※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
本格的なイタリアンを提供するリストランテ。そう聞くと、料理長のきびしい指示が飛び交う現場を想像する。大変な縦割り社会のように見えることもある。
今回取材をした場所も決して生ぬるいことはないと思うけど、そこまで厳しい修行の現場という雰囲気でもない。
それはどうしてだろう。
スタッフの1人が、こんな話をしてくれました。
「厳しいというか、本気なんです。1分1秒でも早くお客さまに美味しいものを届ける。みんな料理人としてプライドを持っていて。それがかっこいいなって思ってます」
「フィッシュボーン」は鳴門を中心に徳島近海で捕れた魚介を使ったイタリアンを提供するリストランテ。モアナコーストという宿泊施設を併設するオーベルジュとして営業しています。
今回募集するのは料理人として働く人。経験があれば望ましいけど、料理に関心のある人であればここで1から学ぶこともできるそう。まずは職場の雰囲気を知るために、職場体験をすることも可能です。
合わせてフロントやホール、客室などを全般的に担当する人も募集しています。
料理をつくることを仕事にしたい人にとっては、気持ちよく働ける場所だと思います。
夕方の便で、羽田から徳島空港へ。
モアナコーストまでは車で30分ほど。オーナーの芝野さんがわざわざ迎えに来てくれた。
車中でお話を伺っていると、とっても実直な方だということが伝わってくる。
芝野さんは鳴門生まれの鳴門育ち。半農半漁で生活をする人が多い土地で、芝野家はお父さんの代からいくつかの商売をするようになった。
「明石海峡大橋ができることになって。神戸や大阪から鳴門に来る人も増えるだろうと、宿をつくる話を父としていたんです」
お父さんは議員をしながら、さまざまな会社を立ち上げていた方。そんな姿を見ていたから、芝野さんにとっても自分で事業をつくることは自然な流れだった。
客室は8室、レストランは20席ほど。イタリアのリゾート地にあるような、小さなホテルをイメージしながらモアナコーストを立ち上げたのが平成元年のこと。
「最初は失敗と言っていいくらい、うまくいきませんでした。阪神淡路大震災があって、さらにお客さんも激減して。神戸の三宮の駅前で、ビラを配るようなこともしましたね」
大きな転機となったのは、常連さんの要望に応えるかたちでガーデンウエディングに挑戦したときのこと。
今でこそ大人気なガーデンウエディングも、当時はまだメジャーではなかった。インターネットの普及も相まって、ここでガーデンウエディングをしたいとう依頼が後を絶たなかったそうだ。
ところが、そのブームも長くは続かない。
「流行ると、真似をするところが出てきますよね。ウエディングを専門でやっているところに、僕らは歯が立ちません。値引き合戦をしてもしょうがない。あくまでも宿泊でしっかりと運営できるように、レベルアップをしてきました」
4年前には別館のヴィラを併設。
全16室、それぞれ1泊2万〜4万円ほどの宿泊費を設定していて、最近は満室の状況が続くようになった。
「うちがなくなったら他のホテルに行けばいいと思われてしまうようでは、私たちの存在感は弱いということです。お客さまに必要とされる施設はなんだろう。それぞれが考えて、行動に示すように徹底しています」
オープン当初はいわゆる洋食を提供していたレストランも席数を増やしたり、提供する料理を変えていくなかで、今のかたちをつくってきた。
ここ数年のあいだには、現在常務を任せている息子さんに経営を譲っていきたいと考えている。芝野さんがつくってきた「この場所らしさ」は大切に、これからも柔軟にホテルやリストランテを続けていきたいと考えているんだそう。
ディナーの前にまずはチェックイン。フロントで今日のメニューが紹介されて、事前に食べたいものを選ぶ仕組み。
チェックインのときにメニューを選ぶなんてはじめてだったので、ディナーの時間がさらに楽しみになる。
お客さんには特別な旅行や記念日などにいらっしゃる方が多いそう。この日もリストランテ「フィッシュボーン」はたくさんのご夫婦やグループで賑わっている。
前菜の1品目は鮮魚のカルパッチョ。
その後は徳島産ふぐのミネストローネ、パスタ、メインそしてデザートとリズムよく料理が運ばれてくる。どれも口に入れたときに広がる香りが印象的で、あっという間に時間がすぎていく。
ホールスタッフのみなさんは、こちらの姿勢も伸びるほど丁寧にサーブをしてくれる。
厨房とのあいだではイタリア語が飛び交っていて、活気のある雰囲気が心地いい。
おなかもいっぱいになって、今日はこのまま客室へ。部屋はメゾネットタイプで、屋上では専用のジャグジーに入ることもできる。
贅沢な気分を満喫してぐっすりと眠った。
翌朝モーニングをいただいたあと、話を聞いたのが料理長の木下さん。
「料理長」と聞いてすこし緊張していたら、気さくに話をしてくれた。
「料理に興味があって、中学のころにはこの道でやっていこうと決めていました。つくる、っていうことが好きだったんでしょうね」
地元は徳島市。居酒屋やカフェ、和食洋食を問わず、さまざまな形式の料理をつくるお店で働いてきた。
モアナコーストに来るきっかけは、前職の社長が芝野さんを紹介してくれたこと。
「僕が師匠と呼んでいる人が、前にここで料理長をしていたんです。イタリアンをやりたいと思ったのも、その人のパスタを食べて感動したことがきっかけで。ここで働けば、師匠の感性に近づけるんじゃないかと思ったんですよね」
「イタリアンはすごくシンプルなので、素材の味がダイレクトにおいしさにつながります。せっかくここに来たなら鳴門の食材を食べていただきたい。イタリアンを鳴門の食材でつくるとこうなります、っていう提案をしている感じです」
魚介類はすぐそばの漁港や魚市場から。ときには知人の漁師さんから届けてもらうこともある。ほかにも阿波ポークや阿波牛、阿波尾鶏など地場の食材もたくさんある。野菜やハーブはホテルの裏の畑で育てているものを使うこともあるそうだ。
今は大阪からグランシェフを招き、よりよい料理をつくれるよう試行錯誤をしているところ。
メニューは月替り。ある程度の期間メニューを固定すれば若いスタッフが調理方法を覚えやすいだろうと、芝野さんと相談して決めたそう。
「働きやすい環境をつくるように考えています。シェフって華やかな仕事ではないんですよ。仕込みが仕事の8割を占めていて、すごく手間をかけます。それでいて、営業時間はあわただしい。思っていたのと違う、と言われてしまうこともあって」
「この仕事はいずれ独立していくことを見据えて働く人が多い職場です。僕もいつか自分の店を持つことも考えていて。そやからチームとしても余裕のある体制づくりをしていきたいと思っています」
モーニングとディナーは宿泊客を中心に30食ほど。ランチは10名ほどの日もあれば、100名もの人で賑わうこともあるんだそう。
ランチタイムの厨房では、4人の料理人が動きを止めることなく料理をつくり続けている。
緊張感の伝わる空気のなかでときにはきびしい言葉も飛び交いつつも、手元からは次々と料理が生まれていく。
できた料理を運んでいくのが、厨房のとなりで目を配らせている方々。
山下さんはホールスタッフ兼バリスタとして働く方。入社したのが半年前とは思えないほど、きびきびとした動きが印象的だ。
「僕、16から働いてたんです。最初は現場仕事からはじまって、理容室や居酒屋でも働きました。やんちゃな性格だったこともあって、周りとうまいこと合わせていけんかったんです」
その後もピザ屋のバイトや冷凍倉庫での作業員など、仕事を転々とした山下さん。転機になったのは、個人経営のカフェで働いたことだった。
「オーナーさんもスタッフもすごく親切で。社会人としてありえないような行動をとってしまっても、若いからってちゃんと注意をしてくれて。こういう職場があるんやなって」
そこで芽生えたのが、カフェやコーヒーに関わる仕事をしたいという気持ち。調べていくうちに、バリスタという職業があることを知った。
「自分にしかできないラテアートを描くとか、自分でオリジナルのドリンクをつくるとか。ソムリエみたいな感じがして、かっこいいと思ったんです。勉強をはじめたのが、17歳のころですね」
「これまで経験があったわけではないのに、ここではバリスタと名乗らせてもらっています。サービスマンとしての心得やしゃべりかたも、全部ここで教えてもらいました」
きちんとした接客を身につけるのは、大変なように思います。
「頭ごなしに命令されるんじゃなくて、きちんと理由をつけて説明してくれるんです。自分で考えて行動できるし、意見も聞いてもらえます。将来自分のお店を持ちたいと思っているので、調理も少しだけ手伝わせてもらっています」
きびしい料理の世界。新人は何年も食材にさわらせてもらえない、なんて話を聞くこともある。
与えられた役割にとらわれず、柔軟にお互いの仕事を手伝うようなことがここではよくあることなんだそう。
それは、オーナーの芝野さんが自らバスで送迎をしてくれたり、庭の落ち葉をはいたりしている姿をみんなが見ているからなのかもしれない。
「きびしいというか、本気なんです。1分1秒でも早くお客さまに、美味しいものを届ける。みんな料理人としてプライドを持っていて。それがかっこいいなって思ってます」
「僕、世界一のバリスタになるっていう目標があるんです」
世界一。大きな夢ですね。
「一緒に働くみなさんを見ていて、中途半端な覚悟ではできない仕事なんだとわかりました。仕事で大変なこともありますが、後悔しないように、やるんだったら精一杯やってみようって」
未来の世界一のコーヒー、飲んでみたいです。そう伝えると、うれしそうにエスプレッソをつくってくれた。
豆のこと、つくり方のこと、そして飲み方のこと。話しはじめたら止まらない様子から、本当にコーヒーが好きなことが伝わってくる。
「バリスタの端くれとしては、練習でつくったコーヒーも捨てたくないんです。そういうコーヒーはみんなが飲んでくれて。かげながら応援してもらっているような気がしてうれしいんですよね」
お料理をいただくときにも、宿泊をするときにも、そして敷地のなかを散歩しているときにも。
ここで働くみなさんが、まっすぐ仕事に向き合っている姿が伝わってきました。
シェフとして働いてきた人はもちろん、好きな料理を仕事にしてみたい人も。2泊3日からの職場体験も受け入れているそうです。まずはこの場の空気を感じてみてください。
(2017/11/30 取材 中嶋希実)