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「農場で育ってから生地になるまで、オーガニックコットンにはストーリーがあります。それを包み隠さず伝えていける自信が、我々にはあるんです」
これはパノコトレーディングの三保さんが話してくれたこと。
株式会社パノコトレーディングはオーガニックコットンの原糸の輸入・販売、生地やオリジナル製品の企画をしている会社です。
オーガニックコットンを取り扱うようになって20年以上。
今、パノコトレーディングでは、生地がどのような行程を経て製品になったのかをすべて公開する仕組みを取り入れようとしています。
生地のストーリーを正直に発信していくテキスタイルブランドになるため、自分たちの言葉を使って伝えていく。
そこで、今回は広報PRとして働く人を募集することになりました。
正直に伝えることができるのは、とても健やかなことだと思います。
神田駅から歩いて5分ほど。
パノコトレーディングに行くのは、「正直につながる」という記事で営業スタッフを募集した取材以来。
3年ぶりにオフィスの扉を開けると、前回と変わらない静かな事務所が目に入ってきた。日々落ち着いて仕事をしていることが伝わってくる。
まず話を聞かせてくれたのは、代表の野倉さん。
最近はどうですか。
「ちょうど1年前、現地でオーガニックコットンのプロジェクトを進めている方々を日本に招いてセミナーを開いたんです。うちのお客さんに声をかけたら、100名ほど集まってくださって。オーガニックコットンがずいぶん定着してきたんだと思いましたね」
パノコトレーディングがオーガニックコットンの取扱いをはじめたのは20年も前のこと。当時はオーガニックという言葉を耳にする機会はほぼなく、自分たちで市場を開拓するところからはじめていったそうだ。
それ以来、オーガニックコットンだけを扱いながら事業を続けてきた。
「今はスイスのリーメイ社が展開するプロジェクトに参加してします。インドとタンザニアの農家と直接契約する現地法人を通じて、原料を輸入しているんです」
地道に続けてきた生地の企画・販売に加え、3年前にはオリジナルのアパレルブランド「SOIL & RAIN」をスタート。
その後「sisi FILLE(シシフィーユ)」という女性に向けたプロダクトブランドを立ち上げ、オリジナル製品を展開している。
「ようやく事業の方向性が見えてきたっていう感じがします。最近ではオーガニックコットンっていう言葉を聞かなくなってきて。それだけ定着してきた、認知されてきたのかなって思いますけどね」
オーガニックコットンは栽培するときに使われる農薬や肥料の基準が厳しく定められている。土地に負荷をかけないため持続可能な栽培が可能で、育てている人たちの健康を害す可能性も少ない。
収穫したあとの紡績、織布、染色などの製造工程全体を通じても、化学薬品の使用が最小限に抑えられている。
ほかにも現地で児童労働などを行って栽培をしていないことなど、さまざまな取り決めをクリアしているものだけが、オーガニックコットンを名乗ることができる。
オーガニックコットンを選んで購入することは、本来あるべき環境への配慮やつくる人との関係、循環を保つことにつながる。
パノコトレーディングではオーガニックコットンを取り扱うだけでなく、生産地での学校運営、井戸の設置支援などへの寄付もしているそう。
社会に大きく貢献する仕事をしていると思うのだけれど、野倉さんやスタッフのみなさんからは「社会を変えてやるんだ!」という野望のようなものはあまり感じられない。
「そこまで大きく言わなくてもね。最初はちょっとしたことしかできませんから。欲張らないで、やれることに取り組んでいけたらいいと思うんです」
誠実で控えめな野倉さん。
同じような雰囲気をまとうスタッフの1人が、3年前にもお会いした三保さん。
今年から新たにはじまる取り組みについて、話をしてくれた。
「テキスタイルに関しては、自分たちが扱っているものにそれなりに自信を持っています。信頼できる現地のパートナーから間違いない原料を手に入れて、国内の機屋さんと一緒に生地をつくっているんです」
「そういった我々の情報の確実さや、そこに紐付いたストーリーを知りたがっている人っているだろうなと思って。Farm to Fabric。つまり農業から生地になるまで、実はストーリーがあることを伝えていこうとしています」
具体的にはパノコトレーディングの生地をつかった商品につけられるタグを発行。
タグのQRコードを読み取ると、その生地がどこから来て、どんなふうにつくられたのか、行程を知ることができるという仕組みだ。
ページを開くと、どんな農場で、どういう農家さんがつくっているのかわかる。さらに原料の紹介や特徴、地図なども表示される。
こうした情報に加え、糸を染めるときのこと、生地を織り上げる職人さんのこと。手にしている生地ができるまでのストーリーを写真や言葉で伝えていく。
「今は、ただ物がよくても購入のきっかけにはならないというか。その背景にある情報やストーリーをみんな知りたがっていると思うんです。食べものでも、農家さんの顔がわかるとよりおいしく感じることってありますよね」
情報やストーリーを開示できるということは、綿花を育てて製品になるまでの長い年月のなかで、なに一つ、隠すことがないということ。
それが、パノコトレーディングが取り組んできたものづくり。
実は、積極的に伝えていくということは、パノコトレーディングにとって大きな挑戦になる。
Webサイトなどを見ていても、これまではあまり多くを語ってこなかった印象を受ける。
それは野倉さんや三保さんから感じる、ちょっと職人気質な雰囲気がそのまま表れているのかもしれない。
「そうかもしれませんね。だからこそ、僕らにはできないコミュニケーションをとっていける人に来てもらいたいと思っています。物怖じせずに、どんどん外に出ていける方がいいかもしれません」
「外部のPR会社にお願いしていたこともあったんです。そのときにはメディアの方々と知り合うきっかけがたくさんありました。でも、自分たちの声として発信していくほうが大事な気がしていて」
伝えたいことは山ほどある。
大切に伝えたいことが多いからこそ、自分たちの言葉が必要だと感じているそうだ。
新しく入る人には、どんなふうに伝えていくのがいいか、というところから考えてもらいたい。
SNSなどを通してお客さんとコミュニケーションをとる役割を、製品企画と兼任しているのが本田さん。この春から産休に入るため、コミュニケーションの部分も新しく入る人に引き継ぎたいと考えているそう。
本田さんはもともと、アパレルメーカーでPRの仕事に携わっていた。
「旦那さんの仕事の都合でアメリカのカリフォルニアで生活した時期がありました。あのあたりはオーガニック製品が当たり前のように手にとれる環境で。そこで、すごく考えさせられたというか」
考えさせられた。
「そうなんです。ファッションは好きだけど、それまでは見た目を重視してきました。背景がどうなっているのか、どうやって生地がつくられているのか考えたことがなかったんです。もっと製品の裏側を知りたいと思うようになりました」
日本に帰国して仕事を探し、たどり着いたのがパノコトレーディング。まずは生地営業の担当として働くことになった。
「人数も少ないし、手取り足取り教えてくれる環境ではありません。最初は染色や生地のことなど、専門的なことがわからなくて大変でしたね。それぞれに考えながら、自分のやりかたを見つけているという感じです」
その後、産休と出産を経て再び働きはじめることになった本田さん。
ちょうど会社の20周年を記念してあらたな商品をスタートしようというタイミングで、企画を任されることになった。
アイディアの種になったのは、自分自身の体験。
「産後、化学繊維で過剰にかぶれる時期があったんです。周りの人に勧められて布ナプキンとか、授乳パットとしてオーガニックコットンの端切れをあてていたら、使用感がぜんぜん違くて」
自分の肌にあった布ナプキン。使い続けていたものの、子育てと仕事を両立して自分の時間がつくれないなかで、継続するのが難しかったそう。
そこで、オーガニックコットンで使いきりナプキンをつくることを考えた。
「でも一度違いを知ってしまうと、元には戻れないんですよね。布ナプキンのような使い心地で、利便性のあるもの。会社でも昔から製品化を考えていたものの1つだったこともあって、第一弾のプロダクトとして取り組むことになりました」
sisi FILLE(シシフィーユ)と名付けたオーガニックコットン製のナプキンはじわじわと広がり、多くの方に使ってもらえるように。
今ではオーガニックコットンを使ったブランドとして、使いきりのマスクや化粧用のコットンもラインナップに加わった。
オーガニックコットンは、肌に悩みがあることを理由に選ぶ人も少なくない。
自分の使うものをしっかり勉強していて、製品や綿花のことすべてを知りたい人もいる。
製品のストーリーを伝える言葉選びも慎重に、間違った情報を伝えないように気をつけているそうだ。
「最近はオーガニックという言葉が一般化されてきて、気軽に使ってもらえるようになってきましたよね。伝えたいことはたくさんあるけれど、知りたい情報量は人それぞれなので。全部伝えたい気持ちを抑えつつ、コミュニケーションをとるようにしています」
本当はもっと伝えたいことがあるんですね。
「使い心地のよさはもちろんですが。オーガニックコットンがつくられる背景とか、一般の綿に比べたら農家さんへの負荷が少ないとか」
「自分がこれを選ぶことによって、産地の取り組みを支えることになることも、選ぶ理由の1つになったらいいなって」
1年に1度は、スタッフが順番にインドの生産者に会いに行く機会がある。それでも日々の仕事のなかで、現地の人たちと直接連絡をとるというわけではありません。
遠い土地で育つ綿花から、製品として生活のなかで身につけられるまで。健やかな循環の一躍を担うことになります。
包み隠さず、正直に。そんなふうに働きたい人に似合う仕事だと思います。
(2018/2/8 取材 中嶋希実)