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【西粟倉10の生き方:その8】
音を楽しむ
その原点に戻る場所

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

仕事や勉強を長く続けていると、技術を磨くことに気を取られて、初心を忘れてしまうことがある。

はじめて触れたピアノ、笑い転げた漫画、「ありがとう」と言われてくすぐったい気持ちになったこと…。

思い出すと、本当にやるべきことが見えてくるような気がする。

mori no oto(モリノオト)の仕事は、そんな素直な気持ちで向き合えるものだと思います。

mori no otoは、岡山県・西粟倉村で木製の楽器玩具をつくっている会社。

叩いたり、振ったり、擦ったり。人がまだ楽譜に出会う前の、もっと根本的な楽しさを伝えてくれるブランドです。

今回は、ここで地域おこし協力隊として一緒に楽器製作や企画デザインに携わる人を募集します。


訪ねたのは、旧影石小学校。校舎のなかを通って、理科室として使われていた教室へ。ガラガラと懐かしい音を立てる戸を引くと、中から木を削る音がする。

mori no otoは現在、代表の石川さんとその奥さんを中心に、週2回手伝いに来ている地域おこし協力隊の三浦さんの3人で活動している。

以前は大阪で家電メーカーのデザイナーとして働いていた石川さん。楽器製作をはじめたのは数年前のこと。

「僕の親父はバイオリン弾きでね。家にはバイオリンがあったんですけど、絶対に触らしてもらえへんかった。親父が亡くなって、はじめて間近に見たらすごいボロボロで。自分で修理してみたいと思ってバイオリンづくりをはじめたんです」

大学時代からサークルでギターを演奏するなど、音楽や楽器に親しんできた石川さん。楽器づくりをきっかけに、その材料になる木や森のことに興味がわいてきた。

西粟倉へ来た2014年から、この理科室での楽器製作を開始。そのころから、楽器製作販売だけでなく、参加者が自分で楽器をつくる出張ワークショップに出かけることも増えた。

「僕は楽器のスペシャリストではなくてデザイナーだから、子どもでも簡単につくれて、大人でも楽しめるものができたらええなと思って。つくる楽器もカズーとかマラカスのようなものが多くなったんです」

カズーというのは、もともとアフリカ発祥の楽器で、口にくわえて声を出すだけで歌と同じようにメロディーになる。

石川さんに吹いてみてもらうと、ブーッ!と、意外と大きな音がする。

「自分の声が大きかったら大きい音が出るんです。もともとカズーは金属でつくることが多いんですけど、木だとふわっとやわらかい音色。ワークショップではこれをみんなでつくって、最後は森のくまさんを合奏するんです。僕がギターを弾いてね」

話を聞きながら、隣で作業していた奥さんがくすくす笑っている。

「僕はもうここ3〜4年、森のくまさん一辺倒なんですよ。みんなが知ってる曲やし、やっぱりほかの曲ではノリきれへんところがある。いろいろ試してみたけど、やっぱり森のくまさんやね(笑)」

演奏家のお父さんのもとで育ち、大学時代にはアメリカンフォークソングに親しんだ石川さん。

バイオリンやギターに比べるとシンプルな形態の楽器でも、みんなで音楽を演奏する楽しさは変わらないという。

「以前は、自分でつくるものは『楽器であって、おもちゃじゃない』って、言うてたんですけど、最近は『おもちゃです!』って言うようになりましたね」

「やっぱり子どもと接する機会が増えて、自然とそうなってきたかな。一緒に音楽やろう言うて恥ずかしがる子もいるけど、すごく積極的な子もいて。そういうのを見てるのも楽しいんですよ」

楽器をつくるために木を削るとき、子どもはまっすぐに木を削れず、見本通りにできないこともある。

それでも自分でつくった楽器で音が鳴ると、「できた!」とうれしそうにしているという。

「音楽って、最初は音を鳴らすだけのところからはじまって、音程ができて和音ができてって発展してきたけど、僕の場合は逆。バイオリンからはじまって、今一番根本のところに戻っている。そしたら子どもにも伝わるようになったということやね」

石川さんは新しく入る人に、楽器製作だけでなくワークショップでも力になってほしいと考えている。

「僕らの楽器はそんなに難しくないし、木工の技術はここで覚えたらいい。音楽の専門教育を受けてなくてもいいから、感動したりワクワクする気持ちは持ってないとあかんと思いますね」

石川さんがこの村に移住して5年。まだ「西粟倉の人」というほどの実感はないけれど、出張から戻ってくると、ホッとするという。

「村にはどんどん新しい人が入ってきて、自分も頑張らなあかんわって刺激になります。そういう環境もあって、僕はmori no otoっていうブランドがだんだん好きになってきたし、これからも続けていきたいなと思うんです」

今後は出張でワークショップに行くだけじゃなくて、mori no otoを体験するために、村に足を運んでくれる人が増えたらいいですね。

「そうなったら、そこのスキー場でカズーを大合奏したいね。カズーフェスティバルにしよう!」

これからのmori no otoの活動に加わる人も、そんなふうにまずはみんなで楽しむ気持ちを共有できたらいいだろうな。

帰り際、石川さんが「今日の取材のために書いたんちゃうで」と、少し照れながら好きな言葉を教えてくれた。

黒板の隅に書かれていたのは「be an individual!」という言葉。
「地球上にいろんな種がおるように、人はそれぞれ自分はこれっていうもんを見つけなあかん。色々あってええねん。他人がとやかく言うもんではない。Be an individual、僕の言葉じゃないんやけどね(笑)、思い出すと気が楽になるんです」
授業の合間にこういう話をしてくれる先生、好きだったな…。と、なんだか急に学生のような気持ちに。

それは、ここに黒板があるからだけではなく、自分が素直に好きだと思えるものに向かって歩き出したころのことを、思い出していたからかもしれません。

(2019/2/8 取材 高橋佑香子)

※mori no otoも参加する、西粟倉村内の企業の合同説明会「小さな村のしごとフェス」が3/21に、大阪・心斎橋のW CAFEで開催されます。

日本仕事百貨では、イベントに参加する9つの企業を紹介しています。いろんな仕事があるので、西粟倉のことが気になったら、まずは読んでみてください。

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