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手に職つけた仲間が集う
ようこそ、
十勝のものづくり村へ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

北海道・十勝地方。

はるか地平線まで見渡せる平野と、どこまでも続く青空。遠くには山脈がそびえて、ふもとには牛や馬、羊たちが暮らしている。

豊かな土壌にはたくさんの作物が実り、食料自給率はなんと1,100%。大自然と春夏秋冬がはっきりとした、まさに「北海道らしい」まち。

この文章を書いている私の、大切な故郷でもあります。

十勝の足寄町(あしょろちょう)に小さな建物が建ったという連絡を受けたのは、今年3月のこと。差出人は、町内で建築会社を営む木村祥悟さんでした。

メールには、移住者のための建物を建てたこと。そして、そこに住まう人の募集を考えていることが書かれていました。

今回は仕事ではなく、『町に暮らす人』の募集です。はじめての経験に、少しの緊張とわくわくを抱きながら、十勝に帰ることにしました。

 



羽田空港を発って1時間半。とかち帯広空港が近づいてきた。

窓から景色を覗くと、眼下にはパッチワークのような平野が広がっている。

空港で車を借りて、足寄に向かってドライブ。

市街地を抜けると、畑や牧場が続く広々とした道路に出る。開けていた窓からは、草の香りを乗せた風が一気に吹き込んできた。

私は、この十勝らしい風景が大好きだ。

空港からおよそ1時間半、たどり着いた足寄で待っていてくれたのは木村祥悟さん。

「取材に来てもらうのは2年ぶりですね。お変わりないですか」

木村さんは町内の『木村建設』の代表。お会いするのは、大工の募集でインタビューをさせてもらって以来で、落ち着いた表情と優しい語り口が心地いい方。

「今回は仕事の募集ではなくて。新たに始めたプロジェクトを知ってもらえたらと思っているんです」

新しいプロジェクト、ですか。

「はい。足寄に一つの“村”をつくるというもので…。言葉よりも、実際に見てもらうのが一番ですね。今からご案内するので、そこで話しましょうか」

少し歩いてたどり着いたのは、町の一角にある2棟の建物。

そばには『はたらくものづくり村』という看板が立っている。

「ここが今まさにつくっている村です。1棟がシェアハウス、1棟がコミュニティスペース。ぜひ中に入ってみてください」

木村さんに続いてシェアハウスの中に入ると、ふわっと木の香りがした。

釘や金物になるべく頼らず、木と木を組み合わせた、日本の伝統的な大工技術でつくられているのだそう。

柱や梁には立派な木が使われ、床は足の裏に伝わる感触がとても柔らか。窓から光が降り注ぐ、とても気持ちのいい空間。

続いて、隣に建つコミュニティ棟へ。

広々とした空間の中にはミニキッチンも設けられていて、仕事場としてはもちろん、イベントにも使えそう。

「ここは『かってば』という名前で。お勝手場、つまり台所という意味と、いろんな人に自由勝手に使ってもらえたらという意味を込めています」

広く町にひらかれた空間なんですね。

「そうですね。僕はここで、小さくても楽しいコミュニティが育まれる村をつくっていきたいと思っていて」

町内の『木村建設』の3代目として生まれた木村さん。

22歳で京都に渡り、社寺建築の会社で宮大工として腕を磨いたのち、家業を継ぐため10年前に足寄に戻ってきた。

そこでまず感じたのは、プレイヤーの少なさだった。

「木工家や料理家、デザイナー… 手に職を持った人が少なかったんです。こんな人たちがいてくれたら、という需要はあるけど、家やコミュニティなど受け皿となるものがないうえに、具体的な支援もなくて」

「でも僕は、田舎で商売をすることってすごく楽しいし、都会に負けないぐらいチャンスがあると思うんですよね」

チャンス。

「一人ひとりの役割が大きいんです。スキルがあれば『困ったらあの人』とまず頼りにされるし、仕事も渡し合える。何より足寄には面白い仲間がたくさんいました」

「自分を生かせる場がすごく広がったなって。外から来る人と中の人を結ぶ受け皿があれば、町もちょっとずつ楽しくなるんじゃないかと思って、この村をつくりました。いよいよ住人を募集したいと思います」

対象となるのは、手に職を持ち、起業にもチャレンジしてみたい人。料理でもデザインでも、広くものづくりに関わる人を歓迎したい。

シェアハウスには単身者が3人まで住めて、お風呂やキッチンは共用。短期滞在用に建てられたものなので、最長で3年をめどに賃貸契約を結ぶ。

「ここに住まいながら、起業の足がかりを見つけてもらえたら。ただ、誰でもいいからすぐに来てほしい、とはまったく思っていなくて」

「僕はこの場をずっと大切に育てていきたいんです。まず足寄を知ってもらって、よければ仲間になってみませんか、という気持ちなんですよね」

ものづくり村には、町の仲間が有志の運営委員として関わっている。

地域の人、外から来た人が交わりながら、互いを生かし合えるような村をつくってゆきたい。

「場づくりから一緒に考えて、楽しい暮らしをつくっていけたらと思っています。その仲間を、これから紹介しますね」

 



木村さんとともに訪ねたのは、町でゲストハウスを営む儀間(ぎま)さんご夫婦。

2年前に横浜からやって来たおふたり。夫の雅真(まさなお)さんは地域おこし協力隊として、妻の芙沙子(ふさこ)さんは移住センターで週3日働いています。

「足寄を選んだ理由…たまたまですね。もともと北海道に移り住みたいと考えていて、イベントをきっかけに紹介されたのが、足寄の移住体験ツアーだったんです」

モニターとして謝礼金も出るし行ってみよう。そんな軽い気持ちで来てみたら、これが面白かった。

飲み歩きが好きな二人は町の飲み屋でいろんな人と知り合い、芙沙子さんはその場で「採用!」と、今の職場に内定をもらったのだとか。

「僕に対しては『まあ旦那さんは協力隊の枠があるからさ、自分で応募してよ』って(笑)試しに受けてみたらすぐに採用になって、家も用意してもらって」

「これはもう、行っちゃおうかって。本当はあと2年くらい横浜にいるつもりだったんですけど、気持ちが熱いうちに決めちゃいました」

足寄では自分たちで仕事をつくろうと決めていた二人。商工会、協力隊、行政、地域の集まり…さまざまな場所に顔を出して、知り合いを増やしていった。

「特別なスキルのない僕たちは、とにかく動いてネットワークをつくることしかできなくて。しょぼくても前向きに行動していたら、みんな応援してくれるんですよね」

ゲストハウス立ち上げのきっかけは、ある日のニュース番組。民泊が取り上げられているのを観て、「自分たちもこれならできるかもしれない」と思ったそう。

いざ物件を探し始めると、いろんな人が情報をくれた。古民家を見つけてからはとんとん拍子で話が進み、資材や家具を調達してくれたり、オープン後も泊まりに来てくれたり。今は「楽しすぎて眠れない」日々だという。

「もしゲストハウスがうまくいかなくなっても、誰かが助けてくれるだろうなって。根拠のない自信があるから、挑戦できている面もあります」

「足寄には百均もおしゃれなところもないし、冬もすごく厳しい。でも、遊びと仕事がごちゃごちゃになった今の生活は結構楽しいし、みんな来ればいいのになって思っています(笑)」

僕らもできることはお手伝いしますよ、と笑うおふたり。すっかり町に馴染んでいるようだった。

 



儀間さん夫婦と別れ、車は羊や牛がのんびり過ごす草原を進んでゆく。

たどり着いたのは、高原にたたずむ小さな工房。

ここ『しあわせチーズ工房』を営むチーズ職人の本間さんも、移住者の一人です。

出身は長野県。理想のチーズをつくるために北海道に渡り、原料となるミルクを探し求めるなかで足寄の酪農家・吉川さんに出会った。

「吉川さんは荒地のような大自然に牛を放牧していて。ミルクの質がすごく高いし、何より牛の飼い方に信念があったんです。チーズ工房の夢を話したら『うちのミルクを使っていい、他所から人を呼べるようなチーズ職人になれよ』って言ってくれて」

「いつかこの一帯を、チーズの道にしたいんです。足寄のミルクでいろんなチーズが生まれて、他所から人が来て… そんな思いが、すごく僕の中にあるんですよね」

「『かってば』でも、お酒とチーズを楽しむ会を開こうかな」と本間さん。新たな場が動き出すのを、楽しみにしているようだった。

 



めん羊牧場を営む石田さんご夫婦は、足寄に暮らしてもう20年になる。

羊飼いとして新規就農したいと、さまざまな町を訪ね歩いては断られ…。唯一受け入れてくれた町が足寄だったそう。

「来たからには、なんとかこの町を盛り上げたい。俺たちはこの足寄にいるんだって存在意義を示したいとずっと思っていて」

「ここ何年かでようやく若手が育ってきた。今は、こいつらと一緒ならいけるんじゃないかって思っているんだよね」

石田さん夫婦は町内の若手メンバーで、羊や牛、チーズなど地域の食材を振る舞うビアガーデンやディナー会などを開催。食の分野から、町に仕掛けている。

「でも俺ら食の分野だけじゃ面白くないから、衣食住に関わるみんなで連携して発信していきたい。大きなことをドンとやるんじゃなくて、それぞれができることを組み合わせていくっていうのが、この町らしいんじゃないかな」

 



車は山を下って、一軒の住宅の前で停まる。ここで紹介してもらったのは佐野さん。

足寄町役場に勤めるうちに「自分もプレイヤーになりたい」と思い始め、退職して起業。さらに、周辺2町の仲間とともに地域を盛り上げてゆく合同会社もつくった。

今はその会社仲間と、一軒の空き家を改装しているところ。

「ある移住者の人から、ここを苺ジャムの加工場にしたいって相談を受けて、みんなに紹介して。それぞれ本業の技術や機械が生かせるし、手伝おうってなったんだよね」

「みんな、自分の力を発揮できるところを探している、というか。自分たちが手伝うことで地域に根ざす人が増えることが価値だし、何よりそれが楽しいって思える人たちなんだよね」

佐野さんは『かってば』の管理人でもある。何か困ったことがあればいつでも来てください、と話していた。

 



今回お会いしたみなさんのほか、プロジェクトのHPやロゴを制作した東京のデザイナーさんも有志の運営委員に加わっている。関わりは、外へもゆるやかに広がりつつあります。

また、シェアハウスの家具やアメニティはすべて揃っているとのこと。トランク一つで生活を始められそうです。

「ここに来たからといって、足寄に住み続けなくてもいいんです」と木村さん。

「気に入れば住み続ければいいし、ちょっと違ったら別のところへゆけばいい。決して冷たい意味ではなく、お互いに構えずにいましょう、ということです」

「この木組みの家に住んで、美味しいチーズや羊を食べて、仲間と話して。その経験は必ずその人のなかに残ってゆくだろうと、僕は思っています」

建物は、町にひらかれはじめている。そこに前向きに関わろうという人がこれだけいることは頼もしいことだし、やって来た人を放っておかないだろうなとも思います。

よければ一度、訪れてみてください。

私の大切な十勝、そして足寄が誰かの思い出の場所となったら、とても嬉しいです。

(2019/05/04 取材 遠藤 真利奈)

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