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建築でも都市でもなく
人が真ん中にある
これからの、まちづくり

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

全国各地で取り組まれている、まちづくり。

なんとなくいいことのように思うけれど、誰のために、何のためにやっているのか分からなくなることがある。

本当にまちや人にとって必要な取り組みになっているだろうか。

それだけを真剣に考え、形にしてきた会社があります。

1軒のお店づくりから大規模な複合開発、さらには都市戦略まで。

幅広い領域でまちづくりを手がける株式会社PODが、新たに地域や施設の開発を手がけるプロデューサー候補と、そのアシスタントを募集します。

 

淡路町駅から歩いて5分ほど。ビルの8階にあるシェアオフィス「REN BASE」を訪ねた。

ここはPODとビルオーナーが共同で管理・運営を行っていて、最大で15組の利用ができるほか、共用のキッチンや自転車もある。

ひとつ上の階にはPODのオフィスが入っている。

PODの代表を務めるのは、市町村や商店街をフィールドに全国各地で地域活性化をプロデュースしてきた橘さんと、六本木ヒルズをはじめ大小さまざまな規模の不動産開発やエリアマネジメントに携わってきた神河さん。

領域の異なるふたりが組むことにより、PODは非常に幅広い領域を横断することができる。

「私と神河はまったく違うタイプで、よくクライアントから『ケンカしないんですか?』と言われるほどなんですよ(笑)」

そう話すのは、橘さん。

たしかに、ふたりの話を聞いていると、それぞれ異なる視点からものを見ているように感じられるけど、まちづくりに向き合う姿勢は共通していることが分かる。

「私たちに共通しているのは、建築や都市計画の考えがベースにないところだと思います」

まちをフィールドにしているのに?

「ええ。どちらかというとマーケティングとかビジネスの目線なんです」

「やり方も、普通のコンサルティング会社さんとは全然違って、だいぶ特殊だと思います。私たちからすれば当たり前のことをしているんですけど」

特殊だけど、当たり前のこと。それは一体どういうことだろう。

ここで、橘さんが現在コンサルタントとして関わっているという、横浜市関内駅周辺エリアの地域再生プロジェクトの話をしてくれた。

プロジェクトの発端は、横浜市役所の移転。

2020年にみなとみらいの近くに移るという計画には、それによって現在市庁舎のある関内駅周辺エリアが空洞化し、地域経済に影響を与えてしまう恐れがあった。

また、全国規模で展開する企業の支店や子会社が集中する“支店経済都市”の横浜市の中でも、とくに古くからのオフィス街である関内駅周辺エリアでは、近年、企業の支店の撤退が相次ぎ、オフィスビルの空室化が進んでいる。

「そこで横浜市が考えたのは、市庁舎のほかにも使われていない公共建築3つを順番に再整備して、それらを起点にまちを活性化させましょうということ」

「でも、プロジェクトの中心を担うディベロッパーから見ると関内駅周辺エリアは残念ながらあまり事業意欲が湧く場所ではなかった。それで、マーケティング目線で都市戦略を描き、その中でプロジェクトメイクを進めた経験を持つ私たちにご相談いただいたんですね」

なぜディベロッパーは事業意欲があまり湧かなかったのですか?

「空洞化が進む支店経済都市だという点が大きいでしょうか。プロジェクトが発足した当時は東京オリンピックに向けて都内の開発が進みはじめた時期でもあり、都内と比べてオフィス需要があまりない関内駅周辺エリアは、事業を行う対象とは思われていなかったようです」

もちろんマンション需要はそれなりにある。けれどオフィス立地としての価値を高めないと、中小オフィスビルと産業の空洞化という課題の解決にはつながっていかない。

そこで橘さんは、ディベロッパーの事業意欲が低いのなら、建設会社や金融、テナント候補といったメンバーでプロジェクトを組めないだろうか、と考えた。

プラットフォームとしてオープンイノベーション型の検討会を開催し、実際のプロジェクトチームの組成もそこで同時に進めることを提案した。

「そのなかで私がお勧めしたのは、行政自らがディベロッパーの想定を超える質の高い事業プランをつくり、腹案としてもっておきましょうと」

「そのために、地域ビジョンに資する支店経済都市ではあまり見られないようなユニークなテナント候補に声がけし、彼らに最初に話をしてもらいました。その多くが国内外の業界トップクラスの企業で、その気になったら一緒に組めますよと、検討会のはじめから言ってもらったんです」

すると建設会社や金融機関、さらにはディベロッパーの意識まで変わり、検討会への参加が活発になったという。

「市民の方々と国内外のトップクラスの企業の役員が隣同士に座って話すような場なんです。それで互いに影響しあい、建設会社さんが急に『建物単体で考えちゃダメだ』とまち全体を考えた案をつくってきたり、地域のおばちゃんが『やるなら世界レベルで!』と言い出したりして(笑)」

それぞれの立場も利害も混ざり合う議論を経て、先日、大手広告代理店が中心のチームでひとつの公共建築の計画がまとまり、市の体育館と高校跡地がアリーナを中心とした複合施設に生まれ変わることに決まったそう。

実は、ここに至るまで課題が山積みだったという。

たとえば、役所内部での課題。行政は基本的に縦割り構造のため、新たな取り組みをはじめる前に、まず内部の連携をとることが不可欠だった。

そこで、部署横断型の情報共有の場をつくってもらったり、関連部署から徐々に検討会に参加してもらったりするなど、早い段階で役所内部にインナープロモーションを仕掛けた。

「単に戦略をつくるだけじゃなくて、それを実際にどう実現するのか、そのときにどんな問題があるのか。そして、その問題をちゃんと向き合うべきものとして課題化し、どう解決するかってところまでアイディアを出す。実際に現場で身体も動かします」

福島の温泉街の復興やセントラルイースト東京の再生、歌舞伎町のリブランディングなど、橘さんが手がけた仕事はどれも華々しく見えるけれど、実際は地道な取り組みばかり。

まちを動かすために必要なことなら、なんでもサポートする。それが自分の仕事だと、橘さんは言う。

「まちの人にやる気になってもらうためにはどうしたらいいのか。そんなことも考えます。人それぞれに合わせてやり方を変えたり、あえてライバルをつくって競争心をあおったりしてね。それは決して表には出しませんが、私の仕事のメインと言ってもいいくらいです」

「だから、誰よりも働きながら『おまえは何もしてないじゃないか』と言っていただくのが目標なんですよ。当事者自らが『自分たちがやった!』と思うのと、私が頭を下げてやってもらうのとでは、180度違うんです」

そうしてまちの人たちは自信と力をつけて、PODが去ったあとも、自走を続けることができる。

ちゃんとまちが持続していけるように。どの案件でもPODは最初から自分たちが離れることを想定して関わりはじめるという。

「いつも専門家がいなくちゃ回らないというのは、最悪ですよね。本来、まちづくりの専門家って、まちがよくなったら必要なくなる職業ですから。だったら目指すべきはそこじゃないの、と思うんです」

たとえPODの収益が落ちようとも?

「ええ。私は、まちでお会いした目の前の人を幸せにするのが、一番のミッションだと思っていますから。そのためにベストなことをやるだけです」

「そして、やるならプロセス以上に結果にコミットしたいんですよ。いくらプロセスが良くても結果が出なければ、結局まちの人の時間を奪っただけになってしまいます。目の前の人を本気で幸せにするんだったら、結果に責任を持たなきゃ」

大きなプロジェクトを成し遂げたことや自分の名前が売れるよりも、関わったまちの人たちがニコニコして生活している様子を見られることが、何よりもうれしい。

その橘さんの言葉に、誇張は感じられなかった。

純粋に、まちや人が好きなんだと思う。

「昔、奥会津で温泉の復興を頼まれまして、当時めずらしかった源泉掛け流しを前面に押し出して施設計画をしたら、年間2万3千人の目標来客数を超えて、初年度から8万人が来たんです」

「そしたら、地元の限界集落のおじいちゃんおばあちゃんがやる気になっちゃって。自分たちで投資してやるんだと、ラーメン屋とかができてくるんですよ(笑)ちゃんと経済をつくるのって大事だなって思いましたね」

奥会津のように橘さんのアイディアひとつでまちを動かす“一点突破型”のプロデュースを手がけることもあれば、商店街の活性化のためにそれぞれのお店の経営を一緒に考えたり、ときには商品開発まで携わることも。

最近ではUR都市機構の業務で、既成市街地のブランディング戦略や公共施設跡地の再整備に関するマーケティング戦略を練ることも行っている。

またPODとしても飲食店を自営したり、現代版家守として施設運営を代行したり、施設プロモーションのためのメディアを立ち上げて運営まで行うなど、仕事の幅はとても広い。

様々な業務を担うことでノウハウを得て、また新たな案件のコンサルティングに活かす。

PODは、世の中が加速的に変わっていく中で、新しいチャレンジを続けるプロデュース集団なのだと、以前の取材でもうひとりの代表の神河さんが話していた。

今回募集するのは、そんなPODに加わる新たなプロデューサー候補。まずは橘さんの下について、地域や施設の再生、開発を学んでほしいという。

PODのプロデューサーに求められる力とは、どんなことだろう。

ふたたび橘さんに聞いてみる。

「やっぱり、地域の問題の本質を見極められるかどうかですね。あとは、誰のため、何のためっていうのを常に考えられるか」

「私のやり方は普通とはかなり違うので、同じ業界出身の人でも最初は戸惑うかもしれないです。また経験のない方の場合、似て非なるまちづくりコンサル事務所の常識が身につくかというと、違うと思います。ただ、ちゃんとまちをよくするノウハウやチャレンジングな仕事のオファーは得られると思いますよ」

 

続いて話を伺ったのは、今年11月にプロデューサー候補としてPODに加わった彌吉さん。

彌吉さんは大学で建築と都市デザインを学び、卒業後は建築や都市計画を手がける会社に勤めていたそう。

橘さんのプロジェクトの中で自分にできることを分担で担当したり、もうひとりの代表の神河さんから任された案件を並行したりしながら、日々仕事を進めている。

現在は、橘さんとともに墨田区やさいたま市の案件に取り組んでいるそう。

墨田区の案件は、浅草とスカイツリーの間にありながらも人気のない北十間川を中心としたエリアをどう変えるのか、公園や水辺、鉄道の高架下の整備に伴うプロジェクトだという。

「やっていることは建築とはあまり関係ないんです。そこに住んでいる人とこれから住民になる人、働く人、あとは遊びに来る人たちを、どうすれば幸せにできるのかを考える。“楽しく”とも違うんですよね」

楽しく買い物をして、お金を落としてくれたらいいわけじゃない。

「そうなんです。もちろん人生って人それぞれ大変な時期があるだろうし、毎日ハッピーじゃないとは思うんです。でも、日々充実して過ごしていくためにはどうしたらいいだろうって」

「そう考えると、対象は建物だけじゃないよなって思うんです」

以前の仕事では、住民の生活のためにやっているはずが、都市計画を立てることや建物を建てることが最終目的になり、その先の生活に考えを巡らせることができなかったという。

また手法ありきで考えがちで、「誰のために」「何のために」が置き去りになってしまっていた。

「まちや人の暮らしがどう変わるとより良いかをちゃんと設定して、それを達成するために数ある中から最適な手段を選択する。それって今、企業も自治体も、いろんな仕事で求められていることだと思うんです」

もし日本中がよくなったら、PODはまちづくり以外の新たなプロデュース業をはじめるのだろうな。

取材が終わってから、そんなことを考えました。

(2018/11/30 取材 森田曜光)

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