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江戸の濃い味をつなぐひと

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

その味に、びっくりすること間違いなし。

「日本橋弁松総本店」がつくる、「ただならぬお弁当」を知っていますか?

それはもう、砂糖と醤油の分量を間違えたのかと思うほど、甘辛くて濃ゆ〜い味。

だけど、どこか懐かしい。

はっきりした味付けを好む江戸の庶民たちに支持されて以来、なんと160年以上も同じ味を守り通しているんです。

benmatsu01 落語や歌舞伎、大相撲などの世界でも愛され続け、テレビや舞台での楽屋弁当としても利用されている、知る人ぞ知る江戸の味。

今回はそんな味をつないでいく、製造スタッフを募集します。

調理人というよりは、宮大工や伝統工芸の職人のように「文化を継承する人」という感覚のほうが近いかも。

ここにしかないやりがいがきっとあるはずです。


深夜1時過ぎ。東京・江東区にある弁松総本店の工場に着いた。

暗い夜道の中、ここだけにあかりが灯っていてなんだかワクワクする。

benmatsu02 街が静かになったころに動きだすこの工場は、隅田川がすぐ近くに流れる永代橋(えいたいばし)のふもとで、実は日本仕事百貨のオフィスがある清澄白河からもほど近い。

ここでは深夜から翌朝にかけて、毎日1000食以上のお弁当が製造されています。


白衣に着替え、手を洗い、エアシャワーを通ってから工場の中へお邪魔すると、さっそく煮物のいい匂いが漂ってきた。

玉子焼をはじめ、椎茸や里芋、レンコンの煮物など、おかずをひとつずつ、経木(きょうぎ)でできたお弁当箱に詰めていく。

アルバイトでは、ベトナムや中国からの留学生も多く、みんなテキパキと動き回っている。ときおり会話を交えるシーンもあって、想像よりもなんだか和やかな雰囲気。

benmatsu03 全部詰めたら包装し、段ボールに入れ、配達のスタッフにバトンタッチ。

配達を送り出したら7時か8時くらいにまかないを食べ、注文伝票の整理など事務作業をしてから、仕事を終えるのはだいたい11時ごろ。

保存料などの添加物には頼らない昔ながらの製法だから、つくり置きはせず、その日の注文数に合わせてつくる数を変える。それに応じてスタッフの出勤時間も早くなったり遅くなったりする。

深夜1時すぎからのことが多いけれど、お祭りなどで注文数が増え、いそがしいときには22時ごろから出勤する日もあるんだとか。

出勤と退勤の時間が直前になるまで分からないことが多いし、土日出勤もある。この生活リズムに柔軟に対応できる人じゃないと、続けていくのは難しいかもしれない。

benmatsu04 8代目社長の樋口純一さんに、この会社の歴史について伺いました。樋口さんも、実際にお弁当づくりに携わっています。

「160年以上前に創業し、もともとは日本橋魚河岸で『樋口屋』という食事処をやっていたんです」

benmatsu05 食事のあまりを持ち帰れるサービスを始めるとたちまち評判となり、3代目以降はテイクアウト一筋に。「弁当屋の松次郎」から「弁松」となっていった。

なんと日本で一番古いお弁当屋さんなのだとか。

お花見やお祭りなど季節の行事や、冠婚葬祭、さらには楽屋弁当などの注文に応じて配達するほか、東京・日本橋にある直営店とデパートでも購入できる。

本店のある日本橋には古くから続く老舗も多く、樋口さんとしても地域の行事は大切にしているそう。

「先日、大相撲の初日を知らせる触れ太鼓(ふれだいこ)に来てもらいました。江戸時代にあった風習で、一つひとつの店舗を歩いて回るんです。とても良い雰囲気でしたよ」

昔からひいきにしてくれるお客さまもいる一方で、新しいお客さまへのアピールはなかなか難しいそうです。

「一時期ウェブ広告を出したこともあって。アクセス数こそ増えましたが、弁当と検索してページを見てくれた人たちは、値段や配達地域が気になっていて、べつに江戸の弁当が食べたいわけじゃないんですよね」

「よそのお弁当でもいいやっていう人よりは、江戸や日本橋に興味があって、うちのことを理解してくれる人に、しっかりと届けていきたいです」

江戸の味、弁松総本店のお弁当。だから食べたい。

そんな風に求めてもらえるよう、会社としての方向性も舵を切っている真っ最中。

今後は販売する場所やお弁当の種類など、もう少しコンパクトに絞っていくつもりなんだとか。労働時間についても改善していきたい。

「父の時代は景気も良かったので、販路を拡大していくことが良しとされていました。デパートへ次々と出店して弁当の種類も増やしていったんですけど、時代も変わってきて、少し手を広げ過ぎてしまったかなあと」

「たとえば、夫婦で経営しているようなどら焼き屋さん。儲かっているかはわからないけれど、売り切れ御免で毎日つくっている。売れ残った商品を、夕方値引きして売るよりは、そっちの方がよっぽど幸せだと思うんです」

儲かるばかりが幸せではない。一つひとつのお弁当を大切に届けていきたいという想いが伝わってきました。


製造スタッフの高橋さんにもお話を聞いてみます。

高橋さんは日本仕事百貨の記事がきっかけで入社し、3年が経ちました。めでたく昨年結婚をされたそう。

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夜間での仕事となると、1時から出勤するなら23時には起きるとして、夕方17時くらいには就寝しないといけません。生活する時間帯が奥さまと違うことによって、一緒にいる時間を確保することは難しくないのでしょうか?

「まあ、これくらいがちょうどいいんじゃないですかね(笑)土曜日に休みをもらったり、土日で連休をもらうこともたまにあるので、そういう時は一緒に出かけています」

夕方になると眠くなっちゃいますけど、と笑う高橋さんの仕事は焼方(やきかた)。玉子焼やめかじきの照焼など、焼くおかずの担当だ。

「玉子焼を3本いっぺんに焼けるようになったのは嬉しかったですね。はじめは1本でも難しくて、ひっくり返したらそのままいなくなっちゃったこともありました」

ひとりで3つの玉子焼用なべを交互に操り分厚く焼き上げていく様は、まさに職人技。毎日つくるお弁当の数は変わるけれど、仕事の内容はさほど変わらないから、スキルが上がっていくのがわかるといいます。

benmatsu07 最近あった失敗エピソードも教えてくれました。

「別々のお店で販売するお弁当を、反対の段ボールにそっくり入れ間違えてしまったんです。慌てて先輩とそれぞれのデパートに回収に行って。開店ギリギリでした」

「逆に後輩から助けられることもありますよ」と話すのは、同じく製造スタッフで焼方の先輩、小山さん。

「贈り物として注文をいただいたときに手提げ袋を入れるのですが、それを忘れてしまうんです。後から追いかけてもらって、っていうことは何回もありますね(笑)」

benmatsu08 小山さんは37歳のときに転職をして、ここへ来てからは8年目。前職では住宅リフォームの営業をやっていたそう。

「老舗だったので長く仕事を続けられそうだな、と思って入社しました。今は慣れちゃいましたけど、最初は立ちっぱなしなのが辛かったですね」

小山さんも高橋さんも、調理の仕事に就いた経験はありませんでした。

「むしろ未経験者のほうが変な癖が付いていないから、うまくやれるのかもしれないね。特にうちは味付けだったり、特殊な部分があるでしょ」

benmatsu09 味の特徴になるのは、なんといっても砂糖と醤油。照りのある黄金がとても美しくて、食品を傷みにくくするという目的もある。なんと、同じ規模の和菓子屋さんよりも多くの砂糖を消費しているというから驚きだ。

砂糖だったら30kgの大袋を1日1袋ちょっと、醤油だったら一斗缶3缶は空けてしまうのだとか。

「ええ〜!こんなに入れるの?!って。びっくりしましたね。砂糖も醤油も、ドボドボ入れます」

そんな濃い煮物をつくるのは煮方(にかた)の仕事。小山さんも、以前担当していた時期があります。

煮方はつくるおかずも多いため煮方専属で。焼方は詰め作業や包装、ときには配達など、オールマイティーに動くことが多いそう。

新しく入ってきた人は、まずは焼方から。適性も見ながらではあるけれど、経験を重ねた人でないと煮方は担当できません。

benmatsu10 製造に関わる社員はだいたい30〜40代の方が中心で、最年長だと60代のベテランの方も。

職人気質の人が多そうですね。

「それぞれに大切にしているこだわりがあるから、言ってることが人によって違ったりして(笑)みんな良いものをつくろうっていう気持ちは一緒なんですけどね」

お弁当におかずを詰める場面だったら、詰める順番や盛り付ける角度なども人によってこだわりが出てくる。

benmatsu11 「職人でもそうでなくても、人間ですからいろんな性格の人がいるじゃないですか。長く、一緒に同じものをつくっていくので、この人がいたらこういう風に入れようとかって臨機応変にやっています」

お弁当に限らず、冷蔵庫に貼ってある書類が曲がっていれば注意される、なんてことも。

「書類が曲がっていても、本来どうってことはないんだけど。その感覚で弁当を詰めてしまうとまずい、っていうことなんですよね」

「江戸っ子だから、言葉が足りないんだけど、悪気があってやっているわけじゃなくてね。そんなに怒ることかな、っていうときもあるんですけど(笑)」

すこしぶっきらぼうかもしれないけれど、すべては良いものをつくりたい、という信念を持っているからこそ。

「前向きで、少しのことではへこたれない。打たれ強い人に来てもらいたいですね」


帰り際、白衣を脱いでいると、事務所の一角になんだか激しいイラストを発見しました。

樋口さんの大学時代の先輩で、画家の方に贈ってもらったというこの逸品、実は「初めて弁松総本店のお弁当を食べたときの顔」なんだとか。

benmatsu12 「濃い味でびっくりしているのか、美味しいかまずいのか、よく分からなくていいんですよね(笑)」

「とにかく、衝撃は伝わってくる。はじめてお弁当を食べた人がこんな顔をしてしまうほどの衝撃が与えられるならいいなあと思って、飾っているんです」

衝撃の味、か。なんだかわかる気がします。

夜型の生活だし、大変なこともあると思う。だけど、ここにしかないやりがいがきっとあるはず。

お客さんからクレームが来るほどの濃い味付けを160年以上も貫き通している、唯一無二の「ただならぬ弁当屋」なのだから。

1/29にはリトルトーキョーでしごとバー「老舗ナイト 弁当屋編」も開催しますし、夜中の工場見学もできるそうです。まずは気軽に、ぜひ連絡してみてください。

(2017/01/16 今井夕華)

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