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日本の漆、発祥の村
いにしえの森を
もう一度

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奈良と三重の間。四方を山に囲まれた場所に、「ぬるべの郷(さと)」と呼ばれている村があります。

奈良県宇陀郡曽爾村(そにむら)。

平安時代、漆の産地として栄えた曽爾村は、朝廷により漆の生産を管理する役所「漆部造(ぬりべのみやつこ)」が置かれた場所。日本の漆塗り発祥の地と言われています。



しかし、漆の生産が盛んだったのは、はるか昔のこと。漆の木は杉や檜などの人工林拡大のために伐採され、ほとんどなくなってしまいました。

発祥の地で漆を復活させたい。

そんな思いのもと、住民がぬるべ会という団体を立ち上げて漆の木を育てはじめたのが、今から15年ほど前。3年前に地域おこし協力隊も加わって、活動はさらに活発になりました。

そして今年、役場や森林組合などを巻き込んで、村全体で漆文化を守り育てていくための「山と漆プロジェクト」がスタートします。

今回募集するのは、このプロジェクトのコーディネーター。漆の植栽や製品づくり、そして村内外の人たちの調整役として活動します。

漆を扱った経験がなくても、幅広く関わるなかで、自分の強みが何かしら活かせる環境だと思います。


曽爾村へは、名古屋から電車とバスで2時間半ほど。

川に沿うように並ぶ集落と、左右に切り立つ山々。山に囲まれたような地形だけど、その合間からのぞく空はとても広く感じる。

山側に車を走らせ、塩井と呼ばれる地区へ。この場所に、古来「漆部造」が置かれていたという記録が残っており、曽爾村のなかでも漆との由縁が深い地域だ。

最初に向かったのは、2年前に空き家を改修してつくられた「NENRIN」。



シェア工房として県内外の漆作家に貸し出したり、観光客向けのワークショップを開催したり、曽爾村の漆事業の拠点になっている。

「立派な建物でしょう。こうやって漆のための場所ができて、地域おこし協力隊の子も来てくれて。まだまだがんばらなあかんと思っとるんですわ」

そう話してくれたのは、15年前に塩井地区の住民で設立した漆ぬるべ会の会長を務めている松本さん。



「ここらはずっと『ぬるべの郷』と言われてきたんですが、漆の木はないし職人もいなかった。胸張って漆発祥の地と言えるようにするためにも、漆を植えたらどうや?と話し合ったのがきっかけで、2005年から漆を植えはじめたんです」

存在しないと思われた漆の木も、専門家に調査を依頼したところ、村内に11本自生していることがわかった。

松本さんたちはその木から「分根」という方法で苗木をつくり、山に植えていった。平城京遷都1300年の記念となる2010年に合わせて、数年かけて1300本の漆を植えたそう。

けれど、なかなか思うようには育っていかなかった。

「ほとんどが鹿に食べられてしまってね。人間はかぶれるのに、鹿は大好物なんよ。植える場所も大事で、適度な水が必要やけど、水はけがわるいとすぐ枯れてしまう。当時植えた漆で残ってるのは30本くらいしかないね」



鹿よけの柵を用意したり、植える場所を変えてみたり。試行錯誤しながら、10年以上かけて少しずつ漆の植栽を進めていった。

2017年からは地域おこし協力隊も加わり、木から漆を採取する漆掻きや、柿の葉に漆を塗ってつくる器の販売など、漆を活用していく段階まで進んでいる。

将来的には、文化財の修復に曽爾村産の漆を使ってもらうところまで、事業を広げたいそう。

「これまでは、ぬるべ会と塩井地区の住民だけでやってきたんですが、みんな歳をとってきたのもあって、このままだと続けていくのがむずかしくなるということでね。どうしようかって言ってたときに、村全体で漆のことをしていこうっていう話が出てきたんです」

村役場や森林組合のほか、塩井地区以外の住民や、ゆくゆくは村外の人まで。

漆の輪を広げていくことで、村を盛り上げていくことにもつなげたい。山と漆プロジェクトはそんな思いからスタートした。



「下草刈りや漆掻きなど、漆の作業はどれも手間がかかるんです。曽爾の漆文化を守り伝えていくためにも、いろんな方を巻き込んでやっていけたらええなと思ってます。ぼくらが身をもって培ってきた経験も伝えていけたらええね」


そんな松本さんたちの思いを受け継いで、3年前から地域おこし協力隊として活動しているのが、並木さん。学生時代に木工芸や家具の勉強をするなかで、漆に興味を持ったそう。



「漆って、素材としてのポテンシャルが高くて。塗ったときのツヤが本当にきれいなんですよ。乾かすときも、普通の塗料みたいに乾燥した場所に置くんじゃなくて、湿度がある場所に置かないと乾かない性質があったり。それが面白いなって」

「それに、木を育てるのも、漆を掻くにしても、すごく手間をかけている。完成品の漆器だけじゃなくて、そういった過程も含めていろんな人に知ってもらえたらいいのになって、ずっと思っていたんです」

家具メーカーで働きながらも、漆への興味を持ち続けていた並木さん。そんなときに、曽爾村の地域おこし協力隊のことを日本仕事百貨で知った。

「駅前のカフェで記事を見つけて。読み終わって最初は、ふーんって、携帯を閉じて、一回コーヒーを飲んで。そのあとひとりでぼーっと考えてたんですけど、コーヒー飲んでるうちに、あー…意外とありかなって思ったんですよね」

「生まれが東京だったので、奈良県なんてゆかりもない。まして曽爾村のことなんて聞いたこともなかったし、漢字も読めなかったし(笑)。でも…なんでしょうね。漆に関われるっていうのと、出てくる人や村の雰囲気になんとなく惹かれたんです」

これをやってくれという仕事は、決まっていなかった。漆に関わることはすべてが仕事になるような環境。

まずは、これまで漆を育て、守り続けてきたぬるべ会の人たちとコミュニケーションをとり、曽爾村の漆を知ることからはじめていった。

一緒に製品をつくったり、植栽地の下草刈りをしたり。漆の一大産地である岩手の二戸市へ研修に行き、1年目の夏からは漆掻きにもチャレンジしたそう。



「夏のあいだ、4日に一回のペースで木の幹に傷を入れて漆を採るんです。傷からじわーっと漆が滲んでくるので、それをヘラで一滴ずつとって、溜めていく。木によって出る量がちがうし、その日の気温や天気によっても変わる。木と対話している感覚が自然と湧いてくるんですよ」

「傷をつけるって、ちょっと罪悪感があるじゃないですか。でも漆掻きを続けていると、自然の恵みをわけてもらうっていう気持ちになるんですよね。なるべく木に負担をかけないように、神経を集中する。ただの作業じゃないのが、すごくおもしろいです」

採取した漆は、柿の葉の器づくりや、観光客向けの漆塗り体験ワークショップで使っている。ほかにも、伐採した漆の木を使った染物など、さまざまなアイデアをかたちにしていった。

「わたしの場合は、ものづくりをするより、漆の歴史や文化を知って伝えていくことが一番やりたかったんです。だからそれをさせてもらえてるっていうのは、ありがたいなって思いますね」



「新しく来てくれる人も、たとえば漆の木をもっと増やしていきたいとか、工芸品づくりを追究したいとか。やってみたいことを持ってきてもらえたらいいと思うんです」

並木さんは任期後も村に残り、山と漆プロジェクトをサポートしていくとのこと。新しく入る人は、NENRINの管理やワークショップ運営などの業務を並木さんから引き継ぎつつ、新しいことにもチャレンジしてほしい。

「漆って、村の自然や暮らしに根づいたものなので、どうしても漆だけを切り取って扱うことはできないんですよね。植えるのも林業との兼ね合いがあるし、育てていくには地域の人の協力が欠かせない」

「これまで頑張ってきた人たちがいるからこそ今がある。そのことを常に頭のどこかに置きながら、個性やアイデアを出していってくれたらいいなって思います」




松本さんや並木さんたちがつないできた漆の夢。

今回募集するコーディネーターは、その輪をさらに広げながら、さまざまな関係者を橋渡しするような役割も求められる。

最後に話を聞いたのが、村の森林組合で働く林さん。山と漆プロジェクトの運営メンバーでもある。



森林組合ではこれまで、山仕事の分担や木材の販売を中心に取り組んでおり、漆の植栽や管理には関わってこなかった。

「組合のなかでも、杉や檜の間伐だけでは、林業を続けていけないんじゃないかっていう危機感があって。将来の曽爾村を考えたときに、漆を使った森づくりに協力していくことは、村の森全体を守ることにもつながると思うんです」

植栽地の選定や下草刈りなどの作業について、今後は森林組合がぬるべ会のアドバイスを受けつつ担っていく。昨年11月に行われた植栽では、実際に植える作業に加わったそう。



「木って生きものなんですよ。うまく育たなかったり、鹿に食べられたり…うまくいかないことも出てくるかもしれない。そんなときにも元気づけてくれる人というか、前を向いて進んでくれる人と一緒にやりたいですね」

村には任期中の地域おこし協力隊が、さまざまな分野で活躍している。並木さんや林さんのように、任期後も村に暮らし続ける人が多い。

山と漆プロジェクトのことも、日々の暮らしのことも。相談できる土壌は整っている。

「今植えた漆が掻けるようになるには、10年はかかる。すぐに結果が出るものではないので、将来を想像して、そこに楽しみを見出せる人やったら、すごくやりがいがある場所やと思います」


取材がひと段落したあと、並木さんに漆の植栽地を案内してもらいました。

屏風岩という大きな岩の真下にある場所。山が連なり、空が抜けてすごく気持ちがいい。この場所には、昨年の11月に200本の漆が植えられ、今年の3月にも200本ほど植えるそう。



今後は、毎年200本ずつ植樹していく予定だ。

「ぬるべ会の人たちが漆を植えはじめた背景には、山の景色を守りたいっていう思いもあったみたいなんです。漆って秋に葉っぱが真っ赤に染まって、すっごくきれいなんですよ。今は人工林が多くて緑色の景色だけど、そこに漆の真っ赤な色が入った風景を見たいって」

「根っこのところには、目の前に広がる景観をよくしたいとか、曽爾村の森を守っていきたいっていう思いがある。みんなもそう思ってくれていたらいいなって思います」

長い間、失われていた文化を、ゆっくりじっくり取り戻す。

一生という時間をかけても、その集大成まで見届けられないかもしれないけど、少しずつ、着実に動きはじめています。

(2020/2/6 取材 稲本琢仙)
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