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「同業者からこだわっているよね、って言われるんですけど。当たり前でしょ、っていう感覚なんです」
目黒にある葬儀社、花心の松本さんの言葉です。
季節の山野草や花でしつらう祭壇や葬儀式場。京都の老舗『松栄堂』のお線香。エコタイプの棺。それに料理に会葬返礼品。
たしかに「こだわる」と言われることもあるかもしれないけど、そもそも「こだわる」という言葉は「細かいことにとらわれる」というように、マイナスのニュアンスがある。
それに故人や残された人たちのことを考えれば、答えは一つではないから、何かにこだわらずに一つひとつにきちんと向き合ったほうがいい。
そうすれば「当たり前」という言葉は、自然と感じるものなのかもしれません。
葬儀社の葬祭ディレクターと事務アシスタント、そしてフローリストの募集です。とても大変だと思います。でも大変勉強になる取材でした。もしよければぜひ読んでください。
東急東横線の都立大学駅から歩いて10分ほど。閑静な住宅街の中にある一軒家が、花心の事務所です。
玄関を入って階段を上ると事務所スペース。向かって右側に机が並び、左側にソファ。明るい日の光が差し込んで気持ちがいい。鳥の鳴き声も聞こえるし、神棚もあり、空気も澄んでいるように感じられる。
前回、取材したのはもう5年以上前。あらためて松本さんに話を伺った。
前回から何か変化していることってありますか?
「少しずつご縁のあったお客さんからご相談いただけることは増えましたね。親戚や家族のご葬儀に出席された方などです」
働いている方も変わりましたか?
「そうですね。辞めたスタッフもいます。一言で言えば、厳しいからでしょうね」
たしかに葬儀社の仕事はそう思いますけど、どう厳しいのでしょう。
「一回しかないご葬儀なので、失敗はできないですから。もちろん、人間だから失敗をゼロにすることは難しいですけど、限りなくゼロにしないといけない職業なのです」
「身だしなみも言葉遣いも大切です。でもそれって特別なことではなくて。ただ、当たり前にやるべきことをやれていない人が多いんですよね」
それって義務感なんでしょうか。もしくは自分の納得感というか。
「どちらもありますね。今、世の中には手を抜いているものが増えているように思います。お客さまにはわからないように手を抜いているんでしょうけど、ふとしたときに伝わってしまうんです」
「あとは支払った金額に対して、満足度があればいいと思います。でも結局は当たり前のことだと思うんです」
当たり前。
「この仕事に携わるんだったら、きちんとやりましょう、と思うんです。とはいえ、そんなことを言っていられないんですよ、最近は人手不足だから。でもお客様のことを考えたら、そう思ってしまいます」
なぜそこまで「当たり前」にできるのだろう。
もう少し具体的な仕事内容について聞いてみることに。
「事前に打ち合わせをしている場合もありますが、まず電話がかかってくるんです。そうするとどちらに帰られますか、ということになります。ご自宅なのか、どこかの施設なのか」
「病院によっては次の日の朝までいていただいていいですよ、というところもありますが、ほとんどの病院はすぐに出てください、というところが多いですから」
仕事のはじまりは、ご遺体を病院にお迎えに行くこと。夜間は当番制で事務所、または自宅で待機し、連絡があればアルバイトや社外の専門の方と一緒に2人でお迎えに行く。
「これは大変だな」と思っていたら、深夜にお迎えに行くのは会社全体で月に3、4回ほどとのこと。もっとたくさんあるのかと思っていた。
夜間の当番のときは、何もなければ事務所や自宅で寝ているだけでいい。さらにスタッフが増えれば負担も減っていくことになる。
その次は打ち合わせ。スケジュールを決めたり、どんな葬儀にするのか内容を考えていく。
花心の葬儀は、社名のとおり花を大切にしている。
「季節の草花を取り入れて、そのエネルギーで故人様をお送りする。また同じ草花の季節になれば、たくさんの方たちが故人様を思い出してもらえるでしょうし、残された家族も癒されると思うんです」
「あとはお花の仕入れも自分たちでします。大田市場に朝一で行きます。そんな葬儀屋さんはいないんじゃないかな?普通は花屋さんに丸投げしていますから」
理想は朝4時に市場へ行く。そうするといい状態の花がたくさんあるそうだ。
今後は買参権を取得する予定とのこと。そうするとセリにも参加できるし、負担も減るそうだ。
「市場は月曜・水曜・金曜と開いているので、日曜日のお通夜なら最終仕入れは金曜日なんですよ。あとは花によっては、もう少し早く買って蕾を開かせる、ということもあります」
お花はどうやって選ぶんですか?
「まずはテーマを決めるんです。ハワイが好きだった方ならハワイのお花や南国の花を仕入れる、ということもあります」
「先日の方は、お亡くなりになる直前まで水泳をされていた方だったので、青いお花をテーマに探したこともありました。ただ、その時期に青い花は少なく、青く染色したものが多かったので、青系の紫色の花を提案しました」
告別式では、必ず最後に棺に入れる花もあるそう。
オールドローズ系の香り薔薇など、季節の香りが良い花を用意し、棺に入れる前に匂いを嗅いでもらってから献花してもらう。
いい香りを記憶にしっかりと焼き付けて欲しいという思いもある。また同じ香りがしたら、残された人たちも故人を思い出すことができる。
ほかにも一つひとつのことに気を配っている。それが「当たり前」にできるんだから、なかなか真似できないように感じてしまう。
どうして当たり前にできるのだろう。仕事の拠り所が何なのか聞いてみる。故人の方なのか、家族なのか、それとも神様なのか。
「すべてだと思いますね。実直で正直な人じゃないとできないでしょうし、神仏や故人様に見られているという意識があればなおさらだと思うんです。でも葬儀業界って、担当者がお客様に分からないように売り上げを誤魔化したりすることが未だにあるんですよ」
「告別式の食事もそうなんです。通常は同じ式場に帰して、仕出し屋さんに料理を頼んで、そこで手数料を貰うってことがよくあるパターンなんです。でもうちは故人様が好きで通っていたところがあればぜひそこへ行ってください、と話します。喪主様の本音は会葬者のみなさまに温かい食事を振舞いたいはずですよね」
もちろん、そんな業界で働くからこそ大変なこともある。花心もまた、最初はまったく信用されないということも多い。
「ご家族は葬儀社に対して、絶対に騙されないぞ、という感じですから。でも打ち合わせの途中からお通夜にかけて、少しづつ信頼してもらえるようになっていくんです。祭壇を見ていただいたりすると、ありがとう、って言われるんですよね」
「ほとんどの方がお通夜で180度変わります。『本当にあなたに頼んでよかったわ』って言っていただけます。でも終わってないですから最後まで頑張ります、とお伝えするんです。その瞬間はよかった!と思うんですけど、それまではしんどいですよね」
少しずつ松本さんの話していることが理解できたような気もする。感謝して、感謝されて、というように世界がつながっているという感じなんだろうか。
ほかの方はどう考えているのだろう。事務の仕事をしている浅田さんにも話を聞いてみることに。
どうしてこの仕事をしているんですか?
「ハローワークでここの事務職を見つけたんです。そのときは子供が小学生だったので、通勤時間や勤務時間などを考えて見つけたような感じなので。神仏の存在は信じるけど、そこまで信仰しているわけではないし」
「ただ、この場所をはじめて訪れたときはすごく居心地の良い場所だった印象でした。そこからもう5年経ちますね」
5年も働いていたんですね。大変なことはありませんでしたか?
「そうですね。事務と言っても思ったよりお葬式に関わりましたし、小さな組織ですからいろんなことをしました。でも最後に『ありがとう』とか『頼んでよかった』と言われると励みになりますし、日曜日に仕事をすることもあるんですけど代休もあるし、授業参観や私用などもしっかり休めました」
「たしかに社長の『当たり前』の感覚って高いんです。行灯とかも手づくりしちゃいますし。あとニホンミツバチの養蜂もしていて、自分で巣箱もつくってしまうんですよ」
養蜂?
松本さんに、なぜ養蜂をしているのか聞いてみる。
「人間の欲望で農薬を多用し、小さな生き物たちが住みにくい環境になっています。花の受粉を行うミツバチのような昆虫が絶滅してしまうと、人類の存続に関わるようです。農薬の被害の少ない都心部で保護したいと思い、飼育をはじめました」
「お花って、自分の子孫を残すために、きれいに咲いて、いい匂いを出して、蜜を出して、虫たちにきてもらって、受粉して、種を残すんですね。私たちは自然を大切にし、自然に感謝し、季節を感じながらこの美しい日本で暮らしているんです」
たしかに普段は当然のように感じてしまうけど、自分たちはいろいろなものによって生かされている。それが理解できたら、何ごとにも感謝の気持ちが生まれていく。
自分のことだけを考えるのではあまりにも寂しい。しかも一度しかないかけがえのない葬儀なのだから、喪主ができる限りのことをしたいと思うのは当然のことだと思った。
簡単なことではないけれど、この仕事に向いている人はいると思う。
最後に松本さんに、どういう人と働きたいか聞いてみる。
「大変なことばかりですけど、しっかりやっていれば感謝される仕事です。だから社会正義に飢えている人なら頑張れるかな」
「独立したい人もいいですよ。ノウハウだけ取って、というのは困るけど、ちゃんと守ってくれるなら、独立して花心ブランドを存分に使ってもらいたいです」
はじめは隣で勉強しながら働いて、ゆくゆくは一人で市場に花を買いに行ったり、お迎えに行くようなこともあると思います。
松本さんと同じように「当たり前」と思えるようになったら素晴らしいな、と思いました。
(2017/12/18 取材 再募集 2019/5/31 ナカムラケンタ)
6/5(水)には代表の松本さんをお招きした、しごとバー「感謝されながら生きナイト」を開催しました。ふだん少し距離を感じがちな葬儀社のお仕事について、お酒を飲みながらざっくばらんに話をする時間となりました。イベントの様子は動画にてご覧いただけます。よろしければこちらからどうぞ。