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人と向き合い
秘境で、生きる

「ここは、今の社会に良いインパクトを与えられる場所なんじゃないかなと思うんですよ。今って“意味のあるなし”が重視されるじゃないですか。ここはまったくその逆をいっていて、全然論理的な世界じゃない。ただ身近に大きな自然があって、人がつながりながら暮らしている。そういうことの大事さを伝えられたらなと」

新潟県と長野県にまたがる秘境・秋山郷。

ここに、廃校をリニューアルした「かたくりの宿」という施設があります。

運営しているのは、NPO法人越後妻有里山協働機構。このあたりで20年続く「大地の芸術祭」を運営してきた団体です。地域の人に大事にされてきた小学校を未来につなぎたいと、12年前、かたくりの宿を始めました。

今回は、この宿のフロントスタッフを募集します。

主な担当業務は予約管理や受付です。それ以外にも、食事の配膳や掃除、ツアー企画、時期によっては宿の料理に使う山菜やキノコを採りに行ったりと、業務は多岐にわたります。

東京では例年より早く桜が咲き始めたころ、かたくりの宿へ向かいました。

 

まだ雪の残る新潟県津南町。

役場がある小さな中心地から、さらに車で山を登ること20分。ガードレールもない細い道やトンネルを通り抜けていくと、かたくりの宿がある結東(けっとう)集落についた。

あたりには人の背丈を超えるほどの雪が残っている。今シーズンは3m近く積もったそうだ。

思わず深呼吸したくなるほど、澄み切った空気が気持ちいい。

「運転、大丈夫でしたか」

出迎えてくれたのは、宿を管理運営する渡邊さん。

秋山郷は世界有数の豪雪地帯と言われていて、かたくりの宿も4月下旬までは冬季休業中。

その期間、屋根の雪を下ろす“雪掘り”の仕事をしている渡邊さんは、こんがりと雪焼けしている。

「本当は冬の間も宿をやりたいんですよ。この地域は豪雪が一番のアイデンティティだと思っているので」

実際に2年前は冬の間も営業してみたものの、暖房や除雪の費用がかさみうまくいかなかった。それほどに降雪が厳しいということ。

そんな気候は、ここに住まう人々の性格にも影響している。

「雪が降る時期になったら、雪かきと屋根の雪下ろしをこまめにやらなきゃいけなくて。ちょっとでもさぼっちゃうと、雪が重くなるのですごく大変なんですよ。いろんな物事をコツコツとまじめにやらなきゃうまく生きていけない」

「道具もちゃんと整理しておかないと、そこに雪が積もって取れなくなるから大変なんです。みなさんきっちりやるのが普通というか。生きるためにそういう性質になっていくんだろうなって」

もともとアバウトな性格だったという渡邊さんも、ここで生活するうちに少しずつ変わってきたという。

「今の一般的な価値観で考えたら、こういう場所に暮らさないと思うんですよ。お金もかかるし体力もめっちゃいる。でもこんな大変な環境で、ここのおじいちゃんおばあちゃんは暮らしているんです」

かつてかたくりの宿は、周辺にある4つの集落の子どもたちが通う学校だった。ただ、極僻地という理由で、1892年から43年もの間、義務教育免除地とされる。

免除というとやわらかく聞こえるけれど、子どもたちにとっては学ぶ機会を奪われたのと同じこと。住民たちはみずから私設小学校をつくり、寺子屋式で教育を続けた。

1935年に義務教育免除地の指定はようやく解除されたものの、その後過疎化が進み、1986年に休校。1992年には閉校を迎えた。

現在、結東集落は約25軒、40名程度のいわゆる限界集落となった。集落内に住む2人の子どもたちはバスで町の中心地まで通っている。

地域の人たちはみな結東小学校の卒業生で、学校はなくなっても、宿として明かりを灯し続けることを喜んでくれているという。

「100年以上の歴史ある学校で、厳しい時代もみんなで守り抜いてきて今がある。その上に僕らが暮らさせてもらっているということを、すごく大事にしたいと思っています」

館内を案内してもらうと、いたるところに集落の昔の写真や子どもたちの描いた絵、アーティストの作品などを観ることができる。

なかには渡邊さんが描いた絵も飾ってあった。

兵庫・宝塚出身で、美大を卒業し山小屋で働いたり、スペインやインドで暮らしたりしてきた渡邊さん。帰国後は自然のなかで作品をつくりながら働きたいと思っていたところ、知人の紹介を受けて秋山郷へとやってきた。

今年で11年目。すっかり地域になじんで、ふたりのお子さんにも恵まれた。

今回募集するフロントの仕事も、当初は渡邊さんが担当していたそう。

「フロントって簡単な仕事ではないんです。宿にとっては司令塔のような役割で、調理以外のことは全部見るので仕事の幅が広い。でも別に経験は必要ではなくて、ほかのところでちゃんと頑張ってきた人であればできる業務かな」

 

実際に働くことになったらどんなことをするのだろう。

次に話を聞いたのは、現在フロントスタッフとして働く吉原さん。3年前、日本仕事百貨での募集をきっかけに入社した。

「もともと観光地よりも農村地域を旅することが好きだったんですけど、短期間の滞在だけじゃ物足りなくて。実際に自然豊かな場所で生活して、もっと地域の人たちとかかわることで、その土地の暮らしを知りたかったんです」

「来てみたら、秋山郷は自分にすごく合っていました。水も食べ物も空気も美味しいし、いい人ばっかりだし。困ったらすぐに近所の人たちが助けてくれるのもありがたくて、すごく居心地がいいなと」

冬季休館中、宿の仕事はお休みになるので、今は地元の神奈川で農家さんの手伝いをしている。

これから入る人は、冬季も渡邊さんと同じくここに残るか、吉原さんのように別の場所で過ごすか選ぶことができるそうだ。

現在スタッフは3名。一人ひとりの役割は決めつつも、互いに助け合いながらさまざまな業務に携わるという。

一日の仕事はどんなふうに進んでいくんですか。

「本当に忙しい時期は朝6時前に出勤して朝食の盛り付けや配膳、その後はチェックアウト対応をして、お客さんが10時に出られたら次は掃除です。アルバイトの人や地域のお手伝いさんと協力して進めます。それが終わればみんなでお昼ご飯。すこし休憩をとって3時くらいからまたお客さんのチェックイン対応をして夕食の準備や配膳、夜に予約のチェック・翌日の確認などをして一日が終わる、という感じです」

3年に一度、津南町と十日町市を舞台に開催される「大地の芸術祭」のタイミングでは、全国各地からお客さんが訪れ、宿も一番忙しくなる。

仕事はほかにも広報や周辺の散策ツアーガイドをしたり、春は山菜、秋はキノコを採りに行ったりと幅広い。

休みの日は、畑に行って土に触れる時間が癒しになっているという。

じつは、9月いっぱいでかたくりの宿を離れ、新しいフィールドで挑戦することを決めている吉原さん。それまでの間、一緒に働きながら新しく入る人に仕事を引き継いでいきたい。

ここで経験したことが、次に進む原動力になったそうだ。

「いままで優等生タイプで何でもできると思っていたんですけど、実際は全然そういうわけじゃなくて。ここに来て自分のできないことにたくさん気がついたんです。それでも、人間性や弱さも含めて、今の自分をちゃんと認められたことは大きかった」

「家族みたいな関係性のスタッフの2人が、真剣に向き合ってくれたことには本当に感謝しています。今でも未熟なところはあるけれど…ようやく大人として立つことができたのかな、と」

 

もう1人、厨房で働く佐々木さんにも大分から参加してもらう。前回の芸術祭のときにアルバイトスタッフとして関わるなかで、そのままスカウトされ正社員として働くことになったそう。

「初めて来たとき、ここだ!と思ったんです。地面と足がバチっとつながった感じ」

「今まで九州からあまり出たことがなかったので、自然のスケールの違いとご飯のおいしさに圧倒されました。山も、家も、人の顔つきもシャープだし、おなじ日本でもこんなに違うんだって」

実際に暮らしはじめてからは、どうでした?

「地域の人は本当によくしてくださる方ばかりで。親切にしようって力まなくても、生活するなかで当たり前にやっていることに優しさや思いやりを感じて。すごく尊敬しています」

「お茶飲みに来てねとか、『こんなんでよかったら宿で使ってくんねかー?』って立派なお野菜をいただいたり、集落を離れている冬場でも元気にしてますかって連絡をくださる方もいます。九州に比べると控え目な人が多いので、緊張しいな私にはその距離感が心地よいというか」

暮らしや仕事を通じて感じる土地の魅力を、自分の言葉で訪れるお客さんに伝えることも、ここで働くうえで大切な要素のひとつ。

厨房をメインに担当している佐々木さんも、直接お客さんとやりとりする機会は多いそう。

「料理がおいしいですとか、帰り際に『また来ます』と笑顔で言ってもらえたり、些細なことで会話が弾んだりするとうれしいですね。それに、会話はしなくても、家族で盛り上がっていたり、お客さんがいい時間を過ごされているのを見るのが好きなんです。お給料をもらいながらこれを味わえるのはすごいことだなと思っています(笑)」

佐々木さんは、どんな人と一緒に働きたいですか。

「人と話すことが好きっていうのは大事だと思います。ハイキングでガイドをするとか、何気ない会話とか。お客さんに楽しんでもらうのはもちろんですけど、一緒に楽しめる人が来てくれたらいいですね」

「あとは情報発信をもっとできるといいなと。実際に足を運んでくれたお客さんに楽しんでもらうだけじゃなくて、まだここを知らない人にも興味を持ってもらいたい。そういうこともみんなで一緒にやっていきたいです」

 

取材のあと、かんじきを履いて渡邊さんに宿の周りを案内してもらった。

雪の下には、先人が山を切り拓いて石垣でつくった棚田が隠れているという。どこまでも歩いていけそうな、真っ白な世界。

「ここでしばらく山を見てると、熊とかカモシカが見えたりするんですよ」

獣害の多い地域でもあるので、狩猟も渡邊さんの仕事のひとつ。

もうしばらくしたら、冬眠から目覚めて雪山を歩き回る熊を狙う春熊猟がはじまる。

将来的には、捕ったものを宿の料理でも出したいそう。

ここで働くということは、この集落で暮らすということ。

自然とも、人とも、自分とも、しっかり向き合いながら生きることを実感できる場所なのだと思いました。

(2021/3/11 取材 堀上駿)

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