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全国各地に、地域を元気にしようと活動している人たちがいます。コミュニティをつくったり、地域の資源を発掘したり、外から人やお金が入ってくる仕組みをつくったり。
いい流れをつくるためのきっかけは、さまざまです。
今回は茨城県の北側、県北地域をフィールドに、まちを元気にするためのきっかけを、大学生のインターンシップでつくろうとしている活動を紹介します。

自然豊かなこの場所で、小さいけれど着実に、事業の種が芽吹こうとしています。
茨城は、実は私の地元です。私の暮らす県南地域から東京へは電車で1時間。つくばや守谷は都心に通勤する人たちのベッドタウンとして、今も人口が増加しています。
一方で日立のある県北地域は、茨城でも人口減少率の高い地域。2010年に39万人だった人口は、2040年に26万人に、高齢化率は42%になると予想されています。
状況を変えるために農家民泊やグリーンツーリズムのPR、二拠点居住推進やクリエイターの誘致など、都心から意外にも近い立地を活かした取り組みが行われています。
海と山の豊かな自然をフィールドに、2016年には県北芸術祭が開催され、にぎわいを見せました。

企業と学生をつなぐコーディネーターとして活動をしている若松さんと、常陸太田駅で待ち合わせをしました。
あたらしく入る人は、若松さんとともにこの事業に取り組んでいくことになります。

「環境問題とか温暖化がニュースで話題になっているのを知って、持続可能な環境をつくるにはどうすればいいんだろうって考えていて。小学校のころに植物の研究者になろうと決めたんです」
夢を貫いて研究者への道を進んでいった若松さんは、東京の大学に進学、ライフサイエンスを専攻。砂漠の緑化、光合成に関する研究をしていたそうだ。
「でも、ふと気がついてしまったことがあったんです。この研究をして特殊な技術が開発されたとして、環境の持続可能性につながっているのか、疑問に感じてしまって」
たとえば木材。ブラジルや東南アジアから安い木材をわざわざ運んで使っているのに、値段が高い日本の里山の木は、切られないことが問題になっている。
「技術的にどうこうっていうっていうのではなくて、経済的な問題。経済合理性が環境問題に強く関わっているんじゃないかと思いました」
そこから若松さんはぐっと方向転換。就職したのは急成長をしているインターネット広告のベンチャー企業だった。
「ベンチャー企業なら経済がどう回っているのか、目の前で勉強できるだろうって。1年目は広告の運用をひたすらやって、2年目からは会社の中で新規プロジェクトを立ち上げたりしました」

「さまざまな地域で活動支援をするほど、担い手不足を感じました。持続可能なコミュニティをつくっていくためには、人材育成が必要なんだって。そんなときに、地元でコーディネーターの募集があることを知ったんです」
もともとUターンを考えていた若松さん。
日本全国でインターンシップ事業を手がけるNPO法人ETIC.(エティック)がアドバイザーとなり、インターンシップ事業が立ち上がるタイミングで、地域おこし協力隊としてプロジェクトに参加したのが、3年前のこと。

受け入れてくれる企業へのヒヤリングからプログラムの設定、大学生の募集やインターン中のケアまでを、今はほぼ1人で担っている。
「まずは受け入れを検討している企業から話を聞いて、プログラムを組んでいきます。商品開発やPR、場づくりをすることもあります。学生にやらせたいことではなくて、本当にやりたいことを聞くんです」
本当にやりたいこと、ですか。
「インターンという言葉を聞くと、今やっている仕事の一部をあてがって“お仕事体験”みたいに考えてしまう方も少なくありません。でも僕がやりたいのは、学生をきっかけにして、あたらしいチャレンジをする企業を増やすことなんです」
「商売を続けていくために、地域全体を活性化する必要性を感じてる企業がたくさんいます。やりたいことはあるけれど、人手がないしやり方もわからない。そこを学生のインターンシップで解決していきたいんです」
インターンと聞くと教育的な要素が強いのかとばかり思っていたけれど、若松さんは企業や地域からの視点をとても大切にしている。
この地域にある企業がそれぞれにあたらしい挑戦に取り組んでいけば、人が集まって、地域が元気になる。そのきっかけをつくるのが、インターン。

インターンの募集媒体に情報を出したり、地元の大学にアプローチをしているけれど、参加する学生を集めるのには苦労をしているんだとか。
「留学やワークショップ、最近は就職に直結したインターンも増えています。このプログラムにいかに関心を持ってもらえるかは、1つの課題ですね。学生にとっては社会人と接することができる、いい機会になっていると思います」
中でも人気の企業なのが、北茨城市にあるまるみつ旅館。
どんなプロジェクトが行われているのか話を聞くために、3代目の武子(たけし)さんに会いにいく。

ほかにもお土産が購入できるお菓子屋さんを運営するなど、攻めの経営をしている旅館だということが伝わってくる。
館内を見学させてもらったあと、薪ストーブが焚かれたロビーでお話を伺う。

旅館のオーナーと聞くとちょっと身構えてしまうけれど、武子さんはとても気さくで話しやすい。
これまで、インターン生とどんなプロジェクトに取り組んできたんですか。
「最初はご当地弁当がないね!っていうところから、インターンの子たちに開発してもらいました。いいのができたんですけどね、量販体制を考えるところまではたどり着かなかったので、まだ商品化には至っていません」
あんこうの吊るし切り体験も、学生が企画してくれたもの。この春はコラーゲン風呂のPRに取り組んでもらおうと、学生を募集しているところなんだそう。

実際にインターンがはじまったら、基本的には企業と学生のやりとりになる。
まるみつ旅館では毎年新卒を採用しているわけではないから、中間層の社員が仕事を人に教えるという経験の場ができるのも、インターンを受け入れる大きな理由になっている。
とはいえ学生を送り込むだけでは、プロジェクトの成果を出すのは難しい。必要な人脈をつなげたり、ワークショップを開催したり。この期間中も若松さんはコーディネーターとして積極的に関わっていく
学生を受け入れていて、大変なことってありますか。
「もちろん、毎日出してくれる日報に返信したりとか、受け入れている間は気にかけています。でもそこまで困るようなことはないんです。ある意味、最初からそんなに期待してないってことなんですよ」
期待してない、というと。
「もちろんやる気のある子が来てくれるんだけど、たのしい春休みを過ごしたいっていう感覚もありますよね。でも仕事ってそんなに甘くないじゃないですか。あたらしいプロジェクトに僕ら企業側がかける情熱とはやっぱり違うわけですよ」
インターンの制度に不満があるというわけではない。1期目からプロジェクトに参加して、やってくる学生とのいい付き合い方を見つけてきた中での考え方。

今は企業が無償で受け入れをしているけれど、お金を払ってインターンを受け入れていくことは考えられますか。
「今のままだと難しいでしょうね。お金を出してプロジェクトに取り組むなら、コンサルティングとかデザイナーを入れて解決すればいいですから。来てくれる学生さんのスキルが毎回高いとか、そのまま採用をすることを前提に長期的なものにするとか。やりようはあると思うんですけど」
今後事業を展開していくためにも、武子さんの意見はとても参考になると思う。
「若松さんは、いろいろな視点を持っているから経営の相談をすることもあって、頼りにしています。彼の場合には、今提案してくれる方法がインターンっていうだけで」
若松さんはどう考えているのか聞いてみる。
「そうですね。僕、今までの経験から見ても企業側との関係をつくっていくほうが向いてるんだと思います。入ってくる人には、とくに学生とコミュニケーションを取る側を任せられるといいなと思っていて」
学生がより企業の中で成果を出すために、もしかしたら募集の方法から見直すこともできるかもしれない。地域への愛着を育てるという意味では、高校生から参加できるプログラムがあってもいいし、社会人インターンの受け入れを考えてもいい。
事業を展開していくために、できることはたくさんある。
若松さんも試行錯誤の毎日。はじめてのことばかりだけれど、一緒にたのしく挑戦していける人に出会いたい。
ちょうどこの日はETIC.が主催する、コーディネーターの研修会が県北で開催される日。若松さんの取り組みの視察に、岐阜、石川、奈良など、全国でインターンのコーディネート事業をしているみなさんが集まっていた。
こうやって全国に相談できる相手がたくさんいるのは心強いと思う。

ぜひ一度、足を運んでみてください。
3月8日には若松さんが、清澄白河のリトルトーキョーで開催するしごとバーにゲストとして来てくださることになりました。
インターンシッププロジェクトに関心がある人も、茨城出身の人も、そして応募を迷っている人も。ぜひ遊びにきてください。
(2017/2/27 中嶋希実)