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ずっと続く店って、どんな場所だろう。変わらぬ味をつくり続ける店もあれば、変わり続けるから応援される店もある。
「ダニエル」は、神戸・芦屋で29年続く洋菓子店です。
変わらないダニエルらしさを残しつつ、常にあたらしいことにも挑戦してきたお店です。

変革期を迎えるダニエルでは、あらたな事業と働く人たちの関係を育てながらお菓子づくりをしていくパティシエを募集します。
パティシエとして働いた経験なくても、やってみたいという気持ちがあれば、ここで経験を積みながら働くことも可能です。
訪れたのは神戸の甲南山手駅。歩いて6分ほどで、通り沿いにダニエルの本店が見えてきた。

まずお話を伺ったのは、オーナーの中村さん。スタッフからは「シェフ」と呼ばれています。

料理の勉強をしようと考えて調理師学校に進学。フレンチレストランに就職して、まずは研修のためにサービススタッフとして働きはじめた。
「タルトやソルベ、そういう新しいデザートが定着してきた時代でした。お客さんが食べる姿を見て、お菓子に惹かれていったんですよね。調理場に入る前にお店を辞めて、お菓子をつくれるホテルのレストランで働くことにしました」
レストランでは、デザートのつくり方を教えてもらったというよりは自分で考えてつくることが多かった。留学制度を利用してフランスに渡ったりしながら、経験を積んでいった。
いい物件の話が舞い込み、独立したのが29歳のこと。
「それまでケーキ屋さんのケーキをつくったことがなかったので、レストランのデザートをそのままテイクアウトできるようなことを考えたんです。常識に感化されずに自由な発想でできたことが、よかったんじゃないですかね」
29年、変わらずに大切にしてきたことは「今までないもの」。
「カスタードクリームだったら卵黄の旨味と牛乳の風味。砂糖は極力少なくして、素材の味を前面に出すのが基本です。ただ甘いだけではないので、大きくても食べられるんですよ」

地元の人に愛される味をつくりながら、大切にしているのは媚びすぎないことなんだそう。
「愛想が悪いとか、そういうことではなくてね。スタンプカードはつくらなかったり、バレンタインだからって定休日も営業することはないんです。お客さんと長くお付き合いするためにも、常に前に進んで新しいものを提供していきたいんですよね」
これまでも東京の銀座や名古屋に店舗を出したり、レストラン形態のお店を出したり。条件が合えば、まずはやってみるスタンスを続けてきた。
そんな中村さんがこれから挑戦したいのが、淡路島に果樹園をつくること。
中村さんは以前日本仕事百貨で紹介した La Terrasse Awajiという貸別荘の運営もしていて、隣にカフェをつくったりコテージを増やしたいと考えている。その場所ではじまりつつあるのが、果樹園をつくること。
ふだん手に入りにくい果物を自分たちで育てる場所。先日ははじめて、黒イチジクを植えたそうだ。

自分で育てたものを自分で使う。淡路島のプロジェクトと神戸がつながりますね。
「もちろん、いいことばかりは言えません。時間はかかるだろうけれどちゃんとお金につながっていかないと意味がないし、働く人も幸せになれない。シビアに考えつつも、一緒に考えてくださる方に出会いたいです」
あたらしく入る人が希望すれば、将来淡路島にできるカフェを任せることもあるかもしれない。果樹園や淡路島のプロジェクトに関わる機会もつくりたい。
そのためにもまずは、事業の軸でもある神戸のダニエルを一緒に考えてほしい。
ダニエルというチームは今、変化するタイミングを向かえているそうだ。

今、働いているスタッフはほとんどが20代前半。中村さんとの年齢差も広がってきたこともあって、今までの組織のあり方に限界を感じることが出てきた。
「職人の世界なので、封建的な師弟制度の中でやってきました。僕がいて、みんなを引っ張っていく形だったんです。今はつくり手の仕事に対する考え方も変わってきたので、通用しないんですよね。これからは関係を変えて、参加型の組織にしていきたいんです」
参加型、ですか。
「僕の感覚がダニエルをつくってきました。これからは、みんながコンセプトや企画を考えるところから携われるようにしていきたい。僕が仕切るだけではなくて、自主的に関わる組織をつくりたいんです」
「一緒にダニエルをつくっている実感ができれば、お店もさらによくなる。結果的に、報酬という意味での幸せにも反映していけるはずです」
単に雇う側と雇われる側の関係で働くのではなく、苦楽をともにしながら一緒に考えていける関係をつくりたい。
とはいえ、今までつくってきた関係を変えていくのは簡単なことではないと思う。
「まずは正直に話をできる関係に変えること。僕の様子を伺いながら話すのではなくて、はっきり意見を言い合える関係をつくっていきたいと思います。そのために、まずは僕も変わっていかないといけないでしょうね」
「たとえば彼のようにね」と紹介してくれたのが、週2日広報として関わっているウスマンさん。
「彼ははっきり意見も言ってくれるし、いい感覚を持っています。いろいろな情報があふれる中で、ダニエルに合いそうな人をつなげてくれるんです。その感覚は、僕にはない能力なんですよね」

お店が近いこともあって今でもよくご飯を食べる仲なんだそう。

「シェフは最初、話しかけれられないくらい怖かったというか(笑)いらっしゃるだけで工房の空気が引き締まるような方でした。少しずつ話をして、いろいろなことを教えてもらいました」
前田さんが入社したころは、独立志向の多いスタッフが集まっていた。学ぼうとする意欲が強い分、スタッフ同士が意見をぶつけるようなこともあった。
「働く条件よりも、自分の夢を追いかけているような人が多かったんでしょうね。自分のお店をやりたいと思っていたから、頑張れました。それくらい大変な仕事ではありますよ」
ケーキ屋さんというと華やかな仕事のように聞こえるけれど、朝も早いし重い材料を運ぶ体力仕事も多い。小さいころからの夢を叶えて働きはじめたものの、辞めてしまう人も少なくない。
日々過ごしているうちに、つらいことに目が向いてしまいがちになる。ダニエルでは働き方を考えて、働く時間や報酬についても改善を続けてきた。
「もちろん休みもお給料も多いほうがいいですよ。それよりも技術を身に着けたいとか。条件を目的にはじめる仕事ではないような気がするんです。意識がどっちに向くかで、仕事への関わり方は変わると思いますね」
これからは働き方も中村さんが提示してくれる条件を待つのではなくて、一緒に考えていくような関わり方ができるといいかもしれない。
「シェフは信頼できる人には、どんどん新しいことを任せてくれます。信頼できないと思うと、離れてしまうのも早い。いい関係を続けていくには、シェフの姿勢を待つだけではなくて、こちらからもちゃんと態度で示すことが必要だと思います」
前田さんのお店を後にして、本店からすぐの場所にある「テラス ダニエル」に向かいます。
ここで主にパンの製造や販売を担当しているのが内田さん。

私がここに着いたのは16時。人気のカヌレのほかにパンやスコーンも完売していて、今日もお店が賑わっていたことが想像できる。
パンをつくっていたお母さんの影響を受けて、お菓子づくりの道に進んだという内田さん。お店の雰囲気とカヌレのおいしさを知り、ここに就職することを決めた。
「考えていた以上に体力が必要だったのが、正直なところです。お客さんの姿が見えるお店なので、笑顔で帰っていく姿がうれしくて頑張ってきました」
内田さんは、スコーンやパンの新しい商品をつくる役割も担っている。
中村さんから伝えられるイメージを実際にかたちにしていくとき、どんなことを意識していくんだろう。
「ダニエルっぽさを考えます。周りのスタッフにも相談しつつ、自分の感覚で何度も試してみるんです。パンをこねていると、生地がかわいくなってくるんですよ(笑)」
ダニエルっぽいって、どんなものなんでしょう。
「そうですね…親しみやすいけれど、ほかのお店にはない。新しい商品だけれど、派手すぎない。ずっとあったようで新しい。言葉にするのって難しいですね」
ここで働きはじめて丸4年。少しずつ余裕もできてきて、パンのこともお店のことも、どうなったらよくなるだろうと考えることができるようになった。
思ったことは、なるべく周りのスタッフや中村さんに伝えるようにしているんだそう。
「将来は母と一緒にお店をやるのもいいなと思っています。そのためにも自信をつけないといけませんよね。生菓子にも挑戦してみたいです」

まずはぜひ、ダニエルのお菓子を食べてみてください。
(2017/4/11 中嶋希実)