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うち、どうよ!って
きっと言いたくなる
染み込むまちで宿づくりを

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熊本・上益城郡益城町(ましきまち)。

2016年4月、このまちを震度7の地震が二度襲いました。

熊本地震と呼ばれたこの災害から5年。次第に復興が進んでいるとはいえ、まちのいたるところに爪痕が残っています。

多くの建物が新しく建て直されていくなかで、歴史ある古民家を壊さずに宿として活用していきたい。益城町でそんなプロジェクトが動いています。

今回募集するのは、このプロジェクトに伴走するプロジェクトマネージャー。

オープンは来年度中を予定していて、現在は宿のコンセプトづくりやアクティビティの開発などに取り組んでいます。

建物を後の世代に残していくため。そして益城の魅力を伝え、楽しんでもらうために。チャレンジを続ける人たちに話を聞いてきました。


熊本市の東部に位置する益城町。

まちの中心部へは、熊本空港から車で20分ほど。田んぼが一面に広がる田園部と、住宅やお店が並ぶ都市部が、川を挟んでくっきり分かれているようだ。

田んぼを横目に山側へ車を走らせ、今回のプロジェクトの舞台である河端家へ。

なかに入ると広い土間がある。天井も高く、和室も広々としていて、立派な古民家といった雰囲気。

「ようこそ!あいにくの天気ですが、しとしと雨の音がする古民家も、またいいですよね」

そんなふうに迎えてくれたのは、ましきぐらし農泊推進協議会の会長、古荘(ふるしょう)さん。益城町出身で、今回のプロジェクトの中心メンバーだ。

「ここは築150年くらいの、いわゆる豪農のお宅だった古民家で。ご先祖さんは、湧き水を引いて用水路を整備し、このあたりで稲作できる環境をつくったすごく功績のある人なんですよ。地震の被害も受けたんですが、ここはなんとか半壊状態で残っていて」

プロジェクトのきっかけになった熊本地震。

古荘さんにとっても、人生を変えるような出来事だった。

「僕の実家も古民家なんです。古民家を残そうと思うと新築よりもお金がかかるので、維持するのが大変で。これから先、家どうしようかなって悩んでいるときに、地震がきました」

熊本地震の被災地のなかでも、益城町はとくに揺れが大きく、被害も大きかった。木造の建物の多くは損壊し、古荘さんの実家も全壊状態でかろうじて倒壊を免れたという。

「ご近所にあった古民家もほとんど倒壊してしまい、その後解体されました。壊されていく古民家を見ているうちに、すごく悲しい気持ちになったんですよね」

「古民家の柱とか梁って、100年以上かけてその色合いや質感が生み出されているもの。壊すのは簡単だけど、積み重ねられてきた時間は取り戻せません。これを壊したら、たぶん僕は後悔するだろうなって。それで、実家も一度は解体の申し込みをしたんですが、直前に思い直して解体せずに残そうと決めたんです」

今回のプロジェクトも、古荘さんと同じく「古民家を残したい」という思いで活動する人から声をかけてもらってはじまったそう。

河端家に加え、ここから車で5分ほど離れた場所にある坂井家という古民家を含めた2軒が宿になる予定だ。

「実家を直すだけでも大変なんですけどね(笑)。でも、この河端家を見たときに、雰囲気がすごくいいなって思ったし、なにより楽しそうじゃないですか。地域のためにというよりも、純粋に益城がいいところだと思っているからこそ、もっと面白くしたいし、外の人にも知ってほしい。それだけなんですよね」

一面に広がる田園風景に、夕日が沈んで際立つ山々の稜線。湧き水が豊富で、お米や野菜の味も抜群。

「宿は、益城の環境も楽しんでもらえるような場所にしていきたい」と古荘さん。

単価は一泊数万円で、地元の食材を使ったフレンチレストランを併設する予定。ただ、価格帯やターゲット層については、今も検討しているところなのだそう。

今回加わる人は、宿の構想を考えるところから関わり、改修に伴う補助金の申請などのバックオフィス業務や、益城を舞台にしたアクティビティの開発など、幅広く取り組んでいくことになる。

オープン後も、アクティビティ開発や宿のオペレーションなどのブラッシュアップを継続しながら、プロジェクトに関わってほしいとのこと。

さらに今後、益城の暮らしや人を発信するローカルメディアも立ち上げるそう。このメディアの企画や運営も、古荘さんたち地域の人を巻き込みながら進めていきたい。

宿に軸足を置きつつ、このまちを開拓していくような気持ちで、なんでも挑戦したいという人が合っていると思う。


続いて話を聞いた中村さんも、益城でできることをどんどん開拓している方。宿の運営主体である株式会社ましきぐらしの代表で、古荘さんと二人三脚でプロジェクトを進めている。

もともとは東京のコンサルティング会社で働いており、熊本地震をきっかけに益城にやってきた。

「震災のあと、会社から派遣されて役場のお手伝いをしていたんです。復興計画の作成・実行を、コンサルティングの視点からサポートしていました。古荘さんと出会ったのもそのときで」

「なんていうのかな…心からすごいなぁと思ったんですよ。地域のために!って気負わずに、自分が楽しいと思うことをしているのが、僕にとっては新鮮で。“まちづくり”っていうよりも、 “生きていこう”に近いのかな…。この場所で生きていくために、自分が楽しめる場所にしたいっていう思いが、ひしひしと伝わってきたんです」

コンサルティング会社を退職して、益城に残ることを決意。自ら会社を立ち上げて、宿の事業だけでなく、まちの直売所の運営などにも携わっている。

「益城で暮らしていると、本当に面白いんですよ。たとえば、古荘さんに紹介してもらって田植えを手伝ったことがあって。苗を入れて運ぶ苗箱を、水にどぼんと入れてジャブジャブって洗うんですけど、僕はそれがめちゃくちゃ楽しくて(笑)」

「お金を払って農業体験をさせてもらうんじゃなくて、日常の延長線上にある田植えの仕事に来ていいよって言われて、ありがとうございますって行くのが、なんかうれしい。その感覚が、僕がここにいる理由かもしれないです」

暮らしと仕事が近いし、みんなで何かひとつのことをする場面が多い。いろんなことが曖昧に混ざり合っているような感覚なのかもしれない。

今回の宿も、訪れた人がそんな感覚を感じられる場所を目指していきたい。

今回仲間になる人も、まずは地域との関係性づくりからじっくり取り組んでほしい、と中村さん。

とはいえ、外から来て、いきなり関係をつくっていくのは難しそう。どんなことから始めたらいいでしょう?

「毎日散歩をするとか、草刈りをするとか、縁側に座って外を眺めるとかでいいと思うんです。そのうちに『あんた最近よう見るけど、どこの子ね?』『ここで宿をつくろうと思ってるんですよ』『ああ、なんかそんなこと言いよったねぇ』って、少しずつ話ができるようになっていくんじゃないかな」

「まずは顔を知ってもらって、いつの間にかおじいちゃんたちと仲良くなってる、みたいな。染み込むように関係をつくっていくのが、益城らしい気がします」

古民家の敷地で野外映画祭を開き、地元の人に来てもらう企画も考えているそう。じわじわと関係性を深めながら、地域の人たちと一緒に楽しむプロジェクトにしていきたい。

サツキとメイの家みたいな雰囲気もあるし、トトロとか上映したら面白そうですね。

「そうそう、雰囲気似てますよね。まっくろくろすけがいるかもしれない(笑)。楽しみながら、なにができるか一緒に考えてもらえたらいいなと思います」

古荘さんと中村さんは、それぞれ別の仕事を持ちながら宿の事業を進めている。今回募集する人には、この宿の顔になってもらいたいとのこと。

「相手に合わせて、心のジャケットを脱いで短パンTシャツで話せる人っていうのかな。今までの経験を活かしつつ、自分が面白いと思うことにチャレンジしたい!ワクワク!みたいな。そういう人だと合っているかも」

すると、隣で聞いていた古荘さんも続く。

「あんまり良い言い方じゃないかもしれないんですけど… 災害ボランティア慣れしてる人は、たぶん合わないのかなと思っていて」

ボランティア慣れ…どういうことでしょう?

「困ってる地域を助けてあげたい、みたいな。その思いだけだと、続かないような気がするんです。ちゃんとその人自身も面白がって、自分ごとで取り組まないと、どこかで満足して帰っちゃう」

「被災地だから、じゃなく、益城がいい場所だから暮らしたいって思ってほしいし、そう思ってもらえる場所だと僕は感じているので。一緒に夢を語れる仲間が来てくれたらうれしいですね」


話がひと段落したあと、古荘さんが町内を案内してくれた。

湧き水が溜まる池は青く透き通っていて、底までよく見える。釣りをしていたおじさんが、写真撮るかい?と、釣り上げるところをもう一回見せてくれた。

断層のずれが地表に現れている場所も通った。それを見ながら、古荘さんが地震の恐怖と備えることの大切さを話してくれる。

ただ気持ちよく過ごすだけじゃなくて、こんなふうに災害の教訓も同時に得られるようなスタディーツアーを開くことも、「地域を体験する」ということに含まれるんだろうな。


「益城の美しいところも、災害の記憶も。両方感じられる宿にしたいし、今回来てくれる人も、最初は見て聞いて感じるところからスタートするのがいいと思うんです」

そう話してくれたのは、宿のプロジェクトをサポートしている竹熊さん。

九州各地で古民家活用をサポートする仕事をしていて、昨年から古荘さんたちに伴走している。

「今年の2月に、参加者を募って益城町を自転車でめぐるテストツアーをしたんです。そのときふたりが、うちのまち、どうよ!って、本当に楽しそうで生き生きしていたんですよ」

「そうやって純粋に楽しんでる人たちの様子を見ていると、こっちまで楽しくなっちゃう。私は益城が地元ではないですけど、そうやって一緒に走れるのはうれしいなと思います」

今回募集する人は、基本的にはオープン後の施設運営に関わり続けることになる。一方で、益城で暮らすなかで生まれた選択肢も大事にしてほしいと話す竹熊さん。

「たとえば、スキルを活かして副業をしてみるとか、中村さんみたいに自分で仕事をつくるとか。そういう余白はある場所なので、来てくれる人と話しながら、一緒にどんな生き方をしたいか考えていけたらいいなと思っています」

「古荘さんたちと一緒にいると、いろんな関係性のなかにいる感じがするんです。このときは仕事仲間だけど、次の瞬間には飲み仲間になってる、みたいな。だから一緒に走ってくれる人も、同志であってほしいですね。たぶん、ここではそれが一番大切なことなんじゃないかな」


使命感や義務感からではなくて、まず自分自身が楽しむこと。

取材中も何度も耳にしたし、実際にみなさんが体現していることだと感じました。

益城に根を張って暮らしていくなかで、きっと「うち、どうよ!」と言いたくなるんじゃないかな。そんな気がします。

(2021/6/3 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。
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