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通いたくなる
高校をめざして
挑戦はつづく

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子どもの数が減ったり、都市部の学校に進学する子どもが増えたり。

さまざまな理由を背景に、地域の学校が少しずつ小さくなっている。

熊本県甲佐町(こうさまち)。熊本市のお隣の小さな町も、そんな問題に向き合ってきました。

甲佐町には、今年で創立100周年を迎える熊本県立甲佐高校があります。

1万5千人以上の卒業生を輩出し、にぎやかな地域の学び舎だったこの高校。ところがおよそ10年前から、生徒数が減っていっています。

このままでは学校そのものがなくなってしまう。それならもう一度、生徒たちに選んでもらえる学校をつくろう。

そんな目標のもと、地域の大人や学校の先生は3年前から「甲佐高校魅力化プロジェクト」に取り組みはじめました。

生徒一人ひとりの勉強のサポートやキャリア教育をおこなう塾が生まれたり、学校の先生のアイデアから新しい部活動がはじまったり。地域の大人たちみんなで試行錯誤しながら、プロジェクトを少しずつ前に進めてきました。

今回募集するのは、塾の運営スタッフ。教育の経験は問いません。



羽田空港を飛び立った飛行機は、1時間半で熊本空港に到着する。到着ロビーに出ると、甲佐町教育委員会の中西さんが待っていてくれた。

甲佐町は、ここから車で30分ほど。ほかの地域からのアクセスがいいんですね。

「そうなんです。あまり知られていないんですけど、甲佐町はお隣の熊本市へのアクセスもよくて。車で30分くらいなので、熊本市内に住んでいる職員も多いんですよ」

熊本県のちょうど真ん中に位置する甲佐町。

山や川に囲まれた、素朴な自然が残る町だそう。

「有名な観光スポットはないんですけど、ゆったりとした時間が流れていて。今から向かう甲佐高校の生徒も本当にまっすぐで、素直な高校生たちです。大人たちも『地元の高校をなくしちゃいけない』って、それぞれに思っているように感じますね」

熊本県立甲佐高校。町にある唯一の高校が、今回の舞台だ。

今年で開校100周年という、長い歴史をもつ甲佐高校。

ところが10年前に学区が再編され、甲佐町の子どもたちも熊本市内の高校へ自由に通えるように。町の中学生の9割が、部活動や勉強のために熊本市内に進学するようになり、甲佐高校の生徒数は80名まで減ってしまった。

近年、熊本県の教育委員会では高校の統廃合が議題にあがっていて、甲佐高校もなくなってしまう可能性があったそう。

そこで町と高校は、魅力ある高校づくりに取り組みはじめる。

その核となっているのが、2年前にオープンした町営塾「あゆみ学舎」だ。

高校のなかにあって、甲佐高校の生徒なら誰でも通うことができるこの塾。専任のスタッフによる学習指導や進学・就職のサポートに加え、生徒の視野を広げるようなプログラムも実施している。

「漫画家さんやモデルの方を呼んでトークイベントを開いたり、ドローンの操作を体験してみたり。ほかにもプログラミングや美術体験など、スタッフの方がそれぞれの個性や人脈、得意なことを生かしながら新しい取り組みをどんどんはじめていて。生徒も一緒に将来を考えてくれるスタッフのことを信頼している感じがします」


話しているうちに、車は甲佐高校に到着。

すれ違いざまに、生徒のみなさんが元気よく挨拶してくれた。体育館からは、笑い声や笛の音が聞こえてくる。

グラウンドのそばにある部室棟へ。この一室に、あゆみ学舎の教室がある。

迎えてくれたのは、塾長の越名(こしな)さん。

朝7時半から授業が始まるまでのおよそ1時間と、放課後16時〜21時にオープンしているあゆみ学舎。

教室にはマットの上でくつろげるスペースや、かわいらしいイラストが描かれたホワイトボード、紅茶セット、スタッフおすすめの本も置いてある。

「みんなにとって居心地のいい場所になるといいなと思って。勉強したい子も、おしゃべりしに来る子も、それぞれが楽しめるようにレイアウトしています」

ほがらかに話す越名さんは、広告代理店やベンチャー企業などでさまざまな経験をされてきた方。

子育てが一段落して新しい仕事をしたいと考えていたときに、この塾の求人を知った。

「もともと教育学部出身で、先生になりたいと思っていた時期もあったんです。わたしに勉強を教えるなんてできるのかなとも思ったけど、この塾は地域の新しい魅力づくりでもあると紹介されていて。これまでの経験も生かせると思ってやってきました」

2年前にオープンした塾には、現在15人ほどの生徒が通っている。

「ただ、1日のうちに来るのは3〜4人で。ちょっと少ないんですよね…。本当はもっとこの環境を使ってほしいんです」

いまはどんな生徒たちが通っているんですか。

「ひとりで黙々と勉強して帰る子もいるけれど、おしゃべりしたい子が多いかな。何気ない会話から、みんなの夢や葛藤を聞かせてもらうこともあって。その子に合った関わり方ができればと思っています」

日々模索しながら塾の運営に取り組んでいる越名さん。

何がこの高校の魅力なのか、この土地らしさってなんだろう?という問いに、向き合い続けているという。

「全国のほかの地域でも高校魅力化プロジェクトが進んでいるなかで、塾のあり方もいろいろで。甲佐高校の場合は、進学するよりも地元に残って就職する生徒が圧倒的に多いんですね。私は、その子たちがもっと地域のことを知って、根を張っていけるような機会をつくりたいと思っていて」

そういって越名さんが教えてくれたのが、去年の秋に開催した「トーク・フォークダンス」というイベント。

フォークダンスのように相手を替えながら、お題をもとに次々と語り合うというものだ。

越名さんは以前、ほかの地域で開催されたトーク・フォークダンスに参加したことがあったそう。

「自分の話を、最初から最後まで真剣に聞いてもらう。その経験は自己肯定感にもつながるし、何よりもワクワクしたんですよね。あのときわたしが感じた感覚を、高校生にもぜひ体感してほしいと思って。いろんな人にお願いして、町の商店街の方たち、大学生、介護施設のおばあちゃんまで、100人の方が集まってくれました」

おおっ、それはすごいですね。

「はじまる前は、生徒はみんな『えー、いやだ』って(笑)。先生方も、生徒がちゃんと話せるか心配されていたようなんです。でも終わってみたら、生徒は『楽しかった!』って言ってくれたし、先生も『うちの子どもたちを見直しました』って伝えにきてくれて」

お題は「文化祭の思い出」や「誰か一人にだけ感謝を伝えるなら誰にする?」といった身近なもの。2分間のスピーチに、聞き手はじっくり耳を傾ける。

「生徒たちはね、とにかく前のめりになって目をキラキラさせて話していたんですよ。その経験が、一人ひとりの自信につながっていたらいいなと思っています」

来年で3年目を迎えるあゆみ学舎。高校や地域の期待を背負っている実感もある。

「町の事業としてこの塾を続けるためには、目に見える成果も出していかないと、と思っていて。イベントやワークショップも大事なんだけど、進学希望の子たちも安心して甲佐高校を選べるような学習面のサポートにも力を入れていきたいんです」

来年度からは、受験に向けての学習計画づくりや、小論文の指導もはじめる予定。学校の先生とも連携して、授業の進行具合を聞きながら、予習復習が習慣化するような環境をつくっていきたいと考えているそう。

そんななか、越名さん以外のスタッフは今年度いっぱいで卒業して、新たなステップへ踏み出される。新しく入る人は、まだ余白のある「あゆみ学舎」を一緒になって形づくっていくことになる。

「こういう人がいいとか、今までのやり方を守りたいとは考えていないんです。大切なのは、その人がその人らしさを発揮してくれること。そうやって楽しむ大人の姿を見せることが、きっといい学びになると思うんです」



話が一段落したところへ、校長の本山先生がやってきた。よく塾にも顔を出しているそうで、越名さんいわく「甲佐高校のスーパー営業マン」とのこと。

町内の中学校にあゆみ学舎のパンフレットを配りに行ったり、町のお祭りと高校の文化祭をコラボレーションさせたりと、精力的に高校をアピールしている本山先生。

「うちは町内唯一の高校ですから。今の甲佐高校はこんな雰囲気ですよ、生徒はこんなに頑張っていますよって、どんどん宣伝します」

「最大の課題は生徒募集です。もっと特色を出して外から生徒を呼び込みたいと考えていたときに、野球部の顧問の先生が立ち上がってくれて。九州で唯一の、公立高校の女子野球部をつくったんです」

顧問の先生は、県内唯一の女子硬式野球クラブチームの監督も務めている方。現在は部員はいないものの、野球を習っている女子小中学生を県内外から呼んで練習会を開催するなど、地道にPRに取り組んできた。

そのかいもあり、今年の受験生のなかには「甲佐高校に入って野球をしたい」という町外在住の女子生徒もいるそう。

そこで町内の空き家を活用して、4〜5人ほどが住める女子寮をつくることになった。

生徒たちの入学が確定するのは3月なので、寮が実際に稼働するかどうかは今のところ未定。いつ女子野球部が始動してもいいように、町と学校で準備を進めているところだ。


最後に話を聞いたのは、学校教育課の課長の荒田さん。

「この数年間、常に順調だったわけではなくて。実は、入学者数が前年度から10名近く減った年もあったんです。正直、全員がショックを受けて」

「そこで学校も町も塾も、全員が『何かを考えなければ、変えなければ』って前を向いたんですよね」

プロジェクトの成果は、少しずつではあるけれど表れてきている。昨年は塾と学校の後押しを受け、甲佐高校から20数年ぶりに役場の職員試験の合格者を輩出した。

さらに、これまで進学希望の生徒がほとんどいなかった甲佐高校で、「大学に行ってみたい」と話す生徒も出てきているという。

「今は、根っこを深く張っていく時期だと思っています。ただ生徒数を増やすことだけを目的にしてはいけない。大切なのは、今いる生徒が卒業したときに『甲佐高校に行って本当によかった!』って言ってもらえるように支援することかなって」

「まだまだ発展途上です。自分が頑張って変えていくぞ!というやる気のある方と出会いたいと思っています」

塾のスタッフも、学校の先生も、町の職員さんも。それぞれが悩みながらも、プロジェクトを前に進めている。

少しずつ形になってきたものもあれば、これから考えていかないといけない部分もあるはず。裏を返せば、これから入るスタッフ次第で、プロジェクトは大きく進んでいくかもしれない。

「この高校に来てよかった」と思ってもらえる学校をめざして。甲佐町での挑戦はまだまだ続きます。

(2019/12/19 取材 遠藤真利奈)

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