求人 NEW

助けあい教えあう
しまなみでつくりあげる
新しいサンセバスチャン

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

瀬戸内海に浮かぶ島々に、自然豊かな四国の山々。温暖な気候を生かした豊かな食。

瀬戸内しまなみ地域で、食と宿泊を軸にした新しいプロジェクトが進んでいます。その名も、しまなみサンセバスチャンプロジェクト。

中心になっているのは、主に九州や沖縄、東南アジアでさまざまな事業をフランチャイズ展開している、株式会社ありがとうサービスです。

今回は、しまなみを舞台にビールやチーズといったものづくりに関わる人と、温泉や宿泊施設の運営に関わる人を募集します。

地方で暮らしながら、自分の手でものづくりをしたい。そんな人は、ぜひ続きを読んでみてください。

(取材はオンラインで行いました。現地の写真は提供いただいたものを使用しています)



「ありがとうサービス」の本社があるのは、愛媛県今治市。

この日は、今治駅から歩いて15分ほどの場所にある「今治街中麦酒」というクラフトビール工房からつないでもらった。

「ご無沙汰してます。元気?」と気さくに話してくれたのは、ありがとうサービス代表の井本さん。熟成途中のビールを片手に話してくれた。

井本さんと話すのは、今回で2度目。今年のはじめに取材に伺ったときは、これからビール工房兼お店の工事が始まるところだった気がします。

「そうなんです。ようやくお店が完成して、ビールも仕込み終わって。商品として提供できるようになるのが9月末あたりやから、お店のオープンもそれくらいかなって思ってます」

ありがとうサービスは、モスバーガーやブックオフなど全国チェーンのフランチャイズ事業を中心に手がけてきた会社。

事業を進めてこれたのは、人のつながりやさまざまなご縁に助けられたから。その感謝の気持ちを忘れてはいけない、という井本さんの思いが「ありがとうサービス」という社名に込められている。

2年ほど前からはフランチャイズ事業だけでなく、温泉施設の指定管理や経営難にあったチーズ工房などの運営も引き受けるように。

事業の幅を広げていくなかで、井本さんの頭にあるアイデアが芽生えた。

「しまなみ地域にある、素晴らしい景観や、豊かな食や温泉。一つひとつを単独で扱うんじゃなくて、全体のビジョンを描いてつなげていったらええなと思ったんです」

こうして始まったのが、しまなみサンセバスチャンプロジェクト。

スペインのサンセバスチャンを手本に、おいしい食や景観を体験できる場所をつなげていくことで、地域全体の魅力を高めていこうというものだ。

プロジェクトの軸となるのは、質の高いものづくり。

日本でも数少ないナチュラルチーズの工房や、大島の手づくりハム、ワインづくりのためのブドウ栽培など、さまざまな事業を展開している。もちろん、この今治街中麦酒もそのひとつ。

まずは、これらのものづくり事業を軌道に乗せていきたい。

ゆくゆくは温泉や宿泊施設で工房の商品を提供したり、ものづくり体験を組み合わせたプログラムをつくったりと、食と観光施設をつなげていくことも考えているそう。

今回募集する人は、ハムやチーズ、ビールといった5つの工房のなかから、働きたい現場を選ぶことができる。

ほかにも、今後運営を引き受ける予定の温泉施設や、設計・デザインを検討段階の宿泊施設もある。総合職として温泉や宿を企画・運営するスタッフにも来てほしいとのこと。

ものづくりに限らず、自分で事業をつくっていきたいという人にとってはおもしろい環境だと思う。

「いま調べてるのは、ヘリポートを宿の近くにつくれへんかなって。松山空港からヘリコプターに乗って、しまなみの景色を見ながら宿まで移動する。その間に陸路で荷物も届いてる、みたいなね。やってみたら面白そうやなってことはいくらでも思いつくから(笑)」

「やっぱり地域に人がいなくなっていくのがさみしいんよ。いろんな人にしまなみってええとこやなって思ってもらうためにも、サンセバスチャン的な人と一緒にやっていきたいね」

サンセバスチャン的な人。

「誰かが喜ぶようなことを、自分も喜んでする人っていうのかな。なんか面白そうやなって、一歩引くんじゃなくて、面白がってチャレンジしてくれる人が来てくれたらええね」

サンセバスチャンには、レシピを共有する文化があるという。そうすることで、街全体で料理のクオリティが上がり、結果的に美食の街としてたくさんの人を集めるようになっていったそうだ。

しまなみ地域でもそんな空気が広がっていったら、たしかに面白そうだなあ。



続けて話を聞いた中島さんは、そんなオープンな雰囲気に惹かれて飛び込んできた方。昨年クラフトビール担当として入社し、1年かけてお店の準備を進めてきた。

「工房も完成して、少し前にビールを仕込んだんですよ。ほぼひとりで作業をしたので、めちゃくちゃ大変でした」

今治街中麦酒としてはじめてのメニューは、カカオを使った黒ビールに、ペールエール、IPA、そして桃の果汁を加えたホワイトエール。

まだ熟成途中のため、アルコール度数も低い状態。ここから1ヶ月ほどかけて発酵が進むなかで、味も整っていくのだとか。

中島さんはもともと医療機器会社で働いていたそう。ビールが好きで、つくることにも興味があり、思い切ってブルワー募集に応募したという。

「去年の7月から、遠野や大阪、各地のクラフトビール工房に研修に行かせてもらって。つくり方のノウハウを学びつつ、醸造免許取得の手続きをしたり、このお店の設備や工事の手配をしたり」

「怒涛の1年でしたけど、こうやってお店がかたちになってきたのはとてもうれしいですね」

ビールづくりは、粉砕した麦芽を煮ておかゆ状にするところから始まる。

液体部分の麦汁をさらに煮込み、酵母と一緒に発酵させることでアルコールが発生し、ビールになっていく。仕込み後も毎日温度や糖度をはかり、発酵を見極める作業が欠かせない。

今回募集するなかでもビールづくりに興味がある人は、中島さんと一緒に醸造や店頭での接客販売を担っていくことになる。ハムやチーズなど、ほかの事業と連携したメニューも考えていきたいとのこと。

「自分も知識がないところからはじめたので、醸造の経験とかはなくてもいいと思っていて。ぼくも教えられるし、クラフトビールの世界って情報を共有して教えあう文化があるので、学びやすい環境だと思います」

「ビールを飲むことが好きだったり、つくることに興味があったり。言われたことをやる環境じゃないので、こんなビールをつくってみたいとか、やりたいことを開拓していく気持ちがあったらいいんじゃないかな」



最後にもう一人、チーズづくりをしている國分さんに話を聞かせてもらう。

國分さんは今治市から車で1時間半ほど離れた愛媛県内子町で、チーズ工房「醍醐」を運営している。

8年前に東京から夫婦でIターンし、チーズづくりをはじめたそう。

「もともと東京の通信会社で技術職をしていました。やりがいはあったんですが、だんだんとお客さんの声を直に聞いて、お客さんが欲しいと思うものをつくりたいって思うようになって」

「そんなときにイタリアへ旅行する機会があったんです。そこで食べたナチュラルチーズが日本のチーズとぜんぜんちがって、めちゃくちゃおいしくて。今まで食べてたチーズってなんだったんだろうって思うくらいの衝撃やったんです」

ナチュラルチーズとは、乳酸菌を発酵させたチーズのこと。日本で見かけるチーズのほとんどは、ナチュラルチーズを熱で溶かし、殺菌して再び固めることで保存性を高めたプロセスチーズなのだそう。

チーズ工房「醍醐」では、生きた発酵食品としてのチーズにこだわり、ナチュラルチーズのみをつくっているという。

國分さんは北海道でナチュラルチーズづくりを学び、酪農家や町役場との縁から内子町にやってきた。

8年かけてチーズの品質は安定してきたけれど、経営的にはうまくいかないことも多かったという。

「ありがとうサービスさんが運営するスーパーでチーズを売っていて、その縁で井本社長に、食べていくのがきびしい、どうしたらええやろかって、悩んでいることを話してね」

「そうしたら『チーズだけ売っててもしゃあないやろ、牛乳も売ったらええんちゃうか』って言われてね。チーズ一本でやっていこうって、ちょっと意固地になっていたところに喝を入れてくれたんです」

醍醐のチーズに使っている牛乳は、自然放牧された牛からとれる「グラスフェッドミルク」というもの。飼育のストレスが少なく、エサも自然のものだけを食べているため、コクがありながらもさっぱりとした味わいなのだそう。

「牛乳アレルギーの人も飲める牛乳だって言われているんですよ。エサがちがうことでアレルギーの原因と言われる物質が出ないらしくて。口のなかに残らないっていうか、喉越し爽やかな牛乳なんです」

「今は牛乳も販売できるように、ありがとうサービスさんに資金的な援助や経営のアドバイスをもらいながら、設備や売り方を考えているところです。人手も必要になるので、うちに来てくれる人はチーズづくりや酪農、今後の牛乳販売も手伝ってほしいと思っていて」

週4日はチーズ製造、残りの1日を出荷などに充てているそう。工場に隣接した牛舎でとれる新鮮なミルクを低温殺菌し、じっくりと発酵・熟成させていく。

内子町の豊かな自然のなかで、チーズをつくり、届ける。お客さんの喜ぶ顔を直に見れることが楽しいと話す國分さん。

一方で、Iターンだからこそのギャップもあるそう。

「たとえば、電線に木が引っかかりそうになっていたら早めに切るとか、道が通りやすくなるように整備するとか。停電になってしまったら、自分だけじゃなく牛やチーズに影響が出てしまうので。インフラの整備をある程度自分の手でする必要があるのは、都会の暮らしとちがうなって感じました」

「地域の人やぼくらもいるので、助け合って暮らしていける環境はあると思います。自然があって食べものもおいしいので、ぼくみたいに夫婦で来てもらうのも歓迎です。子育てをするにもいい場所なんじゃないかな」



自然のなかで、おいしいものをつくる。

いいものができたら、それを地域のみんなで分かちあう。

シンプルな営みのなかには、根源的な喜びがたくさん含まれているような気がします。頭で考えるばかりじゃなくて、汗をかきながら仕事したいという人にはいいきっかけになるかもしれません。

最後に、井本社長の言葉を紹介します。

「ビールやチーズ、ハム。ぼくらが最初の一歩を踏み出したら、いろんな人がチャレンジしやすくなると思うんです。誰が最初に始めたかわからんってなったときに、本当のサンセバスチャン的なことになるんじゃないかなと思っていて」

「そのときにどっかのビール屋さんで、わしがこう飲みながらね、今治もここまでなったかって。そういう話をしてるわけ。楽しいよ。そういうふうに助けあって教えあうことがパワーを生むんじゃないかな」

(2020/8/28 オンライン取材、2021/9/17 更新 稲本琢仙)

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