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職業は、コネクター

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「このNPOは、ただ地元就職だけを勧めるものではないんです。もっと広い視野で若者と企業を育てて、つなぐ。その先で、自分が育ってきた街で働くのも、一つの選択肢として魅力があるものだと感じてもらえたらいい」

これは、NPO法人つなぐの理事長、岡藤さんの言葉です。

山口県・長門市

金子みすゞも愛し、数多の詩を詠った自然豊かなこの街に、新たにNPO法人「つなぐ」が生まれました。

地域企業と若者を結ぶハブとして、中高生を対象にしたキャリア教育と、地域企業と若者のマッチングの二つを柱とするこのNPO。ただ、地元への定着だけを目的としたNPOではないようです。

今回は、こちらの事業マネージャーとしてNPOを引っ張っていく人を募集します。



長門市へのアクセスはいくつかあって、この日は北九州空港からバスと電車を乗り継ぎ向かうことに。

車窓から見えるのは、緑豊かな山々に太陽を照り返す日本海。

アメリカの放送局CNNの「日本で最も美しい場所31選」に選ばれ話題となった元乃隅稲成神社に、ダイバー人気の高い青海島、遠くの海に漁火が揺れる棚田風景など、観光資源にも恵まれた土地だ。

この日の待ち合わせ場所は、長門市駅から歩いて10分ほどの商工会議所。

現在工事中の新拠点「地域しごとセンター(仮称)」が9月に完成するまでは、ここがオフィスとなっている。

こちらでまずお会いしたのは、理事長の岡藤明史さん。

とても気さくで、周りをぱっと明るくさせる雰囲気の持ち主。市内のホテル『楊貴館』の若き経営者でもあり、皆からは「明史さん」と呼ばれ慕われている。

はじめに、どんな経緯でこのNPOが生まれたのかを聞いてみる。

「まず、今の長門はもうとんでもないことになっていて。この街に魅力を感じている若者がとても少ないんです」

NPO発足のきっかけは、2年前に市内高校生を対象にとったアンケート。そのほとんどが地元に魅力を感じず、働く場所もないと考えていることが浮き彫りとなった。

「事実、若者のなかには『長門はダメ』『市外で働くのが正解』という空気があって。街を出てしまう人も多く、4年前には消滅可能性都市と発表されたほどです」

その影響を直に受けているのが、市内の企業。

学生との接点も乏しく、平均有効求人倍率はなんと2倍以上、つまり1件の求人に対して0.5人しか集まらないのが現状だ。

でも、と明史さん。

「長門には知られていないだけで、面白い企業があるんです。市外へ出るのだけが正解というのはもったいないと思うほどに」

長門市には、3万5千人という人口に対して、年間で200億円ほどの事業規模の養鶏業、鉄鋼業、水産加工業という3つの地場産業がある。

企業単位でも、東京スカイツリーや六本木ヒルズなどに材を提供する鉄鋼会社、世界中から観光客が集まる旅館、海を豊かにするための林業会社など、紹介しきれないほど個性豊かな面々が揃っているという。

「全国でも活躍したり、従業員を大切にしたり、新しい未来をつくろうと事業に取り組んでいたり、熱いリーダーが多いんです。もし学生と企業をつなぐハブ機能があれば、どちらの可能性も広がるかもしれない」

そんな思いのもと、公民学が連携して委員会を結成し、今年3月に「NPO法人つなぐ」として発足。

地域しごとセンターを拠点に、長門の人と企業、双方の情報が集まるハブとして、人材育成と就職マッチングを事業の柱に据えた。

人材育成はすでに専任マネージャーのもと取り組みが進んでいるところ。

ネットと通信制高校の制度を活用した『N高等学校』で知られる株式会社ドワンゴと提携して、中高生を対象に、長門の企業や学校と連携したプログラムを届けている。

「就職マッチングでは、協賛企業を中心にインターネットなどで企業PRや説明会を行います。さらに実際に就職された方をサポートすべく社員教育やメンタルヘルスケアも行う予定です」

今回募集する人は、事業マネージャーとしてNPOの運営や就職マッチング事業の企画などを担うことになる。運営費は、協賛企業によって賄われるという。

すると気になるのが、就職マッチングが単に市内企業への就職率を上げるための取り組みになってしまわないか、ということ。

「おっしゃる通りだと思います。ただ、このNPOは人材補充会社ではない、と企業の皆さんには強く伝えていて」

「就職率を上げることが目的じゃなくて、働く条件以外にもどんな思いで働いているかありのままを紹介したいと。だからすぐ人が来る確証はない。けど何より、ミスマッチを無くしたいんです」

ミスマッチ。

「こんなはずじゃなかったのに、という若者を一人でもなくしたい。だから僕は、長門で働くのが正解だと言うつもりはないんです」

「ここは、考え方を強制したり、外で挑戦したい人を引き止める場所じゃない。長門でいろんな経験をしてもらった上で、ここで働くのも一つの選択肢として魅力があって正しいものと思ってもらえたらいい」

だから、結果が見えるのは何年も先だという覚悟もしている。

「でも、この街全体で子どもたちを育んでいくことこそ大事なんじゃないかと思います」




今回募集する人が一緒に働くことになるのが、副理事長の井上かみさん。

釜炊き塩屋『百姓庵』の経営者で、15年前に移住して以来、ボランティア観光ガイドとして3000人以上をアテンドしてきたという経歴の持ち主だ。

みんなからは「かみさん」と呼ばれる、とても前向きな女性。

「私はお節介人間なんです(笑)人が好き、人と人とをつなぐのが好き。このNPOでも、長門の人や企業、いろんな可能性をつなげていきたいです」

すでに形になった就職マッチングの取り組みとして、今年3月に開催した学生向けの合同企業ガイダンスについて教えてくれた。

「長門市では10年以上、企業と学生が知り合う機会すらなかったんです。過去に説明会を開催したこともあるそうなんですが、結局、参加企業も若者も少なく続かなくて」

そこで企業の情報発信の場として実践してみようと、手探りで準備を進めることに。協賛企業を中心に市内の16社を集め、学生へも広報を行ない、会場も手配した。

そして迎えた当日。

スタート時点で集まった学生は、たった1人だった。

「最初に企業の1分PRを予定していましたけど、いきなり想定が変わって。まさかここまでとは…。ガクッときました」

急遽予定を変更して、企業の人たちと一緒に会場近くの中学生を誘うところからリスタート。

断る子がほとんどだったものの、なんとか50名近くが集まった。アンケートでは『もっとこんな取り組みが広がればいい』という声もあったそう。

「正直、企業からの叱責も覚悟しました。でもそんなことは一切なくて、むしろ『これから一緒にもっと頑張りましょう』って」

取り組みははじまったばかり。長門で就職するという選択肢への学生の視線は、まだまだ厳しいことを知った。

「甘くないですよ。でも地域一丸となって頑張ろうと覚悟が芽生えました」

現在は初夏に開催する高校3年生を対象とした説明会の準備を進めているところ。

今後は、協賛企業集めはもちろん、長門で思いを持って働く人を伝えたり、若者と企業の対面の場としてイベントも開いていきたい。

取り組みたいことは山ほどあるけど、かみさん達もはじめてのことばかりで毎日が手探り。力を貸してくれる人を探している。

「今は理想と現実の狭間で、課題が見えたときには心が痛みます。でもどんな経験も糧にしてプラスにすればいい。外からの目線で、この長門を思い切りかき混ぜてほしいですね」




最後に紹介してもらったのは、人材育成事業マネージャーの野村さん。

「実は僕も、日本仕事百貨の記事で入ったんです。今日をすごく楽しみにしていたんですよ」

福岡出身で、これまで長門には縁もゆかりもなかった。地方で教育に携わる仕事を探していたころ、こちらの求人を見つけたそう。

現在は主に市内中高生へ教育プログラムを届けている。

一つは、課題解決型の学び。フィールドワークやスタディツアーなど、地域の人や企業に協力してもらいながら、地域の課題と解決法を生徒自ら見つけ、考える。

そしてもう一つが、ドローンやプログラミングといった最先端の学びだ。

野村さんがこの職についておよそ半年。印象的だったという一人の女の子の話をしてくれた。

「去年の秋、長門スタディツアーを開催したんです。子どもたちがあまり行ったことのない場所で、働く大人の話を聞いてみようというもので」

その日は、理事長・明史さんの宿『楊貴館』に行き、社内見学。明史さんは、自分で決めた目標に向かって進むことの大切さを伝えた。

「そこに参加した中学3年生の女の子が、空き時間に明史さんに話しかけているのを見かけて。進路相談をしていたみたいなんです」

隣で聞いていた明史さんがこう話す。

「まだ誰にも言っていないけど、実は海に興味がある。地元の水産高校に行きたいけど、学校に行くのは得意じゃないと」

「でも今日の話を聞いて、自分で決めたなら頑張りたいって言ってくれて。絶対に君は頑張れる、絶対に大丈夫だよって言ったのを覚えています」

その言葉が後押ししてか、その女の子は水産高校の受験を決め、この春晴れて合格。今も夢に向かって頑張っているところだという。

地域の人たちと触れ合うなかで自分らしい道を選ぶ。思い描いたキャリア教育は、少しずつ実りはじめているのかもしれない。

ただ、と野村さん。

「やっぱり目に見える成果はまだまだ少ないのが現状です」

取り組みに賛同してくれる人も多いけど、地域で完全な理解を得られているとは言いきれない。

過去には、プログラムのPRチラシを1600枚配布したものの、1名しか申し込みがなかったこともある。

「そんなときはやっぱり辛いですよ。すべてが理想通り進むなんてことはない。これは新しく入る人も同じだと思う」

「でも大切なのは、子どもたちに心の動く体験をしてもらうことなので。地元でたくさんの経験をして、自分らしい道を選んでほしい。とにかく今は、この街の子どもを全力で応援したいですね」

また、新たに入る人にも伝えたいことがあるという。

「僕は、記事に登場する人たちが望む人材になれるかすごく不安でした。でも長門にはどんな人でも受け入れる体制があるし、一度の失敗で見放すようなこともない。長門って、悪い人がいないんですよ」

市役所の人はいつも心配してくれて、元旦から実家に誘ってくれたそう。NPOの人たちも毎日連絡をくれるという。

「だから僕も、新しく入る人とは何でも協力したいし一緒に考えたいと思うんです」

言うなれば、今は土を耕す時期。実際にこの取り組みが地域に浸透し、成果が出るには、まだまだ時間がかかるかもしれません。

でもここでの経験は、自分自身や誰かの人生、そして地域社会を変えていくきっかけになる。そんな予感がありました。

(2018/4/2 取材 遠藤真利奈)

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