいわいと賑やかでふつうの家庭の風景のよう。
今回お邪魔した群言堂をつくったのは、松場大吉さん・登美さんご夫婦。
ここでつくられる服はすべて天然素材で、職人さんと製法にこだわってつくったもの。
自分の体と心に心地よい服を着る。暮らしにあった服をつくりたいという登美さんの想いからはじまりました。
歴史的な建造物と豊かな緑が残る石見銀山のふもと、大森のまち。
ここでたくさんのつくり手たちと縁をつむぎながら、地道にものづくりを続けています。
それは服や雑貨にとどまらず、土地にある旬の食材を楽しめるカフェや、古民家を再生し暮らしをテーマにした宿“他郷阿部家”も運営しています。
おふたりがこのまちで暮らしながら見つけたテーマは「復古創新」。古いものをただそのままよみがえらせるのではなく、新しい視点を加えて創造していくという想いが込められています。
キッチンでは、スタッフやその家族が集まって、食事の準備が進む。
誰が指示を出すでもなく、みなさんテキパキと手を動かす。「あれ終わってる?」「じゃあ私こっちやるね」と、各々が足りない部分を自然と補っていく感じ。
子どもたちは、社内のお母さん的存在でお料理がとっても上手な長見さんと一緒に箱寿司づくり。お酢を塗った木型にごはんを詰め、にんじんや干し椎茸、油揚げなどを入れた具、錦糸卵を重ねていく。
「もうちょっと具を入れたほうがいいかな。たっぷりのほうが美味しいよ」
「ぼくこういうのすき」
「できた!お父さんみてみて!」
上まで詰めたら、蓋をして。「さぁ全体重かけてよー。いち、にい、さん!」という掛け声とともに、ぎゅぎゅっと上から押し付ける。
そーっと型から外して桜でんぶと実山椒を添えたら、箱寿司のできあがり。
ささっとつくれて彩りもきれいだから、長見さんは親戚の集まりでもよくつくるのだとか。
広報の三浦さんもフライパンをふるう。じゅうじゅうと美味しそうな音とともに、ごま油とにんにくのいい香り。
「バイ貝って食べたことあります?今の時期美味しいんです。それを唐辛子とにんにく、ごま油で炒めて塩をしただけです。胡椒はしなくていい」
小さい頃からお料理はしていたんですか?
「小学校に上る前から、つくるところから片付けまでやるのが家の教育方針でしたね」
さらに、群言堂では毎週のように火曜会という会を開催して、みんなでごはんを食べているんだそう。
「蕎麦が打てるようになったり、ピザがつくれるようになったり、謎の技術が育ってきていて(笑) みんな60人くらいの宴会ならすぐ段取りできる能力がついていると思います」
もともとは名古屋出身。便利なまちなかにいたときと今とでは、暮らしも大きく変わったといいます。
「春は山菜を採りにいったり、狩猟免許を取得してイノシシをとったり。最近は、うなぎ釣りにはまっています。まちのおじさんがまだまだ現役で遊んでいるので、一緒に連れて行ってもらうことも多いですよ」
その隣では、長見さんがおうちでつくってきてくれたおかずを器に盛り付けている。
加熱すると繊維がほぐれて糸状になる糸瓜を生のままピリ辛のお漬物にしたものと、茹でて刻んだレモンとまぜたもの。
「ちょっと食べてみる?」というお誘いに甘えて、一口つまみ食い。どちらもさっぱりとしていて箸休めに丁度いい。
それにしても、つまみ食いってなんでこんなにうれしくて美味しいんだろう。むふふ、と思わずにやけてしまう。
ほかにも、会社の前の畑で採れた新じゃがの煮っころがし、同じく畑で採れた野菜のてんぷら。この季節、まちじゅうで採れるというきゅうりの豆チ炒め。さざえのグリルに煮たまごなどなど。
みなさんが持ち寄ってくれたものも合わせて、1時間ほどであっという間に食卓が完成してしまった。
どれもどこか懐かしい、お家のごはんの味。でも旬のものを活かしたり、ちょっと変わった調味料が入っていたり、一工夫がある感じ。
私も料理は好きだけど、料理ってつくる人の想いが自然と滲み出るように思う。
食べる人のことを思い浮かべながらつくったごはんはおいしくなるし、今日は適当でいいやと思った日は、なんだかそれなりの味になるような気がする。
だから群言堂でごはんをつくる人たちはどんなことを考えているのか、すごく気になっていた。
群言堂本店で働きながら、ときにはカフェも担当する今崎さんに聞いてみる。
お料理をつくるときに大事にしているのはどんなことですか。
「そうですね…美味しいものは美味しいねと、気軽に言える料理をつくりたいなって思います」
「オーガニックとか徹底しているところもあると思うんですけど、ここはそうではなくて。こだわった食材も使いますし、地元のスーパーで買うこともあります。その辺はバランスがありますよね」
なんだか意外です。どちらかというと、もっとストイックに突き詰めているイメージでした。
「あはは(笑)あんまり頑張っている感じが出ると、逆にいやじゃないですか。お客さんに厳しくなってもよくないので。おうちで自分用のごはんをつくるときには、無理せずだしパックなどを使ってささっとつくってしまうこともありますよ」
なんとなく、それはわかるかも。ごはんを食べるのに気取らないことが大切なんですね。
「みんなが笑って美味しいねって食べられるのが一番。いかにお客さんも私たちも居心地よく過ごすかを考えています」
お互いに居心地よく過ごす。
「はい。そのために、旬の食材をお出ししたり、野のお花を生けたり。もちろん楽をするときはするんですけど、ここには素敵な暮らしをしている方がたくさん来るので、そういう方とお話をするには自分の生活から変えなくてはと思っています」
今崎さんの思う素敵な暮らしって?
「うーん…当たり前のように自分で何かをつくることができるというか。たとえばちょっと酵素シロップでもつくろうかしらとか、お客さんが来る日はこのお茶を出そうかなとか。おもてなしが自然とできるというか。仕事だけでそういうことをしてても、話すとボロが出ると思うんです」
「だから自分でも野菜を育ててみたり、自家製のシロップを仕込んだり。暮らしと仕事が密接につながっている。そうやってお客さんからも刺激を受けるから、やりたいことが尽きなくて。だから続けていけるんだと思います」
実はここに来るまで、長く同じ場所にとどまっていたことがないという今崎さん。過去にはハワイにいたり、とても面白い経歴をお持ちです。東京でのイベントにも来てくださるので、ぜひ直接聞いてみてください。
古いものと新しいもの、自然なものと人工的なもの。そして暮らしと仕事。つい対立軸で語ってしまいそうなものを、群言堂の人たちは無理なく取り込んで、新しい価値を生み出しているように感じます。
それは、ブランドが大事にしていることにも通じると長見さん。
「私たちにできることは、生地を使わせていただいて商品をつくってお客様に喜んでいただくこと。そうすることで、生地の産地や技術が見直されて、昔からつながってきたものを、また新しい形で100年先も残していけると思うんです」
「たとえば、今日ちょうど私が着ているスラブローンっていう素材があるんですね。これは1日に何千メートルもつくれるようなものではなくて、昔ながらのシャトル織機で限られた長さしかつくれないものなんです。本当にふわっとしていて肌離れもいいんですよ」
一時は、より早くたくさんつくれる高速織機を入れるよう、国から指示が出たこともあったそう。
でも織屋さんは、たとえ非効率でも地道に少しずつつくりたいと、高速織機を導入しなかった。
効率だけを優先すると、質が落ちたり手間ひまをかけなくなったり。それが本当にいいことなのかって考えてしまいますね。
「結果、高速織機で大量生産をしていたところがどんどん潰れて、価値があるものは数軒だけど残っている。たとえ非効率でも、高価になっても価値があればそちらを使いたいという想いがありますね」
夜もだいぶ更けてきた頃、他郷阿部家で宿泊者の方たちと食卓を囲んできた大吉さんが戻ってきた。今日は元新聞記者の方と一緒だったと、ワインを飲みながら心地好さそうに話してくれる。
阿部家以外にも、社内外問わず人が交流できるたくさんの場をつくってきた。大吉さんは、なぜそういう場所をつくろうと思ったのでしょう。
「ここはコンビニもない田舎だから、自分が飲もうと思ったらまずそういう場所をつくらないと、みんなでワイワイガヤガヤできなくなっちゃう。倒れるまで飲んで、川に落ちるような奴もいるんだけどね(笑)」
「田舎社会はアウトソーシングできない。要は自分たちですべてやる。不便なことがすばらしいんだ」と大吉さんは続ける。
不便なことがすばらしい、ですか。
「都会では、飲み会も店に頼めばできてしまうだろう。でもここでは、料理もしないといけないし、掃除もしないといけない。不便さを最大限に使うと、あれがなくても、ひょっとしてこれが代わりになるかもしれない、いや違うメニューにしたほうがいいなとか。どんどん頭を使って、臨機応変に考えていく。不便なことから人間の暮らしがつくられる」
確かに、自分の生活を振り返ってみても簡単にできてしまうからこそ、こぼれ落ちていっているものもあるように思う。
不便さを嘆くより、やってみると新しいことが生まれるのかもしれないですね。
「もちろん都会には都会の素晴らしさもあるんだよ。それは専門性があって深堀できるということ。自分が関わりのないことはすべて捨てて、自分のやるべきことにどーんと入っていく。その文化は、全然田舎と違う」
ただ、こうでなければ、と関わり方を決めることはしないと大吉さん。
「おれはいつも『引き寄せて結べば草の廬にて、とくれば元の野原なりけり』っていう。人と人、人と会社の出会いもそうなんだけれども、はじめからきれいに結ばれるというわけではなくて。うまくいかなくても決して悪いわけじゃないんだよ」
いろんな人がいてもいい。なんだか自分もこの場所に、やわらかく受け入れてもらえたような気がした。
その後も「彼女は、最初阿部家でおれの隣に座ってて。なんだか楽しそうにしててさ…」と社員のみなさんとの出会い話に花が咲き、宴は深夜近くまで続きました。
気取らず、あるがままの姿で食卓を囲むみなさん。毎日を自分なりに楽しみながら暮らす様子や、群言堂が大事にしているものが少し透けて見えるように感じた。私はどうしていきたいのだろうと、ふと我に立ち返る時間にもなりました。
おなかも心も満たされた夜でした。
今回お話を伺った、群言堂の三浦さんと今崎さんがリトルトーキョーにやってきます!
日時:2017年10月1日(日) 18:00 〜 21:00 (開場 17:30)
定員:12名(応募者多数の場合は抽選とさせていただきます)
参加費:4500円
(ごはん7品+デザート、1ドリンク、小さなおみやげ 付き)
箱寿司や、旬の野菜をつかったてんぷらなどコラムでご紹介した群言堂のみなさんとの食卓が東京にもやってきます。もちろん地酒もご用意しますよ。暮らしのことや仕事のこと、ざっくばらんにお話ししましょう。
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