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瀬戸内海に浮かぶ島で
故郷を見つける3年間

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

生まれ育った町について、どれだけのことを知っているだろう。

たとえ本当の故郷でなくても、地域の人と深く関わりあったり、何かに一生懸命打ち込んだり、そんな時間を過ごした場所が、かけがえのないものに感じることもある。

愛媛県上島町(かみじまちょう)もきっと、これからいろんな人の故郷になっていくんじゃないかと思います。

瀬戸内海に浮かぶ25の島々からなる上島町は、温暖な気候からレモンなどの柑橘栽培が盛んな町。

町唯一の高校「県立弓削(ゆげ)高等学校」では、3年前から「高校魅力化プロジェクト」に取り組んでいます。

生徒一人ひとりの学習サポートやキャリア教育をおこなう「公営塾」や、仕事について考えるフィールドワーク形式の授業がスタートするなど、町の人たちの力も借りながら進んできました。

今回は、塾の運営スタッフを募集します。教育の経験は問いません。

(取材はオンラインで行いました。現地の写真は、ご提供いただいたものを使用しています)



弓削高校は、上島町の中でもひときわ大きな弓削島の西側、瀬戸内海と市街地を見下ろす丘の上にある。

放課後、授業が終わったばかりの学校からつないでくれたのは、弓削高校の石丸先生。

石丸先生は、赴任して今年で5年目。高校魅力化プロジェクトが立ち上がる前から、この学校で生徒を見守ってきた。

「弓削高校は70年の歴史があって、ピーク時は1学年200人もの生徒がいましたが、今はその10分の1ほど。県内で最も人数が少ない高校です」

2013年には入学者数が20名を下回り、統廃合の話も浮上した。

地域から高校がなくなると、子どもや子育て世代が町から出ていき、町もだんだんと元気がなくなっていく。

なんとかしなければと町と高校が3年前に始めたのが、魅力ある学校づくりによって県内外から生徒を呼び込む「高校魅力化プロジェクト」だった。

その取り組みのひとつが、高校連携型の公営塾「ゆめしま未来塾」。高校内にある塾で、弓削高校の生徒であれば、誰でも通うことができる。石丸先生は、塾と高校をつなぐ窓口にもなっている。

「上島町にはほかに塾がなく、高校以外で学習する場所がありません。毎年通塾の希望をとりますが、8割以上の生徒が入塾を希望していますね」

塾にはスタッフが常駐していて、勉強が苦手な子はスタッフと一緒にその日の授業を復習したり、成績アップや進学を目指す子は発展問題に取り組んだりと、一人ひとりに合わせたサポートがおこなわれている。

「きめ細かいケアをしてもらえているなと感じます。塾が、生徒のサードプレイスにもなっていて。学校を休みがちだったけど、塾に通いだしてからは毎日学校に来られるようになった子もいるんです」

昨年度からは、地域で仕事をつくるノウハウを学ぶ授業「しごとづくり学」も始まった。

年20時間の総合学習で、3年間でひとつのカリキュラムを完成させる。

「1年生は、社会にはどんな仕事があるかなど、仕事全般に関して講義形式で学びます。その後、上島町の課題を調べて、地元で働く大人たちにもインタビューしながら、解決策となる新規事業を考える。2年生になると、自分たちで事業計画書もつくるんですよ」

3年生は、2年間の学習を踏まえて自身のキャリアについて考え、自分独自の仕事ロードマップを作製する。

「必ず起業家になってほしいというわけではないけれど、仕事づくりのマインドがあればどこでもやっていけるんじゃないかなって。それに、将来この町で新しく仕事をつくって働くこともできるかもって、覚えていてくれたらうれしいですね」

都会に出ないと自分のやりたい仕事はできないだろうと、漠然と思っている子も多い。

町で事業をおこした人と出会ったり、自分なりに事業内容を考えたりすることで、視野は大きく広がると思う。

プロジェクトを始めてから、入学者数は安定して増えてきている。さらに「生徒も変化してきた」と石丸先生はいう。

「自分で課題を見つけて解決策を考える力が身についたように思っていて。勉強はもちろん、何か新しいことにチャレンジする積極性にもつながっています。それこそが魅力化プロジェクトの成果なんじゃないかと思いますね」



石丸先生とともに塾の立ち上げから携わってきたのが、塾長の中裏さん。

「大阪で個別指導塾の塾長をしていました。次のステップに進みたいなと思っていたときに、仕事百貨で塾の立ち上げスタッフの募集記事を発見して。ほかではできない経験が積めるような気がして応募しました」

「立ち上げ期は、学校との連携に苦労しましたね。学校と塾で棲み分けをはっきりさせたいという声もあって。それぞれの想いがすれ違ったり、壁があったりもしました」

それでも「生徒のため」を一番に考えているのは、学校も塾も同じ。日々の話し合いや、飲み会、学校行事などを通して、少しずつ距離が近づいていった。

「今は週に一度、学校の先生たちとミーティングをして、生徒の状況についてお互いに情報共有しています。『この単元の授業時間が足りなかったから、塾でもフォローしてほしい』みたいな連携もできるようになって」

「あとは塾が始まる前に、講師全員で毎日打ち合わせをしています。前日にやったこと、生徒からあがった質問とか。生徒とは2週間ごとに面談もしているので、そこでの話を共有したりしていますね」

生徒一人ひとりにしっかり向き合い見守れるのは、この学校や塾の規模ならではの距離感なんだろうな。

現在、塾には4名の講師がいる。中裏さんともう一人は、今年度で任期満了を迎えるものの、二人とも島に残る予定なんだそう。

「任期後は、小中学生に向けた民間の塾を開設するんです。生徒には、この町でも仕事はつくれるよって伝えていたし、実際に自分自身がこの町で働き続ける姿を見せていけたらいいなと思っています」

もともと3年だけの予定で、家族とこの島にやってきた中裏さん。暮らしていくうちに、地域に見守られながら子育てができる環境に、温かさを感じるようになったという。

「ご近所の方がうちの幼い娘をアイドルのように可愛がってくれるんですよ。僕自身が経験できなかったぶん、生徒や娘には、地元愛のある子になってほしいなってすごく思うんですよね」



塾の新しい仲間として、今年4月から働いているのが田中さん。

「以前はIT企業に勤めていたんですが、教育に興味が出てきて。自然も好きだし、島で暮らすのもいいなって思ったんですよね」

「主に英語を担当しているんですが、人に教える難しさを日々痛感しますね。自分でも、毎日英単語や文法を学びなおしているところです」

塾では、講師それぞれの得意科目にあわせて主な担当教科を決めている。就職を目指す生徒のために、簿記など商業系の科目を教えている講師もいる。

さらに、ゆめしま未来塾ではキャリア教育として、町で働く大人へのインタビュー、個人で興味のある分野の研究を進めてプレゼンするゼミ、自己分析のワークショップなど、さまざまな活動に取り組んできた。

なかでも力を入れているのが、月に一度の「おとなるゼミ」というもの。

“おとな”になるために必要な能力とは何か、というテーマでゼミ形式の授業をしている。

コミュニケーション能力や、表現力など、どんな切り口で伝えるかは講師が自分で考える。

「この間、僕も初めてゼミを担当したんですが、『生徒に何を伝えたいんだろう?』ってテーマ設定からすごく悩みましたね。最終的には、長年続けてきたサッカーの経験を取り入れながら『自信のつけ方』について話すことにしました」

授業の方法も、ゲームやワークを取り入れるなど工夫する。

田中さんも2ヶ月前から準備を進め、先輩講師たちからアドバイスをもらいながら模擬授業を何度もおこなった。

「それでもやっぱり、やってみないとわからないことばかりでしたね。たとえば、熱中していることを書くワークシートを用意したんですが、ほとんどの子が一行で手が止まっちゃって。次はもっと質問の仕方を工夫してみようかなって思っています」

学習サポートもキャリア教育も、最初からすぐにできる必要はない。ときには失敗する姿も見せながら、生徒と一緒に成長していくんだと思う。

「生徒の前で背伸びはできないですね。進路指導や人生相談を受けることも結構あるんですが、自分のやってきたことしか話せない。ありのままを伝えることは、いつも意識しています」

今後一緒に塾をつくっていくメンバーとして、田中さんはどんな人と一緒に働きたいですか?

「地域のことを考えられる人がいいなと思います。塾の取り組みもこの町と深く関わっていますし、この町は仕事と生活の距離が近いなってすごく思うんです。仕事はもちろん、地域の人との関わりも一緒に楽しんでいきたいですね」



この環境で学んでいる生徒はどんなことを感じているんだろう。

弓削高校2年の山田さんにも話を聞かせてもらった。

「私は、上島町の隣にある広島県の因島(いんのしま)から通っています。因島にも高校はあったんですが、公営塾の存在が決め手でした。勉強以外のことも教えてもらえるのがいいなって」

塾や学校の授業を通して地域の方と交流するなかで、上島町のことが好きになったという山田さん。

「あたたかい人が多いんです。今は、弓削高校や上島町の魅力をたくさんの人に知ってほしくて、“夢島プロジェクト”っていうプロジェクトを自分で立ち上げて、活動を始めています」

高校や町の魅力をSNSで発信したり、空き家のリノベーションを計画したり。緊急事態宣言下で自由に活動できない期間は、写真で人をつなげようとフォトムービーを作成した。

「地域の人を中心に、70人近くの方が写真を送ってくれました。とくに塾の先生は、つながりのあった地域の人にたくさん広めてくれて。動画作成についてもアドバイスしてくれました」

「塾の先生はいろいろな経験をしているから、話をしていて面白いなって思います。新しく来る先生にも、勉強以外のこともたくさん聞いてみたいですね」

都市部での暮らしや、就職活動のことなど、大人にとってはありふれた経験談でも、きっと島の生徒たちの視野を広げるきっかけになるはず。

「進路については、まだ悩んでいて。ただ、大学で地域活性化につながるようなことを学んで、いつかこの町に帰ってきて実践できたらいいなって思っています」



「帰ってきたい」と思える町があるのは、とても幸せなことだと思います。

生徒はもちろん、働く人にとっても、そんな場所をつくるための3年間になるかもしれません。

(2020/09/11 オンライン取材 鈴木花菜)
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