求人 NEW

めまぐるしい日々のなかで
歴史を継ぐ、淡々と

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

世の中にいろんな仕事があるとはいえ、まさか神主さんを募集する日が来ようとは。

九州最北端に位置する和布刈(めかり)神社を訪ね、少し背筋を伸ばして鳥居をくぐった、昨年9月。

そこで過ごした時間は“取材”の枠にとどまらず、じんわりと心に残り続けていました。

あれから半年ほど経った今年3月、一通のメールが。

前回の求人でよい方とのご縁につながったこと。そして、あらためて募集を考えていることが書かれていました。

そこで今回は、お守りの授与や御朱印の作成、葬儀・散骨などの際に事務手続きを行う授与所部門のスタッフと、作家の器や雑貨などの販売を通じ、神社が大切にしてきた価値観を伝えるお店「母屋」の新しい部門でスタッフを募集します。

また、神主見習いも引き続き募集中とのこと。いずれも経験は問いません。

半年ぶりに訪ねる和布刈神社。どんな人が神主見習いとして採用されたのか、楽しみな気持ちと、より一層気の引き締まる想いを抱きながら、飛行機に乗り込みました。

 

福岡・北九州。

JR門司港駅周辺は、観光客で賑わっている。

約6年半の改修工事を経て、創建時の姿でグランドオープンした門司港駅。周辺には、外国貿易で栄えた時代の色を残す、レトロな街並みが広がっている。

駅前からバスに乗り、和布刈神社へ。山口県と福岡県をつなぐ関門橋の姿がみるみるうちに近づいてきて、10分ほどで到着する。

参道を通って授与所の前まで歩いていくと、中にいた神主の高瀨和信さんと目が合った。

「ご無沙汰しています」

やわらかな声と表情はそのままに、髪が少し短くなったような気がする。

「2月に和布刈神事を終えたんです。今年は水温も比較的高くて、暖かかったですね」

和布刈神事というのは、旧暦の正月の午前2時半ごろ、神社の眼前に広がる関門海峡に自生しているわかめを刈る神事。正装のままひざ下まで冷たい水に浸かりながら、宮司である高瀨さんのお父さまがわかめを刈り、高瀨さんはその手もとを松明の火で照らす。

由来としては、潮の満ち引きを司る“珠”にわかめを見立てて刈るもので、和布刈神社が創建された弥生時代、およそ1800年前から途絶えることなく続いているという。

「これまで、神事を見にこられるのは地元のおじいちゃんおばあちゃんが主でした。ところが今年は、海外で美術の仕事をしている方や福岡市のアジア美術館の方々、ファッションやものづくりに関わっているような方が半数近くいらっしゃって」

「お話ししてみると、『こういったことからインスピレーションを受けにきました』と。これまで神社にあまり足を運んでこなかったような、若くて感度の高い方々が来てくださっているように感じました」

その理由のひとつとして考えられるのが、「母屋」の存在。

先代の宮司が暮らしていた、築60年ほどの建家を改装し、作家の器や雑貨、服やアクセサリーを販売するお店として2年前から営業している。

何も知らずに入れば、“センスのいい雑貨屋さん”のように感じると思う。実際、母屋をきっかけにして和布刈神社に足を運ぶ人も増えてきた。

ただ、この空間は神社の存在と深く結びついている、と高瀨さんは考えている。

たとえば、神社で使われていた道具箱や太鼓を乗せる台を什器にしたり、祭りの足場を分解して小上がりをつくったり。倉庫で眠っていたものに再び光を当て、現代の空間に活かす「見立て」がそこかしこになされているそうだ。

「これからは、神社のお供え物からインスピレーションを得た食事や飲み物も提供していきたいと思ってまして。今回はこの『茶房』部門に携わっていただく方をまず1名、求めています」

3月の終わりには、門司港駅のグランドオープンに合わせた駅前マルシェに出店。

飲食のメニュー開発や作家とのコミュニケーション、SNSの更新や個展の企画など、働く人が増えれば、今後できることの幅もぐっと広がる。

とはいえ「茶房」部門のスタッフも、まずは他部門の仕事にも携わり、和布刈神社が大事にしてきたことを体感してほしい。

一方、授与所も今年の夏にリニューアルを控えている。

これまでにも海洋散骨や人形供養など、年間で安定的に収益を上げられるような体制をつくってきた高瀨さん。

さらにここ1年は、全国各地で伝統工芸の再興に携わってきた中川政七商店のコンサルティングのもと、経営状況を分析。入社時から比べると、収入は8倍に増加し、年間13万人だった参拝者数は22万人まで増えたそう。

そのなかで、参拝に訪れた人の目に見える形でも変化を起こしていく必要があると考え、授与所のリニューアルを決めた。

「現代の神社には、省略化していることが多いんですね」

省略化?

「たとえば手水は、海に入って行う禊を省略化して口と手をゆすぐものです。あとは参拝時に鳴らす鈴。“呼び鈴”の印象が強いんですが、本来はご祈願の最後に巫女さんが『御神徳をお分けしますよ』という意味で振るものなんです」

へえ、知らなかったです。

「ほかにも、神さまに奉納する“初穂料”は、かつてお金がなかった時代に収穫した稲穂をお供えしていた名残だとか。知らないだけで、省略されているものが実は多くあります」

リニューアルでは、建物の外観をきれいに整えるだけでなく、このように簡略化された参拝本来の手順や意味を丁寧に伝えていきたいという。

「たとえば、授与所で一度稲穂を購入していただき、お供えしていただく。お守りを授けたあとには、ちゃんと巫女さんが鈴を振る。生産性は下がるかもしれませんが、心根の部分、本質がちゃんと伝わるような方法に変えていこうと検討していて」

「ストイックに追求するというよりは、正直に、ゆっくり、丁寧に。このスタンスに共感してくださる方に来てもらいたいですね」

最近は、これまでにないほど仕事が楽しいという高瀨さん。

前回の募集で新しく入った人の影響が大きいそうだ。

「本当に、一人いるだけで空気が変わるというか、ぼく自身も初心に還って。基本的なことから教えていく過程で、大切なことを見落としていたことに気づき、あらためて学ばせていただいています」

ものの置き方、一つひとつの所作、参拝に訪れる人を思う気持ち。

日々の連続のなかで、どうしても忘れがちなことに立ち返る機会をもらっているとのこと。

 

一体どんな人なのだろう。直接ご本人に話を聞くことに。

こちらが、神主見習いとして2月に入社した鈴木さん。「緊張しています…」とはにかみながら、ゆっくりと話してくれる方。

「実は、高瀨さんとは神社の大学で同級生だったんです。ただお互いの存在をまったく覚えていなくて。あとから在学時の席次表を見たら、隣の席だったこともあったみたいです」

実家が神社というわけではなく、もともと民俗学が好きで神社の仕事に興味を持った鈴木さん。

大学卒業後は神社に奉職したものの、すぐにやめてしまったそう。

「わたし自身の心根の弱い部分があって。それからしばらくは神社から離れて、いろんな職を転々としていました」

市役所の臨時職員としての任期が昨年9月で終わり、11月からは新しい会社で働くことが決まっていた。

そんな10月31日、入社前日のことだった。

「手土産のお菓子とか着ていく服とか、全部準備して、あとは明日から仕事に行くだけだっていうときに、たまたま弟が実家に帰ってきて。1時間ぐらい、なんとはなしにしゃべっていたんですね」

「そうしたら、『そういえば神社の求人出てたね』って言うんです」

実は9月に前職の任期が終わったあと、ゆるやかに神社の仕事を探していたという。

当時はいいご縁が見つからず諦めたものの、細く長く、後悔が尾を引いていた。

「それで、日本仕事百貨のページを読んでみたら、わたしが探していた『これぞ!』っていう神社で。読み終わったのが午後4時。新しく行く会社の営業時間は5時まで。どうしよう、どうしようって、弟も巻き込んで会議して」

「結局4時40分ぐらいにその会社に電話をかけて。正直に理由を話しつつ『すみません、明日から行けません』と謝罪して。それで応募するに至り、埼玉県にいたわたしは、なぜか今福岡県にいます(笑)」

導かれるように和布刈神社へとやってきた鈴木さん。

とはいえ、不安はなかったのだろうか。

「たしかに不安はありました。でも、福利厚生の部分もしっかり整っていましたし、高瀨さんからのメールの言葉一つひとつが丁寧で、両親も少しずつ応援してくれるようになって」

「こっちに来てからも、折に触れて『何か困っていることはないですか』と気にかけてくださる。新しく入る方も、そこは安心して来てもらえればと思います」

今は門司港駅の近くに住んでいて、毎日の買い物は商店街でしているそう。食べものもおいしいし、神社までは自転車で15分。暮らしの面でも住みやすい街だという。

働きはじめて2ヶ月ほど。一方で、大変なことってありますか。

「覚えることが本当にたくさんあります。神社の歴史にはじまり、海洋散骨や葬儀のプランなど、ご参拝の方から聞かれることは多岐に渡りますし、御朱印も書けるようにならないといけない。家でも毎日練習しています」

今は神主の高瀨さんと鈴木さん、週末メインで働いている大学生アルバイトの巫女さんという3人で運営している。

お供え物や縁起物の準備、清掃や海洋散骨・葬儀の事務手続きも行いながら、授与所を開けて参拝客一人ひとりに対応する。観光バスの団体が突然来ることもあるし、海外から参拝に来る人も増えている。

外から見ているだけではあまり想像がつかないけれど、なかなか忙しい仕事なのかもしれない。

また、授与所で働いているのは巫女さんのイメージが強いものの、お祭りや神事では力仕事も発生するため、男性も歓迎とのこと。

「業務日誌を毎日つけているんですが、できることがちょっとずつ増えていくのは楽しいですね」

「あとは、仕事中にわたしも真似してみよう、と思えることがたくさんあって」

たとえば?

「本当に小さいこと。たとえば、掃除がすごいんです。小さなゴミをさっと拾うとか、そこの汚れは気づかなかった、ってこともありますし。掃除が好きじゃないと結構大変かもしれません」

「毎日が試行錯誤の連続」だという鈴木さん。

最後に、どんな人と働きたいか聞いてみる。

「前回の記事にもあったんですが、ひとりで美術館や個展に行くのが好きな人。どちらかというとネガティブな人。それから、声が小さくてもの静かな人。全部、わたしのことだ!と思ったんですよね」

たしかに、みなさんそんな雰囲気をまとっている感じがします。

「こういう人ばかりの環境って、あまりない気がしていて。わたしは人間関係で悩んだりすることなく『よし今日は御朱印がんばろう』とか、集中してできているので。もしもピンと来たら、心配せずに応募してみてほしいと思います」

もし時間が許すなら、一度訪ねてみてください。

参拝して、海を眺めるもよし、母屋で買いものをするもよし。

きっと、いい時間を過ごせると思います。

(2019/3/29 取材 中川晃輔)

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