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【西粟倉10の生き方:その6】
いつか森に還る想い
子どもたちに木の手触りを

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

人口1500人の村に20を超えるベンチャー企業がある、岡山県・西粟倉村。

移住と起業、ふたつのハードルを飛び越える後押しをしているのは、きっと、先に起業した先輩たちの存在だと思います。

今回紹介するのは自分の思いを形にするために、この村で最初に「起業」という選択をした人。

國里哲也さんが代表を務める「木の里工房 木薫(もっくん)」は、林業者の思いを次世代の子どもたちに届けるため、この村で林業から加工・営業までを一貫して行う家具工房です。

今回はこの木薫で、営業と森林整備と木工、それぞれの担当者を募集します。


訪ねたのは西粟倉駅のそばにある工房。木を削る機械の音が響いている。

西粟倉におけるローカルベンチャーの第一人者である、代表の國里さんは頼れる兄貴という雰囲気。

「ここも昔はどこにでもあるような田舎で、新しい産業が生まれるような気運はなかった。僕がこの法人の立ち上げのために村役場に行ったときも、そもそも申請の様式がないほどでした」

國里さんは、西粟倉の出身。22歳のときに大阪から戻ってきて、特に思い入れもないまま森林組合に就職した。

事務職のつもりで就職したものの、はじめの一年はずっと現場での作業が続いた。

「最近は高性能な林業機械も普及してきて、労災率も下がっていますけど、昔は林業って本当に大変な仕事だったんですよ。20年仕事をしていると平均1.6回入院するって言われていたほど。なかなかそんな業界ないですよね」

自然が相手の仕事だから、どれだけ熟練しても天候によって状態が変わればうまく作業が進まないこともある。

苦労をして得られた国産材も、市場の価格は下がっていく一方。国からの補助金に頼らざるを得ない林業経営に、後継者世代は意欲を失っていた。

「林業者がどれだけ大変な思いをしていても、都市部の人たちは『木の家具は高い!』っていうイメージしかなくて。消費者とのギャップを埋めるためには、自分たちの手で商品を届ける必要があると思ったんです」

当初は所属する森林組合で家具づくりをする計画だったものの、近隣の組合と合併するタイミングに重なり、話が流れてしまった。

「気持ちの上では走り出していたので、今さら止まることもできなくて。組合が無理なら独立しますっていうことで、会社を設立したんです」

國里さんを会社設立に向けて突き動かしたのは、この村で木を植えた先人たちの存在だった。

「農業だったら、春に植えたものを秋収穫できるけど、林業は自分の代では収穫が出来ない。今80歳以上になるおじいちゃん世代は、自分は1円の利益にもならんのに、しんどい思いをして木を植えて。利他の精神で僕らに山を残してくれたんですよ」

自分たちが受け継いだ山を、なんとか次の世代に残したい。

子どもたちが森や木のストーリーを感じられるように、國里さんの会社では、間伐材を使って「子ども用の家具」をつくることにした。

組合のOBや知り合いの協力によって生産体制は整ったものの、苦戦したのは販路の開拓。

「保育園とかに営業に行っても、最初はインターフォン越しに『業者お断り』って言われて。心折れっぱなしですよ」

創業から3年ほどでようやく、保育園同士の口コミから少しずつ売り先が広がってきた。

椅子やロッカーなどの家具から、滑り台のように外で使う遊具まで、保育園で使うものはなんでも請け負う。大きな遊具や家具は、それぞれの保育園に合わせて仕様を決めていくので、オーダーメイドの製品も多い。

「子どもの家具って、デザインだけじゃなくて安全性も大切なんです。椅子だったら、自分でお片づけが出来る重さじゃないといけないし、保護会のときに大人が座れる強度もいる。だいぶ研究しましたよ」

考え抜かれた製品には自信があるし、間伐材を使った家具が売れれば森の維持につながる。

それでも、國里さんは一般消費者向けに大量に売るより、保育園とコミュニケーションを重ねながら少しずつ届けていきたいと考えている。

「売りっぱなしにはしたくないんです。無垢の木はメンテナンスが必要になることもあるし。営業が、『これは僕らが切った木なんです』っていうストーリーも伝えながら、丁寧に売っていく姿勢を大切にしたい」

森を知っている営業と、子どものことを思う林業者。それぞれが一緒に働く職場だからこそ、共有できる思いがある。

國里さんはこの仕事のことを「種まき」だと言う。

「木薫の家具を使った子どものうち、100人に1人でも『そういえば自分の保育園に木の椅子があったな』って覚えてくれたらいいなと思うんです。さらにそこから100人に1人でいいから、大きくなって森に関わる仕事をする子がいたら、次世代に林業を引き継いでいける」

村のなかで誰より先に、森への挑戦をはじめた木薫。会社は今年で13年目を迎える。

当時、保育園児だった子どもは、将来を考える歳に。

「この前、製品を使ってくれている東京の養護施設の方から連絡があって。『木薫のせいで、北海道大学に行くって言い出した子がいる』って言われたんです。その子はこの村に山を見に来たことがきっかけで、林業や環境の分野を本格的に学びたいと思ってくれたらしくて。うれしかったですね」

木薫の仕事を通じて蒔いた種が、将来どう育っていくのか。

自分の目で結果を見届けることはできなくても、たしかな手応えを感じられる仕事だと思います。

(2019/2/6 取材 高橋佑香子)

※木の里工房 木薫も参加する、西粟倉村内の企業の合同説明会「小さな村のしごとフェス」が3/21に、大阪・心斎橋のW CAFEで開催されます。

日本仕事百貨では、イベントに参加する9つの企業を紹介しています。いろんな仕事があるので、西粟倉のことが気になったら、まずは読んでみてください。



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