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「我々は作家じゃなくて、あくまで職人なんです。自分がつくりたいと思ったものを好きにつくるんじゃなくて、クライアントの意図するものをつくりあげる。私はそっちが楽しいんですよ」
そう話してくれたのは、ニシザキ工芸の代表、西崎さん。
ニシザキ工芸は、空間に合わせた特注家具やキッチンの企画や塗装、アンティークや文化財の修復などを手がける会社です。
とくに塗装は、自社で専門の塗装工場を持ち、職人の高い技術で仕上げるこだわりの工程。一つひとつの家具に合わせて、手作業で塗りを施しています。
今回は、設計から搬入までを管理するプロダクトマネージャーと、塗装の工程に携わる塗師を募集します。
経験は問わないとのこと。ものづくりに興味があって、細かな作業を丁寧に続けることが好きな人にはぴったりだと思います。
ニシザキ工芸があるのは、東京・江東区の清澄白河。
日本仕事百貨のオフィスもある場所で、下町の雰囲気が残りつつ、最近はアートやコーヒーのまちといったイメージも強いかもしれない。コロナ下でも、新しいお店がぽつぽつと増えている。
ニシザキ工芸の本社があるのは、駅から歩いて5分ほどの場所。ショールームで、代表の西崎さんが迎えてくれた。
「昔、このあたりは材木屋が多かったんです。木場と呼ばれるほど木にゆかりがある町で、小さい頃は材木置き場で遊んだりしていました」
「家具づくりは祖父の代からはじまって、私で3代目になります。祖父は江戸指物(さしもの)という和家具の職人で、料亭や割烹に置いてあるような座卓や火鉢、箪笥などをつくっていました」
その後、時代が進むにつれて和家具の需要が減り、2代目からは婚礼家具をつくりはじめる。
婚礼家具とは、嫁入り箪笥など結婚のタイミングで購入する家具のこと。和家具づくりで培った技術を活かし、質の高いものを生み出していった。
「父の時代はまだ良かったんです。けれど、私が大学を卒業する頃には婚礼家具の需要なくなりつつあって。大阪にある建築金物の商社で3年くらい働いたんですけど、あるとき『帰ってきてくれよ』って父から手紙が来てね」
「その手紙は今でも大事にとってあります。会社としても、婚礼家具だけじゃどうにもならなくなってきたタイミングで、変化が必要だった。それで戻って会社を継ぐことにしたんです」
変化する時代のなかで、家具づくりをどのようにつないでいくか。
西崎さんは、特注家具の製造にシフトしようと考えた。でも、どうして特注家具だったんでしょう?
「ひとつは、これまで培ってきた製造技術をそのまま活かせること。そしてもう一つ、婚礼家具で力を入れていた“塗り”が、特注家具の世界でも需要があるとわかったからなんです」
家具の仕上がりの美しさを左右する、塗りの工程。
質のいい素材を選定するところから、塗料との相性や色の重ね方、杢目の見栄えまで。そこには、一生モノの婚礼家具をつくってきたニシザキ工芸のこだわりが詰まっている。
「自分たちが当たり前にやってきたことが評価されて。現代のライフスタイルに合うように、その技術を活かして家具をつくっています」
現在ニシザキ工芸では、企画から携わった家具を協力会社につくってもらい、仕上げの塗りを自社で行っている。
通常、特注家具をつくる木工所は本体を自社でつくり、仕上げの塗りを外注することが多いため、このスタイルは珍しいんだとか。
「この材料を使って、この作業が得意なあの職人さんにお願いして、というように、最後の塗りの仕上げをわかっている人が管理すると、上がりがいいんですよ。完成形のイメージを持ちながら進められるので」
「だから塗師も大切ですが、全体を管理するプロダクトマネージャーもかなり重要で。塗師だけじゃなくて、プロダクトマネージャーも職人だと私は思ってるんです」
職人。
「特注家具ですから、むずかしい注文もあります。ミリ単位で設計して、採寸も誤差が出ないようにミリ単位できっちり測る。職人さんへの指示も丁寧に、完成したら傷をつけないよう慎重に搬入、設置する」
「依頼してくれた人の意図をかたちにできると、本当に家具が空間と一体になるんです。納めると、なるほど!って思うんですよ。むずかしい仕事もたくさんありますが、毎回ヒリヒリしながらつくり上げるのは面白いですよ」
簡単ではないからこそ感じる、しびれるような感覚。それはきっと、仕事をする上でのやりがいにもつながっているんだろうな。
隣で時おり頷きながら聞いていた上野さんにも、話を聞いてみる。
上野さんはプロダクトマネージャーとして働いている方。入社して20年ほどになるそう。
「大学ではデザインの勉強をしていました。雑誌を見ていて、かっこいいなあと思って目にとまったのが、ニシザキ工芸の家具だったんです」
「コの字型の、総ステンレスでつくられたキッチンでした。料理する人が使いやすいように、動線に合わせて設計されていて。オーダーメイドでこんなのをつくっている会社があるんだって、衝撃を受けたんです」
ニシザキ工芸で働き始めてからは、毎日変化する仕事についていくのがやっとだったという。
「お客さまへのヒアリングから始まって、図面を書いて積算をして。材料も木だけだったらわかりやすいんですが、ガラスやスチールもあるので、注意しなければいけないポイントがすごく多くて」
「材料や作業工程ごとに、お願いする協力会社さんもちがう。関わる人が多いので、毎日チャンネルを変えてかないといけないのはむずかしいなって思いますね」
お客さんの多くは、建築設計事務所やデザイナー。「こんな空間にしたい」「こういう家具がほしい」といったオーダーを受けて、それを実際の空間に落とし込んでいくのがプロダクトマネージャーの仕事だ。
要望に沿ったものを設計し、協力会社や職人さんへ細かな指示を伝える。頭を使う仕事だけでなく、完成した家具をトラックに積み込み、現場で階段を使って運んだりなど、力仕事もあるそう。
また、工期内に納まるよう計画的に進行していくことも必要だ。
「僕が印象に残っているのは、マンションのリノベーションに関わったときの仕事ですね。依頼主の設計士さんは、いろいろな素材を使って空間を仕上げていくのが得意な方だったんです」
「革張りの家具をつくって、その隣には木を塗装仕上げしたもの、その横にはガラス素材、その隣は石素材…みたいに、とにかくひとつの空間で材料のバリエーションが多かったんですよ」
建築や家具制作では、施工の過程で生じる寸法の誤差や、温度変化による部材の伸び縮みを考慮して、部材と部材の間に“クリアランス”と呼ばれるわずかな隙間をつくるそう。
「たとえば木材だけでつくるのであれば、温度変化による伸び縮みの幅も予測しやすいんです。けれど異素材を組み合わせる場合は、素材によって異なる収縮幅を考慮した上で、可能な限りクリアランスが小さくなるように調整しないといけない」
「とことん細かいところを追求する一方で、こだわりすぎると時間がなくなってしまうので、どこかで折り合いもつけないといけなくて。そのせめぎ合いはかなりしびれました」
クリアランス以外にも、革製品のステッチ割付や、目地が正確に水平垂直に揃っているかなど。既製品なら許容範囲に含まれる細かい部分まで、お客さんの要望通りにきっちり仕上げる。
納得するまでつくり込んだぶんだけ、完成したときの喜びも大きい。
「家具の設置って、空間づくりでは一番最後の工程になるんですよ。僕らのつくった家具がどんな空間に置かれるのか、最後まで見届けられるのは面白いなと思います。それはやりがいかもしれませんね」
「昨日こうやったから同じようにやればいいでしょ、っていうのが通用しないので、日々頭を切り替えて最善を探っていく。ひとつのやり方に固執せずに、柔軟に考えられる人が合っているのかなと思います」
ここからは場所を変えて、本社から歩いて3分ほどの場所にある塗装スタジオへ。
中に入ると、塗料のシンナーっぽい匂いがする。ラジオの声と、キュイーンという研磨の機械音が響く、広い空間。
色をつくったり、ひたすら磨いたり、スプレーで吹き付けたり。それぞれの職人さんが黙々と作業をしている。
休憩のタイミングで、若手の塗師さんに話を聞かせてもらった。
入社して4年目になる坪井さん。日本仕事百貨の記事を読んで応募したそう。
「昔から手を動かすことが好きだったんです。前の会社でプロダクトデザインを担当していたんですけど、つくったモデルのバリを削り取る作業がすごく楽しくて」
「黙々と手を動かして、ものを削る作業が好きだったんでしょうね。塗師は研磨する作業が多いので、それがいいなって。面接でも社長に、研磨がしたいですって話したんですよ(笑)」
塗りの工程は、家具を研磨するところから始まる。工場から工場へと運搬する間についた汚れや傷を、磨いてきれいに落とすのだそう。
その後、色見本に合うように塗料を調合し、スプレーガンや刷毛で塗っていく。
「今日はベッドの土台になる部材を塗装していました。色見本を見ながら調合して、先輩に見てもらって。今回はスムーズに見本通りの色を出すことができたのでよかったです」
同じ色の塗料を使っても、塗る素材によって色の見え方は変わる。素材ごとに色を調整する必要があるため、想像以上に繊細な作業だ。
「最初はほんとにできなくて。濃い色になってしまうと、戻すのが大変なんですよ。薄い色から少しずつ合わせていかないといけなくて。うまく調合できなくて、せっかくの塗料をさよならしちゃうことも何回かありました」
「経験を重ねていけば、これくらいだろうなっていう感覚がだんだんわかってきます。先輩も聞いたらちゃんと教えてくれるので、その環境はよかったです」
職人と聞くと、背中を見て覚える、みたいなイメージがあったけど、そうではないみたい。
取材中も、ものを落としそうになった坪井さんを先輩スタッフが優しくフォローしていた。怒ることとかはないんですか、と聞いてみると、優しく笑いながら答えてくれる。
「彼女は優秀だから。一度間違えたことは、二度しないからね。それが大事ですよ」
一緒に作業を見ていた西崎さんも、こう続ける。
「ミスしても、学び続けたらより正確に、速くできるようになる。技術の成長が自分でわかるんですよね」
「そうやって一つひとつの仕事を丁寧に、愚直に磨いていく。それを続けられる人がいいんだと思います」
時代を経てつくるものが変わっても、技術を磨き、目の前のものに丁寧に向き合う。そんなニシザキ工芸の姿勢は、この先もずっと変わらないのだと思います。
ものづくりにとことん向き合いたい。そう思う人は、ぜひ飛び込んでみてください。
(2020/12/24 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。
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