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「新しい高校は、地域の人や学校の先生、行政もいろんな人が関わってゼロからつくっていく場所。それぞれ立場は違っても、教育を通じて何をしたいかをお互い真剣に考えれば、同じ目線で語ることはできるんだなと実感しつつあります」これは、北海道・大空町で新しい高校づくりに取り組む一人、阿部さんの言葉。
北海道北東部にある大空町は、旧・女満別(めまんべつ)町と旧・東藻琴(ひがしもこと)村が合併して生まれた、自然豊かな町です。

“どんな高校をつくっていったらいいか?”
“そこでどんな生徒を育てていきたいか?”
今、住民代表や高校の先生たちを中心に、議論を進めている最中です。
新しい高校づくりの一環として、生徒たちの教科学習や進路に寄り添う公設塾の立ち上げも決まっています。
そこで今回は、公設塾の土台を築いていく講師スタッフを募集します。
今まさに高校を形づくろうとしている人たちに、会いに行ってきました。
羽田空港を飛び立って2時間ほど。
女満別空港への着陸が近づくと、パッチワークのように広がる農地が見えてくる。

最初に話を伺ったのは、教育委員会の村山さん。新しく高校をつくることになった経緯を教えてくれた。

そこで、今後の大空町での高校教育について住民たちと協議をすることに。
「中には『電車やバスを使って通える学校もあるし、1校残せばいいだろう』と言う方もいました。でも町としては、そう簡単に割り切れない気持ちがあって」
それはどうしてでしょう。
「もともと大空町に高校はありませんでした。というのも、農業が主な産業の一つであるこの町では、昔は子どもたちも家の農作業を手伝うのが当たり前で。進学できない子が多かったんです」
果たしてそれでいいのか?なんとか子どもたちに教育の場を届けたい。
地域住民たちのそんな思いから、1950年代前半になり、女満別高校と東藻琴高校がつくられた。
「先人たちが子どもたちのために託してくれたことを、未来につなぎたい。そう考えて、両校舎を活用しつつ発展的に統合し、町立高校としてスタートさせる方向で住民に理解を求めていきました」
とはいえ課題も多い。町立の高校で一本化するため町の負担が増えるし、17km離れた2つの校舎をどう連携させていくかも考えないといけない。
一方で、町立となることで、町独自の学校教育を展開できる可能性もある。
では、大空町でどんな教育を実現できるだろう?
問いへの答えを探るなかで出会ったのが、株式会社Prima Pinguinoの藤岡さん。全国各地に広がる『高校魅力化プロジェクト』をプロデュースしている方。

具体的には、地域特性に合わせた「カリキュラム改革」、学力向上に加えて将来の進路も考えていく「公営塾」の運営、そして地域外からの生徒を受け入れる「教育寮」の設置の3本柱でプロジェクトを動かしていくのが特徴。
大空町でも、ゼロベースから高校魅力化を図っていく方向で、住民からの合意が得られた。
今年度からは、高校づくりに向けた具体的な活動をはじめている。
担当者を務めるのが、大空町教育委員会の阿部さん。

地域住民と高校の先生たちそれぞれからプロジェクトチームを立ち上げる計画はあったものの、どう進めるかというモノサシは誰も持ち合わせていない。
そんななかで、上司である村山さんとは毎日意見をぶつけ合ったそう。本当に新しい高校を自分たちでつくれるのかどうか不安になるときもあった。
それでも、阿部さんが核に持ち続けてきた想いがある。
「新しい高校は、地域の人や学校の先生が主体となって、みんなでゼロからつくっていくもの。過程も含め、一緒に進めていくことにこだわりたいと考えているんです」
町民による高校魅力化プロジェクト検討委員会を昨年6月に発足。
新しい高校で育てていきたい生徒像を描き出すことを目的に据えた。
メンバーは、農協や商工会の青年部員、同窓会会員、女性会社員など。女満別と東藻琴それぞれの地域で活躍している若手世代を中心に7人が集まった。

そう言って、検討委員会での印象的だった出来事を話してくれた。
「ゼロベースからどのような高校にしていくかを考える、今の方向性を見直して、東藻琴高校で専門にしてきた農業を踏襲すべきじゃないかという意見を出された方がいたんです」
それに対してほかのメンバーから、農業だけに特化することで入口も出口も狭くなってしまうのではないか、という問いが投げかけられた。
「みなさんで話し合った末、農業を通じて人をつくるという考えは取り入れつつ、総合学科として発展させていくのがいいんじゃないかと、結論を導き出していて」
「最初は一歩引き気味だった委員さんたちが、自分たちで意志を持ってものごとを動かしている。そんな姿勢の変化を目の当たりにして、すごいなと思って。一緒にやっていてうれしかったんですよね」
検討委員会のメンバーは、どんなことを感じているだろう。
話を聞かせてもらったのは、委員長を務める山神さん。農家であり、2人の子を持つお父さん。

検討委員会の初回は、株式会社Prima Pinguinoの藤岡さんから高校魅力化プロジェクトの事例や考え方について紹介してもらった。
「ただ先生の話を聞いて、黒板を写して…という一般的な学習のイメージとはまったく違って。枠にとらわれない授業の仕方があるんだと知れたのが新鮮でした」
2回目以降は、新しい高校のスローガンをつくるため、どんな生徒を育てていきたいか、一人ずつ意見を共有していった。
山神さんが描いていた生徒像は、「いろんなことを吸収しながら自分で答えを導き出していく、柔軟性と主体性をもった人」。
「型にはまらない考え方ができる人のほうが、視野も選択肢も広がって、多様な人と関われるようになると思うんです。その延長線上で、いろんな道に進む可能性が生まれるだろうし」
ほかのメンバーからは、自然や地域を大切にできる人、起業家、いい意味の変わり者…といった意見も。
一人ひとりの考えを照らし合わせながら、近いもの同士をまとめ、共通点を見つけていく作業を繰り返し行った。

たとえば、「ふるさと」という単語一つ使うときも、そもそも“ふるさと”とは何か? というところまで掘り下げて考えていった。
「僕は大空町出身だけど、メンバーの中には外の地域からやってきた人もいて。話してみると、人それぞれ“ふるさと”の捉え方が違いました。ただ、自分を育んでくれた何かであることは変わりないという考え方は共通していて」
「じゃあその“ふるさと”って自分にとってはどこなのか?それは、これから新しくできる高校に入学する生徒それぞれが、いつも自問自答していくもの。そういう意識を込めて言葉を使おう、という話になって」
スローガンの一語一語に、そこまでの思いが詰まっているんですね。
「そうなんです。ほんとに一歩ずつ進めていく作業で。単語一つひとつにここまでの意味があることが伝わるかはわからないんですけど。僕たちが考えてきたことを、先生や地域の人たちに向けてしっかり伝えていきたいです」
山神さんたちが練り上げた生徒像をもとに、今後は両高校の先生たちからなる委員会で、カリキュラムをつくっていく。
前段階として昨年10月には、山神さんたちと高校の先生との合同ワークショップを開催。映画の鑑賞会を兼ねて、新しい高校での教育のあり方を考えていった。
そのときの様子を話してくれたのは、東藻琴高校の三浦先生。

「驚いたのは、町の方たちの熱量。生徒がこれから生きて行く社会では、自分たちで課題を見つけ、新しい価値をつくり出していく力が必要なんじゃないかとか。すでにあるものの改善策ではなく、根本を問うような意見を真剣になって出されていて。気づきの多い時間でした」

それでも、柔軟な姿勢でやっていきたいと、三浦先生。
「先生って、目の前の生徒に向き合うことが最優先で、外部の方と接する機会はすごく少ない仕事です。でも僕自身はこの学校で、地元のお菓子屋さんやチーズ工場さん、しじみ漁師さんと関わりながら授業をつくる機会があって。そのなかで柔軟に仕事ができるようになっていきました」
「新しい高校でのカリキュラムについても、地域の人たちからもアイデアをもらうなかで、僕らの発想が広がったり、実現に向けて工夫できたりするんじゃないかと思っています」
公設塾は、それぞれの高校の近くまたは校内に設置する予定とのこと。
これから加わる人は、新しい高校での教育カリキュラムを踏まえて、高校と公設塾との役割分担をどうするかというところから話し合っていく。
それと並行して、塾での授業を計画したり、教材を揃えたり、塾生を募集したり。立ち上げの仕事を担っていく。
新しく築き上げていく仕事だからこそ、大変に感じることは多いかもしれない。
それでも、大空町には同じように、ゼロから動きはじめている人たちがいます。

(2018/12/4 取材 後藤 響子)