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ものをつくりだす仕事には、アイデアのもとになるインプットが欠かせない。勉強のために意識的にいいものを見ることもあれば、普段何気なく目にするものからインスピレーションを得て、アイデアが生まれることもある。
どんな環境に身を置くかによって、つくり手の作風は変わってくるのかもしれません。
今回紹介するのは、岡山・西粟倉村にある「ようび建築設計室」というチーム。
母体となるようびはもともと、この地域の木材を生かした家具づくりからスタートした会社。「やがて風景になるものづくり」を理念として掲げ、森や木と向き合う活動に幅広く取り組んでいます。
建築を仕事にする人にとっても、森や林業の実際を身近に感じながら手を動かし、かたちにしていけることは、特別なヒントになるはず。
もうひとつ特徴的なのは、“一緒につくる”プロセスを大切にしていること。設計者だけでなく、そこを使う人や地域の人も一緒になって、建築を形にしていきます。
森から、人から。たくさんの影響を受けながら、建築に向き合える仕事だと思います。ここで設計や現場の管理を担う仲間を募集します。
あわくら温泉駅から車で3分ほど、歩いても15分かからないくらいのところに、ようびの家具工房とショールーム、オフィスがある。格子状の外壁に覆われた社屋は、まるで大きなジャングルジムのよう。
話を聞かせてくれたのは、ようび建築設計室の与語(よご)さん。
「実はあの木組は、ワークショップで組み上げられたもので。北海道から九州まで、延べ600人くらいの方がこの村に集まってつくった建物なんです」
そもそもようびがスタートしたのは12年ほど前。家具職人の大島正幸さんが、この地域でとれるスギやヒノキなどの針葉樹を使って家具をつくりたいと、工房を立ち上げた。
2013年ごろからは、パートナーの大島奈緒子さんがインテリアなどを手がけるようになり、家具だけでなく空間や建築全体の提案ができるチームへと成長してきた。
そんななか、2016年の年明けに起きた火災で工房は全焼。その再建を願う多くの人の手によって、少しずつつくり上げられたのが今の社屋だ。
与語さんがここへ来たのは、ちょうど再スタートに向けて歩き出したころ。
与語さんはもともと奈緒子さんと大学の同級生で、卒業後は住宅や店舗など、木造建築の設計を手がけていた。
「最初は西粟倉に遊びに来たんですけど、大島から一緒に仕事をしないか…というより、『今ここでやらなきゃいつやるんだ!』って言われて。今思うと、あれは誘いじゃなくて“挑発”でしたね(笑)」
その場でチームに加わることを決めてしまったものの、不安な気持ちもあったという。
「帰りの電車から外を見たら、明かりのついた建物が全然見当たらない。そもそもこんな田舎に建築の仕事はあるのかとか、いろいろ考えてしまいました」
そんな心配は無用なほど、今ようびでは、さまざまなプロジェクトが進行中。建築設計室のメンバーも4人に増えた。
今後は休日を増やすことで、ワークライフバランスを充実させようとしているところ。
「僕たちは住宅や店舗など何かに特化したチームではなく、公共施設もあるし、サウナとか宿泊できるミーティング施設とか、変わったテーマの仕事も多いです。長期で地方出張に行くこともあるので、それも楽しめるマインドの人だといいですね」
ようび建築設計室は、社内にある家具部門とデザイン部門と協働して進めるプロジェクトも多く、部門を越えてクリエイティブに活動を続けてきた。
近隣だけでなく、遠方から依頼をするクライアントは、みなさんにどんな期待を持っているのでしょうか。
「クライアントによっては、つくる過程から一緒に参加したいという人もいます。ただ単に建物の形を提案するんじゃなくて、どういう“場”をつくるか、対話によってイメージを引き出すような」
「室長の大島はもともと、ワークショップやファシリテーションが得意で。チームとしても、コミュニケーションの好きなメンバーが入ってくれると、強みを活かしやすいかなと思います」
ちょうど今手がけているのは、廃校となった隣町の小学校の改修。
これまで自治体の管理下で地域に親しまれてきた場所を、コワーキングスペースや宿泊機能、テナントなどを入れ、収益性のある場に変えていく。
そうすることで、維持する負担は減り、地域の外とのつながりも生まれる。
いろんな人と話をしながらつくっていくプロセスは、きっと、つくり手にとっても刺激になると思う。
「僕は学生のころから、間伐材も含め、どうすれば国産の木が使われるようになるかっていう課題にすごく関心があって。林業が身近なこの村で建築に携われることには、大きな意味を感じますね」
いつ、どんな材料が手に入りやすいか。山に入り、木を扱う人たちから直接情報を仕入れることで、素材の選び方も変わってくる。
「今ちょうどサウナをつくっているんですが、角材をチェーンソーで有機的な形に切り出して組み上げるような構造になっていて。それは身近にチェーンソーを扱える人がいるなっていう心当たりがあるからこそ、発想が生まれたようなところもあります」
そんな話を聞いていると、奥から包丁で野菜を刻む音が聞こえてきた。
「日替わりの食事当番制度があって。お昼ご飯をみんなで一緒に食べているんです。社訓も『よく食べ、よく働き、よく笑う』って決めているくらい。一緒にご飯を食べながら、何気ない話をする時間は、仕事を円滑に進めていくためにも大切なんだって実感しますね」
なんだか社訓というより、家訓みたい。
人と人が健やかに関わる「場」を考える、建築の仕事。
日々の食卓の時間にも、インスピレーションの種がありそうです。
(2021/2/3 取材 高橋佑香子)
※撮影時はマスクを外していただきました。
※特集ページでは、西粟倉村という地域のこと、村内のほかの企業についても紹介しています。合わせてご覧ください。