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ある有名なファッションデザイナーが、雑誌のインタビューで「若いうちは、もっと本を読みなさい、アートを学びなさい」ということを話していた。そう言われてみると、デザインやものづくりに関わっている人たちって、映画や文学に詳しかったり、旅が好きだったり。
ひとつのジャンルに特化した専門家であるクリエイターも、実は、いろんなものから刺激を受けてものを生み出している。
今回紹介するのは、服だけを扱うアパレルショップではなく、ライフスタイルデザインのなかでファッションに向き合う仕事です。

CIBONEを運営しているのは、「DEAN & DELUCA」や、「GEORGE’S」など、食やインテリアを通じてライフスタイルの提案を続ける株式会社ウェルカムです。
今回は、レディースとメンズのアイテムをオールラウンドに担当していく人を募集したいので、アパレル業界でのバイイングやMDの経験があるほうがよいとのこと。
経験があれば、自分一人で全体をディレクションできる裁量の大きさをやりがいに感じられるはず。長い時間をかけて向き合える、「自分の仕事」になると思います。
外苑前駅のすぐそば。青山通りに面したビルの2階に、CIBONEのお店はある。

お邪魔したのは、オープン1時間前。お店の奥ではスタッフのみなさんが集まってミーティングをしているみたい。
最初に話を聞いたのは、チーフMDとしてCIBONEの「もの選び」全般に携わっている今川さん。

全体のバイイングと企画を行う今川さんとは、パートナーのような関係でMDに携わっていく。
それにしても、お店にはいろんなものがありますね。服もあるし、家具、インテリア雑貨、スキンケア用品のようなものまで。
「CIBONEは事業部として、国立新美術館のミュージアムショップ『SOUVENIR FROM TOKYO』や、デンマークのインテリアプロダクトブランド『HAY』のディストリビューションなど、いろんなお店を展開しているんですが、ここはライフエディトリアルストアといって、生活に関わることをトータルで提案するお店です」
ライフエディトリアルストア。つまり、暮らしを編集するということ。
たしかに、ここに並んでいるものは、それぞれになにかストーリーがありそうな雰囲気を感じる。
どんな文脈なのか、もう少し詳しく聞いてみたい。
「たとえば、ここに3つうつわがあるんですけど」
今川さんが見せてくれたのは、色も形もさまざまな焼き物。どれも変わった表情をしている。

「それでもいいですし、用途は使い手の自由です。僕にとってはある種、持っておきたくなるものっていうか」
持っておきたくなるもの。
「じゃあフラワーベースだと仮定して、すでに花を生ける道具を持っていたとしても、手に取りたくなるようなもの。それって、表面的な形ではなくて、もののコアな部分にあるストーリーを持ち帰りたくなるようなことじゃないかと思うんです」
左端の鮮やかな色のポットは、今川さん自身も家で使っているものだそう。
それぞれの作者である3人の陶芸家は、従来のクラフト技法の枠を超えて、自分たちで工夫して新しい表現を見出そうとしている人たち。
「釉薬に石鹸水を混ぜて泡のような表情を作ったり、バーナーで表面の釉薬を急乾燥させてテクスチュアをつくったり。自然現象的なものを自分でコントロールして模様に変えているんです」
なるほど。パッと見の印象もおもしろいけど、つくる過程を知るともっと興味が湧いてくる。
家で使うなら、お客さんを迎えたときに話のきっかけになるかもしれない。
そう考えると普段の自分は、わりと無意識にものを選んできたというか、あまりよく知らないものに囲まれて生活してきた気がする。

「CIBONEが提案しているのは、ものと付き合い方。生活の中にあるといいものとか、飽きない理由があるもの、ずっと関わりながら生きていけるようなものを紹介しています」
CIBONEらしいものとの付き合い方。
今回新しく入る人が担当するアパレルの部門では、どんなふうに考えていくことになるんだろう。
今川さんに、売り場を案内してもらった。

なんとなく、手前にあった服を手に取ってみる。タグを見てはじめて、それがマルジェラのシャツだったと知る。
「全部で60ブランドくらいからセレクトしていて。新作もあれば、十数年前から変わらない定番のアイテム、なかには古着もあるんですが、そういうカテゴリで分けずに、モノが一つひとつプレーンな状態で見えるように心がけています」
たしかに、手に取ってみないとどんなブランドの服かわからない。お店を選んで買い物をするときとは逆の、なんだか不思議な感覚。
売り場は、メンズとレディースそれぞれで大まかに分かれてはいるものの、基本的にはユニセックスで着られるものが多いという。

インポートブランドの場合は、ニューヨークやパリ、ミラノなどに出張することも。
「服を選ぶ基準はトレンドではなくて、背景なんですよね。ブランドの持つ歴史とか、この服はワークシャツをもとにしてデザインされているとか。そういうことを考えながら、ものを選んでいく」
「デザイナーやつくり手に会いに行くこともできる仕事だから、服好きな人にとってはやりがいがありますよ。自分の好きなものの、“その先”を知れるっていうのは」
シーズンごとに目まぐるしく移り変わっていくファッションの世界。そんなふうに深掘りして関われるのは、なんだかいいなあと思う。
さらにアパレルのMDは、メンズ・レディスの両方で、服だけでなく、バッグやアクセサリーのようなグッズまで手がけていく。興味があれば、コスメやスキンケアなどのMDにも関わることができるという。
服だけじゃない幅の広さも、きっとこの仕事の手応えになるはず。

「慣れてしまって、飽きに変わる時、そのときに別のブランドに転職するという方法もありますが、うちの場合は、インテリアや家具などいろんなものとの関わりのなかで仕事ができるので、一つの目線にとどまらず、興味が広がっていく楽しさはあると思います」
CIBONEのお店で、洋服がきれいに畳まれた棚のすみには、いくつかの本が置いてある。
有名な日本人デザイナーの作品集や著作、アメリカの写真家が女性を写した写真集。

さりげなく置かれた本の存在は、お客さんのライフスタイルにそんなヒントを与えているのかもしれない。
「MDの理想は、明るいオタクなんですよ。基本的にはアパレル全部を任せたいと思っているので、経験がある人なら、この環境で自分の色を出せる自由さを味わえると思います」
「明るいオタク!それいいね」と会話に加わってくれたのは、事業部長の池田さん。真面目な顔で冗談を言う、とても気さくな方。

「CIBONEがスタートするとき、何かおもしろいことができそうだなっていう期待はありましたね。今は洋服屋さんがうつわを扱ったり、インテリアショップが服を売ったりするのも当たり前になってきていますけど、当時はそんなお店はほとんどなくて」
何かで知ったのですが、CIBONEというブランド名は「city born」の略なんですよね。
「まあ、それも諸説あって…(笑)。当初は、『東京』っていう都市性とか、今まで日本になかったようなものを持ってくるとか、かっこいいことをやりたいっていう意識もあったと思います」

5年前、ブランドのこれからを示すキーワードとして「New Antiques, New Classics」という言葉を掲げたCIBONE。
50年後にもその価値が変わらず求められるもの。
それが今のCIBONEが提案する、暮らしとものの選び方。
「たとえば今座ってらっしゃるその椅子は、ボーエ・モーエンセンっていう北欧家具デザインの巨匠みたいな人が、50年以上前にデザインしたものなんですよ」
古いものも新しいものも、同等に並べられているCIBONEのお店。
MDは、すでに価値が認められているものだけでなく、これからクラシックとして長く愛されるものを見抜いて選び取っていく。

「自分のときより面白いものを入れているなあと思いますよ。もちろん、今までやってきたことがブランドの血となり肉となっている部分はあるので、新しく入る人もその“背骨”の部分は守ってほしいんですけど、それだけじゃなくて、新しい発想も取り入れてやってもらえたらいいですね」
「最初は、少し店舗で販売の仕事をしながら全体を感覚的に見てもらえたらいいかな。アパレルだけじゃなく、全体があってのCIBONEなので」
今回の取材で感じたのは、ものの良さを言葉にする難しさ。
たしかに、かっこよさは理屈じゃないのかもしれない。だけど、かっこいいものには、きっと理由がある。
CIBONEのMDの仕事は、それを自分の感覚で探求していくようなものだと思います。
まずはお店に足を運んでみてください。
(2019/10/4 取材 高橋佑香子)