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もの好きの引き出し

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「僕自身、全然手に職がない状態でスタートしていて。今でも自分ではデザインできないし、おいしいコーヒーも淹れられません(笑)」

そう話すのは、商品のセレクトや空間演出など、たくさんのお店のディレクションを手がけてきた株式会社メソッドの山田遊さん。

ものを見る目は、大人になってからでも身につけられる。

ものを見て「いいな」と思った理由を言葉にしていく。その繰り返しが、今の仕事につながっていったのだそう。

今回募集するのは、メソッドのプロジェクトマネージャーとして働く人。山田さんと一緒に、さまざまなプロジェクトの企画進行を担っていく仕事です。

いろんな「もの・こと」を知り、伝えていくこと。これからバイイングや空間づくりの業界を目指す人の背中を押してくれるお話だと思うので、ぜひ読んでみてください。


渋谷駅から歩いて10分ほど。カミニートという、少し変わった形のビルの2階にメソッドの事務所はある。

入ってすぐ、事務所に併設されたギャラリースペースでは、定期的に企画展示の開催や、レンタルを行っている。

11月には、クリエイティブ・ユニット「SPREAD」の企画展示「観賞用コントラスト」が開催されるらしい。

一般の人が訪れるギャラリースペースも、ミーティングスペースも、ワークスペースも、ひと続きになっているメソッドの事務所。

棚には、なんだか気になるものがたくさん。

「仕事柄、ものばっかり買っているので」と明るく迎えてくれたのは、代表の山田遊さん。この日は、11月開業の渋谷スクランブルスクエアの内覧会から戻ってきたところだった。

渋谷スクランブルスクエアの中だけでも、メソッドが関わっているお店は4店舗。

一つひとつのお店に対して、山田さんたちはどんな関わり方をしているんですか。

「たとえば中川政七商店では、今回はお店の真ん中に屋根のついた『仝(おどう)』という建物があって、そこに全国津々浦々の工芸品を並べるんです。僕たちはその商品をセレクトして調達してくる。そこにある『いくら箱』も、そのひとつですよ」

実は、ここに着いたときからかなり気になっていた木箱。

つくり手は、宮大工とギター職人によるクリエイティブユニット「ARAMAKI」。北海道で昔から使われてきた荒巻鮭の木箱や版を使って、いろんなものをつくっている人たちなのだそう。

いくら、という言葉に気を取られてしまいますが、ティッシュケースなんですね。

「ティッシュケースって、バイヤーとしては非常に選びづらいものなんですよ。これは極めて勝手な個人論ですけど、そもそもティッシュをケースに入れるっていう行為が貧乏くさいというか(笑)。素材や意匠をどんなに工夫してあっても、あんまり積極的に見せたくないものなんですよ」

「でも反対に、このくらいパンチが効いているとすごいポジティブで、『見てくれ、おい』っていう感じになる。隠したい部分にこそユーモアがあると、生活は楽しくなるんじゃないかと思うんです」

話していると、山田さんの「もの」に対する愛着がよくわかる。

ものやデザインに興味を持つようになったのは、いつごろのことなんですか。

「IDÉEで働くようになってからですよ。もともと文学部で歴史を学ぶ学生で、就活のときに自分が何をしたいか全然わからなかった。悩んでいたとき、ふと『家具』というキーワードが啓示のように降りてきたんです」

大学の卒論を仕上げながら、アルバイトスタッフとしてIDÉEで働いていた山田さん。正社員となって1年ほどして、退職する先輩の後任というかたちでバイイングの仕事をはじめる。

「当時はちょうどIDÉEが最盛期のタイミングで、僕はまだ23歳とかで経験もなかったけど『あいつはなんか、ものが好きそうだ』っていう理由で選ばれて。デザインの知識もないし、そこからめちゃくちゃ勉強したんです」

そのやり方は、いろんなお店や展示をひたすら見て回ること。

まずは見たものが好きか嫌いか。次に、なぜいいと思ったのか理由を考えたり、自分の意見を人に聞いてもらったり。

「とにかくたくさんものを見て、『いい』『悪い』『そこそこ』って仕分けしていく。知識や情報が足りないと、『なんかいい』としか言えないんですけど、インプットが一定の量に達すると、ズバッと線が引けるようになるんです。これはいい、理由はこうって」

知識を溜め込むだけでなく、それを分類して自分のための辞書をつくっていく。

デザインのことが分かるようになったら、同じやり方で、ファッション、工芸、アート、食、と引き出しを増やしてきた。

「やっぱり僕自身ものが好きだし、食べることも好きだし。興味があるからインプットしていけるっていうのはあると思います」

「インハウスのバイヤーだと、そのお店の価値観に合うものだけを見ればいいんですけど、僕らはありとあらゆることに対してアンテナを張っていて。美しい工芸品も、コンビニのお菓子も、僕たちにとって『見なくていいもの』っていうのはないんです」

会社を立ち上げて12年。

以前は、つくり手と市場をつなぐ「潤滑油」としての役割を意識することが多かったという山田さん。

今は、「ものに関する文化」をつくれる会社でありたいと話す。

「僕たちがお店に提案したいのは、売れるものっていう安心感ではないんです。むしろ売れないもののほうに興味があるというか」

売れないもの?

「たいていのお店の売り上げの9割は、お店にあるたった3割のものだけで構成されているんです。残りの7割は回転していない。ただ、その7割をなくしてしまうと、お店そのものが寂しくなって売り上げは落ちる。つまりお店って、売れない7割で何を表現するかがすごく大切なんですよ」

たしかに買い物に行く理由って、必要なものを買うだけじゃなくて、お店で何か楽しいものに出会いたいという期待のほうが大きい気がする。

お店に行ってなんだかちょっとワクワクした気分を持ち帰る。

山田さん自身にとっても、いろんなものをインプットする学びの場であったように、お店には「今日買いたいもの」と、「これからのヒントになるもの」の両方が必要なのかもしれない。

「僕たちみたいな外部の人間の強みは、社内の人間よりもお店のことを客観的に捉えられること。相手を理解した上で、新しい要素や視点を加えていくことが、僕らに求められる役割なんだと思います」

相手の知らない、相手の可能性。

それを提案するためには、どれだけ引き出しを多く持っているか、ということも大切ですよね。今回募集するプロジェクトマネージャー、業界経験はなくてもいいんですか。

「僕もデザイン経験はないですし、センスがあるとも思ってなかった。今の仕事も、圧倒的な情報量とノウハウと経験値でやっている。僕みたいなキャリアでもクリエイティブに仕事ができるっていうことを示したくて」

「未経験でもいいので、ものに対して勉強熱心な人がいいかな。あとはそれを伝える力。ティッシュケースひとつでも、くそまじめに考えるような(笑)。コミュニケーション力のあるオタク、みたいな人がいいですね」


山田さんのもとでは、常時20〜30のプロジェクトが同時に進行している。

プロジェクトマネージャーとしていくつかの担当をもち、クライアント、デザイナーやメーカーなど社外のさまざまな担当者をつなぎながら、進行を含む現場の全体管理をしていく。

次に話を聞いたのは、入社2年目の坂井さん。前職ではテキスタイルデザインの仕事をしていたのだそう。

「ものづくりの川上で仕事をしていると、どんなにいいものをつくっても売る術を知らないと届けられないっていうジレンマがあって。この仕事をはじめたのは、もっと川下を知って、メーカーさんたちの役に立てたらいいなと思ったからなんです」

坂井さんが入社してはじめて担当したのは、九州にあるカフェ。オープン直前にお皿やトレイ、カトラリーなどの備品をセレクトし、調達する仕事だった。

「Webで手に入るものもあるんですけど、基本的にはメーカーさんに直接連絡して、コンセプトを伝えた上で卸してもらう。メソッドでは、そういうコミュニケーションを大切にしているんです」

「お店に必要な備品って本当にいろいろあって。ひとつのプロジェクトだけで30くらいのメーカーさんとやりとりすることもあります。大変なんですけど、直接やりとりするからこそ、何気ない世間話とかから相手のことを知れるのはいいところかなと思います」

ものを伝える仕事だからこそ、つくる人のことも知る。

一つひとつのプロセスにも、見る目を養うヒントが隠れていそう。

カフェやレストラン、展覧会ごとに模様替えをするミュージアムショップなど、業態も地域もさまざまな空間づくりに関わるメソッドの仕事。

毎回、ものや場所と向き合いながら、新しくコンセプトを考えていく。

担当スタッフ以外のメンバーとも情報交換をしながら進めていくのだそう。


「いつもほかのスタッフに助けられているんですよ」と話してくれたのは、入社4年目の渋谷さん。

「私が担当したのは、伊勢神宮のそばにある食堂『ゑびや』さん。中川政七商店の『仲間見世プロジェクト』の一環でリブランディングするときに、山田がプロデューサーとして加わることになったんです」

「私たちは山田のアシスタントではなくて、プロジェクトの担当者なんですよね。だから指示を待つんじゃなくて、ときには山田の代わりを務められるくらい、意識的に自分から動いていくことが大事なんです」

多くの人が関わるプロジェクトでは、いろんな意見を取りまとめながら、方向性を探っていく。

ゑびやのプロジェクトでは、伊勢の歴史や地元の人だけが知るようなエピソードを引き出すために、40〜50人いるお店のスタッフ全員からアンケートをとって、一緒にコンセプトを考えた。

伊勢は、古くから多くの参拝客を迎えてきたまち。

江戸時代の案内人が旅人に持たせた品「宮笥(みやけ)」が現在の「お土産」の語源になっていることなど、調べていくと、今のおもてなしのルーツに触れることができた。

そこで、三重の職人さんが手がけたお土産を楽しめるショップを併設。100年の歴史を持つ食堂「ゑびや」は、リニューアルオープンを迎えた。

「この会社に入ってから『もの・こと』に対する向き合い方が変わった気がします。以前メーカーで働いていたときは、流行の影響を受けやすくて、『なんとなく売れると思う』というだけで企画が成立していたんです」

「今はその理由を問われる機会がすごく多いなと感じます。感覚だけじゃなくて『なぜいいのか』っていう部分。自分のなかで整理ができていれば、意見の異なる相手にもちゃんと伝えられるんですよね」


たとえば今日のお昼に食べて、おいしかったもの。

どんなふうにおいしいかったのか、その理由をじっくり考えてみる。

そんな積み重ねが、自分だけの仕事になっていくのかもしれません。

(2019/10/24 取材 高橋佑香子)
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