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「長く大切に着てもらえるものをつくりたいんです」シサム工房で働くデザイナーのみなさんは、よくそんなふうに話します。
シサム工房は、京都を拠点にフェアトレード事業を展開している会社です。洋服やアクセサリーといった商品を適正な価格で輸入し、直営店や全国の卸先を通じて一つひとつ大切に届けています。

デザイナーは、デザインはもちろん、海外の生産者とのやりとりや検品など、一枚の洋服が完成するまで一通りの流れに携わる仕事。
遠く海の向こうに暮らす人と、一着をつくる。人との関わりを大切にしたい方に、届いてほしいと思います。
シサム工房は、京都大学農学部のすぐ裏手に本社を構えている。
最寄り駅は、叡山電鉄・元田中駅。この日は時間にゆとりがあったので、一つ手前の駅で降りて、京都大学の中を通っていくことにした。
紅葉シーズンまっさかりの11月の京都。赤と黄色の葉がとてもきれい。

シサム工房の本社のチャイムを鳴らして中へ入ると、取締役の人見友子さんが迎えてくれた。

落ち着いた赤色の生地に、青と緑でプリントされた小さな模様。これは…どんぐりですか?
「そうなんです。ころんとした木の実をイメージして、一枚一枚ハンドスクリーンプリントで仕上げていて。素材もサテンコットンだから柔らかいんですよ」
冬はニットに重ねても可愛くて、と声を弾ませる人見さん。この服は、インドの巨大スラムに暮らす女性たちがつくってくれたのだと教えてくれる。
「みなさん、金銭的にぎりぎりの状態でスラムに流れ着いて。子だくさんのうえに、夫から暴力を受けたり、精神的にも追い込まれて…。どん底を経験してきた人たちです」
「でもみんなここで手に職をつけて、人生をガラッと変えてきた。そんなすごく前向きなパワーであふれている格好いい人たちが、私たちのパートナーなんです」

そんな想いでフェアトレード事業に取り組んできたシサム工房。
京都で始まった小さなお店は、20年をかけて少しずつ輪を広げ、今では直営店8店舗と、全国の卸先を通じて商品を届けている。

その7割ほどを占めるのが、自社デザインの洋服だそう。
「一枚一枚、手仕事でつくられていて。そこには生産者や私たちの想いはもちろん、泥臭くて地道なやりとりもぎゅっと詰まっています」
シサム工房のパートナーは、世界フェアトレード連盟に加盟するアジアのNGO。
生産者はどんな人たちなのか、どういった生活を送っているのか。糸や生地はどんなものが用意できるのか、伝統的に紡いできた模様や技術などはあるか、縫製や織りといった技術はどうか。
つくり手の文化や時間の流れを尊重しながら、日本のマーケットに合わせてデザインしていく。

「正直今でも、ええっ、どうして!?ってことの連続で。向こうから送られてきたお洋服にチャコペン跡ががっちり残っていたり、なぜかヤギの足跡がドンってついていたり」
おお…たしかに、感覚の違いを感じますね。
「ふつうの会社だったら、もうお付き合いできませんって音を上げてしまうようなことも、驚くほど頻繁に起こります」
「でもがっかりするようなことが何度あっても、途中で投げ出したことは一度もなくて。どうしてできないの!じゃなくて、じゃあどうする?って一緒に考えることを、ずっと繰り返してきました」
デザイナーとともに、バッグに不良品を何十キロと詰めて生産地に向かい、ポイントを一つずつ説明したり。女の子たちと肩を並べて、何時間も一緒に検品したり。
時間と手間を惜しまずかけることで、感覚をすり合わせてきた。

「生産者のみんなも、明日の生活を支える一着をつくりたい!って気持ちは同じだから。必死になってしがみついてきてくれるんです」
きっと私はすごくしつこいしうるさいと思います、と笑う人見さん。
写真を見ながら一人ひとりの名前やエピソードを教えてくれる姿からは、遠く離れた国のパートナーたちを大切に想っていることが伝わってくる。
「フェアトレードを成り立たせるものって、顔の見える一人ひとりを大事にしたいって思う気持ちとか、コミュニケーションだと思っていて」
「私にとってパートナーのみんなは、戦友なんです」

デザインのみならず、商品が完成するまでの業務を幅広く担うポジションになる。デザイナーとしてだけでなく、パターンも引けるとうれしいとのこと。
「一つ伝えるとしたら、出会いを楽しみにしてきてくださいってことかな。パートナーは、自分で人生を切り拓こう!って人たちばかりで。もう、会わせてあげたい人がいっぱいいるんですよ」
人見さんのそばで「うん、うん」と聞いていたのが、デザイナーの水上紅仁子(みずかみくにこ)さん。

「相手のことを思いやろう、って姿勢がすごくしっくりきて。そのうえで、フェアトレードをビジネスとして成り立たせている。すごいことだし、私も携わりたいと思って応募を決めました」
前職では、アパレル会社で商品企画を担当していた水上さん。
ここでは、どんなことを考えてデザインに関わっているんでしょう。
「シサムのお客さまは、気に入ったお洋服を長く大切に着たい、という価値観を持っている方が多いように感じていて」
「流行もそこまで追わず、体型が変わっても着続けられる服を、と思いながらデザインしています」
私もシサム工房の洋服を何着か持っている。たしかに年齢や体型を選ばないデザインが多いし、天然素材を使っているので、着心地もいい。
細かな手刺繍が縫いこまれていたり、裏地をめくると赤ちゃんどんぐり柄の生地が隠れていたり。ちょっとした遊び心もありますよね。
「お客さまに喜んでもらえる商品をつくりたくて。商品のサンプルができあがったら、現場の声を吸い上げるために、直営店や卸部門のスタッフも交えてミーティングをひらいて、最終的な素材やデザインを決めていきます」

ボタンや生地など、使いたい材料が手に入らないもどかしさ。生地を織る技術が追いつかず、織る過程で商品に傷がついてしまうトラブル。デザイナーとしてはじめての困難にも直面してきた。
「でも、限界にとらわれていたら次に進めないな、と思っていて。だから最近は、毎回ちょっと難しいことに1つだけチャレンジしようって意識しているんです」
へえ! チャレンジですか。
「はい。この間も、コートかな。縫い合わせた布の端がほつれないようにするパイピングっていう加工の指示を出して。そうすることでハンガーに吊るしたときの印象も、ぐっと上品になるんです」
ただ、コート用の分厚い生地にパイピングをほどこすのはなかなか高度な技術。
パターンと指示書を送って、サンプルをつくってもらう。完成したものを確認し、不備を見つけて、またつくり直してもらって…。
そんな地道なやりとりを5度も6度も繰り返して、つい先日、美しい仕上がりのサンプルが送られてきたそう。
「その瞬間はもう、よしっ!ってガッツポーズです」

「やっぱり最初はお互い初めましてだし、言葉もそんなに通じないのでちょっと距離があって。でもふとしたきっかけで、こう…通じる瞬間があったりするんです」
「デザイナーと生産者、じゃなくて、人と人として目を見て話せる関係がすごくいいなと思います」
時間も手間もかけるなかで、商品にかける想いは自然と強くなる。
それを商品の受け取り手に伝えていくのが店舗の役割。そういえば、代表の水野さんは以前の取材でこんなことを話していた。
「シサムのお店はただ商品を売るのではなくて。目の前の人に、ものの後ろにあるストーリーを丁寧に伝えていくことが、とにかく大切だと思っています」
店頭のスタッフまで、一貫して生産者の想いに向き合い伝えていく。それは関わる人みんなにとって気持ちのいいことだし、デザイナーとしてのやりがいにもつながるだろうな。
「生産者のみなさんがすごく頑張ってつくってくれたものだから、ちゃんと繋がないとって責任感はすごくあって。その想いまで大事に届けてくれるお店のスタッフの存在は、とても心強いです」
そしてもう一人、デザイナー兼パタンナーの菅野潤一さんにも話を聞いた。

「私がかなりたっぷりしたドロップショルダーをデザインしたときのこと、覚えてますか?」と水上さん。菅野さんが「そうそう」と返す。
「今までこんなのやったことないわってすごく驚いて(笑)。こういうデザインもあるのかって、すごく刺激になったんですよ」
直線的だったウエストにシェイプを入れたり、スカートにドレープを入れたりと、シサム工房のものづくりに取り入れられた“菅野さんらしさ”もある。「菅野さんが来てから形がきれいになったんですよ」と人見さんも話していた。
「ただ、とにかく自分のデザインを!という人は違うかな。お客さまが喜んでくれる服をみんなでつくろうって人が向いていると思います」

取材中、みなさんをそばで見守っていたのが代表の水野泰平さん。

人としてのバランス感覚。
「フェアトレードを仕事にするという意志と、粘り強い根気、相手へのリスペクト。この3つを大事にしつつ、僕らの想いに共感してくださる方なら、きっといい仕事ができるんじゃないかなと思っています」
思いやりの心を持って、まっすぐに。
心の通ったものづくりの現場が、ここにはあるように思いました。
(2019/11/19 取材 遠藤真利奈)