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「働くってどういうことなのか、わからなくなった人が、もう一度その意味を取り戻す。そんな場所かもしれないね」
そう話すのは、有限会社久木山運送の代表である久木山栄一さん。
屋久島の西方約12kmに位置する火山島、口永良部島(くちのえらぶじま)。この島で唯一の会社が久木山運送です。
社名に「運送」とありますが、仕事は多岐に渡ります。一日一便のフェリー受付にはじまり、荷物の積み下ろしや配送、ゴミの集収。さらには道路の保全や、伸びてきた草の刈り取り、発電所の運営まで。島の物流やインフラを幅広く支えています。
インターネットや交通網が発達したからこそ、世界中の人がビジネスの対象になり、さまざまな仕事が効率的にもなりました。
一方でそれは、顔の見えない仕事が増えたということでもあります。なんのために働くのか、誰が喜ぶのかという“手応え”を感じづらくなっているような気もする。
もしも今、そんなふうにモヤモヤした気持ちを抱えている人がいたら。この島で働いてみるのもいいと思います。
今回は、久木山運送の一員となる人を募集します。
鹿児島空港から高速バスで1時間、フェリーに乗ること4時間。屋久島に到着する。
屋久島と口永良部島を結ぶ「フェリー太陽」は、人だけでなく、ものの行き来を支える生命線だ。海流の関係で欠航することも多いそうだけど、今回は難なく出航し、1時間半で口永良部島の本村港にたどり着いた。
着岸すると、久木山運送のみなさんが一斉に動きはじめる。フェリーを迎える人、大型車両を乗りこなす人、コンテナから宅急便を運び出す人…。
日々のルーティンが体に染み込んでいるのだろう。流れるような連携作業は、見ていて気持ちいい。
そのなかにひとり、スーツ姿の人を見つけた。代表の栄一さんだ。
ちょうど鹿児島市内への出張から帰ってきたところだという。
「働き方改革関連のセミナーがあってね。今までは島の会社だからってそこまで考えてなかったけど、あとからバタバタしても大変だし、今のうちに勉強しておこうと思って」
事務所で「今ハマっている」というコーヒーをいただきながら、話を聞くことに。
過去2回の取材で作業服姿を見慣れているからかもしれないんですが、なんだか栄一さん、雰囲気が変わったような。
「考え方はちょっと変わったかもね。根っこの性格は変わってないけど(笑)」
久木山運送は、栄一さんが20歳のときにお父さんから継いだ会社。右も左もわからないまま、がむしゃらに経営してきた。
「前はとにかく島を背負う気持ちが強かった。直球ストレートで、島!って」
民宿や発電所の業務など、島のためにできることはなんでも請け負うつもりで仕事の幅を広げてきたし、それに応じて売上も伸びてきた。
一方で、少しずつ疲労感も募っていった。次第に会話が減り、社内の空気もどんよりしてきて、栄一さん自身も一時は心と体のバランスを崩していたそう。
「これまで後ろを振り返ったことがなかったし、ずっと突っ走ってきた。それがいきなりうまくいかなくなって、ガタガタガタ!ってひっくり返って。今思えばいい経験だったけど、当時はきつかった」
そんな激動の時期を経て、会社の主軸を担ってきたスタッフ2人が退職することに。
栄一さんは今、あらためて組織づくりに向き合っているところだという。
「これから一緒に働く人に言いたいのは、まず自分を大事にしてほしい。甘やかすってことではなくて、芯を持ってね。新参者だからって遠慮する必要はないということ。そして自分の次に家族、その次に会社がくる。この順番が大切」
今回募集するのは、荷役運送のスタッフと発電所のスタッフ。荷役運送担当については1年ごとに契約更新する形なので、はじめから定住するつもりはなくてもいい。
「仕事は多岐にわたるけど、シンプルなものが多いから、半年働けばだいたい覚えられると思う」
宅急便や郵便物を各家庭に届けたり、フェリーの受付をしたり。
仕事を通じて島の人と顔を合わせる機会が多いので、自然と地域に馴染んでいけるだろうし、何より手応えを感じやすいと思う。
全員の顔がわかる、人口100人の島。「自分の働きは、誰のためになっているんだろう?」と問うまでもなく、目の前の人に、真摯に向き合い続けていく。
そんなふうに働ける環境は、なかなかないような気がする。
「ストレスがないかと言われれば、都会とはまた違ったものがあると思う。まあ、あんまりドーンと受けないことなんだよな。無視したらよくないよ? でも人の気持ちに振り回されはじめたら、それこそ疲弊してくる。おれの言うことも含めて、嫌だなと思ったら暖簾みたいにうまくかわせ、と」
まずは1年、自分を見つめ直すつもりで働いてみるのもいい。町営住宅にも空きがあるし、引っ越しの支援金も出るので、家族で移住するというのもありかもしれない。
「彼女みたいな人に来てほしいね」ということで、栄一さんから紹介してもらったのが、地域おこし協力隊の吉澤あさひさん。
久木山運送で働いているわけではないものの、移住者の視点から、この島で暮らし働くことについて話を聞いた。
神奈川県出身のあさひさん。
肌の不調をきっかけに通いはじめたマクロビの料理教室で、口永良部島のことを知ったそうだ。
「そこに通っていた生徒の方が“口永良部島、地域おこし協力隊募集!”ってチラシを壁に貼ろうとしていて。それなんですか?って聞いたら、いろいろと教えてくれたんです」
水と空気のきれいな火山島であること。
お子さんが山海留学に通っていて、すっかり島好きになっていること。
そして驚くことに、お子さんのひどかった猫アレルギーが半年で治ったことなど。
話を聞くうちに興味が湧いてきて、まずは一度遊びに行ってみることにした。
「ちょうど台風の時期で、なんとか滑り込んで。でもずっと雨続きだったので、やることないねって(笑)。そしたら宿の人が声をかけてくれて、島の人たちと一緒にバドミントンをやることになったんです」
学校の体育館に行ってみると、そこには14人ほどが集まっていたそう。
「島には娯楽施設がないから、みんなで集まって何かすることに熱心なんですよ。お祭りとかもそうです。滞在中には地元の方のお宅にお邪魔して晩ごはんをいただいたりもして、地域の中心にぽーんと入って遊んで」
その年の暮れには島に移住し、2年と少しが経った。
暮らしてみて、驚いたこととか、ギャップを感じたことはありますか?
「最初は九州の文化とか、お宅でごはんをいただくときに何を差し入れたらいいかとか、もう全然わからなくて。一つひとつ体当たりですよね」
コンビニも娯楽施設もない。日々の主な出費はガソリン代で、ほかにお金を使うタイミングといえば、島外の美容室や映画館に行くときぐらい。
何気なくいただく野菜はオーガニックで、近海では魚や伊勢エビがよく獲れる。
何かもらえば、別の機会に何か手伝ったり、もので返したり。お金を介さないやりとりが圧倒的に多いそうだ。
「島の人たちは、ピュアな感性をずっと持ち続けている感じがします」
ピュアな感性。
「肩書きとか資格とか関係なく、その人の本質をパッと見抜く目が肥えているというか。『ごちゃごちゃ言ってないで、何ができるの?』みたいな、素直でストレートなやりとりが好きな人にはぴったりの環境だと思います」
「島での暮らしには、よくもわるくもリアリティがある」とあさひさん。
日々口にするものは、どのようにつくられているのか。水道や電気、道路の整備やゴミ処理は誰がしているのか。
都市部では当たり前のように公共サービスに頼りきっていることも、ここでは名前も顔もわかる人たちの働きによって形になったり、支えられたりしている。
「自分に関することで、知らないことがない感じ。全部に手の届く感覚が心地いいですね」
実はあさひさん、近いうちに島を離れる予定だという。
黒潮と親潮の交わる豊かな漁場であり、火山の地熱によって良質な温泉も湧き出る口永良部島には、海外からも温泉マニアや研究者がやってくる。
そんな“濃ゆい”人たちと出会い、自身の体力や気力も回復してきたなかで、海外の大学で学びたいという気持ちが湧いてきたのだとか。
人によって、この島を訪れ、離れてゆく理由はさまざまだ。その一方で、一定期間をここで過ごした人たちの語る言葉には、似たところがあるようにも感じる。
最後に話を聞いたのは、ぼくの大学時代の友人の冨永真之介。
一年間休学して久木山運送で働いていたことがある彼に、島での経験をあらためて振り返ってもらった。
訪ねたのは、東京・霞が関。彼は今、総務省で働いている。
「仕事だからやってもらって当然、とされていることってあると思うんだけど、向こう側にはいつも人がいて。丁寧に人と向き合う姿勢は、人間関係がベースにある島だからこそ学べたことのような気がする」
東京・赤坂出身のシティボーイだった彼は、高校生のときにはじめて口永良部島を訪れた。当時はあまりの文化の違いに、一言も話せないまま帰ってきたらしい。
その後、大学のゼミのフィールドワークをきっかけに何度か口永良部島を訪れたものの、その活動は本当に島のためになっているのか?と疑問を抱き、一年間久木山運送で働くことを決める。
「最初はね、『魔女の宅急便』ですよ」
え、どういうこと?
「主人公のキキは魔女見習いなんだけど、最初は空を飛ぶことしかできなかったから、宅急便をまずはじめてみる。ぼくの場合も、持っていたのは運転免許だけ。仕事のことは何もわからないまま、島に来て」
「実際やってみると、物流っておもしろくて。行く先々が島の人のおうちなので、すごく出会いにあふれているし、島の入り口から出口まで、全部の流れが見える。血の通った、まさに“血液”みたいな仕事なんだよね」
島には信号も標識も車線もない。それでも、事故が起きることはまずないという。
「フォーマット化されたものは極端に少ないけれど、秩序はある。運転ひとつとっても、お互いにすごく配慮し合っているんだよね」
ああ、たしかに。栄一さんの運転する車に乗せてもらうと、それを感じるね。大事なものを運んでいるからというのもあるけど、小さな段差とか、対向車とすれ違いそうな曲がり角とか、運転がものすごくソフトな感じ。
「そうそう。島から帰ってきて、運転をほめられることがすごく多くて。たくさん運転して技術的に鍛えられたのかもしれないけど(笑)、根底には相手への配慮があるんだと思う」
“はじめは宇宙人みたいだったのに、だいぶ人間らしくなったね”
一年間の休学を終えて島を出るころ、彼はそんな言葉をかけられたそう。
生き方に正解はないけれど、より“人間らしく”あれる場所に身を置くことは、生きていくうえで必要なことなんじゃないかと思います。
まずは一度、あさひさんのように遊びに行くのもいいし、いきなり飛び込むのは気が引ける…という方は、3月19日(木)にリトルトーキョーで開催するしごとバー「島の運び屋ナイト」へどうぞ。冨永をはじめ、口永良部島に関わりのある人たちが集まってくれるそうなので、ざっくばらんに話を聞いてみてください。
(2020/1/29 取材 中川晃輔)