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繊細なカーブを描くワイングラスや、まだ動き出しそうな気泡を分厚いガラスで閉じ込めたコップ、愛らしい動物の形の一輪挿し。素材をよく知る職人さんが、熱く溶かされたガラスから「ここぞ」という瞬間を切り取って生み出した菅原工芸硝子の製品。その伸びやかな形を見ていると、ああ、ガラスってもともと液体だったんだなという不思議な実感が湧いてくる。
何気なく飲んでいるお茶やお酒をこのグラスに注いだら、どんな雰囲気になるだろう。
いつもの「おいしい」に、なにかもうひとつ、うれしい気持ちが加わるような。
今回はそんなガラス製品の魅力を伝える営業担当を募集します。
仕事場は、東京・青山と大阪・淀屋橋にある直営店のどちらか。これまで、お店の販売担当が法人営業を兼務してきた背景もあり、職種ごとの垣根はとても低いようです。
さらに、社内公募で誰でも製品デザインに参加できる仕組みもある。工場からエンドユーザーに届けるまで、ものづくりの一連の流れに携わっていることを実感できる仕事だと思います。
東京メトロの表参道駅から出て、路地を入って少し歩いたところに、菅原工芸硝子の直営店、スガハラショップはある。
店内にはずらりとガラスの製品が並ぶ。
最近は、リサイクルガラスを使った製品づくりや他社とのコラボレーションなど、新しい取り組みもはじまっているみたい。
2年ぶりにお会いする代表の菅原裕輔さんに、詳しい話を聞かせてもらう。
今年は世の中に大きな変化がありましたが、みなさんお変わりないですか。
「私たちのお店も4〜5月は休業していましたし、コロナの影響は大きかったですよ。だけど、ものづくりという意味ではあまり時代の影響を受けていなくて。とにかく美しいものや、見たこともないガラスの輝きを見つけ出そうということを考えながら、ずっとやっているんです」
お店のなかをぐるりと見渡すだけでも、ガラスという素材の可能性の広さを感じる。
一方で菅原さんたちは、オブジェとしての美しさ以上に大切にしていることがある。それは、ガラスを通して何気ない日常を豊かなものにしたいという意識。
「このお皿に盛り付けるとちょっと食卓が華やかになるとか、グラスによって飲み物の味わいが変わるとか。普通の暮らしをパッと明るくする、そんな楽しみを伝えていきたいんです」
スガハラのWebサイトでは、ガラスの器を使ういろんなシーンがコラムのように紹介されている。
ライフスタイルマガジンのようで、おもしろく読んでいます。
「そうですね。あれは宣伝というよりも、読み物としておもしろいものをつくろうと考えていて。自社の製品を売ることの前に、まず、家の中の時間を楽しもうという提案が必要だと思うんです」
新しい楽しみを提案するなかで、普段からいろんな人たちとのコラボレーションも続けている。
最近では、コエドブルワリーと共同でビールもつくった。
「COEDOさんとは、今までも6種類のビールに合わせたグラスを企画してきて。それで、たまたま今年うちが88周年なんですよ。末広がりで縁起がいいから、この年に新しいビールが出せたらいいねって、川越で飲みながら話していたのがはじまりで」
「そのときに、いや待てよ、と。今まではビールに合わせてグラスをつくってきたから、今度はグラスに合わせたビールをつくってもらえないかな。ちょっと職人さんに聞いてみてくださいよっていうところから、企画が進んでいったんです」
そんな会話から生まれたグラスは、やや背が低く、コロンとしたフォルム。
合わせて開発された「玻璃」というお酒は、白麹を使っているので酒税法上は発泡酒に分類されるのだけど、酸味と苦味を併せ持つフルーティな味わいなのだとか。
グラスに注ぐと泡もきれいですね。ビールの職人さんは、グラスのどんなところからインスピレーションを受けて、味わいを生み出したんでしょう。
「ああ、また詳しく聞いておきますよ。今度オンラインで、ブルワリーの潜入ツアーをやるので」
潜入ツアー!楽しそうですね(笑)。
「楽しいっていう気持ちは、絶対に大事だと思います。だからこういうコラボレーションはいつも、お互いに機が熟したときに取り掛かるようにしています。ビールとガラスのように、つくっているものは違っても、ベクトルが合うといい化学反応が起きるんですよ」
「こういう企画って普通は、何かのプロモーションとかキャンペーンとか、目的があってやることが多いけど、僕らはあまり最初にゴールを決めません。新しいものをつくり出すにはエネルギーがいります。それを短期的な利益で回収しようとすると、はじめるハードルがものすごく高くなってしまうんです」
素材に向き合うつくり手自身が心動かされる瞬間にこそ、いいものは生まれる。
スガハラの製品のデザインは、素材の魅力を一番よく知る職人さんたちが中心となって考えている。社内公募などの仕組みもあるので、こんな製品があったらいいのに、というユーザー目線の欲求がそこに加わり、製品が生まれていく。
「そもそも今の日本で手工芸をやること自体が効率的じゃないのに、うちはたくさんの種類をつくっていますから。職人はきっと大変です。だけど同じものをつくり続けるより、いろんなことに挑戦できるほうが飽きずに続けられるという面もあるんじゃないかと思います」
「お客さんに提案するときも、たくさんの選択肢から相手にぴったり合うものを選び出せて、伝えがいがある。営業担当として、そんなふうに考えられる人が来てくれたらいいなと思いますね」
大阪など地方にあるスガハラショップでは、販売担当のスタッフが営業も兼ねている。法人のお客さんに対しても、お店で商品を紹介しながら打ち合わせをすることが多いからだ。
唯一、市場規模の大きい東京では、数年前から営業専任のスタッフが、ホテルやレストラン、ブライダル、百貨店、インテリアショップなど、部門ごとに担当を受け持つ形になっている。
東京の営業担当は、分野に特化した質問や相談ができる相手として、ほかの地域のスタッフからも頼りにされているという。
そんなスタッフの一人が、阿曽さん。今は百貨店やインテリアショップなど小売店向けの営業を担当している。
仕事のほとんどは、先方からのアプローチではじまるそう。営業といっても顧客の開拓に奔走するようなイメージではない。
新規の問い合わせのときは、いい関係性で仕事ができるかどうか、慎重にヒアリングをしていく。
「うちの製品は、30名ほどの職人がすべて手づくりしています。だから、とにかく大量にほしいというニーズには応えられないことがあります。コロナ以前は、そういう背景をお伝えするために、お客さまを工場にご案内することもありましたね」
工場で生み出される製品には、一つひとつ、日々の生活を豊かにしていくためのアイデアが込められている。
阿曽さんがお気に入りだというポウサというシリーズは、やや小ぶりなグラス。
一日の終わりに一杯だけビールを飲みたいという気分のときにちょうどいいのだとか。
「口が少しカーブを描いているので、泡がきれいに盛り上がって。このグラスで飲むと、明日も頑張ろうっていう気分になれるんですよ」
お客さんに対して、実感を持って伝えていくために。阿曽さんは、毎日一度は自分の家で自社製品を使ってみることを習慣にしているという。
今日は、何を飲もうか。どんな料理を盛り付けようか。
ガラス製品のことだけでなく、お酒やお茶などの飲み物、料理など、いろんなものに興味や好奇心を広げていけば、新しく入る人も自分らしい提案の形を見つけ出せると思う。
阿曽さんと一緒に仕事をしている高橋さんの担当は、主にブライダルやホテルのお客さん。
「式場のプランナーさんと相談しながら結婚式のお引き出物を選んだり、レストランの什器やラウンジの花器などのご希望を受けて提案をしたりしています」
もともと職人の仕事に憧れを持っていたという高橋さん。前職は伝統的な工芸技術を生かしたアパレルブランドで販売の仕事をしていたのだそう。
そういう意味では、ガラスが形になっていく様子も、人の技のすごさを感じるというか。本当に不思議ですよね。
「本当に。いまだに魔法みたいだなって思います。今までは月に一度、必ず営業部も工場に行って、職人さんとコミュニケーションをとる時間を持っていたんですよ」
ときには、お客さんからの要望で特注品の企画を担当することもある。
ガラスという素材の特性や、工場のキャパシティ、職人さんの技術をきちんと理解して提案するためには、現場との連携が欠かせない。
入社してちょうど丸3年になるという高橋さん。最近、あらためて営業の仕事の難しさや、やりがいを感じるようになったという。
「やっぱり何かを提案していくためには、ヒアリングがすごく重要で。相手の言葉をそのまま受け止めていたら、本当に大事にしたいポイントはほかにあったりして。ちゃんと考えながら耳を傾けないと、すごく時間がかかってしまいます」
「社内にマニュアルがあるわけではないので、自分で考えてやって、失敗して、反省して。相談して、もう一回やってみてっていう繰り返しですね」
お客さんの思い描くイメージに合う製品を提案したい。
あらためてそう感じるようになったという高橋さんにとって、思い入れの深い製品が「アルコ」というシリーズ。
「サイズがすごく丁度よくて。グラスにもできるし、スープを入れてもいいし、デザートカップにもなるし、夏なら蕎麦猪口にもできる」
「そうやって、お客さまにいろんな使い方をご提案すると、その都度『ああ、いいですね』『なるほど、それもいいですね』って、たくさん共感していただける。その瞬間がとてもうれしいので、私はこのアルコが好きなんです」
職人さんが、素材に心動かされた瞬間を形にしたガラス。
営業の仕事は、その器を通して見えてくる、新しい日常のシーンを伝えていくこと。
それっていいよね、きれいだよね。と、共感しあう気持ちをリレーのようにつなぎながら、可能性を広げていける仕事だと思います。
(2020/11/9 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただいております。