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町の本屋さんの
未来をつくる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

本屋って、なんだか居心地がいい。

紙の匂い、ページをめくる乾いた音、分厚い図鑑も、ポップな雑誌も。ずらりと並んだ本に囲まれて、時間が静かに流れていく。

町を歩き疲れてふらりと立ち寄った本屋で、人生の支えや転機になるような一冊に出会うこともある。Web上の読みものやコンテンツはどんどん個人に最適化されていて、好みのジャンルや傾向からおすすめの情報を教えてくれるけれど、こうした偶然の出会いみたいなものって、実は生まれにくくなっているのかもしれません。

空間としての心地よさ、本と人との思わぬ出会いを生む偶然性。本屋の持つ可能性って、まだまだあるような気がします。

一方で、全国の町から中小規模の本屋が減っているという現状もあります。つい最近も学生時代にお世話になっていたお店がなくなったと知り、寂しい気持ちになりました。

町に本屋を残すためには、どうしたらいいだろう。本屋のある町には、どんな可能性があるだろう。

今回募集するのは、そんな問いに正面から向き合い、場所をつくっていく人。舞台は新潟県三条市です。

本屋をベースに、飲食や滞在ができるサロンのような機能を持たせ、ゆくゆくは町に点在するプレイヤーをつないだり、町のストーリーを発信したりするまちづくり・編集拠点のような場所を目指していきたいとのこと。

全国各地で、ポスト資本主義社会の実現に向けて新しい共同体のネットワークを広げてきた、Next Commons Labの新プロジェクトがはじまります。

 

まず訪れたのは、Next Commons Lab(NCL)の東京拠点「HUMANS」。

明治神宮前駅から歩いて3分ほどの路地裏に位置するこの場所に、NCL代表の林さんを訪ねた。

全国12の拠点を構え、各地で起業家支援に取り組んでいるNCL。その数は70を超える。

最初に拠点を構えた岩手県遠野市では、日本一のホップの里であることを活かしたマイクロブルワリー「遠野醸造」が誕生したり、柳田國男の『遠野物語』に代表される民話や伝承を辿りながら地域を深掘りしていく「to know」という取り組みがはじまったりと、それぞれの土地で地域資源を活用した事業が芽吹きつつある。

また、新しいテクノロジーを活かした電子地域通貨やコミュニティトークンなど、独自の経済圏や共同体づくりも試みている。

ほかにも、独自の売電事業をもとにした地域ファンドづくり、大手航空会社や鉄道会社などの交通インフラ企業と連携して良質な関係人口を増やす取り組みなど、さまざまな試みがこれからはじまろうとしている。

今回コーディネーターを募集する三条も、そのひとつ。

「これまでは、10名の起業家と3名のコーディネーターを募集して地域の拠点とコミュニティづくりを行ってきました。今回は3名のコーディネーターだけではじめてみようと考えていて」

従来のコーディネーターは、起業家の事業立ち上げに伴走・支援するのが主な役割だった。

ただ、任期が3年と決まっている地域おこし協力隊の制度を活用していることもあり、コーディネーター自身にも事業性のある取り組みが求められている。

そこで今回は本屋をベースに、飲食や滞在ができるサロンのようなスペースづくり、さらには町に点在するプレイヤー同士をつなぎ、町の魅力やストーリーを発信するまちづくり・編集拠点を、3名のコーディネーター主導でつくっていこうと考えているそう。

「コミュニティの基盤となるような事業そのものをコーディネーター自らつくっていくことで、経済的な持続性を担保しながら、各拠点で築いてきたネットワークやノウハウを活かしてNCLらしいまちづくりを進めていきたい。そのための多種多様な人を巻き込む装置として、本屋はいいんじゃないかと」

人が集まり、交流するなかで、地域の資源や課題もより明確に見えてくるはず。

NCLは2000人以上のフリーランサーが登録しているプロジェクトマッチングプラットフォーム「TEAM KIT」と提携しており、よいシーズが見つかれば、それを具体的な形にしていく体制も整っている。事業のタネとフリーランサーをつなぎ、三条と多拠点を行き来する人を増やすようなことも、将来的なコーディネーターの仕事にしていけるかもしれない。

「NCLをOSと捉えると、面白い事例やケースを応用してどんどん広げていけるわけです。たとえばどこかの地域でマイクロブルワリーをはじめたいときは、遠野で培ったノウハウを活かすことができる」

「町全体を編集したり、新しい動きを生み出したり。そんな新しい本屋の成功モデルをもし三条でつくることができたら、ほかの地域にもどんどん展開していきたいですね」

 

そんな背景もありつつ、ベースとなる本屋づくりには、やはり本に対する愛情が欠かせない。

本と人をつなぐプロフェッショナルとして、今回の取り組みを一緒に進めてくれる人がいる。book pick orchestra代表の川上さんだ。

「HUMANS」の選書も手がけている川上さん。本のこととなると、言葉にどんどん熱がこもっていき、あふれるようにその想いを語ってくれる。

「本って実は、それを手にとる人がいないとまったく意味を持たないんですね。たとえば本のあらすじだって、誰かの視点で切り取ったものでしょう?」

たしかにそうですね。

「本は人が手にしてはじめて意味を持ちます。文字はあくまでコードで、どういった経験を持った人が読むのかによって、そこから生じる意味や考えは変わります」

「ただ多くの人は、“この本にはこういうことが書いてある”とか、“この本を読めばこれが学べる”っていうふうに、本を固定してその内容に縛られてしまっている。だからこそぼくは、本と人をどうつなげるか?が大事だと思うんです」

一人ひとりの近況や仕事の話を聞き、その人に合う本を即興で選んで、お酒やコーヒーとともに楽しんでもらう「SAKE TO BOOKS」や「COFFEE TO BOOKS」。お気に入りの一冊を持ち寄り、その本を糸口に参加者同士で語らうワークショップ「Sewing books」など。

川上さんの取り組みはどれも、人と本のさまざまな出会い方を提案するものだ。

そこには本屋を取り巻く現状も関係している。

「現代の本屋さんが本を売るだけで成り立っているのかというと、それは正直厳しくて。横でコーヒーを売ったり、雑貨を置いたりしていますよね。簡単に言えば、粗利率が高い状況をつくらないとやっていけない」

“本屋”の定義も、曖昧になりつつある。

本を愛するひとりとして、川上さんはそういった現状をどう捉えていますか。

「やり方はいろいろあっていいと思うんです。何冊置くか、新刊か古書か、コーヒーで稼ぐのかとか、そういうのは大した問題じゃなくて。根本は、“本に愛情を傾けられる状況をどうつくるか”ってことなので」

本が“何かのついで”のように消費されるのは避けたいけれど、見方を変えれば、本との出会い方のバリエーションが豊かになってきている、とも言える。

「既存の本屋像と違っても全然いいんです。町にはやっぱり本屋さんが必要なんじゃない?って思う人たちが集まれる場所をつくる。そこを起点に、人と本が触れあう機会を増やしていく。すぐに目に見える変化は起きなくとも、町という長い時間の中でつくられていく場所にとってそれは大きな価値になると思っています」

とはいえ、全国的に“町の本屋さん”が姿を消しているなか、NCL三条ではどんなことができるだろう。

いくつか策がある、と話す川上さん。そのうちのひとつについて教えてもらった。

「10年くらい前から、元気な個人出版社の流れが出てきはじめていて、とても質の高い本をたくさんつくっています。三条にはものづくりをはじめ、本にまとめたら魅力的に輝くたくさんのコンテンツがあります。NCLのネットワークを活かせば、日本全国や世界に向けたレベルで地域から発信する出版の形をつくれるんじゃないかと」

既成の本を並べて売るだけでなく、本をつくるところから。それぐらい自由に、新しい本屋の形をつくっていけるといい。

川上さんは、どんな人と一緒にこのプロジェクトを進めたいですか。

「本が好きな人。ただ知識が豊富だとか、それらしく論じられる人よりも、本の恩恵を受けて今の自分があると心から思っている人、ですかね」

NCLというプラットフォームと、川上さんの心強いサポートがあれば、面白い本屋をつくれそうな気がしてきた。

 

気になるのは、地域のこと。三条市はいったいどんな町なのだろう。

後日、現地を訪ねた。

東京駅から燕三条駅までは、新幹線で2時間弱。そこから電車に乗って3分ほどで着く北三条駅周辺の商店街エリアで出店を計画中とのこと。物件はまだ決まっていない。

話を聞いたのは、カフェ&レストラン「TREE」オーナーの中川さん。

大正時代に建てられたレンガ造りの銭湯と、その手前の米屋をリノベーションし、2年前にオープンしたTREE。以来、客足の絶えない人気店となっている。

「お客さんの6割が20代女性で、三条市から少し離れた新潟市や長岡市から来てくださる方も多いです。土日だと平均集客は180名ほど。『若者なんているのか?』って思われている地方都市でも、旗を立てればちゃんと人は集まるんだなって実感した2年間でした」

TREEの出店後、隣の物件でヨガスタジオがオープンしたり、商店街にもともとあった果物屋が若者をターゲットにした商品としてフルーツサンドをつくり、実際に袋を提げて商店街を歩く人の姿が増えたりと、目に見える変化も起きつつあるという。

一方で、課題に感じていることも。

「個々で面白い活動をしているプレイヤーはいるんですけど、点在しているんですよね。経験値とかスキルとか、共有できるものもあるはずなのにもったいないなと思っていて」

地元のデザイナーチームや農家の女性、ものづくり会社の社員さん。市街地から少し離れた下田地域でゲストハウスや飲食店を営む人や、各々の専門性を活かした個性豊かな地域おこし協力隊も活動している。

ほかにも、アウトドアブランド「スノーピーク」のキャンプフィールドや「三条スパイス研究所」などの地域に開かれた施設もあるし、2021年には市内初の4年制大学「三条技能創造大学」も開設予定だそう。

そうした多様な取り組みに関わる人たち同士が集い、つながるきっかけになればと、中川さんはお互いの夢や失敗談も含めて共有するイベントを月に1回のペースで開催。TREEの2階はシェアオフィスとしてオープンした。

NCL三条でも、そんな中川さんの取り組みと連携しながら、町のプレイヤー同士をつないだり、その面白さを発信していったりできるといい。

「ぼくらだけではまだまだ力不足だと思っているので。本という切り口から、まちづくりに関わる方を一緒に増やしていけたらうれしいですね」

今回のプロジェクトは、切り取る角度によっていろんな見方をすることができると思います。

町に本屋を残す。新しい本屋の形をつくる。地域の交流や発信のハブになる。

いずれにしても、共通しているのは本という存在。川上さんの言葉通り、人が手にとってはじめて意味を持つならば、本を扱うことはすなわち人と向き合うこととも言えそうです。

未来の本屋のひとつのモデルが、ここから生まれるかもしれません。

(2019/7/18 取材 中川晃輔)

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